女官 明治宮中出仕の記 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062923767

作品紹介・あらすじ

明治末から大正初年、明治天皇と皇后(昭憲皇太后)に仕えた女官の手記。筆者は、華族・久世家の長女で、退官から40年以上を経た1960年(昭和35)、皇太子御成婚以来の「皇室ブーム」のなかで、本書を記した。いわく、「公表を許されなかった御内儀での御生活は、世上いろいろとあやまり伝えられておりますので、拙き筆をも省みず思い出すままを記して見ました。」
明治42年、18歳で出仕した三千子の見聞は、宮中のしきたりや天皇皇后の実像を生々しく伝えている。数十人にのぼる女官のさまざまな職名と仕事、女官長・高倉寿子や典侍・柳原愛子らの人となり、天皇自らが名づけた女官たちの源氏名とニックネーム。「雀」とあだ名された三千子は、天皇と皇后の睦まじい様子に触れ、また、女官たちに気安く声を掛けて写真をねだる皇太子(大正天皇)に戸惑う。さらに、「俗のことばでいえばお妾さん」である権典侍と、皇子の生まれなかった皇后の関係は、どのようなものだったのか――。
本書は、明治大正期の宮中の様子を伝える歴史資料としても多くの研究者に活用されている。巻末解説を、放送大学教授の原武史氏が執筆。
〔原本 : 『女官』 1960年、実業之日本社刊〕

感想・レビュー・書評

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  • 明治時代の宮廷の様子が実際の体験をもとに綴られている。
    巻末の解説も詳しくて興味深い。

    明治天皇を中心に宮廷が一丸となって西洋風のマナーを日常に採り入れようと、みんなで一緒にランチをしたり洋装でお庭に出てピクニックをしたりという話題が続いている部分もあり、なんだか楽しそうだなと思った。

    意外と活発な若き日の大正天皇の様子をはじめ、さまざまな人々との交流も記されており、社会人になって責任ある仕事をこなしているという若者の開放感が全文に満ちている。

  • Audibleにて。
    明治時代の女官の仕事や人間関係、皇室の生活など、庶民では知ることのできない内容でとても興味深かった。
    ちなみに表紙の人は著者ではない女官とのこと。
    ずっと表紙の人だと想像しながら聴いていたので、少しがっかりした。

  • 明治天皇の晩年に宮中で仕えた女性の手記。著者はなかなかのお転婆で毒舌だ。
    若さと愛嬌で可愛がられていたのが所々からうかがえる。

    皇太子時代から大正天皇にアプローチされたり、退官が決まった後いろいろな人から縁談を持ちかけられたりとなかなかのモテぶりだが、初恋を成就させて好きな人と結婚するなど結構しっかりとしている。
    そもそも可愛がられて育ったが「女は嫁に行くのが全てであり従順であれ」という常識に反発して出仕の話に乗ったことからも好奇心と行動力のある女性なのだろう。

    「明治宮中の闇をあぶりだす一級資料」とあるが、驚くほどのようなことでもないと思う。
    むしろ天皇皇后の人間味あふれた様子や、立場ゆえのふるまいなどがある。
    女官同士のいざこざは多少あるが、それはどこの時代、どこの世界にもあることだろう。

    退官後に家庭に入り子供を持つ友人と話が合わなかったことや、女性が仕事を持つ・持たない悩みも今の時代にも通じるものがある。

    また、皇室が京都から移ってきたばかりの時代であり、側仕えの人たちも京都出身の人が多いためか、風習や食べるものが関東とは違うのも興味深かった。

  • 明治の末に京都の華族の家から女官として採用された著者。平民から見れば読み物の世界でしかない天皇の日常が垣間見られるようなそんな本。長年月をかけて作られた高貴なものの美しさや気持ち悪さが出てて興味深い。

  • 明治天皇、皇后に仕えた女官が書いた手記。官中でも一般人が経験する人間関係のいざこざがあり、この時代はまだ天皇は神だとされていた頃だが天皇皇后も冗談を言ったり一般人と変わらない感情を出されることが新鮮だった。天皇皇后は仲睦まじく皇后は実子を持たれなかったが実子ではない大正天皇とも仲が良かったとのこと。お人柄が素晴らしい。

  • 若き子のもだえに果はなきものを月に泣けばと君なとかめそ 
     山川三千子

     新たな元号となり(訂正=も発表され)、天皇の近くではどのような人々が働いているのか、関心を抱いた人々も少なくないだろう。時代はさかのぼるが、明治末期に宮中に仕えた女性の手記を紹介したい。
     久世三千子、18歳。1909年(明治42年)に京都から東京へ移り、女官としてつとめることとなった。まず覚えることは、数十人にのぼる女官の職名と、仕事内容。女官には、明治天皇みずからがつけた「源氏名」とニックネームがあり、三千子も「雀」というニックネームをつけられた。
     外出はほとんどできず、言葉づかいも上下関係も慣れるまではたいへんだったそうだが、おもしろいエピソードもある。
    「世間広し」と貼り紙された、大きな缶。中には、せんべいやかき餅、ビスケットなどが入っており、世間は広いのだから誰でも自由に食べてよい、という意味だったとか。お菓子には不自由がなかったそうだ。
     数年後、明治天皇から大正天皇の時代に代わり、三千子は昭憲皇太后に仕える道を選んだ。だが、それは限定的な仕事で、23歳で人生の岐路に立たされたとか。
     掲出歌は、退職後すぐに結婚するかどうか、若いからこそ思い悩んだという内容。月に涙を見せたとしても、「なとかめそ」=咎めないでください、という歌意だ。
    本書は、退職したのちに山川家に嫁いだ著者が、晩年に記した回想録だが、明治・大正天皇にまつわる具体的なエピソードも興味深い。現在の「女官」はいかに。
    (2019年4月14日掲載)

  • 明治天皇の治世末期に女官として仕えた著者の回想録。宮中の様々な出来事、習慣などは中々世の中に出て来ないので、貴重な記録といえる。著者も、本書を著したのが戦後という事情もあろうが、かなり思い切った出版だったのではなかろうか。ほんの数年の経験ではあるが、宮中のしきたりや出来事がリアルに描かれている。
    この文庫本のために書かれた原武史の解説が面白い。本書で引っかかったところ、気になったところが見事に解説されている。

  • 堂上公家・久世家の姫様は、明治天皇の后・美子皇后付の女官として
    18歳で宮中に上がった。

    「宮中で見聞きしたことは他言ならぬ」。

    その禁を破って、著者が自身の体験を綴ったのは退官から約40年後
    の昭和35年だから、明治天皇も美子皇后もお許し下さるだろう。

    江戸時代の大奥ほどではないにしろ、奥向きの仕事を担う女性ばかり
    の生活はきつかっただろうなと感じた。オブラートに包んだ書き方を
    しているが、妬み・嫉みが渦巻いていたのだろう。勿論、著者を気に
    かけてくれた方もいたが。

    他にも直に接した明治天皇と美子皇后のお人柄がしのばれるエピソード、
    両陛下の日常のご生活の様子、宮中の年中行事についてなどが、宮中
    言葉を交えながら描かれている。

    特に印象に残ったのは大正天皇に関する記述だ。元々病弱であったのに、
    元勲たちから明治天皇と同等の資質を求められ、心のバランスを崩して
    しまった不運な天皇。得意であった和歌や漢詩の才能や、明治天皇とは
    違うのだと言うことを周囲が認めていれば、大正時代はもう少し長った
    のではないかとの印象を持っていた。

    だが、本書では歴史書では知りえない大正天皇の一面が記されている。
    皇太子時代の大正天皇は宮中へ上がった際に著者に目をつけていた。
    そのご執心は明治天皇崩御後、新帝として即位してからも変わらない。

    新たな両陛下にお仕えする話を断り、皇太后になられた美子皇后付の
    まま青山御所へ移っても、何かと理由を設け青山御所へ赴き、必ず
    著者を名指ししてお召しになっている。

    大正天皇のご執心に薄々気がついていた皇太后は、名指しでのお召しが
    あれば病欠という手を使い、御前に出ないよう気を浸かって下さる。
    実母ではないが、母として息子である大正天皇のこのお振舞いを、
    苦々しくお思いだったのかもしれない。

    著者は皇太后崩御後に退官し、数年後に結婚するのだが、大正天皇は
    この結構ん披露宴の日時までご存じだった。不敬を承知で言う。ここ
    まで来るとストーカーだ。

    ただ、美子皇后を実の母であると信じて疑わなかった大正天皇が、
    実母は側室であることを知った時の衝撃は大きかったのだろうな
    とは感じる。

    巻末には宮中の言葉の一覧、今は失われてしまった明治宮殿の見取図
    が掲載されている。明治の終わりから大正の始めにかけての宮中を
    知るのに貴重な資料でもある。

  • ある女官による、出仕の記録。

    かなり赤裸々に語られており、
    本来ならばつまびらかにされるものではない宮中の様子を、分かりやすく伝えている。

    歴史的史料としても、有意義。

  • 明治時代の宮中の様子を、まだ少女といえる年齢で女官として上がった華族の女性の目を通して詳細に記した本。内容はどこを取っても驚き。
    文章は感受性豊かな自然体で色や匂い音が容易に脳内で再生される。全体的に「上品な意地悪」という塩味が効いてるのか最後まで全く飽きない。
    大好きな本。

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著者プロフィール

1892年(明治25)、子爵・久世通章の長女として京都に生まれる。1909年、宮中に出仕し、明治天皇、昭憲皇太后に仕え、1914年(大正3)に退官。翌年、後に旧制武蔵高校校長となる山川黙と結婚。1965年(昭和40)没。

「2016年 『女官 明治宮中出仕の記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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