興亡の世界史 近代ヨーロッパの覇権 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062924672

作品紹介・あらすじ

15世紀の大航海時代にアジア、新大陸に進出、激しい貿易戦争を繰り返しながらグローバル化を進め、幾多の戦乱と革命を経て国民国家を誕生させたヨーロッパ。産業革命と帝国主義により19世紀の世界に覇権を確立したが、二度の世界大戦で破局を迎える。その反省から生まれた欧州統合への長い道のりの栄光と挫折をも考察する。

感想・レビュー・書評

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  •  15世紀から19世紀にかけての近代ヨーロッパが世界の覇権を握り現代世界のベースを造った歴史を概観する。文化的にも軍事的にも東洋に比べたら劣っていた中世の欧州が、大航海時代から世界を支配していく歴史はダイナミックでとても興味深い時代だ。
     特に神が絶対であり、全てのことは神が造ったのだから、聖書に書いてあることが全てであるから、それと異なる考えを持ってはいけないという中世の世界からの脱却が興味深い。欧州は十字軍の時代にイスラム勢力に対して宗教に名を借りた虐殺・強奪行為を重ね、その後の宗教改革の時代では宗教戦争を繰り返した。その規模と期間は日本の戦国時代どころではないのだ。そのパワーで欧州の大航海時代からの世界征服が始まるのであるから、アジアやアフリカののんびりした国々はひとたまりもなかったのもやむを得ない。
     興亡の世界史の中でもこの本は読む価値が高いと思います。

  • 幕末~明治維新の本を読んでいると、結果を知っているのに、西洋列強が怖くてドキドキします。
    「日本に天祐ありとすれば、その明らかにかつ豊かに下されしこと、実に幕末の時に於けるが如きはない。」と『日本二千六百年史』で大川周明氏。

    >19世紀は、世界史における「ヨーロッパの世紀」といって過言ではない。
    いわば、ヨーロッパがくしゃみをすれば、世界が風邪を引いたのである。
    ヨーロッパからの船が、商船にせよ軍艦にせよ、七つの海を我がもの顔に疾駆し、ヨーロッパ発の物資や情報や、あるいは人々が、地球各地を跋扈した。

    しかしこの状況は突然成立したものではなく、そこにつながっていくような、さまざまな要因の歴史的な展開がありました。
    この本では、いわゆる16世紀の大航海時代から20世紀前半までの「近代ヨーロッパの覇権の成立とその崩壊について」を長期スパンでとらえています。
    最終的には、産業文明の成立とその推進単位としての国民国家の構築、という点に集約できるような歴史の展開が、この長期のメイントレンドといえるであろう、と福井憲彦氏。

    個人的に興味深いというか、今頃初めて気づいたというか、大航海時代はカトリックの布教だったのですが、19世紀においてキリスト教世界の拡大とヨーロッパによる世界支配の正当化を結びつけたのは、むしろプロテスタントだったんですね。

    そしてその考え方は現代イギリスの歴史家ポーターにならえば博愛的帝国主義、あるいはインド生まれでノーベル賞を受けたイギリス人作家キップリングの表現を借りれば、責務の帝国主義とでもいえるもの。

    >それは、ヨーロッパによる介入こそが、非ヨーロッパ地域の人びとを救済することになる、という考え方である。
    いまだ貧しく、無知で、非衛生的で、進歩とも適合的でない社会に暮らしている人たちに、進んだヨーロッパの制度や法律、学問知識、そしてなによりキリスト教の信仰と世界観を広めることによって、それらの地域の人びとを救うことができる。
    こういう信念は、むしろそうすることがキリスト教徒の使命なのだ、という責務の感覚をともなうものであった。

    19世紀前半から現れる博愛的帝国主義は、奴隷取引の根絶を求める人道的な主張ともつながっていました。
    その廃止を求めて、ヨーロッパ諸国の政府は積極的にアフリカに干渉すべき人道的な責務がある、こういう考え方が表明されました。

    たとえばスコットランドの宣教師リヴィングストンが、アフリカに向かい、現地の人びとに医療を施しながらキリスト教の布教にあたろう、奴隷取引をやめさせてイギリスとの貿易に切り替えさせよう、というミッション活動の経験を書いた地理学的な探検報告書を刊行しています。

    >こうした博愛的、人道的、さらには科学的な意図をもったミッション活動とその報告書のたぐいが、どのようにしてヨーロッパの人びとの帝国意識拡大につながっていったのかについて、正確にフォローするのはむずかしい。
    しかしそれでも押さえておかなければならないのは、こうした善意の活動が、その向けられた社会に暮らす人びとの意思や意図をほとんど意にも介さず、ヨーロッパ基準の考え方を押しつけるもの以外ではなかった、という現実である。それがもたらした知見は、ヨーロッパによる「アフリカ分割」といわれる支配争いに、少なくとも結果として役立つことになった。

    まあ、私のまわりの狭い世界を見ても、「正義感にあふれた信念の人」がいれば、「それを利用して金儲けをたくらむ悪質な人もいる」ので、つまりそういうことかな?と思ってしまいます。

    さて、このシリーズの「学術文庫版へのあとがき」では、紀元前を扱う本であれば「出土品の発掘によって状況が変わった」等が書かれていましたが、近現代を扱う本書はこの数年の、たとえばリーマンショック、移民問題やブレキジット等に触れています。
    つぎつぎ文庫本が発刊されるのを心待ちにしています。

  • <シラバス掲載参考図書一覧は、図書館HPから確認できます>https://libipu.iwate-pu.ac.jp/drupal/ja/node/190

  • 大航海時代中盤から第一次世界大戦までの間、世界をリードしてきた「近大ヨーロッパ」の覇権。
    それが如何に発展し、そして終演したのかというお話。

    未だに、「欧(米)」が世界をリードし、フォーマットをつくってきたことは事実だからなあ。(影は影として

    やはり、欧州が如何にしてその地位を占めてきたのかについて学ぶ必要はある。それにしても、大英帝国。大英帝国に尽きる。

  • ただ教科書的にイベントの羅列をするのではなく、誰もが知るような大きな出来事の背景を非常にわかりやすく解説してくれている。
    長らくヨーロッパの帝国主義・植民地化の動きの背景となるマインドがわからずにいたが、産業発展・文明化されていない他国の啓蒙やキリスト教の布教という極めて一方的な理由であることがわかった。中には投資先の拡大という理由もあった。
    「投資先の拡大」と書いて思ったけれど、
    産業革命以前には、裕福な貴族と、家庭内手工業的な働き方だった市民や農民と明確に区別がなされ、その範囲内での経済活動であった。もちろん税金の免除など特例がなされていた貴族層に対して不満はあったにせよ、自らの意思で経済活動を行い、被支配感というのは大きくなかったのではないかと思う。
    一方で、産業革命を経て資本家が誕生し、市民や農民は工場などに集められ(自らの意思でというよりも、雇用を求めて仕方ない部分が大きかったのではないか。現代でもそうだと思う)、聖月曜日も否定され、子どもも働かされるような、それまでの人権が一部否定されるような環境へと変貌してしまった。技術の発展に伴いあわよくば一般的な所得の人でも資本家へとなれる可能性は拡大した?かもしれないが、やはり相対的貧困やなんとなく感じる抑圧感というのは拡大してしまったと思う。
    それは突然商品として売り出されることになった奴隷と近しいものに感じるし、現代社会も似たようなものだと思う。自ら企業するなりお店を経営することも可能だが、失敗することのリスクが大きすぎる。それであればある程度の自由や権利を削ぎ落としてでも、企業傘下で自らの時間と労働力を提供するほうが、経済的・社会的に安心を得ることができる。生きてはいられるけれども、保守的な社会。もっと人間的なるもの(創作や芸術活動や自分のアイデアをもとにした経済活動など)が爆発した世の中の方が楽しいだろうなと思う人は多いと思う。それと現実は異なるし、そのような社会が現実になったこともない(労働の価値が低かった古代ギリシャだってその背景には奴隷がいた)。そういった社会はどうしたら実現するんだろうなと思う。

  • 読みごたえあったわ

  • FN3a

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著者プロフィール

学習院大学文学部教授
フランス近現代史
〈主な著書〉
『フランス史』世界各国史12(山川出版社、2001年、編著)『ヨーロッパ近代の社会史――工業化と国民形成』(岩波書店、2005年)『歴史学入門』(岩波テキストブックスα、2006年)『近代ヨーロッパの覇権』「興亡の世界史」第13巻(講談社、2008年)など多数。

「2016年 『ドイツ・フランス共通歴史教科書【近現代史】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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