新装版 天使の傷痕 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062930208

作品紹介・あらすじ

武蔵野の雑木林でデート中の男女が殺人事件に遭遇。瀕死の被害者は「テン」と呟いて息を引き取った。意味不明の「テン」とは何を指すのか。デート中、事件を直接目撃した田島は、新聞記者らしい関心から周辺を洗う。「テン」は天使と分かったが、事件の背後には予想もしない暗闇が広がっていた。第11回江戸川乱歩賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 西村さんには申し訳ないが、粗製乱造のイメージがあり今まで全く読んでなかった。乱歩賞をこの作品で取ってることも知らなかった。

    この作品はいわゆる社会派になるのだろうが、日本人の根底にある意識は今も変わってないような気がする。真犯人を探す行程はミステリとしては凡庸な気もするが、その動機や隠されたもののやり切れなさは一読に値する。

  • 「西村京太郎」の長篇ミステリ作品『新装版 天使の傷痕(しょうこん)(『事件の核心』を改題)』を読みました。
    『鉄ミス倶楽部 東海道新幹線50』に収録されていた短篇『最終ひかり号の女』を読んで、「西村京太郎」の作品を読みたくなりました。

    -----story-------------
    武蔵野の雑木林でデート中の男女が殺人事件に遭遇。
    瀕死の被害者は「テン」と呟いて息を引き取った。
    意味不明の「テン」とは何を指すのか。
    デート中、事件を直接目撃した「田島」は、新聞記者らしい関心から周辺を洗う。
    「テン」は天使と分かったが、事件の背後には予想もしない暗闇が広がっていた。
    第11回「江戸川乱歩賞」受賞作。
    -----------------------

    1965年(昭和40年)に第11回「江戸川乱歩賞」を受賞した作品です。

     ■プロローグ
     ■第一章 陽光の下で
     ■第二章 悪戯書き
     ■第三章 エンゼル・片岡
     ■第四章 バー・天使
     ■第五章 筆跡鑑定
     ■第六章 天使の影
     ■第七章 フィルム
     ■第八章 疑惑の中で
     ■第九章 北の風景
     ■第十章 案山子と海苔巻
     ■第十一章 A.B.C.
     ■第十二章 事件の核心
     ■エピローグ
     ■解説 仁木悦子

    武蔵野の雑木林でデート中の男女が殺人事件に遭遇した… 瀕死の被害者は「テン」とつぶやいて息をひきとった、、、

    意味不明の「テン」とは何を指すのか… デート中、直接事件を目撃した「田島伸治」は新聞記者らしい関心から周辺を洗う。

    「テン」とは天使と分ったが、事件の背景には意外な事実が隠れていた……。


    殺害に使われたトリックも熊を捕獲するための罠だと思えば、犯人の生い立ちとの整合が取れるし、事件と無関係と思われた案山子が盗まれた事件も伏線として面白いし、犯罪の動機や事件の背景となった社会問題については現代にも通ずるものがあるし… と、読みやすい文体ながら、読み応えのある内容で愉しめましたね、、、

    そして、読み進めながら徐々に犯人が特定されていく展開だったので、主人公の気持ちにシンクロしやすかったのも良かった… 切ない展開なんですけどねー 350ページ程度のボリュームでしたが、一気に読み終えてしまいました。

    単なる責任者への糾弾や差別への批判ではなく、被害者たち自身のこの先の生き方に対する問題提起も含んでいるエンディングも印象的でしたね… この流れで、次も「西村京太郎」の作品を読んでみようと思います。


    以下、主な登場人物です。

    「田島伸治」
     主人公。新聞記者。

    「山崎昌子」
     田島の恋人。

    「久松実」
     俗にトップ屋と呼ばれる、週刊誌にゴシップ記事を売り込むフリーの雑誌記者。
     田島と昌子のデート中、負傷した姿で不意に現れ、死亡する。

    「片岡有木子(エンゼル片岡)」
     久松が写真を持っていたストリッパー。
     エンゼル片岡は芸名。

    「絹川文代」
     久松が通っていたバー「エンゼル」のママ。

    「田熊かね」
     久松のアパートの管理人。

    「中村警部補」
     久松の事件を捜査する警察官。

  • 新聞記者の田島は、恋人の昌子とデート中、武蔵野の雑木林で殺人事件に遭遇する。瀕死の被害者は、「テン」と呟いたきり死んでしまう。「テン」とは天使のことなのか。警視庁の中村警部補達は「テン」の言葉を頼りに被害者の周辺を洗い始める。警察は中村警部補、新聞記者の田島が、地道に捜査をして意外な真相に辿り着く。社会問題も絡めて面白かったです。十津川警部は出てきませんが、江戸川乱歩賞をとった作品だけあって面白く読めました。10月29日読了。

  • 伏線回収が雑というか、爽快感がなかった。あの状況でテンと言い残すのは飛躍していてちょっと無理がある気が。新聞記者を主人公にするためか警察の仕事が粗だらけになってる点も気になる(でもこういうものなのかも)文の雰囲気は読みやすかった。

  • 本作も追悼。で、こちらも☆1つ上乗せ。序盤、何とご都合主義な展開だ…と、軽く眩暈がしたんだけど、まあ案の定というか、それが偶然な訳はなかった。でも翻ってその不自然さが、事件の真相を示してしまっているという、どちらにしても満足度には繋がらない展開。当時の時代背景を抜きに、本作の本質を理解することは難しいのかもしれないし、そういう意味ではトリックとかは二の次なのかもだけど、そちらも中途半端。ってか、全然偲んでなくてすみません。ちなみに本作選択は、”このミステリがひどい”で賞賛されていたから。これを賞賛か~…。

  • 記者の田島は、恋人の昌子とのハイキング中に殺人事件に巻き込まれた。瀕死の被害者が言い遺した「テン」という言葉。どうやらそれは天使を指すようだったが、彼は謎を追うほどに深い闇へと導かれていく─。

    記者の田島と警察の視点を切り替えながら、殺人事件の捜査が進んでいく。謎が解けたら次の謎へと、めくるページが止まらないテンポの良さが見事。最初の事件からは想像だにしない地へと誘われ、突き放されたように立ち尽くすラスト。読み返すプロローグの重み。苦みが残る社会派ミステリ。

    「理屈は、そうです。しかし、人間が納得するのは、理屈ではなくて、感情によってです」
    この言葉が棘のように刺さる。正論では人は動かない。しかし、正義は人を駆り立てる。当事者を煽るように傍観者たちが正義を振りかざすのは、現代社会でも変わらない光景だった。

    田島の行為は一歩間違えれば人々の好奇心を満たすための暴露と変わらないのかもしれない。何が正しいのか。黙ることしかできない人たちのために、何ができるのか。真実を知るほどに、残酷な現実が広がるばかりというのはやり切れない。

  • 事件そのものより背景が主題?
    田舎住みなので沼沢家の気持ちも分からんでもない。令和になった今でも。田島の言い分も理解できる。
    光を当てようとする部外者、隠し通そうとする当事者。プロローグに戻ると、結局何も実を結ばなかったことが分かってやりきれない。

  • 小谷野敦氏が『このミステリーがひどい!』でミステリ小説1位に挙げていたので読んでみましたが、なぜこの作品を1位にしたのか書かれていなかったので、勝手に想像してみます。

    事件の背景に、社会的なタブーを取り扱った点というのがポイントでしょうか?

    私にはそれ以外の推奨理由が見当たらなかったためという消去法での結論ですが、例えば推理小説としても基本的な瑕疵が残っています。

    以下ネタバレあり。

    例えば、アパートの管理人が牛乳に含まれていた睡眠薬(アルドリン、それも致死量)をのんで死にましたが、なぜ味変に気づかなったのかという点と、現場から牛乳瓶を失敬した記者(証拠隠滅罪です)でしたが、警察が牛乳を飲んだのに現場からその瓶が発見されないことを疑問視しなかった点は無視できません。

    さらに、アルドリンで姉に奇形児が生まれたという嫌な薬(既に発売禁止になっている)をあえて殺人に使用したのかという点もよくわかりませんでした。

    そもそも奇形児の存在という隠蔽だけで、なぜわざわざ殺す必要があったのか(特に管理人)という動機も弱すぎます。

    こんな風に傷の多い推理小説ですので、残るは社会的タブーへの挑戦という点が評価されたとしか考えられないのですが、そこにも素直にうなづけないところが。

    小説の最後に、奇形児を持つ母親との会話があります。

    記者は、その子の写真を世間に公表することで、社会の問題とすべきだと主張します。

    上に立つものは、隔離し隠すことが解決だと錯覚している。目を背けることが心の優しさだと錯覚している。そして、当事者の方でも、悲しみや怒りや不合理をつつましく自分だけのものとして受け止めてしまい、またそれが、美徳だと錯覚している。ここに、何の解決があるだろう?(P345)

    これは、正論です。

    ただ、一つ大きな問題なのは、大衆とは残酷な好奇心の塊であるという点に思いをはせていないことです。

    奇形児の写真を見れば、多くの人は心を痛めるでしょうが、その一方で単純に興味本位のみでみたり、自分に降りかからなかった幸運を喜ぶだけで、その子たちの置かれている厳しい環境に思い至らず、ましてやその子たちのために立ち上がろうとする人など皆無でしょう。

    「あの子のために写真を撮ってください」と母親は最後に承諾しましたが、大衆の好奇の目にさらされただけの結果で終わってしまったのは、小説冒頭のプロローグが語ってています。

    ここまで想像してみれば、小谷野氏の1位推薦もわからなくはないか。

  • 『このミステリーがひどい!』で小谷野さんが絶賛していたので読んでみた本。なるほど。
    本格推理小説としてはあらが目立つし、謎の解決のされ方もいまいち盛り上がりに欠けるんだけど、「社会派」としては出色の出来。ラストあたり、主人公が「真実」に気付いてからの展開は圧巻である。よくこの時代にここまで書けたなあ。

    西村京太郎、「十津川警部の人」と侮ってはいけませぬ。初期には名作を何本もものしているのだ。

  • 地元が舞台。

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著者プロフィール

一九三〇(昭和五)年、東京生れ。鉄道ミステリ、トラベルミステリの立役者で、二〇二二年に亡くなるまで六〇〇冊以上の書籍が刊行されている。オール讀物推理小説新人賞、江戸川乱歩賞、日本推理作家協会賞など、数多くの賞を受賞。

「2022年 『十津川警部と七枚の切符』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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