恋歌 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 67
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062931915

作品紹介・あらすじ

樋口一葉の師・中島歌子は、知られざる過去を抱えていた。幕末の江戸で商家の娘として育った歌子は、一途な恋を成就させ水戸の藩士に嫁ぐ。しかし、夫は尊王攘夷の急先鋒・天狗党の志士。やがて内乱が勃発すると、歌子ら妻子も逆賊として投獄される。幕末から明治へと駆け抜けた歌人を描く直木賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 作家・樋口一葉の師である歌人・中島歌子さんの生涯ともいえる
    若き日の歩みを歌人自らが語る形で描かれるストーリー。

    江戸の宿屋の一人娘登世(歌子の本名)は、見染めた相手が
    水戸藩士だったがために、波乱に満ちた人生を辿ることになる。

    時代は幕末の水戸藩。天狗党...。その名は聞いたことがありましたけれど
    勉強不足ゆえ、こんなにも壮絶で惨忍な出来事が強いられていたとは
    知りませんでした。惨い。あまりにも惨すぎる...。

    登世のみならず、捕らわれた女性たちはみんなよく耐えた。
    自分の身の上のことでさえ、耐え抜くのはどれほどのことだったかと
    身につまされるというのに我が子まで...

    ここに寄せられている辞世の句はどれも、その人生の歩み
    (恋歌というこの物語)を知ればこそ、心に深く響き感慨に打たれます。

    歌子さんの最後はあの若かりし頃の、例え我が身が苦しみの中にあっても
    人を慮る心のある登世のままでよかった。

    ”君にこそ恋しきふしは習ひつれ
    さらば忘るることもをしへよ”

    切ないね...。このたった三十一文字の言葉のなかに、これほどまでに
    切ない心の想いが奥深く刻まれている、和歌の美しさというものにも魅了されます。

    苦しみに耐え抜いた登世の、中島歌子さんとしての歌人の人生もぜひ知りたい。
    いつかまたどこかで出会えたらいいなと思います。

  • 物語を通して描かれていた人生の恋も良かったけれど、なにより、この時代を生きた人々の強い思いや魂みたいなものが感じられたのが印象的。
    時代に翻弄されて途方に暮れたり、昂ぶったり、憤ったり、信じたり、裏切られたり。まさに激動の人生が、ひとりひとりにあったんだなと思う。
    こうやって人生が積み重なって、歴史ができていくんだ。
    作品の中でいくつか記されていた、文字どおり命を賭けた辞世の句が胸にぐっと迫ってきた。
    読むのが苦しくなるほどの場面もあるけど、読んでよかった。
    こんなふうに心や風景や人間ひとりの人生をも表現する、短歌とは素晴らしい文化だとも思った。

  • 歌詠みの女性の恋物語。
    と、タイトルだけで想像して読み始めたが、
    予想外に、壮大な物語であった。
    幕末、維新の時代の流れの中で翻弄され、
    その中でも、人を想う心を強く、大切にし、
    しっかりと生き抜いた、だからこそ
    歌に想いをこめられた主人公、登世。
    登世が恋いこがれる以徳さまもさることながら
    爺や、てつ、登場人物が皆、それぞれに
    何かを教えてくれる魅力的な人物。

    愛する夫への歌に、三十一文字の世界に
    もっとふくらみを持たせたいと
    歌にとりくむことになった登世。

    さまざまな心の在り方が美しく、強く、
    読み終えたときに、とても大きなふくらみをもつ
    恋歌に包まれていた感動が胸にひろがった。

  • 樋口一葉の歌の師匠の中島歌子の波乱に満ちた半生を描いた作品。舞台は維新の水戸藩。
    歴史物は苦手でしたが、直木賞というのとタイトル「恋歌」に惹かれて読みました。
    女の一生というのは、生きる時代で違ってくるもの。文明が進んだ現代では考えられない壮絶なシーンもありました。
    人を想う気持ちはいつの世も切なくも悲しく、そして、甘く強いものなのだと思います。一人の人をここまで愛せたら、例えあえなくても幸せな女の一生なのでしょうね。

  •  入れ子の構造。歌人、中島歌子が病床にあるなかで、家の整理をする弟子ふたり。散らかった紙束の中に、めずらしく言文一致体で書かれた小説のようなものを見つけて、読み始める。それは、師がたどってきた険しい道のりを綴ったものだった。その内容が物語のほとんどを占めている。
     宿屋の娘から水戸藩士に嫁いだ歌子、=登世。幕末という大きな転換期を、血で血を洗う内紛に明け暮れてしまった水戸藩を、女の立場から見続けた。粛清に巻き込まれて牢暮らしも経験した。敵対する一派の家族であるというだけで「大根の首でも落とすような、酷い所作で」命を奪われた妻、母、子供たちを見届けた。
     前半の、若い娘の恋心があふれる瑞々しさ、初々しさとはまるで違う、血塗られた時代の描写は読むのが辛くなるほど。しかし、生き抜いた登世が和歌を学ぼうと決意した理由が、夫・以徳を戦場へ見送る時に詠んだ歌があまりにも拙くて後悔したから・・・というところに、なんというか、衝撃を受けた。
     人は、そういう動機で、自分の生きる道を選ぶことが出来るのだ。むしろ、女だったからそうなったのかもしれない。男ならばやはり一矢報いて自らも・・・というのがあの時代の当たり前だった。それが難しい女だから、後悔を抱えつつ、生きる理由として、歌を選んだ・・・。
     入れ子なので外側の弟子にも物語はあるのだけど、やはり内側の熱量がすごかった。

  • 歌人・中島歌子の手記を弟子が読む、という形で進む幕末の物語。
    妻の立場から書かれた手記の内容の凄惨さと、苛烈すぎる状況の中でも伝わってくるみずみずしい感情に圧倒される。
    少し彼女の和歌を読んでみたくなった。

  • 「恋することを教えたのはあなたなのだから、どうかお願いです、忘れ方も教えてください。」
    己の心を命懸けで三十一文字の歌に注ぎ込む中島歌子の半生。

    幕末から明治にかけて全力疾走した登世(のちの中島歌子)。
    幕末における水戸藩の内紛や尊王攘夷等について、色々思うところもある。
    しかしなんと言っても、どんなに辛い仕打ちを受けても「恋い焦がれたあの人の妻になれた」ことを胸に生き抜いた登世は天晴れだと思った。

  • 「恋に落ちる瞬間」が、こんなにも美しいなんて。現代とは違う。連絡を取ることだけでも困難で、再びまみえることも確約など出来ない時代に。祈るように送り出し、その先を共に生きるために待つ。待てども再びはないと理解し尽くしてなお、忘れることが出来ない。
    いやー、良かった。とても。

  • 私のひいおばあさんは明治生まれなのだけど、この幕末の激動を読むと、明治生まれもひよっ子、と言われても仕方ない。私たちなんて、ひよ子以下だわ…
    見た目やうわべは柔らかく、芯は強い女性になりたいと思った。それには、志を決めなくては。私の志、何だろう。。

  • 朝井まかてさんの水戸天狗党の乱を背景にした歴史小説。
    幕末時代、何かつながりが感じられずポツンとした印象ばかりで、どんな事件だったのかよく知らなかった天狗党の乱。そういえば小説で取り上げられることも少ないですね。
    この本を読んでようやく判りました。御三家の一つ水戸徳川家で起きた尊王攘夷。薩長(土肥)の尊王攘夷が初期はともかく最終的には討幕を目的にした旗印に過ぎなかったのに対し、天狗党は目的が尊王攘夷。そのために幕末の様々な流れの中で孤立した印象があになるのですね。それにしても、こんな悲惨な事件だとは思いませんでした。
    天狗党の志士に出会い、一途な思いを実らせそのもとに嫁いだ明治の歌人・中島歌子。
    1000人もの門下生を持ち、いくつもの浮名を流したという維新以降の生き様を見れば、傲慢で我儘なやり手だったのかもしれません。しかし朝井さんは中島の一首「君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ」をもとに、夫にぞっこんで、おきゃんで純粋な若き歌子像を描いて見せます。史実はどうだったのでしょう。しかしそんなことは関係なく、浅井さんの描く歌子はとても魅力的です。
    タイトルを見て歴史を背景とした恋愛小説かとちょっと手を出すのをためらったのですが、骨太な見事な歴史小説でした。

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プロフィール

朝井 まかて(あさい まかて)
1959年生まれ。甲南女子大学文学部国文学科卒業後、コピーライターとして広告制作会社に勤務。独立。2006年から大阪文学学校で学び、2008年第3回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞してデビュー。受賞作は『花競べ 向嶋なずな屋繁盛記』と改題され、講談社文庫に収録されている。
2013年、幕末から明治を生きた歌人・中島歌子の半生を描いた『恋歌』で第3回本屋が選ぶ時代小説大賞、2014年第150回直木賞を受賞。ほか、2014年『阿蘭陀西鶴』で第31回織田作之助賞、2016年『眩』で第22回中山義秀文学賞、2017年『福袋』で第11回舟橋聖一文学賞をそれぞれ受賞。
他の著書に『ちゃんちゃら』『すかたん』『先生のお庭番』『ぬけまいる』がある。『眩』は2017年に宮崎あおい主演でドラマ化された。

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