空白を満たしなさい(上) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062932486

作品紹介・あらすじ

ある夜、勤務先の会議室で目醒めた土屋徹生は、帰宅後、妻から「あなたは3年前に死んだはず」と告げられる。死因は「自殺」。家族はそのため心に深い傷を負っていた。しかし、息子が生まれ、仕事も順調だった当時、自殺する理由などない徹生は、殺されたのではと疑う。そして浮かび上がる犯人の記憶……。

感想・レビュー・書評

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  • 私とは何か。
    平野啓一郎さんのこの作品を読んでから、すっかり「分人」という捉え方の虜になっている。
    この作品の中で、平野さんは対人関係ごとの様々な自分のことを「分人」と定義づけている。(「私とは何か、P7」)つまり、人間を「分けられる」存在とみなし、恋人との分人、両親との分人、職場での分人など、人は必ずしも関わる人全員の前で同じ顔をしているわけではなく、対人関係ごとに複数の顔があるという考え方である。

    当時のレビューを参考にしながら、書く。
    「本当の自分」が一人しかいない、という考え方は、人を苦しめる。平野さんは、リストカットや自殺を「分人」の視点から解説する。
    (P59)もし、たった一つの「本当の自分」しかないとするなら、自己イメージの否定は自己そのものの否定に繋がってしまう。先の話になるが、私は、『空白を満たしなさい』という小説で、この主題を日本の自殺者問題と併せて更に深く考えることにした。
    そして、自殺については、以下のように解説する。
    (P125)人間が抱えきれる分人の数は限られている。学校で孤独だとしても、何も級友全員から好かれなければならない理由はない。友達が三人しかいないと思うか、好きな分人が三つもあると思うかは考え方次第だ。(中略)そうして好きな分人が一つずつ増えていくなら、私たちは、その分、自分に肯定的になれる。否定したい自己があったとしても、自分の全体を自殺というかたちで消滅させることを考えずに済むからだ。

    つまり、本作品「空白を満たしなさい」は、「分人主義」と「自殺問題」という二つを主題として描かれているのだ。上巻では、亡くなったはずの主人公が生き返る場面から始まる。そして、なぜ亡くなったかについては「自殺」だということを知らされる。その衝撃的な事実を前に、主人公が真相を確かめようとする、というストーリーである。設定がSFのような世界観にも関わらず、読者を現実世界にいるかのように伝える筆致は素晴らしく、ミステリーのように、謎を解いているような面白さがある。また、文体が美しく軽やかな中に、平野さんの知的さが横溢している。辞書で漢字を調べながら本を読んだのは久々の体験だった。

    (P115)「私は多分、あなたが羨ましいんでしょう。妬んでるんですかね。…家族を養うことが幸せだって!違います。そう思い込めること自体が幸せなんです。」
    (P206)「人間の幸福というのは、つまり、自分の価値観と自分自身とが合致してる実感じゃないですか?」
    (P235)過去の不幸に現在を奪われないためには、未来の幸福へと駆け込む以外にない。

    上巻では「幸福」がキーワードだったように思います。いや、今自分が幸福について考えているから、ちょうど重なっただけかもしれないけれど。
    今後、分人がどう関わってくるのか。下巻へとつづきます。

    • 本ぶらさん
      なんで、友人の顔がここにあるんだ!?と、思わず笑ってしまったこの表紙ですけど(^^ゞ

      ま、こういうことを書くのは失礼だとは思うんですけ...
      なんで、友人の顔がここにあるんだ!?と、思わず笑ってしまったこの表紙ですけど(^^ゞ

      ま、こういうことを書くのは失礼だとは思うんですけど。でも、「私とは何か」(でしたっけ?)のnaonaonao16gさんのレビューを読んだ時にも思ったことなんですけど、その「分人」がイマイチイメージ出来ないんですよね。
      ていうか。え、相手毎の自分がいるって、普通じゃないの!?って思ってしまうんです。
      例えば、子供の頃。普段の親に対する自分と。何か買って貰いたくておねだりする時の自分の態度って、違ってたように思うんですよ。
      おねだりする時は、お手伝いしたり、TVを見ないで勉強(するフリ)したり、明らかにいい子を演じてた(^^ゞ
      ここで言う「分人」というのは、そういうことではないということ?
      というか、それよりもう一段底(深い部分)があるってことなのかな?
      いろんな人の感想を読んでも、私と同じように「それって普通じゃないの?」という人がいる反面、「それを聞いて楽になった」と書いている人がすごく多いんですよね。
      変な話。(もしかしたら上から目線になるのかもしれませんが)ある年齢で、意見がそんな風にわかれたりするするのかなーなんて思ってしまったり(^^;
      まぁそんなこと言ってないで読んでみればって話だとは思うのでw
      とりあえず、読んでみようと思います。
      2021/02/23
    • naonaonao16gさん
      本ぶらさん

      コメントありがとうございます。

      分人は、親におねだりする自分と普段接している自分とが違う、というのは異なります。もう...
      本ぶらさん

      コメントありがとうございます。

      分人は、親におねだりする自分と普段接している自分とが違う、というのは異なります。もう一段深い、ということなのかどうかは分かりませんが、家族の前での自分、友人のまでの自分、友人の中でも、地元の友人、大学の友人、みんなその人の前での自分がいて、「ありのままの自分」という一人だけがいるわけじゃない、接する相手に応じた数の自分がいていいんだよ、という考え方です。
      そりゃそうだ、と思って生活している方にとっては普通のことかもしれません。
      けれど、「自分」というものに向き合い続けて苦しんでいる人や、人間関係にストレスを感じている人は、救われるのかもしれないなと、わたしは思いました。

      本ぶらさんは「私とは何か」よりも、こちらの「空白を満たしなさい」の方がストーリーとして面白く読み進められるのではないかなと、そんな風に思いました。
      2021/02/23
  • オーディブルにて聴く。
    徐々に引き込まれていった。おもしろい!

    主人公は復生者(生き返った者)の徹生。
    「徹底的に生きる」という名にもかかわらず一度自死した(ことになっている)。その真相は…?

    下巻へ続く!


  • 難しいなぁ。そして胸糞。
    なぜゴッホの表紙なのかまだ謎。
    でもところどころにゴッホの人生とリンクするような事がちりばめられてる気がする。
    下巻はすぐ読んだ方が良さそうだな。

  • 2021.11.2にハードカバーにて読了済み。

    説明
    内容紹介
    ある夜、勤務先の会議室で目醒めた土屋徹生は、帰宅後、妻から「あなたは3年前に死んだはず」と告げられる。死因は「自殺」。家族はそのため心に深い傷を負っていた。しかし、息子が生まれ、仕事も順調だった当時、自殺する理由などない徹生は、殺されたのではと疑う。そして浮かび上がる犯人の記憶……。


    死者たちが生き返ってくる世界を、息を呑む圧倒的なリアリティで描き出し、現代における「自己」という存在の危機と、「幸福」の意味を追究して、深い感動を呼んだ傑作長編

    <内容紹介>
    ある夜、勤務先の会議室で目醒めた土屋徹生は、帰宅後、妻から「あなたは3年前に死んだはず」と告げられる。死因は「自殺」。家族はそのため心に深い傷を負っていた。しかし、息子が生まれ、仕事も順調だった当時、自殺する理由などない徹生は、殺されたのではと疑う。そして浮かび上がる犯人の記憶……。

    安西は、腕組みして、背もたれに体を預けると、神妙な顔で徹生を見つめた。
    「なあ、土屋、――いいか? 人間一人死ねば、その一人分の穴が開く。大きい穴もあれば、小さい穴もある。けど、その穴をいつまでも放っておくわけにはいかんだろう。みんなで一生懸命埋める。じゃないと、一々その穴で躓(つまず)くことになる。――な?」
    「……。」
    「仕事の穴、家族の穴、遺された人の心の中の穴。――お前は、それがちょうど、塞(ふさ)がったところに戻って来てる。無理に抉(こ)じ開けようとすると、破れてしまうぞ。」
    ――本文より
    内容(「BOOK」データベースより)
    ある夜、勤務先の会議室で目醒めた土屋徹生は、帰宅後、妻から「あなたは三年前に死んだはず」と告げられる。死因は「自殺」。家族はそのため心に深い傷を負っていた。しかし、息子が生まれ、仕事も順調だった当時、自殺する理由などない徹生は、殺されたのではと疑う。そして浮かび上がる犯人の記憶…。

    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    平野/啓一郎
    1975年、愛知県生まれ。京都大学法学部卒業。’98年、大学在学中に文芸誌「新潮」に投稿した作品『日蝕』が巻頭掲載され、話題を呼ぶ。翌’99年、同作により第120回芥川賞を受賞。2002年、2500枚の長編『葬送』を刊行。’09年、『ドーン』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • 下巻まで読み終わってからの感想。
    主人公の葛藤、周囲の人々の迷いが伝わってくる作品。後半へ向けて、ミステリー要素強め。

  • 面白かった!!一巡目は重たくて苦しくて心臓のドキドキだった。何かが気になってもう一度佐伯の言葉を読み返してみた。(もし仮に自分が徹生だったとしたら、佐伯の言葉を思い返す時点で本当に擬態してる感じがする!)読んでいる最中は徹生のようにパニックでこいつは何を言ってるんだ…と感じた。イライラもした気持ち悪くも感じだ。でも読み終わって再度佐伯と千佳の会話を読み返してびっくりした。
    自分は佐伯派だった。むしろ言い得ていて確信をつきすぎて言い返せず受け入れることもできなかったのかもしれない。
    相手を受け入れ理解することは自分に余裕がある時だけだと思う。それに気づけれた。私生活でもきっとそうだとおもう。イライラして反発して言い返したくなる時もあるけど相手を否定して何になるんだろう。それが全てな訳でもないし場合によっては立場と口論の場所が違えば認めざるおえない時だってくる。自分をコントロールできるようになればすごい楽になれるのにとおもった。
    幸福を言葉で表現している部分に作者に感動した。自分の価値観と自分自身とが合致すること素晴らしいと思った。ちなみに私は現時点ではお風呂に対して1番の幸福と感じとメモしておく。見返す時の幸福と違っていたら、またそれはそれでおもしろいな笑。社会に植え付けられた価値観と自分自身がが合致ひないのは当たり前だとおもった。本当に徹生は自殺したかったから自殺した。自分の死を選択することそれを周りが止めることは周りのエゴなんじゃないかとおもった。

  • とんでもない設定ではありながらも、徹生の抱える謎が気になります。

    下巻では謎のこたえと、その先が気になります。
    人が生き返るというとんでもない現象がどういう結末を迎えるのか? 幸せか不幸か…

  • なかなか最後に行き着くのに困難だった。
    なんとか読み終えたという感じだ。
    設定が苦手。
    こんな本を読むことを読書と言うのかも。
    ずいぶん前でレビューは忘れた。

  • すごく面白かった!平野啓一郎先生の本はこの本が初めて。オーディオブックで完聴。
    自分が死んだあとに生き返る(復生)するという有り得ない設定ながら、登場人物の動きや分人主義という考え方や先が気になって読み進めるのが止まらなかった。
    自分が自殺したあとに蘇ったら、自分の夫が蘇ったら、などと空想しながら読み進めたが、自分の立場と重ねて、夫の自殺という乗り越えるのが難しい壁をやっと乗り越えたところで夫が蘇えったら、嬉しい反面、この3年間は何だったんだろうと考えてしまうだろう。
    途中出てくる佐伯という男の気味の悪さは印象的ではあるが、同意できる部分もあった。
    命の価値って、重さって、何なんだろう。
    自分の中に複数ある顔、分人。同じ生身の人間から発せられた分人同士なのに、その中の他者を消す。
    自分自身でも、あまり好きじゃない自分の顔はある。それを消すのは殺人なのか、自殺なのか。

    物語の途中、複生者たちが消えてしまう下りがあるが、私の理解不足たとは思うが、何故消えてしまったのかは私には分からなかった。

  • 3年前死んだはずの主人公がある日突然「復生者」として生き返った。
    自分が死んでも回り続けていた世界に、自分の居場所はなくなっていて……
    生き直そうと必死にもがく主人公。
    佐伯という人物がとにかく気持ち悪い。

    後半、物語が動き出して続きが気になる。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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