空白を満たしなさい(下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.94
  • (48)
  • (66)
  • (48)
  • (5)
  • (0)
本棚登録 : 610
レビュー : 64
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062932899

作品紹介・あらすじ

全国で生き返る「復生者」たち。その集会に参加した徹生は、自らの死についての衝撃的な真相を知る。すべての謎が解き明かされ、ようやく家族に訪れた幸福。しかし、彼にはやり残したことがあった……。生と死の狭間で「自分とは何か?」という根源的な問いを追究し、「分人」という思想が結実する感動長編。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 平野敬一郎さんの代表作の一つである「空白を満たしなさい」を読み終わりました。

    正直、万人受けする著作ではないかもしれない。上下巻あり、ボリュームもなかなかのものです。私も途中、少々めげそうになりましたが、最後まで読了し、結果、やはり読んでよかったとつくづく思いました。

    物語のストーリーは実に不思議な設定で、死んだはずの人間が次々に復生し、遺族・友人・会社の同僚・上司など、驚きをもって迎えられる中、その戸惑いと現実的な葛藤、そしてこの物語の主人公は何故自分が死んだかを追及していく中での心の苦悶が描かれています。

    もちろん現実にはありえないことではありますが、もしもそのようなことがあったとしたら、という想像力を働かせて物語を読んでいくと、現世で様々な苦難に出会っている我々の現状が違った見え方がしてくるような気がします。

    平野氏の「分人主義」という考え方は、私個人としてはとてもいい人生観だと思います。これを知ってしまうと、「個人」という一面的なとらえ方はなんと苦しい生き方なんだと思えてきます。

    人は、他人と接するとき、何かの物事に接しているとき、その局面局面で自分のある側面を見せる。人は実は非常に多様な側面をもっていて、それはその人の「分人」であり、その人自身を構成しているものである。(いわゆる多重人格とは違い、人とはそもそもそのように多様な側面をもった生き物、分人であるという考え方です。)このような考え方をすれば、ある側面としての「分人」が否定されたとしても、その人個人全体を否定されたわけではないということになります。自殺者が増加の一途をたどる現代においては、新しい考え方で、とても新鮮でした。全く持って現世は生きにくい世の中ですから、こういう考え方はありだなと実感しました。この「分人主義」という考え方については、別の書籍がでているようですので、別の機会に精読してみたいと思います。

    「マチネの終わりに」「ある男」に続く、新作が今から待ち遠しくなりました!

  • 自殺について、分人の概念を用いて考えることで、以前よりも理解できるようになった。誰しも好きじゃない分人を少なからず抱えている。それでも、自分が生きたいと思う、好きな分人を足場に生きていきたい。
    ---
    後半、ドキドキしながら読んだ。読了後もその余韻が続く。愛する人をぎゅっと抱きしめて、その存在を感じたくなった。

  • 上巻を読んで期待していたが、期待以上だった。
    読んだ感じとしては、さらっとすぎず、難しすぎず、丁度いい。
    中身は、上巻のミステリー要素からは変わって、
    下巻は、人が様々な環境で生きる分人という考え方がメインだった。
    よく考えられていて読んでいて、なるほどなと思えた。

    最後一章くらいがちょっとクドイ印象を受けたけれど、
    ここ一年で一番よい本だった。また読みたい。

  • 表紙のゴッホに、改めてヤラれた‼︎

    先日、『ドーン』を読んで不思議と読後の感じが残っていたので、もう一冊といってみた。
    死人が生き返るというのは、小説としてはあるパターンなのだけど、なぜ死んだのかという所にどしどしツッコんでいくところがすごい。

    周りのキャラクターも大概……なのだけど、救われどころも、憎めすぎない感じもして、良かった。
    人の心理って自分一人ではもちろんわからないことがあって、この話はその解決になるわけではない。
    ないのだけど、読むことで自分の中に留めておくべき部分があったと思う。
    それが生きていることで、遺せるものの一つなのかもしれない。

  • 消えてしまうのかな。
    なんだか爽やかな印象を受ける最後だったけど。
    凄いモヤモヤ。
    何かと解決出来たみたいだけど、自分だったらあんなに潔くなんてできんな。
    生き返らなければよかったのに。
    最後、絶対思う。

    〚分人〛
    この考え方はちょっと好き。
    穏やかに暮らすのに使ってます。
    しがない管理職なりに部下に対する分人。
    プロポーズ1年ほったらかしてる相方に対する分人。
    私の中のいなくなれば良い分人はどれだろうね。

  • さて物語は下巻に入り、復生者の全国集会に参加した徹生は、自らの死についての衝撃的な真相を知る。全ての謎が解き明かされ、その気づきからやるべきことを見出していくが…。
    ここに到って、徹生の死の真相を語りながら、作者が言うところの「分人」という考え方が提出される。
    「分人」とは、対人ごとに存在する様々な自分のことで、たった一つの本当の自分なんて存在せず、対人ごとに見せる複数の顔が全て自分であるという考え方。
    嫌いな自分を肯定するには? 自分らしさはどう生まれるのか? 他者との距離をいかに取るか?そういうことを考えると、確かに興味深い考察ではある。
    また、人が死んでから遺るものということで〈記憶〉〈記録〉〈遺品〉〈遺伝子〉〈影響〉の5つに整理されていくのも成程と思う。
    復生者が次々と再び死にいく中で、いつ来るとも知れぬ死の恐怖に苛まされながら千々に乱れる心情もよく書けていると思うし、何とも知れない性格が遺伝しているのを見て、親としてその子が、そのためにどんな悩みを抱いてどんな損をするかに心を痛める様や、大切な人が亡くなった後、その悲しみを乗り越え、故人を思い出すことを喜びと感じられるようになる〈喪の作業〉の説明など、「死」について深く考えさせられる。
    ただ、しかし、何となく御説を拝聴したという印象が強く残り、物語としてのカタルシスに繋がらなかったように感じる。

  • 終わりが近付くにつれ、胸に迫るものが大きくなっていくばかり。溢れ出る感情を堪えることができませんでした。
    こんなに色々なことを考えながら小説を読んだのは久しぶりで、この余韻はながーく続きそうです。

    今思っていることはとても書き切れませんが、あまり重くない(語りやすい?)分人について触れてみます…

    読み切るまで、分人に関するある一つの疑問が、ずっと胸の中に残っていました。
    それは、「知り合いの数が引くほど少ない僕は、一体どんな分人を抱えているんだろう」というもの。
    一人でいる間、僕の思考を支配しているのはどの分人なんだろう?とモヤモヤしていました。誰かの影響を受けているという自覚はほとんどないし…

    うーんうーんと悩んだ結果、はたと思い当たりました。本との関係で生まれた分人かも、と。笑
    「本は人だ」という言葉があるように(…ありますよね?ググっても出てこないんですが…)、本を読んでいくうちに、その本とのやり取りの中で生まれる分人があっても何ら不思議ではないのでは?と気付くことができました。
    僕は、何を考えているのかよく分からない、とよく言われるのですが、もしかしたら本のせいかもしれないな、と妙に納得できる答えに落ち着いているところです。

    物語に少しだけ触れると、終盤の「次の瞬間、いつフッと自身が消えてしまうかも分からない」という状況は、読んでいて本当に辛くなりました。
    が、前触れもなく自分が消えてしまう、というのは、通常の人間にとっての死にあたるものではないかと考えました。
    僕は、自分自身がいつ死んでもおかしくない、とたまに思い出しながら生きています。外を歩いている間、いつ車が突っ込んでくるか分かりませんよ、本当に。急にぶつかってきますからね、あれ。笑

    だからこそ、後悔や、やり残したことを抱えたまま死なないためにも、限られた時間を無駄にしちゃいけないと、当たり前のようで、とても大切なことを改めて感じました。主人公のように、好きな人くらいには好きだと真っ直ぐに伝えたいものです。

  • 一度きりだから価値があるのでしょうね…。
    分人って考えも面白かった。
    読んで少しスッキリしました。

  • たとえ何度やり直す機会があったとしても、生きること死ぬことの意味は誰にも分からないし、そこに一つの正解があるわけじゃない。
    だからこそ、人は何か拠り所を見つけてそれにすがって生きていこうとする。
    主人公が出会った(平野啓一郎が説いている)「分人」という考え方も、その拠り所の一つだと思う。私自身、この考え方には納得するところがあり、「自分のすべてを丸ごと愛さなくてもいい」下p96 という言葉に、救われる人も多いんじゃないだろうか。

    父親の死の真相という「空白」を満たすために、自らの姿を映像に残すが、それさえも不必要なものでは?と悩む主人公。会社内での不意に空いた「空白」はあっけなく満たされるし、満たされなければならないが、大切な人の存在が空けた「空白」は、結局何をもってしても満たされることはなく、むしろその「空白」と共に残された者は生きていかなければならないということだろうか。

  • なぜ上巻も下巻も書影がゴッホの自画像なんだろう?と意味がわからず不思議に思っていたが、
    下巻の途中でその意味が明らかになって、驚きと興奮を覚えた。

    そして「分人」という考え方、
    個人的にはわりと自然に入ってきて、
    そうかも知れないなぁ、と。

    生き返るって、しんどい。
    死ぬのは一度限りでいいと思う。

全64件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

平野 啓一郎(ひらの けいいちろう)
1975年、愛知県蒲郡市生まれ。生後すぐ父を亡くし、母の実家のた福岡県北九州市八幡西区で育つ。福岡県立東筑高等学校、京都大学法学部卒業。在学中の1998年、『日蝕』を『新潮』に投稿し、新人としては異例の一挙掲載のうえ「三島由紀夫の再来」と呼ばれる華々しいデビューを飾った。翌1999年、『日蝕』で第120回芥川賞を当時最年少の23歳で受賞。
2009年『決壊』で平成20年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、2009年『ドーン』で第19回Bunkamuraドゥマゴ文学賞、2017年『マチネの終わりに』で第2回渡辺淳一文学賞、2019年『ある男』で第70回読売文学賞(小説部門)をそれぞれ受賞。2014年には芸術文化勲章シュヴァリエを受章した。『マチネの終わりに』は福山雅治と石田ゆり子主演で映画化が決まり、2019年秋に全国で公開予定となっている。

平野啓一郎の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
伊坂 幸太郎
朝井 リョウ
有効な右矢印 無効な右矢印

空白を満たしなさい(下) (講談社文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×