- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062932950
作品紹介・あらすじ
向田邦子2冊目の随筆集。「荒城の月」の「めぐる盃かげさして」の一節を「眠る盃」と覚えてしまった少女時代の回想に、戦前のサラリーマン家庭の暮らしをいきいきと甦らせる表題作をはじめ、なにげない日常から鮮やかな人生を切りとる珠玉の随筆集。知的なユーモアと鋭い感性、美意識を内に包んだ温かで魅力的な人柄が偲ばれるファン必読の書。文字が大きく読みやすくなった新組版。
感想・レビュー・書評
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向田邦子さんの二冊目のエッセイ集。
人の世話をやくのに夢中になって自分のことをついつい後回しにしてしまう自身の性格を、子供の頃の思い出話を通して描いた『潰れた鶴』、“暴君であったが、反面テレ性でもあった(p.46)”向田さんのお父さんが、末娘の学童疎開に際して子供思いなところを見せた『字のない葉書』が印象に残った。
もちろん悪くはないのだが、前作『父の詫び状』がもう抜群に素晴らしかったので、それと比べるとどうしても少し見劣りしてしまう、というのが正直な感想である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ライオンの話が読みたくて図書館より拝借。ライオンの話までの、郵便局員や、男が落ちてきた話もすごく不思議なようで、それが現実社会でもある不思議。
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様々な媒体に発表されたエッセイをまとめた一冊。一つ一つが短いので外出する際持ち歩き隙間時間に読んだが、その隙間時間が幸せに思えるほどによかった。今更ながら、長く読み継がれる理由を噛みしめ、もっともっと向田邦子ワールドを味わいたいと思わされた。昭和の空気感がとにかく懐かしいな。
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『小説は書き出し、随筆は最後の一行』。
そんな言われも向田邦子に限ってはどこ吹く風で、書き出しから読み手の関心をたちどころにつかむ。
例えば、〈うちの電話はベルを鳴らす前に肩で息をする〉。今から何を語り出そうとするのか凡そ見当のつかない未知の世界へと誘う書き出し。その瞬間から引き込まれずにはいられない。
書き出しはその他にも、見識を短い言葉に落とし込んだ歯切れのよい表現は真理を突いた箴言めき、小気味よく静かに突き刺さる。
辛口で鳴らしたコラムニスト 山本夏彦が『向田邦子は突然あらわれてほとんど名人』と褒め上げたのも大いに頷ける。
今回再読し、面白かったのは『考察』の妙。
◉味醂干し
ベッタリと濃い焦茶色に漬かった大きな目のイワシが作法通り9匹ならんでいるのだが、包み紙にじっとり漬け汁が滲み出るほど濡れている。包み紙も、派手派手しい赤や青で、あまり上品とは申しかねる図柄なのも嬉しかった。味醂干しはこれなのだ。見るからに安そうで気のおけないところが身上なのだ。
◉水羊羹
水羊羹の命は切り口と角であります。水羊羹が一年中あればいいという人もいますが、私はそうはおもいません。水羊羹は冷やし中華やアイスクリームとは違います。新茶の出る頃から店にならび、うちわを仕舞う頃にはひっそりと姿を消す、その短い命がいいのです。
◉女
特に若い女は、どうして痩せた男が好きなんだろう。ボブディランを聴く時に、隣にポテンと肥えたボーイフレンドが寄り添っていたのでは落ち着きが悪いのかもしれない。苦心して選んだスカーフや、腕がだるくなるほど研究した最新のお化粧を引き立たせるのも、極太の男より中細や極細の男たちなのだろう。ハムレットが北の湖の肉体を持っていたらあの悲劇は起こらなかったろう。
◉アマゾン川
アマゾン川はとてつもなく大きな、おみおつけ色の帯であった。しかも、木の根のようにおびただしい数の支流がある。その色がまたさまざまで、濃いめの赤だし色あり、淡目の仙台味噌ありという具合ですべてがたくましく、生々しい。山紫水明に縁遠いたたずまいであった。
◉旅の終わり
帰り道は旅のお釣り。残り少なくなった小銭をポケットの底で未練がましく鳴らすように、『ああ終わってしまったなぁ』軽い疲れとむなしさ、わずらわしい日常へ戻ってゆくうっとうしさ。それでいて、住み慣れたぬるま湯へまた漬かってゆくほっとした感じがある。
ユーモアと機知。話に挟み込まれる自身の記憶のエピソード。陳腐を承知で使えば、結局『センス』という言葉に収斂されていく。
今回の再読は巻末に収められた『消しゴム』から読み始めた。ショートショートの様な創作色を帯びたエッセイ。〈軀の上に大きな消しゴムが乗っかっている〉から始まる意表をつく書き出し。過不足ない情景説明とスリリングな展開。そこに巧妙に挿入される心理描写。サゲは卓抜なエンディングを用意。
志ん朝の落語は〈郭噺を語り出す高座に行灯が灯り、下町噺では高座に焼き魚の煙が漂ってくる〉と評された。向田邦子のエッセイもしかり。ラジオドラマの脚本経験の影響もあるのかと思うが、自身の記憶と昭和の生活風景の絡め方がとにかく絶妙。ゆえに
いずれの話も具体的に鮮明に読み手の中に浮かび上がり、いつか見た光景となって強い共感を覚える。
沢木耕太郎の向田邦子論を読んで久々に開いた本書。何度となく、陶然となりながら名人芸を玩読。しばらく向田熱に冒されるのは必至でありますな。 -
昭和の高度成長期にテレビ・ラジオの放送作家として大成し、直木賞を受賞した翌年、台湾旅行中に航空機事故で帰らぬ人となった向田邦子さんの機智とユ-モアにとんだ57篇のエッセイです。子どもの頃の記憶、戦中・戦後の暮らしの風景、家族や先祖に纏わる想い出、猫自慢と向田鉄(飼犬の名)のことなど、飾り気のないサパサパとした清楚な文体からは、魅力あふれる人柄が偲ばれます。『中野のライオン』と『新宿のライオン』は、読まずには死ねない本エッセイの白眉です。
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『父の詫び状』に続くエッセイ集。涙を誘うような話、ビックリするような逸話、観察眼に感心するような話など、様々な文章が綴られている。
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向田邦子エッセイ集。今読んでいても全然色あせることがない。向田邦子さんの人となりも、すけてみえてきて、ますます向田邦子ファンになってしまいます。
今の日本人は変わってしまったのだろうか。この一冊の中には、よく言われる古き良き日本人が詰まっています。 -
向田邦子さん、改めて素敵な女性であると認識しました。リズム感のある文章だから、さらっと読めてしまうのだけど、はっとすることが随所にありました。
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人生の解像度を高めると、こんなにも喜劇に満ちているのか、と思える。