新装版 夜中の薔薇 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062933285

作品紹介・あらすじ

気に入った手袋が見つからなくて、風邪をひくまでやせ我慢を通した22歳の冬以来、“いまだに何かを探している”……(「手袋をさがす」)。凛として自己主張を貫いてきた半生を率直に語り、人々のありふれた人生を優しい眼差しで掬いあげる  名エッセイの数々。突然の死の後も読者を魅了してやまない著者最後のエッセイ集。文字が大きく読みやすく、カバーの絵も美しくなった新装版。解説/太田 光

感想・レビュー・書評

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  • 1981年8月22日に飛行機事故で亡くなられて、今年で没後40年の向田邦子さん。
    今作は編集の途中でお亡くなりになった向田さんへの、編集者たちからの追悼の気持ちの込められたエッセイ集とのこと。

    家の冷蔵庫にビールを欠かさない程の酒豪。
    打ち合わせ等でご自宅は常に来客が絶えない。
    向田家の手料理・海苔弁、葱雑炊、麻布の卵、枝豆の醤油煮等も食べたくなるものばかり。
    向田家の台所がTVドラマを観ているように、目の前に浮かんでくる。

    特に印象深かったのは『手袋をさがす』。
    向田さんの若い頃から培った信念がよく分かった。
    妥協しない潔さ。
    熟考に熟考を重ねて、でも結論はさっぱりと。
    向田さんの自分に嘘のない生き方に共感しきりだった。

    そして『時計なんか恐くない』。
    どんな毎日にも生きている限り無駄はない。焦りも後悔も貴重な栄養。
    向田さんのどこまでも前向きな考え方を改めて知り、泣きそうになった。合掌。

  • 〇木を書かなかったのではなく、書けなかったのだ。(p15)
    ☆育っていくものを朝晩眺める視線が暮らしになかったと書いている。見ていないものは書けない訳だ。この本にもだが、向田邦子さんのエッセイの中には食べ物の話がよく出てくる。暮らしに根付いているものが書ける。

    〇女学生と呼ばれた五年間をふりかえって、まず思い浮かぶのは、スカートの寝押しをしている自分の姿である。(p555)
    ☆思い出した。そんなことをしていた時期があったな。スカートの襞なんて本当どうでもいいのに(と今の私は思う)そういう細かいところが全てだと、思ってしまう年代。

    〇「無料(タダ)ですよ」(p78)
    ☆渋谷駅で「渋谷一枚!」と叫んだ向田さんに対応した駅員さんの話。こういうお洒落な言葉がつかえるようになりたい。

    〇「食らわんか」(p124)
    ☆一番面白かった。
    おいしいものは、面白い。
    塩味をつけた卵を支那鍋で、胡麻油を使ってごく大きめの中華風入り卵にする。食べたい。
    のりごはんもいい。
    ごはん+かつおぶしを醤油でしめらせたもの+のり
    を3回繰り返す。
    これに向田さんは肉の生姜煮と塩焼き卵をつけるらしい。最高ではないか。

    〇点は、つまり部分は線の全体を当てることがあるのだ。(p225)
    ☆だから、細部まで気をつか。
    相手のどこを見るか、というのもあるだろう。
    今日の私はどうだっただろうか。

    〇私は子供の頃から、ぜいたくで虚栄心の強い子供でした。(p257)
    ☆自分のことをこんな風に言えるってすごい。
    自分はどうだろうか。全く、全くもって、言えない。
    ぐじぐじしていて、感じの悪い子だったような気がしている。なんであんなだったのだろう。で、今も。
    良い人であろうとしているところがそもそも嫌だ。そして、そうなれないところも。

    〇私は、どちらかといえば負け犬が好きです。(p277)
    ☆3年、5年を無駄にしたとしても、60年、70年の人生にとってひっかき傷ほどにもなりません、と言えると同時に、自分にとって濃い時間の使い方をしたいと最近切に願う。
    そして、それは、どうすると濃くなるのかは、人によって違う。充実してそうに見える人のライフスタイルを真似しても、むなしくなることが最近ようやくわかってきた。人と比べない。自分の中との反芻、そして、日常を生きることが、今の私にとっての充実と言えるのかもしれない。
    周りで起こっている出来事を大切に受け止めたい。
    SNSに惑わされない。
    ラインにつきっきりにならない。
    合理的をやめる。
    今までが合理的すぎたのだ。

  • エッセイを久しぶりに読んだ。
    昔エッセイストになりたいと思ってたことを思い出した。エッセイはその人がそのまま出る。
    我ながら畏れ多いことを考えてたものだ。
    著者のドラマは、細かな描写、心の内側が現れる仕草などが、繊細で物凄いものがあるな、と昔観て思っていたけど、このエッセイを読んでなるほどと納得した。

  • p79だけでいいから読んで欲しい。

    ーーことばのお洒落は、(中略)無料で手に入る最高のアクセサリーである。ーー

    読書好き、読書を始めたい、そんな方に絶対に刺さるエッセイが、たったの1ページに凝縮されています。

    その他、背筋がしゃんと伸びることばの数々が詰まったエッセイです。

    読書好きの友人にもプレゼントした、私の相棒の一冊。

  • 手袋をさがす。ないものねだりかもしれない、けれど好奇心を持って周りを探し続ける。満足できなくて常に不満を持っているかもしれないけど、探し続ける自分に誇りを持っていいんだと思えた。
    時計なんか怖くない。時間を合理的に使うことは、時計の奴隷になっているだけではないのか。人生の大きな時計で計れば、若い時の時間を無駄にしてしまったという絶望も、ほんの短いステキな時間ではないか。一生懸命生きていればどんな時間も無駄ではない。そう思えるように生きていきたいな。

  • 短編のエッセイ集、私にとって初めての向田邦子作品です。言葉ひとつひとつが正直で分かりやすく、尚且つとてもおしゃれで、他の作品も読みたくなりました。
    爆笑問題・太田光さんの解説もとても良かったです。定期的に読みたい本に出会えました。

  • 何度読んでも好きな本のひとつ.
    この本が好きな人とは、気が合うと確信している。実際
    好きな友達はこれが好き。

    丁寧な生活
    私欲への感謝など、親しみやすい.徳な昭和な人たちにとっては!ら

  • 「手袋をさがす」にとても共感をしました。
    納得いかないことが色々あります。妥協できない欲深い自分を反省するのはやめて、それが自分だと潔く認めて生きていこうという清々しさをかんじました。

  • 「手袋をさがす」と「時計なんか恐くない」が特に良くて、すぐに読み返した

  • 私はこの人の感性が好きだ。1929年生まれ。和暦だと昭和4年生まれ。今生きていれば95歳。私の亡くなった祖母と同世代。当時キャリアウーマン(すでに死語か?)として女一人で生計を立てるというのはかなり珍しくて新しい生き方だったと思う。少なくとも私の周りにはいなかった。

    この本の中で性差による「らしさ」についてたびたび語られている。今どきの人は嫌悪感を示すのだろうかと思いながら読んだ。ジェンダーレスが叫ばれ「男らしさ」とか「女らしさ」とかいう言葉さえ使うことが憚られる世の中になってしまった。

    私自身は、性別によって権利とか機会を奪ったり差別したりすることは間違っていると思うが、男らしさとか女らしさとかは、そもそも男女は生物学的に構造や役割が違うのだから、あって当然だと思う。そして良いとされる「らしさ」は歴史や文化によって考え方が違うと思う。(LGBTはまた別の話)。

    そういう意味でもこの人の文章は受け入れやすい。日本で戦前に教育を受けた人の考え方であるが、スッと入ってくる。男だからそんなこと言えるんだと思われてしまうかもしれないが、女性の向田さんが言っているのだから心強い。

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著者プロフィール

向田邦子(むこうだ・くにこ)
1929年、東京生まれ。脚本家、エッセイスト、小説家。実践女子専門学校国語科卒業後、記者を経て脚本の世界へ。代表作に「七人の孫」「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」。1980年、「花の名前」などで第83回直木賞受賞。おもな著書に『父の詫び状』『思い出トランプ』『あ・うん』。1981年、飛行機事故で急逝。

「2021年 『向田邦子シナリオ集 昭和の人間ドラマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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