図書館の魔女 第三巻 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 108
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062933872

作品紹介・あらすじ

深刻な麦の不作に苦しむアルデシュは、背後に接するニザマに嗾けられ、今まさに一ノ谷に戦端を開こうとしていた。高い塔のマツリカは、アルデシュの穀倉を回復する奇策を見出し、戦争を回避せんとする。しかし、彼女の誤算は、雄弁に言葉を紡ぐ自身の利き腕、左手を狙った敵の罠を見過ごしていたことにあった。

感想・レビュー・書評

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  • 2022年2月x日、プーチンとウクライナ大統領と日本の◯◯は三者会談を行なっていた。今や世界の火薬庫と化したウクライナ危機を回避するためである。憲法9条を擁し、かつて世界中の平和の権威を持っていた日本は、とんでもない提案をした。それは、ロシア、ウクライナ、西側諸国全てに利益が上がる、三方両得とも言える提案であった。

    とまぁ、「図書館の魔女(3)」はこんな粗筋である。プーチンが「ニザマ帝」、ウクライナが「アルデイッシュ」であるのはわりとうまく嵌ったと我ながら思うが、流石に日本が「高い塔」のメンバーたちというのはあり得ない(←自国なのに、このように断言できることがちょっと悲しい)。でも、現実の戦争も小説内の戦争も、人・物の消失、物流の停滞からくる狂乱物価、そして将来への禍根しか残さない。なんとか避けてほしい。現代に「図書館の魔女」がありましからば。

    ここまではおそらく起承転結の「転結」直前、だと思えるので、改めて作品世界の設定について感想を述べたい。

    舞台は、産業革命も未だ起きていない、西洋と中東、中国を一緒にしたような「世界」。活版印刷は始まったばかりののようだから、図書館に集められる本は文字通り当時の知識の集積場である。その割には、医学や心理学等の知識は近代・現代に近づいている。条約が国の行動を縛る世界というのは、もはや現代国家の姿と言ってもいいかもしれない。キリスト教こそ出てこないが、ソロモン伝説や菩薩信仰、麒麟伝説などは存在する。「海峡地域」は、中心地たる「一ノ谷」を挟んで、現代グローバル世界のような一大貿易商圏をつくっている。その一ノ谷が、図書館の魔女たるマツリカの先代・タイキの代に、手紙(交渉)のみで「遂に起こらなかった第三次同盟市戦争」を実現させた。その権威が、軍事力よりも、産業価値よりも「一ノ谷」という国の存立基盤になっている、という奇跡のような「世界」である。図書館の魔女は、いわば電気やAIのない時代に、世界のシンクタンク兼国連事務総長を兼ねている。

    いまのところ、作者はウクライナ危機に役立つように世界平和に資する物語を作ろうとしてはいないと思う。それよりも描きたいのはひとえに「図書館の可能性」だろう。
    「図書館にいったい何ができるのか」ひいては「(ソロモンや文殊菩薩のような)知恵をどのように集めたら、世界をもっとよくしていけるのか」
    もう、そのためだけの小説だろう。
    反対に言えば、未来を作るためには、「いま・ここ」だけを見ていてはダメで、古今東西に通じなければいけないよ、というメッセージである。
    それを10代の若者マツリカとキリヒト、そして20代の大人の女性ハルカゼとキリンに託したのである。

  • まさか図書館の魔女は、全4巻なのですが、10年程経っているし、予約配本がこんなに手間取るとは思っていなくて、読む時間が空いてしまい、失敗だったなと反省します。
    全巻までの話の流れがより修飾された巻といった感じ。
    展開としては、予測範囲内。海峡地域概略図の国々の微妙に保たれていいる均衡と平穏を崩しつつある動きがある。その対立を回避するように、図書館の魔女と司書達が戦略を立てる。
    過去の水路は、戦略の一つとなる、灌漑からの肥沃な農地の開拓に。
    彼女の声であり言葉である左手を奪うという大胆な行為は、これから、まだ意味を深めるのか。
    とはいえ、このファンタジーの作者の創作への意欲は、文字、言葉、文献、図書館への知識欲かなと思う。作品中の文語の知識は、理解できないものもあるけど、魔女マツリカに語らせる文献に対する考え方が作者の思うところかな。

  • 大団円の最終巻に向けてまだまだ仕込む第三巻!

    敵の喉元に自ら乗り込むマツリカ様と敵の謀によりマツリカの側を片時も離れられないキリヒト
    この三巻最大の出来事(キリヒトがマツリカから離れられない)も恐らくはなにかの伏線に使われるような気がします

    そして一、ニ巻で大量にページを割かれた地下水路の発見も今回の政治的策謀に使われて帰結したかに思われますが、あれだけページを使ったんだからまだなにかに使われそう
    そんな気にさせられるのが目眩ましかもしれませんが…

    とにかく、とんでもない量の伏線が三巻までに仕込まれてきたのは明らかです
    作者自身が示唆したのもあれば、巧妙に隠されたものもたくさんありそう

    おかげで第四巻は600ページ超!

    こりゃあすごいことになりそう!


    そして本筋とはちょっと関係ないですが、第三巻を読んで感じたのは漢字の凄さですよね
    一文字に込められた情報量の多さが半端ないです
    先日『モモ』のレビューでも触れたんですが、漢字があるとないとでは読む(=情報を取り入れる)スピードが全く変わってきてしまうんですよね

    作中にも登場しますが、(日本の)漢字は「表意文字」に分類され、文字そのものに事物の概念が付与されていて、(日本の)漢字以外ではシュメール文字なんかがあるんですが、実はこのシュメール文字は本作の直前に読んでいた今野敏さんの『鬼龍』に登場してたりして、個人的に「なにこの繋がり?恐っ」とか思ったりしてますw
    ちなみにローマ字みたいにひとつの文字が音声を表すのを「表音文字」と言って、中国の漢字はこの「表音文字」の役割を持つものも含まれているので一概に「表意文字」とは言えないのでちょっと注意が必要だったりします

    「表意文字」を自在に操る日本人と「表音文字」を使う人たちでは「読む」という行為に違いがあるのかな?って思ったり
    例のオーディブルなんて聞いた音が頭の中で一旦漢字に変換されるのかな?それとも音節を捉えたら意味がかたちになるのかな?とか
    読書の根幹に迫っていそうな謎に興味が広がっていってる気がします

    うーんまさに『図書館の魔女』に魔法をかけられたみたい

    • ひまわりめろんさん
      漢字変換する必要がないってことやね

      聞く読書と表意文字って思った以上に相性悪そうっすね
      結局欧米の文化ってことなんかな
      漢字変換する必要がないってことやね

      聞く読書と表意文字って思った以上に相性悪そうっすね
      結局欧米の文化ってことなんかな
      2022/11/06
    • おびのりさん
      聞く読書も良いと思います。が、キクドラぐらいまで、昇華されていると、聴きやすい。
      日本語も横書きとなると、ぐっと読みにくい。
      たぶん、目の動...
      聞く読書も良いと思います。が、キクドラぐらいまで、昇華されていると、聴きやすい。
      日本語も横書きとなると、ぐっと読みにくい。
      たぶん、目の動きが立ての方がスムーズなのかなと。聞く読書は、横書きのイメージがありますね。感覚的ですが。
      2022/11/06
    • ひまわりめろんさん
      そうか!音だから伝えられる情報ってのもあるもんね
      ラジオドラマや朗読劇ってそれなりに根付いてるってことを忘れてたかも
      もしかしたら並列に比べ...
      そうか!音だから伝えられる情報ってのもあるもんね
      ラジオドラマや朗読劇ってそれなりに根付いてるってことを忘れてたかも
      もしかしたら並列に比べるもんじゃないのかもね
      無理に読む読書を基準に据えようとするから違和感に繋がるんだよきっと
      2022/11/06
  • 文庫版3/4巻。
    独特な小説だなぁ、とあらためて感じる。

    読み応えのある展開。結構な頻度で難しい言葉が使われいるので、いちいちググり、へーほーと思いながら読んだ。どうやらニザマについて使われる言葉には中国に由来した言葉が多い。

    一ノ谷をはじめとする周辺国家の思惑が交差する。マツリカ率いる高い塔の面々が活躍する。一見するとマツリカ達の計画は順調に進んでいるように見えるが......

    以下ネタバレ有り。(備忘録)

    今回はキリヒトはあくまで通訳としてのキリヒトだった。ある時、マツリカを狙う刺客が現れ、マツリカの利き手である左手を封じた。キリヒトには守れなかった。一種の催眠術のようなものであり、ハルカゼらはその術を説くべく奔走することになる。ハルカゼ超優秀。こんな姉が欲しい。
    キリヒトの存在は、マツリカにとって全てとも言ってよいほど、以前にも増して掛け替えのないものとなっていた。

    左手を失い、一時は失意に沈むマツリカであったが、周辺三国の状況が放っておかなかった。左手はなくとも右手がある。キリヒトがいる。そのことが彼女を落ち着かせた。
    また、一年前からタイキ(先代)とキリヒトの師(先代キリヒト)が姿を消していたことがわかった。その目的は何か。マツリカの下にキリヒトを、タイキは自らの下に先代キリヒトを呼び寄せた、その理由とは何か。マツリカは何かを理解しているようである。

    文庫版三巻目の見所の一つは、何と言ってもニザマへ出向したマツリカを描いたシーンではないだろうか。
    ニザマ帝を前に臆せずに向き合うマツリカはさすが。そのマツリカさえも辟易させるほどに、ニザマ帝がとてつもなく奥深い人物と感じさせるところが、著者のすぐれた文才を感じる。
    宴会の場での、二人の対話には読んでいるこちらもヒヤヒヤした。言葉の検閲、言論の統制を行うニザマに対し、言葉は自由に開かれるべきと主張するマツリカ。
    私の思考が入り込む余地なんて無かった。何となく、中国やロシア、かつてのナチスドイツを想像してはみた。

    最後にニザマ帝の医者の間で『諱(いみな)』について、魔女は知っているかという会話がなされる。ニザマ帝自らの死を覚悟しての言葉か。最終巻に向けての伏線か。

    今後の展開が予想できない。キリヒト頑張れ。マツリカ頑張れ。 

  • レビューは4巻にて。

  • 一ノ谷と対立し、アルデシュをけしかけて一ノ谷と戦端を開かせようとしている、大国のニザマ。そのニザマ国内も、帝室と宦官宰相のミツクビが対立している。マツリカらは、大胆にも帝室に働きかけて一ノ谷とアルデシュの和睦の斡旋を依頼する。

    マツリカは、敵方の傀儡師の催眠術・暗示にかかってしまい、利き腕の左腕が動かせなくなってしまう。マツリカに寄り添い、失意のマツリカの心の拠り所となったのはキリヒトだった。

    やっと、消息不明だったマツリカの祖父タイキ(先代の図書館の主)の影が見えてきた。すべてはタイキと先代キリヒトが描いたシナリオなのか?

    延々とと交わされる禁書・魔導書に関する議論などに、読みにくいこともあってちょっとうんざり。ストーリー展開が遅いし、サクサク読めないし。この点が不満で星は四つ付かないなあ。

  • 物語が大きく動き出す第3巻。

    崖下の工房や指話などそれまでの伏線が重要な意味を持って物語に関わってくる。
    作者的にも、ようやくここまで来たかという感覚なんじゃないかと思ったり。

    利き手を奪われたマツリカの動揺と焦燥。
    そんなマツリカの助けになろうとするキリヒトの献身。
    まさに、これまで二人が培ってきた絆の深さに熱くさせられる。

    ただ個人的に今巻で一番熱くなったのは、イラムがアキームの顔に手をやり、語る場面。
    こういうのに弱いのよ。

    さて、ニザマ帝室との関係を結んで、策は成ったように見えるけど、当然、宦官たちの反撃が予想される次巻。
    先代タイキのたちの動向も併せて、スカッとする大団円を期待する。

  • 今までの巻もそうだったけれど、私には難しい言葉が沢山出てくるのになんでこんなに読み易いのかと不思議で仕方がない。そういう所も計算されて書かれてるのかな?話は勿論とても面白いけれど、日本語の…と言うより言葉の素晴らしさを改めて考えました。
    内容的には図書館の魔女のマツリカとその手話通訳のキリヒトとの絆が更に深まっていく巻。2人の言葉や態度のやり取りに切なくなったり可笑しくて笑ってしまったり。
    次は最終巻。楽しみな様な寂しい様な。

  • 作者が言語や本に対して思い入れがあるようで、ちょっと説明がくどいな、と思うところがありますが、マツリカとキリヒトの絡みは面白いですね。どんどんマツリカがキリヒトに甘えてるなという印象です。

  • 第三巻
    前作でマツリカの護衛をしていた衛兵達は、
    図書館付きとなり、彼等から出てきた禁書、門外不出、
    魔導書と呼ばれる書物をブッタ切るマツリカがステキ。
    目からウロコで楽しかったぁ~。

    ミツクビの凶手は、やはり来た!予想外の刺客!
    動揺するマツリカと、更に緊張を強めるキリヒト。
    前巻の最後のシーンを思いだして切なくなりました。

    そして乗り込んだニザマ。
    もっと緊迫するかと思いきや、マツリカの減らず口と
    論破するニザマ帝。
    言葉を理解する者同士の受発信が揃って初めて、
    会話になると思い知らされたわぁ

    次巻は、いよいよ刺客:双子座(ミトゥナ)との対決。

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著者プロフィール

2013年『図書館の魔女』(第一巻~第四巻)でデビュー。デビュー作が和製ファンタジーの傑作として話題となり、「図書館の魔女シリーズ」は累計32万部を記録。著書に『図書館の魔女 鳥の伝言』(上下)がある。『まほり』は著者初の民俗学ミステリ。

「2022年 『まほり 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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