図書館の魔女 第四巻 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (656ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062933889

感想・レビュー・書評

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  • 「キリヒトにはマツリカの脳髄の中に、取るに足りない断片を引き寄せて一つの物語に組み立てていく強力な磁力の力の中心とでも言ったものがあるように思える。マツリカの頭の中に吹き寄せられた知識の断片は、その強力な磁場の中で整序され、それぞれ所を得て配列され、有機的に組織づけられてさらに巨大な知恵に織り上げられてゆく。
     それはまさしく図書館の似姿だった。マツリカの中に図書館がある。いやマツリカこそがひとつの図書館なのだ。」


    最終巻は、全4巻の中で最大長編なのだが、大どんでん返しもなく、これまでの展開を粛々と畳んで行くのに過ぎないように、私には感じられた。

    確かに幾つか明らかになったことはあるけれども、なくても物語全体には大きな影響はない。1番描きたかったことは、既に描き切れていたからである。それが、冒頭抜き書きしたキリヒトのマツリカに対する評価である。
    一見すると、ここで描かれているマツリカは現代のAIのようでもある。でもそれは「人間の姿をしたAI」ではない。「AIの能力を持った人間」として描かれる。それは同時に、言語学者としての著者が「現代の図書館を最大限活用したならば、貴方もマツリカになれるよ」というメッセージなのだろう。

    そのためには、人間としてのマツリカを、そしてそれを補佐する「高い塔=一ノ谷の図書館」のスタッフたちの人間性を描かなければならなかった。そのための物語だったのだろうけど、私が編集者ならば枚数を半分にしろと言ったと思う。エンタメとしてのスピード感がなかったからである。綿密に作り上げられた世界観を持った上橋菜穂子のデビュー作「精霊の木」は、編集者により3/4に削られた。

    更には、ファンタジーとしては世界観が未だ不十分。現代図書館の知識を十二分に応用したいという気持ちはわかるが、産業革命が未だ達成されていないのに、冒頭抜き書きにあるように、キリヒトが19世紀に確立した「磁力理論」に精通しているという設定はなんなの?とは思う。一事が万事。方々に出てくる難しい言葉は、「検索」すれば出てくるので、私は驚かない。著者が図書館の中の「(知識を)その強力な磁場の中で整序され、それぞれ所を得て配列され、有機的に組織づけられてさらに巨大な」物語を作ったのはわかるにしても、それをパラレルワールドとして成立させるだけの説得性が、未だこれほどの長編の中に感じられない。全く違う歴史過程で作られた世界ならば、そこまでは言わないけれども、この世界はあまりにも私たちの世界と似過ぎているので、大変気になるのである。

    ‥‥厳しいことを書いてしまったが、
    冒頭抜き書した著者の「メッセージ」には、大いに共感する。
    主人公を、「言葉を発することはできないけれども、豊かな言葉を持ち」「その言葉を武器にして世界と渡り合う」「10代の少女」に設定し、それを補佐する者も、「10代の少年」に設定したのも、大きなメッセージを持っていて共感する。

    あえて言えば、「究極の問い」は、こうだったのかもしれない。

    図書館の中の「言葉」によって
    未来をつくることはできるのか。

    とりあえず、この物語の中では出来た。
    そこは良かったと思う。

  • とりあえずの最終巻。
    文字、言葉、会話、文章、書物。それらの集大成でありたい図書館。集積した知識と情報の可能性。
    この小説も、言語学、土木知識、地政学と知識と情報の一冊。まるで図書館のようなー。ってまさか、ひまわりめろんさんのレビューを読んだ記憶が感想になってしまったミステリ。
    この巻は、動きがあって楽しかった。魔女マツリカの右腕の動きを奪った双子座を追い詰めていく過程の緊迫感とか。マツリカとキリヒトの距離感の変化とか。
    が、しかーし、この4巻だけでも600ページを超える長編。ここまで読んで、そして世界は続く、という感じで終わりを迎えるのは、少し寂しい。ページ数が残り少なくなってきて、キリヒトの師とタイキは、どーなってるの?皆んなで海に飛び込まなくて良いから、もう少し他を書いてくださいよ。と思いながらラストを迎えた。
    といっても、この先の物語を空想することは楽しい。そして、作者さん言語学者さんかな?言葉に詳しく大切にしているし、その力を信じているのでしょうから、読者と自分の文章を信じて、もう少しタイトな作品お待ちします。

    • おびのりさん
      山田風太郎賞は、選考委員も良いよね。
      まだ、あまりないから、いっちゃおうか?
      山田風太郎賞は、選考委員も良いよね。
      まだ、あまりないから、いっちゃおうか?
      2023/11/03
    • ひまわりめろんさん
      山田風太郎賞はほんとに良いよね
      候補作とか見るとめちゃめちゃバラエティに富んでいてカバーしてる範囲が広いのにちゃんと「山田風太郎」を感じさせ...
      山田風太郎賞はほんとに良いよね
      候補作とか見るとめちゃめちゃバラエティに富んでいてカバーしてる範囲が広いのにちゃんと「山田風太郎」を感じさせる賞になってる
      選考委員の選考も含めて角川が偉いと思う
      ちゃんと山田風太郎さんをリスペクトしてるのが感じられる文学賞になってる

      受賞作は元々チェックしてた作品ばっかりなんでのんびりとコンプリーター目指してはいるんだけど、大作が多いんよな〜
      おびーに先越されるのやだな〜w
      2023/11/03
    • おびのりさん
      そうなのよ。各賞誰が何を取っても良いけど、それらしい作品を選んで欲しい。
      後を追います。
      そうなのよ。各賞誰が何を取っても良いけど、それらしい作品を選んで欲しい。
      後を追います。
      2023/11/03
  • あっと言う間に終わってしまった。
    異色のファンタジーと言えると思う。

    よく練られたストーリー。魅力的な登場人物たち。
    複雑になり過ぎることもなく、最後まで集中して読めた。要所では伏線回収の度にハッとさせられる。物語は道半ば、これからも続いていくことが想像できる。

    マツリカ達は言葉で世界を変えた。
    キリヒトとの出会いから、水路の探検、装置の発見、一ノ谷の外交政策に三国会談。

    不意に描かれるマツリカの少女感には、読んでるこちらはどんな顔をしていいのやら。

    双子座兄弟の事情には、成程と唸ってしまった。伏線だらけだったのね。

    衛兵たちがとても人間味があり、彼らの会話や態度はどこかホッとさせられる。

    言葉の力に、信頼や裏切り、人情に忠義。他にも色々と見所満載の物語。おもしろかった。

    読了。

  • やっと読めた。満足感がある。
    すごく壮大で、今まであまり読んだことのない感じの話だった。
    時が経つにつれてどんどん仲良くなるマツリカとキリヒトが微笑ましくて可愛いなあ、と思っていたけど、登場人物たちはみんな個性豊かでいいな。
    衛兵たちもそれぞれ愛すべきキャラクターだった。
    作者が言語学者ということもあって、言葉とか文字とかの話が多いし、とても大切なものとして書かれている。
    それがとても心に残った。
    私自身も学生時代に言語学を学んでいて、こういう話が大好きなのです。
    言葉はただの道具じゃなくて、言葉こそ意思そのもの。マツリカを見ていて強く感じた。

  • 再読でしたが、さすがです。
    その世界観
    いろいろなものが詰まっている。
    すごいなあ

  • 第四巻。とりあえずの完結編。

    三国和睦会議困惑するアルデシュ。
    人をモノとしか見ないミツクビの行動。
    緊迫した場面で間諜の考え方を面白がるマツリカ。
    「見逃した」とか「気付いていれば」という予告が
    入るので、ハラハラしながら読み進めないといけない。
    双子座(ミトゥナ)の館を目指す一行に向けられた刺客。
    人形遣いの本当の意味。そして双子座を指し示す意味
    これは、やられましたぁ~
    全くもって、落ち着く暇もありゃしない。

    本を愛し、言葉の力を信じるすべての人に!っていう
    最初のキャッチコピーを最後まで貫きました(^◇^;)

    あぁ・・・図書館の地縛霊になりたいと思っていたけど
    ますます思いが強まったわぁ~

  • 三つの国を又にかけた大冒険の回でした。意外な人物の裏切りが明らかになります。
    マツリカにかけられた呪いを解く為に敵と対峙する場面では細かい描写で描かれていて、最初から最後までハラハラしました。
    マツリカとキリヒトのやりとりも神秘的でした。

  • うならされるような快作。
    タイトルからして魔法の飛び交う話かと思いがちだがそうではない。
    言葉を自在に操り、読み解き、あらゆる事物を動かす力を持つ少女について、畏怖を込めて「魔女」と呼んでいるだけのこと。
    しかしどれだけの本を読めば少女のうちにこれほどの知識を身の内に秘めることができるだろう。
    私も小さいころは多読派だったけど単に童話ばかり読んでたからなあ……って自分と比べても仕方がないが、非現実的ではある。まあそこはさておき。

    人々の口の端にのぼる噂話やら些細な手がかりから、一国の政情までも動かしてゆく「魔女」の快進撃が面白く、ぐいぐい読める。
    ボーイミーツガール的な青春物としての楽しさもある。
    描写が緻密すぎて文体のリズムを悪くしており、冗長な印象を受けるのが玉に瑕だが、全体としては静と動をうまく使い分けているので読みづらいというほどではない。
    普段何気なく使っている「言葉」の広がりや可能性についてしみじみと考えさせられた。

    おそらくまだまだ続きがあると思うので楽しみ。

  • 久々に長編ものを一気読みしてしまった。
    あー楽しかった、どっぷり浸かった。
    文庫本4巻の大長編。
    ファンタジーというか、軍記物。言葉を操る少女による軍記物。

    なにが起きるかと思ってワクワクしながら読んだけど、結局今回は三国の睨み合いを解いたくらいのことだった。(しかもまだ解決してない)
    世界観の説明なのか、国同士の諍いや言語学やら
    、ひたすら冗長でわかりにくいところが多々。地下通路の下り、あんなに長いの意味あった?

    ……と諸々とりあえず差し置いて、わたしの大好物のお話でした。キャラクターがとにかくよかった。
    キリヒトの先生もタイキ先生も姿を現してくれなかったので、続き待ってます。

  • 土・日を3巻にあててしまったので、600ページのボリュームを通勤時間を交えて読み進めるのは歯がゆく、休みとって読書に充てるかなどと冗談半分にも思った日もありました(笑)。

    読後は終わってしまった余韻にひたりながら、自分も旅を終えた気分です。どこか人の感情を理解することに疎かったはずのマツリカが海に飛び込み、キリヒトとの別れを決意する彼女に成長を感じ、だから読み終わるのがもったいなかった。また彼らの物語に会える日を楽しみにもうしばらく余韻に浸りたいと思います。

著者プロフィール

2013年『図書館の魔女』(第一巻~第四巻)でデビュー。デビュー作が和製ファンタジーの傑作として話題となり、「図書館の魔女シリーズ」は累計32万部を記録。著書に『図書館の魔女 鳥の伝言』(上下)がある。『まほり』は著者初の民俗学ミステリ。

「2022年 『まほり 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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