殺人出産 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 195
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062934770

作品紹介・あらすじ

祝!芥川賞受賞
村田沙耶香 最大の衝撃作はコレだ!
10人産んだら、1人殺せる。「殺意」が命を産み出す衝動となる。

今から100年前、殺人は悪だった。10人産んだら、1人殺せる。命を奪う者が命を造る「殺人出産システム」によって人口を保つ日本。会社員の育子には十代で「産み人」となった姉がいた。蝉の声が響く夏、姉の10人目の出産が迫る。未来に命を繋ぐのは彼女の殺意。昨日の常識は、ある日突然変化する。表題作、他三篇。

感想・レビュー・書評

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  • 芥川賞の「コンビニ人間」が面白かったので、文庫化した「殺人出産」を読んでみた。ずっと気にはなっていた本。だって殺人出産だよ…! 殺人出産。すごい言葉。
    舞台は、産み人になって10人子どもを産むと、1人、誰でも殺すことができる制度がある、未来。産み人は、男の人でもなれる。人工子宮なるものを埋め込んで産む。
    産み人を崇める人、崇めるほどじゃないけど、すごいよねと肯定する人、自然じゃないと批判する人、昔の正しい倫理に戻るべきだと嫌悪する人。立場はそれぞれで、一体「普通」とか「正義」ってなんだろう、と考えさせられた。それから、出産てなんだろう、とも。
    さっさっと読めてしまうんだけど、常に次の一行を読むのが怖かった。わたしを傷つける言葉が待っているような気がした。

  • 10人産んだら1人殺せる社会という設定の表題作は、SF、ディストピア小説と割り切って読んだのでとても面白かった。もしそういうルールのある世界に自分がいたなら、どうするだろうかと考えさせられてしまう。

    瞬間的に人を殺したいと思うことは誰にでもあるだろうし、もちろん私もあります。電車でぶつかられただけでも「死ね」って思うし、夜中にドスドス騒音たてるマンションの上階の住人にもいつも「死ね」って思ってるし、私より無能なのに男で年上だというだけで私より高い給料もらってる上司にも日々「死ね」って思ってるし、社員はボーナスも出ないのに出張と称して会社のお金で海外旅行に毎年でかける社長夫婦のことも「100回くらい死ね。そして地獄に堕ちろ」って思ってる。

    ただ「こんなやつ死んじゃえ」って頭の中だけで思うことと「だから私が手をくだす」と実際に実行に移すことには深くて長い川があってですね、冷静に考えて、そんなどうでもいい相手を殺して刑務所入るくらいなら、引っ越す、転職する、などの選択肢はいくらもあるわけだし。だからそういう殺意って長続きしない。10人産んだら一人殺していいよ、って言われても、かかる時間は最低でも10年、その10年のうちにもうどうでもよくなるかもしれないし、自分が手をくだすまでもなく相手が勝手に死ぬなり不幸になるなりするかもしれないし、何十年もかけて10人も生む大変さ味わってまで殺したい相手は流石にいない。だから一番共感できたのは主人公の年下の同僚チカちゃんでした。

    しかしこのルール、つまり自分も誰かの強烈な恨みをどこかで買っていれば、自分が殺される対象になる可能性もあるわけで、そうなると結構、いつも良い人ぶっちゃうかもなあ。作中で、主人公をねちねち苛める職場の上司が出てきますが、こういう人はそういうことばかりしてるといつか自分が殺されるかもという危機感は持たないのだろうか。

    良いなと思ったのは人工子宮を移植すれば男性も出産を出来るようになっている点。女性だけの特権じゃなく、男性も平等。産みの苦しみも平等なのはいい。ディストピアものの常として、このまま少子高齢化が進めば、ありえない未来じゃないと思えるところが恐ろしい。殺人は別としても生むことだけに特化した層というのは作られてもおかしくない気はする。そしてそう思う自分が正しいかどうかわからないけど、こういう世界もけして悪いばかりじゃないって思ってしまう自分もいたりして、早紀子という女性のふりかざす正義に、なぜか不快感を覚えてしまう。主人公も言っていたけれど、極端な信念は、方向性は違ってもやはり狂気の一種だと感じます。


    ※収録作品
    「殺人出産」「トリプル」「清潔な結婚」「余命」

  • 久しぶりに面白い本に出会えた!
    エグすぎる、の一言につきる。
    淡々とした内容のコンビニ人間とは、天と地の差だ。

    村田さんの描く、こんな未来が
    来ないとも言えないから、なんとも恐ろしい。

  • #読了 2019.9.8

    10人産めば1人殺せる世界「殺人出産」。3人での交際が普通の世界「トリプル」。性行為のない夫婦生活「清潔な結婚」。死ぬことがなくなりセンスのいい死に方を求められる「余命」。全4話197ページ。あっという間に読み切った。

    芥川賞を受賞した「コンビニ人間」しかり、こちらも人の「当たり前」の感覚を問う4話。
    「そういう」世界になったときの大衆心理の描写がすごく好き。百年法(山田宗樹)もそうだけど、みなさんほんとリアルに「こんな考えの人もいてこんな考えの人もいてテレビや雑誌ではこんなこと言ってて…」って綴ってる。おもしろいなぁ。

    村田沙耶香さん自身には、すごく不思議ちゃんなイメージがあるから、こんなに闇深かったり、「当たり前」の感覚に真っ向勝負で疑問をぶつけてくるかんじが想像つかない(笑)
    村田沙耶香さんの他の作品も俄然気になる!&楽しみ!

    自分では偏見なく自分の価値観がそれなりにあると自負していても、村田沙耶香さんの作品を読むと、結局は既存(マジョリティ)の価値観の存在を無意識に認識した上で構築した価値観なんだろうなぁと思う。枕詞に「みんなは普通こう思うだろうけど〜」って付けるような。
    例えば、今現在この世界において「出産」や「殺したいほど憎い」という感覚を自分なりに持っていたとして、では「殺人出産」の世界だったら自分は同じ価値観を持つのか?‪どんな選択をして、どんな行動をするのか?‬

    死生観や性について、今の社会が「当たり前じゃん!常識じゃん!」ってぶつけてくる価値観や、自分が持っている価値観を改めて考えさせる作品。村田沙耶香さんの世界観や文章がすごく好きです。

    ◆内容(BOOK データベースより)
    今から百年前、殺人は悪だった。10人産んだら、1人殺せる。命を奪う者が命を造る「殺人出産システム」で人口を保つ日本。会社員の育子には十代で「産み人」となった姉がいた。蝉の声が響く夏、姉の10人目の出産が迫る。未来に命を繋ぐのは彼女の殺意。昨日の常識は、ある日、突然変化する。表題作他三篇。

  • とにかく変な話
    ありえない話ばかりなのに、どこか現実味がある

  • 「殺人出産」「トリプル」「清潔な結婚」「余命」の4編。
    たぶんすべて文芸誌で読んだことがある。
    ブクログで振り返ってみると、私の村田ファーストコンタクトは「トリプル」だった。
    そこで、うわーこの女性作家はSFチックな設定をSFへの敬意なく持ち込んでしかも女性特有と自ら訴えるセックスだか出産だかの感覚を媚びっぽく書いているなー辟易するわー、と思っていた。
    いわば不幸な出会いをし敬遠していたのだ。
    さらには芥川賞前後で中村文則とか西加奈子とかのサロン的な人脈の一員だということで、さらに嫌悪していた。
    が、「マウス」で見直し「ギンイロノウタ」でがつんとやられ、ながらも例のSFチックなアレはどうもね……と思っていた。
    が、読み直してみると、確かに「トリプル」はいまひとつ。
    だが「殺人出産」の、設定ありきの姿勢にはあまり乗れない。
    しかしラストの「殺人」は、作者のずっと描き続けてきた「性」と「殺意」の混淆のようなものなのだなあ、と感慨深い。
    それ以前に描写(の清冽さ)が凄まじい。
    ひとりの読者にとっての不幸な出会いと、その記憶を、それぞれ塗り替えるほどに。
    今後は、デビュー作「授乳」、評価の高い「しろいろの街の、その骨の体温の」を手に入れよう。

    ところでの作品集の単行本も文庫も、それぞれ装丁が素敵だね。

  • 備忘録


    「コンビニ人間」を読みたかったので、その予習のために読みました。
    現在の価値観とは別の価値観が人々に画一化された近未来を描いた3編です。文体自体にクセがなく淡々としていますが描写が生々しい箇所が多かった印象です。
    非常に特徴的だと思ったのは、一般の価値観から逸脱する喜びではなく順応していくカタルシスをテーマにしている、というところで、普通であることの異常性みたいなものを描くのを命題にしている作家なのかなと思いました。

  • 舞台は「10人出産すれば1人殺す権利を与えられる」世界。
    そこでそれぞれの価値観を持って生きている主人公たち。
    突拍子もない設定なのにファンタジーには感じられない。細かいところまで練りに練られた設定ももちろん、キャラクターも「どこにでもいそうな普通の人たち」だからかもしれない。
    例えば同じ今ですら、国や宗教が違えば全く異なる価値観や「正しさ」がある。私たちのみている世界というのがいかに狭い常識の中で作られたものか考えさせられる作品。
    一緒に収録されてる短編も全て「性」がテーマの「こんなことが起こる世界だったら」という話。今の日本の現実と擦り合わせると明らかに「ファンタジー」なのだけれど、隣の人はもしこういう考えだったら、というふうにすっと思わせられる。
    すらすら読めるけれど読後感はかなり重く、でも苦しくはない。
    ただ殺人を扱ってるだけに好き嫌いははっきりしそう。しっくりこない人には全く面白くないのだろうな。

  • 序盤からとにかく不気味な雰囲気が漂う。
    舞台は、現代から約何百年も経った後の日本。そこには、現代での“常識”は消え去り、新たな価値観や正義が浸透している。
    だが、新しい時代に変わりつつある中でも「こんな世界間違っている」と弾糾する人々はいる。
    皆それぞれに自分の考えが1番正しく、清潔だと考えている。だからこそ自分とは違う他人の考えや行動が汚らわしい・間違った行為。と言う認識になり受け入れられなくなってしまった。
    しかし、本当は誰が正しくて、誰が間違っているのか何て答えはなく、どちらも正しくてどちらも間違っていると言ってもいい…。

    特にこの作品では人の“命”を司る性行為や出産が大きなテーマになっているため、余計に偏見が強くなるのだと感じた。

    こんな未来ありえない。
    なんて言い切れないリアルな感触がした。



    【殺人出産】
    10人産めば1人殺せる「殺人出産システム」
    他人の命を奪うことで、生きていることを実感できる。

    【トリプル】
    2人ではなく3人での交際・婚約が主流の世界。

    【清潔な結婚】
    恋愛と家庭、快楽と生殖を切り離した性行為。

    【余命】
    医療が発達し、“死”が無くなった世界。
    生き方ではなく、死に方を探す人生。

  • 星新一の小説をサイエンス・フィクション(空想科学)というなら、この小説はモラル・フィクション(空想倫理)といった感じだろうか。

    共感できるかは別として、とても興味深い世界観だと思う。

    ”清潔な結婚”の「性的な欲求を満たしてくれる相手が、人生における最愛のパートナーになるとは限らないし、その逆もまたしかり」的なフレーズには、なかなか考えさせられた。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた さやか)
1979年、千葉県印西市生まれ。二松學舍大学附属柏高等学校、玉川大学文学部芸術学科芸術文化コース卒業。
2003年『授乳』で第46回群像新人文学賞優秀賞を受賞しデビュー作となる。2009年『ギンイロノウタ』で第22回三島由紀夫賞候補及び、第31回野間文芸新人賞受賞。2010年『星が吸う水』で第23回三島由紀夫賞候補。2012年『タダイマトビラ』で第25回三島由紀夫賞候補。2013年、しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞。2014年『殺人出産』で第14回センス・オブ・ジェンダー賞少子化対策特別賞受賞。2016年『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞受賞。
2018年8月末、『地球星人』を刊行。

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