殺人出産 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062934770

作品紹介・あらすじ

人は人生で4度、殺意を覚える--。芥川賞受賞作家、村田沙耶香の最大の衝撃作はコレだ!--今から100年前、殺人は悪だった。10人産んだら、1人殺せる。命を奪う者が命を造る「殺人出産システム」によって人口を保つ日本。会社員の育子には十代で「産み人」となった姉がいた。蝉の声が響く夏、姉の10人目の出産が迫る。未来に命を繋ぐのは彼女の殺意。昨日の常識は、ある日突然変化する。表題作、他三篇。


祝!芥川賞受賞
村田沙耶香 最大の衝撃作はコレだ!
10人産んだら、1人殺せる。「殺意」が命を産み出す衝動となる。

今から100年前、殺人は悪だった。10人産んだら、1人殺せる。命を奪う者が命を造る「殺人出産システム」によって人口を保つ日本。会社員の育子には十代で「産み人」となった姉がいた。蝉の声が響く夏、姉の10人目の出産が迫る。未来に命を繋ぐのは彼女の殺意。昨日の常識は、ある日突然変化する。表題作、他三篇。

感想・レビュー・書評

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  • 文庫本に解説が入っていなかったので、ちょっと、解説を書かせていただくような気持ちで書いてもいいですか?

    本作品は、表題作「殺人出産」を含む4つの作品を収録した短編集。割合としては、表題作「殺人出産」が全体の3分の2を占めていて、他の作品は徐々に少なくなってゆく。最後の「余命」は約4ページほどだ。

    「殺人出産」の世界は、今から100年後。
    医療技術の発展と価値観の変容により、出産は人工受精が主流となり、セックスは単なる愛情表現と快楽のためになされるようになった。この世界では、女性は基本的に手術をして避妊を行い、男性も妊娠が可能になった。偶発的な妊娠がなくなるため、人口は減少し、社会が維持できなくなったことから、「殺人出産システム」が採用されることになった。それは10人産んだら一人殺してもいい、という殺意を原動力とした人口維持システムである。
    P15「恋愛とセックスの先に妊娠がなくなった世界で、私たちには何か強烈な『命へのきっかけ』が必要で、『殺意』こそがその衝動になりうるのだ」。

    次に、以前読了した「消滅世界」を例に挙げたい。今の時点で挙げるのは順番としておかしいかもしれないけれど、この流れの中で伝えたい。この世界は、セックスではなく人工授精で子どもを産むことが主流となり、女性は避妊処置を行い、男性も妊娠が可能な世界。夫婦でのセックスは近親相姦としてタブー視され、夫婦とのセックスで産まれた子どもは特殊で、人工授精で産まれた子どもこそが普通であるという世界だ。好きな人と結婚して、セックスをして子どもを産むこと。それを「正しい世界」として母親にたたきこまれた主人公。だんだんと、その「正しい世界」に疑問を抱くようになり、夫婦間でのセックスを忌避するようになる。また、この世界では夫婦=家族であるので、セックスは夫婦間ではなく恋人とすることとされていて、婚姻関係を継続させながら他の人と恋愛、セックスをするのが普通だ。お互いの恋愛の話をする夫婦もいる。

    そして今回の作品に収録されている「清潔な結婚」。それはつまり、「『性』を可能な限り排除した結婚」のことだ。夫婦間で、セックスを行わない結婚。
    P167「性とは僕にとって、一人で自分の部屋で耽る行為か、外で処理する行為なんです。仕事でつかれて、ただいま、と帰ってくる家にセックスがある。そのことに生理的嫌悪感があるんです」「のんびりくつろいでいたのにいきなり相手の手つきが性的になったりすることが、辛いんです。性欲のスイッチは自分で入れたり切ったりしたいし、家ではオフにしていたいんです」。

    「余命」では、医療技術の発展により「死」がなくなった世界を描いている。
    「トリプル」では、「二人で付き合う」ことに疑問を持ち、「三人で付き合う」ことが認められている世界を描いている。しかし主人公の親は「正しい人」であって、その正しさとぶつかる。

    ここまで書いてきて、改めて「消滅世界」と重なり合う部分が多い作品だと思った。「殺人出産」の初出は2014年7月。「消滅世界」の初出は2015年12月。「殺人出産」の方が早いのだ。
    本作に収録されている世界の共通点、それをベースに「消滅世界」という長編を作り上げたのかもしれない。
    性に対する疑問、夫婦=家族、夫婦がセックスをした結果の妊娠であることへの拒絶感、家族を性の対象としてみることへの違和感、性別がなくなることを切に祈るような医療技術発展に対する願望。そして、過去の常識を「正しい」と押し付けてくる人たちとの、正義とのぶつかり合い。彼女の作品では、正しさを押し付けてくる人は家族など、近くにいる人であることが多い。「コンビニ人間」でもそうであったように。

    今わたしたちが生きる社会の中での「正しさ」や「常識」はもちろんあって、それは人それぞれに異なるのだけれど、ある程度共通した「正しさ」や「常識」というのは、ある。例えば、人を殺してはいけませんよ、であるとか、不倫をしてはいけませんよ、であるとか、そういった類のものだ。
    わたしたちは、それを生きていく中で学んで身につけて、常々それを意識しなくてもいいくらいの気持ちで、生きていくようになる。だって、常に「人を殺してはいけない」とつぶやきながら生きてない。たとえそういう気持ちを持っていたとしても、それは外には出ていなくて、心の奥深くに眠らせているのだ。
    彼女の作品は、人の心の底に眠らせている、社会を機能させるために封じ込めている感情、つまり倫理的によしとされない感情をぐいぐいと引っ張りあげて、そのような感情を持っていることが当たり前であるという世界に連れ出してくれる。他の作家さんの作品にももちろん同様に、普段封じ込めている感情をぐいぐい引っ張りあげてくれるものはあるけれど、彼女の作品のすごいところは、倫理観や性といった、タブーとされがちなところにフォーカスし、しかも現実世界に作品の世界を落とし込むのではなく、倫理観やタブーと向き合うために、世界をゼロから構築し、今ある現実世界の方を「異常」にしてしまうことだ。そして作り上げたその世界から、絶対に目をそらさない。描き始めたその世界を諦めない。

    相変わらずクレイジーだし、共感はしにくいんだけど、彼女の作品は共感とかそういうところとは別のところに位置している。この作品でいうところの100年後の世界を、想像し、軽蔑しないことができるかどうか。自分が正しいと信じ切っている世界がいつか、正しくなくなることを受け入れられるかどうか。
    身近にいる、過去の常識にしがみついて、その視点でしか社会を見ることができない人たち。つまり、正しさを押し付けてくる人たち。
    コロナウイルスが蔓延している社会で絶対にテレワークを導入しない会社、女性がお茶汲みをするのが当然だと思っている男性、結婚するのが当然だと思って結婚をけしかけてくる人たち、家事や子育てを一切しない男性。
    彼女が描く世界は極端だけれど、「常識が異なる世界」と考えれば、今わたしたちが生きている世界でも、こんなに自分の常識を信じて疑わない人たちがいる。
    今自分が生きている時代の常識は今の時代の常識であって、時代が変われば常識だって異なる。その変化についてゆけなければ、過去の自分が心地よかった時代の常識を持ち続けて、他人に押し付けようとする。それが醜いのだ。時代は変わる。それに伴い変わるべきは、人だ。人が、価値観と常識、つまり時代を作っているのだから。未来に対して想像力をもって、来る未来を尊重すること。それができるのは、人だけだ。

    余談になりますが、例えば、恋愛の先に結婚があるという今の価値観こそ、今の常識ではあるけれど、それは未来の常識と異なる可能性は十分にある。
    最近、芸能界では不倫をすれば猛烈にバッシングされる。一人収まればまた別の誰かが標的にされる。その繰り返し。このバッシングの背景にあるものは、何か。結婚したらその人としかセックスをしてはいけない、というしがらみに実はみんな苦しめられていて、でも本当はどこかで、家族は家族、恋愛は恋愛って分けたいと思ってるとか。でもそれは倫理に反しているからしていないのに、パートナーは恋愛を楽しんでいる。それが悔しくて、その怒りをぶつけるために、自分とは全く関係のない人たちをたたいてるんじゃないかな…なーんて。

    本作品をお読みになる際は、ぜひ「消滅世界」とセットでお読みださい。

    • todo23さん
      お返事ありがとうございました。
      そうですか、思い当たるフシは無いと。
      昔アップした作品について「xxさんがあなたのレビューにいいね!しま...
      お返事ありがとうございました。
      そうですか、思い当たるフシは無いと。
      昔アップした作品について「xxさんがあなたのレビューにいいね!しました。というメールがブクログから届くと、同じ作品について別の方からの「いいね」のメールが2-3件続いて届くのです。
      なにかブクログ側の仕掛けの問題なのでしょうね。
      つまらぬことで御手間を取らせ申し訳ありませんでした。ありがとうございました。
      2020/07/13
    • todo23さん
      そうなんでしょうね。
      特にnaonaonao16gさんも読魔虫もフォロワーが多いので起きやすいのでしょうね。
      ありがとうございました。
      ...
      そうなんでしょうね。
      特にnaonaonao16gさんも読魔虫もフォロワーが多いので起きやすいのでしょうね。
      ありがとうございました。

      >todo23さんのレビューに誰かがいいねをする→その誰かからその人のフォロワーに拡散される→さらにいいねをされる→さらに拡散される
      こういったことが起きてるのだと思いますよ^^
      2020/07/14
    • しずくさん
      イイネ! ボタンの疑問をtodoさん同様に感じていました。推察通りでしたねぇ~

      「殺人出産」のレビューにme too。
      イイネ! ボタンの疑問をtodoさん同様に感じていました。推察通りでしたねぇ~

      「殺人出産」のレビューにme too。
      2020/07/15
  • 生殖と繁殖、そして殺人。
    偶発的な出産が減少して(愛があってもなくても、合意でも事故でも)、少子化が進んだ社会。10人産んだら1人殺せる制度「殺人出産」が確立されている。反道徳的なこのシステムは、この社会においてあまりに合理的。殺人を犯す予定の人が「産み人」。殺される予定の人は「死に人」。命をかけての殺意。そして、その行為が、人の繁殖を支えている。当然、産まれた子供は大切に育てられる。
    村田さんの作品は、彼女の作り上げた虚構外の部分は、いたって現実的な描写で、常識と否の境界線を曖昧にさせる。そして、どの作品も数ページで彼女の世界観に引き込む。
    主人公は、「産み人」となった姉を支えながらも矛盾は感じ、姉の「死に人」の胎児の為にか「産み人」となる決心をする。贖罪としての選択ではなく、この「殺人出産」の正常な世界の為に。

    「清潔な結婚」
    性別のくくりに囚われない仲の良い兄弟のような穏やかな日常、それが結婚に対する希望の夫婦。その家庭に持ち込まれない性行為の現実。
    何を持って清潔とや。

    「余命」医療の発達し、”死”がなくなり、自分で死期を選択するという社会。ショートで、軽妙な語り口からシュールな世界。現実でも、自然死はなかなか難しい。死がなくなることと、生き続けることは、矛盾をはらむのかもしれない。

  • お盆中 風邪で寝込み中に読了

    死と生を繋げ、我々の普通に疑問を投げかける
    発想がぶっ飛んで怖い
    まさにクレイジー沙耶香

    性の営みを、生きるためとするか快楽とするか
    現代は両方だが100年後は?

    10人生んだら1人殺せる 
    私ならその時間を自分の未来に費やします
    恨むのはしんどいし生産性がないから
    意思が弱いのでしょうか?

    蟬を当たり前のように食べる姿が印象
    昆虫食はもうすぐ受け入れられそうな予感

    衝撃度は地球星人が上


  • 村田沙耶香、恐るべし!コンビニ人間のインパクトをそのままに、凄い設定。「10人産むと1人殺せる」という今から100年後の日本を想像し、創造した。100年前(つまり今)殺人は悪とされていたが、合法的に殺人ができる「殺人出産制度」が海外から輸入された。100年後は人工授精での妊娠が一般的。通常の男女の営みによる妊娠は起こらず、人口減少が加速した。人口減少が止まらない現代、こういう方法で人類滅亡を阻止するのか!とちょっとリアルな感じもした。死が生の原動力となる世界は凄い。誰かに殺される1人にはなりたくない。⑤

    不倫した相手が「産み人」になって、自分の子どもを殺しに来るのはリアルだね~ 10年越しの殺人、こわっ!!

  • 表題作を含む"生命"と"性"がテーマとなる4つの短編集。

    読了のコンビニ人間の時にも感じたが、著者が描く物語の視点や発想は、自身の持つ価値観や常識を平気でひっくり返してくる。

    殺人出産システム、トリプル交際、性別なき結婚、余命の閉じ方を自分で決めないと死ねない世界。

    いつの日か、あり得る時代がくるのではないかと、年甲斐もなく妄想させられた。

  • 久しぶりのレビュー。

    ちょっと時間が取れなくなってしまい、こまめにレビューできなかったのですが、本は読んでます(笑)。

    僕の愛する村田沙耶香の『殺人出産』を読了した。

    もう、

      常識ってなんだっけ??

    この一言に尽きる。

    村田沙耶香が
      殺人
    についてここまで入れ込んで書いたのを読んだのは初めてだし、いままでもこのテーマについては深く書いていなかったのではないだろうか。

    もちろん、
      殺人
    が肯定される世界はどんな人間社会でも無いが、もしそれがあったならばという気持ちにさせられた物語であった。

    この短編集すべての物語がそれぞれタブーを取り扱った物語であるが、いままで村田沙耶香作品を読んできて、もっとも自分にとって
      問い詰められた
    物語であったと思う。

    『殺人出産』も『トリプル』も自分がいままでに想像もしたことのないような世界が繰り広げられるのだが、この自分がいままで体験してきた世界観が抱懐する様は、いままで一番だ。

    村田沙耶香作品の中でもっとも問題作であるといってもいいと思う一冊である。

    改めて村田沙耶香・・・恐るべし・・・

  • 100年後の近未来のお話、子供を10人産んだら人を一人殺せる。
    斬新な設定ですが、面白かったです。
    出産という概念や殺人を犯してしまった時の刑罰、男性の出産など、110ページのお話なのに結構読み応えがあった。
    殺したい人、またその理由は人それぞれ…

    この本は他に三つの短篇があるのですが、そちらも結構おもしろかったのです。
    カップルよりトリプルで男女交際するのが流行っている『トリプル』
    医療が発達し、死が無くなった100年後の世界『余命』
    私はこの二つが良かったですね、こんなに薄い短篇集でここまで楽しめるなんて♪
    『余命』はたった5ページのお話しですが、また読みたいです。

  • あなたは殺したいほど憎い人はいますか?
    この世界は殺人が許容された世界。
    表題作の殺人出産では10人産んだら1人殺してもよい。この世界観はなんだと思いながら読み切れた本。
    ありふれた風景では想像できない思いもしない出来事を堪能してほしい。
    殺人出産以外も少しずれた日常。すごい特殊な世界じゃないのに少し発想が変わるだけでこうも変わるかと思える作品ばかり。もしこうなったらと少しずれた世界観で展開されるどれも面白く読める作品。

  • グロ描写に注意!
    生と死や、移り変わる正義と悪、常識。
    今現在の倫理観、未来では非常識になるのかもしれない。

    読んでる間、ずっとゾワゾワする短編集。
    再読しろと言われたら、怖くて手が出ないかも(笑)
    先が気になって読み進めちゃうけど、ホラーとかの意味ではなく怖い!!
    ハマる人にはハマるんだろうな。。

  • 短編4部作ですが、表題となっている殺人出産が3/2位あり、他の3作品が少し短く感じます。
    作中では生と死、恋愛や家族・性的指向の在り方などが今の常識とは違う一方で、有り得なくはない世界観が展開されています。

    表題作の殺人出産は人口減少を食い止めるため、10人産んだら1人殺めることができるというシステムが構築された世界で生きている主人公と、その周囲の人達とのやり取りが絶妙に興味深いです。
    今の常識としては殺人はしてはならない罪であり、出産とは切り離されています。また、人口減少が進んでいます。作中のシステムは合理的といえば合理的なのですが、そこまで強い殺意といった感情を抱き続けられるのかな…と考えてしまいました。

    個人的に気に入ったのは3作目の清潔な結婚です。こちらは性的指向の多様化を題材にしていますが、消滅世界と似ている流れであり、事前にそちらの作品を読んでいた場合は内容が理解しやすいと思います。実際に夫婦間で性指向が相手に向かない場合もあり、今の状況に近いのかなと。
    ただ、人工授精以外の先進医療の方法の描写を読んでいる時に笑ってしまいました。高尚な体験と表現されていますが、このやり方は主人公たちにとって理解しにくいものではないか…と感じました。

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著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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