- 本 ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062935449
作品紹介・あらすじ
登天郵便局は、亡くなった人が成仏する前に寄る郵便局。来た人は貯金窓口のオンライン端末で生前の善行を「功徳通帳」に記入し、地獄極楽門をくぐって次の世へと渡る――はずが、門の手前で突然消える人が続出。成仏できない人たちは、どうやら生前、罪を洗い流す温泉に入っているらしい。占い師によると、その温泉郷を探し当てるにはふたご座B型の女性が必要だという。それはまさに、探し物が得意なアズサのことだった。
登天郵便局は、亡くなった人が成仏する前に寄る郵便局。来た人は貯金窓口のオンライン端末で生前の善行を「功徳通帳」に記入し、地獄極楽門をくぐって次の世へと渡っていく――はずが、門の手前で突然消える人が続出。成仏できない人たちは、どうやら生前、罪を洗い流す温泉に入っているらしい。
有名な占い師によると、その温泉郷を探し当てるにはふたご座B型の女性が必要だという。それはまさに、探し物が得意なアズサのことだった。
感想・レビュー・書評
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あなたは、『罪を洗い流してくれる温泉があったら、入りたいと思いますか?』
環境省による令和3年度の温泉利用状況調査によると、我が国には2,894の温泉地があるのだそうです。単純に都道府県の数で割ると一県あたり61もの温泉地があることになります。これは物凄い数だと思います。北海道の228箇所から沖縄県の13箇所まで全ての都道府県に存在する温泉地。
あなたもわたしも日本人である限り『温泉』に行ったことのない方はいないはずです。そして、わたしたちは『温泉』に行くに際してその『効能』を気にします。古の世から病を治す目的で利用されても来た『温泉』。その歴史を考えても私たちが何かの『効能』を期待するのは当たり前とも言えます。では、そんな『効能』が『罪を洗い流す』ことだとしたらあなたはどう思うでしょうか?すぐにでも行ってみたいと電車に飛び乗るでしょうか?(笑)
さてここに、『罪を洗い流す』ということが『効能』とされる『温泉』を探す一人の女性が主人公となる物語があります。『罪を洗い流す』ことの意味を問うこの作品。それでいてあくまでコミカルに描かれるこの作品。そしてそれは、堀川アサコさんの代表作シリーズ第5作目となる物語です。
『こんにちは。ごぶさたしてます』と『狗山(いぬやま)のてっぺんにある登天(とうてん)郵便局』へと帰ってきたのは主人公の安倍アズサ。『ああら、いやだ。コザルが、また来たわ』と『貯金窓口に居たパンチパーマのおじさん』である青木は『おみやげ。さっさと出しなさい』と『てのひらをこっちに差し出し』ます。『そんなもの、持って来てませんよ。あたしはただ、元気でやっているのを見せたくて』と返すアズサに『おみやげもなしで帰ってくるなんて、人の道にはずれてるわよ、あんた!』と言う青木。『亡くなった人は、登天郵便局の裏庭から、次の世へと旅立つ』という『登天郵便局』。『亡くなった人と本当に…本当の本当に心を通わせたい人だったら、生きている人でも登天郵便局に来ることができ』ます。そんなところに『おやおや、いらっしゃい』と『いつもにこにこしてい』る『高齢のおじいさん』という登天がやって来ました。『相変わらず郵便配達』をしているという登天は、『亡くなった人たち』からの郵便を扱っています。そこに『アズサちゃん』『今年も来てくれたんだね』と赤井局長、そして『のしッ、のしッ…』と『筋骨隆々とした鬼塚』もやって来ました。『以上が、登天郵便局で働く人たち』という『四人はただの人間』ではありません。『人間の姿をしているけど…』という不思議な存在の四人。
場面は変わり、裏庭で『職員一同、BBQ』が始まりました。そんな四人から現在の勤め先を聞かれたアズサは『外国のお菓子の輸入を手掛け』る『お菓子の専門商社・ニッポン甘味』で働いていることを説明します。そんなところに『見知らぬおじいさん』が加わり、『野菜ばっかり』頬張ります。そして、『最後においしいものをいただきました。そろそろ参りませんと』と歩き出したおじいさんを『こっちよ』と案内する青木は『おじいさんの通帳を』『オンライン端末機に』セットします。『人が生きているうちにした善行と悪行を、水ももらさずあばきだす』『功徳通帳』。『音がやんで』通帳を見た青木が絶句して、おじいさんを見ると『姿は消えてい』ました。『まただわー』と高い声を上げる青木は『善行と悪行がくまなく記されているはずの通帳に、善行だけしか印字されていな』かったことをアズサに説明します。『成仏違反なのです』と『深い息とともに』言う登天。『成仏、違反?死んでも、死んでいない?天国にも地獄にも行かなくて、怨霊みたいにこの世にもとどまらず、なんだかわけわかんなくなっちゃったってことですか?』と訊くアズサに、『この人たちの功徳通帳には、共通して温泉のことが書かれてある』と言う青木の言葉に『罪を洗い流す温泉があるらしい。その温泉につかれば、犯した罪が全て帳消しになる』と言葉を継ぐ鬼塚。それに、『このまま消える死者が増え続けたら、登天郵便局とりつぶしの可能性もある』と赤井局長が補足します。そんな赤井は温泉を探すためベガ・吉村という『有名な占い師に占ってもらった』ところ『ふたご座B型の女性をスタッフに迎え』ると良いと『お告げ』で言われたと話します。『ふたご座B型っていったら、あたしじゃないですか』、『まさか、あたしが探すんですか?その罪を洗い流す温泉というのを…』と口にしたアズサ。それに『アズサちゃん、探し物が得意だって、履歴書に書いてたもんね』と言う赤井局長。『…今のあたしは、お菓子の商社に勤めるOLで…』と返すアズサに『登天郵便局がとりつぶされたら、もうお別れなのです』とぽつりと言う登天。『うう…』、『ふたご座B型の女として、登天郵便局の臨時職員の地位に舞い戻ることとなってしまった。 職場からもらった休暇は、三日半』とうなだれるアズサ。そんなアズサが『罪を洗い流す温泉』探しに奔走する姿がコミカルに描かれていきます。
“登天郵便局は、亡くなった人が成仏する前に寄る郵便局。来た人は貯金窓口のオンライン端末で生前の善行を「功徳通帳」に記入し、地獄極楽門をくぐって次の世へと渡っていく ー はずが、門の手前で突然消える人が続出。成仏できない人たちは、どうやら生前、罪を洗い流す温泉に入っているらしい”という内容紹介にミステリな雰囲気漂うこの作品。堀川アサコさんの代表作であり、このレビュー執筆時点で、なんと11巻までシリーズ化されている人気シリーズになっています。私は女性作家さんの小説に限定した読書を続けてまもなく丸5年を迎えます。現在女性作家さん100人の作品を最低三冊ずつ読むという短期目標を掲げる中に、この度堀川さんの作品に出会いました。多作でいらっしゃる堀川さんの作品から三冊を選ぶ中に”幻想シリーズ”は欠かせなかったわけですが、一方でシリーズ11作すべてを読み終えるのはどう考えても十年以上先となるためどう選書すべきかに頭を悩ませました。普通であれば第1作目の次は第2作目という選択肢しかありえません。そんな中に、以下の情報を入手しました。
・第2作目「幻想映画館」、第3作目「幻想日記店」、第4作目「幻想探偵社」では主人公と場所が第1作目から変わっている。
・第5作目「幻想温泉郷」では主人公と舞台が第1作目の郵便局に戻る。
・以上により、第1作目から第5作目に飛んで先に読むのはあり。
なるほど。良い情報を得ました。そもそも通常の順番で読んでも第5作目に行き着けるのは数年後であり、その時に第1作目のストーリーをどこまで記憶できているかというと怪しいものがあります。これはもうこの情報を信じて第5作目に飛ぶしかありません。ということで、この「幻想温泉郷」を読むに至りましたがこれが大正解でした。第1作目とあまりに自然に繋がっていく物語は、まさかこれが三冊飛ばした先に来るシリーズ作品とはとても思えない仕上がりです。ただもちろん、飛ばした作品がなかったことにされているわけではありません。私は第2作目から第4作目を読んでいませんのでハズレていたらごめんなさいですが、こんな記述が存在します。
『亡くなった人を次の世に送り出す場所は、登天郵便局だけではありません。映画館や汽船の停泊する桟橋など、いろんな形でこの世界に散らばっているのです』。
『映画館や汽船の停泊する桟橋』という表現が登場しました。”幻想シリーズ”の奥行きを感じさせる表現です。さらには、
『境界線エリア協会集会を開くのじゃ』、『この世とあの世をつなぐ、郵便局や映画館や汽船会社の責任者が集まってだね…』
と『境界線エリア協会』なるものの存在まで登場し、このシリーズがその協会に加盟?しているさまざまな施設の集まりであることまで匂わされていきます。一方で個別具体的には、
『亡くなった人を送り出すレイトショーで、中座するお客が居るのですよ』。
こちらはもろに「幻想映画館」の話に繋がっていくものだと思われます。『ゲルマ電氣館は、古い名画座だ』とも触れられていくように、恐らくは他のシリーズを知っていればさらに楽しめること請け合いの内容がこの第5作目に多々登場します。なのでこのようにまとめておきたいと思います。
・堀川さんの大ファンになられてシリーズを一気に読み切りたいという方
→ 素直に第1作目、第2作目、第3作目…と一気に読みましょう
・堀川さんの作品が気に入ったけれども他の作家さんの作品も読みたいという方
→ 第1作目の次に第5作目を続けて読んでひと区切りとしましょう
このような感じでしょうか?ご参考にいただければと思います。
さて、そんなこのシリーズは『この世とあの世の中間にある』場所が舞台となり、この作品では『狗山のてっぺんにある登天郵便局』が舞台となります。第1作目では『登天郵便局』でアルバイトをしていた安倍アズサが主人公となりましたが、この作品の前提は一旦『郵便局』を去り『お菓子の商社に勤めるOL』となったアズサが再び主人公を務めます。そんな物語には、第1作目でいい味を出してくれていた四人の人物?が再びアズサの物語を演出してくれます。
・赤井: 『郵便局長』、『ナマハゲみたいに目鼻立ちが極端に濃い、大柄で赤ら顔の男』、『郵便局の仕事をほったらかして、この美しい庭の世話をしている』
・青木: 『貯金窓口に居たパンチパーマのおじさん』、『女の人みたいな言葉を使うけど、れっきとしたおじさんで、しかも嫌味で意地悪でいけずで、貧相でひょろひょろな人』
・登天: 『郵便配達』、『この山一帯の地主で、何歳なのかわからないくらい高齢のおじいさん』、『いつもにこにこしていて、局舎の前で魔法の鼎を使って焚火をしている』
・鬼塚: 『アメリカンコミックのスーパーヒーローみたい』、『筋肉隆々』
この記述だけで四人の位置付けが見えてくると思います。『この世とあの世の中間』といった記述を読むと一見、涙、涙…の物語が綴られていくことが予想もされますがこの作品はそんな方向性からは真逆、あくまでコミカルに描かれていきます。物語では、『郵便局』に帰ってきたアズサが第1作目の設定である『探し物が得意』という特技を活かす先の物語が描かれます。そんなアズサがこの作品で探すものがまさかの『温泉』です。
『罪を洗い流す温泉ってのがあるんだって』
そんな一見意味不明な言葉の先に語られるのが『成仏違反』です。人は誰でも『善行と悪行』があり、『功徳通帳』にはその両方が『くまなく記されているはずなのに』『温泉の効能』によって『悪行』が消され、『善行』だけになってしまう。この結果、『功徳通帳に悪行が印字されない、地獄極楽門を通る前に消えてしまう』という状態が生じ『死んでも死んでいない』という結果になってしまうということが問題視されます。これが『成仏違反』です。
『怨霊でも地縛霊でも浮遊霊でもないのに成仏しないのは、成仏違反になる』
↓
『懲罰として、七回ミミズに生まれ変わって、土を肥やし、雨上がりのアスファルトの上で干からびて死ぬことを繰り返さなければならない…』
なんともかっ飛んだ設定ですが、このシリーズを読む限りにおいては、下手に抵抗せず素直に設定を受け入れるのが吉です(笑)。物語では、赤井局長の依頼を受け、この『温泉』がどこにあるのか、その正体を突き止めるというミッションを担ったアズサの姿が描かれていきます。そんな中では『温泉地』巡りのような面白さも見えてきます。一方で、ここまで書いてお分かりの通り、この作品はどっぷりファンタジー世界が描かれていきます。しかし、世の数多のファンタジー作品の中に『温泉』という日本人の癒しの象徴のような場所が登場する作品は聞いたことがありません。しかし、物語は極めて大真面目に展開していきます。
『罪を洗い流す温泉があるらしい。その温泉につかれば、犯した罪が全て帳消しになるのだ』
↓
『このまま消える死者が増え続けたら、登天郵便局とりつぶしの可能性もある』
これは『登天郵便局』の一大事です。そして、そんな展開に第1作目で主人公を務めたが故の因果によって巻き込まれていくアズサの物語。そこには、コミカルに描かれていく『幻想』世界の摩訶不思議世界が第1作目の雰囲気感そのままに描かれていました。
『登天郵便局は、生きている人の多くにとっては秘密の場所だけど、ここが本当に必要な人ならばたどり着ける。逆にいうと、興味本位には、決して来られない場所なのだ』。
“幻想シリーズ”第5作目となるこの作品。そこには、第1作目の雰囲気感そのままに展開するコミカルな物語の姿がありました。『罪を洗い流す温泉』という極めて日本的発想の勝利を感じるこの作品。目の前に姿が浮かび上がるようなリアルな登場人物のキャラクター設定に感心させられるこの作品。
『郵便局』以外の舞台も是非見てみたい、そんな思いの募る作品でした。 -
このシリーズらしく死生観について色々書かれてたけれど、罪とは何か、正しいとは何か、とさらに考えさせられました。ちょっと胸がギュッと痛くなるような話も…おじいさんのお孫さんの話は切なかったなぁ。
幻想探偵社に出てきた湖々菜ちゃんも苗字が須藤だったけど、温泉に来てた須藤夫婦と関係あるのでしょうか。
シリーズ読み進めたいと思います。 -
またこのメンバーでのお話だったので、楽しく読めた。
このシリーズは軽いんだけど、人生の重い部分もさらっと入れ込んでくる。なので、ちょっと切なくなったりするんだなー
青木さんがOLライフをかなり楽しんでいたみたいで、私がアズサだったら、元の生活に戻るのが少し怖いような気がする。でも少し楽しみかな。 -
学生(らいすた)ミニコメント
『幻想郵便局』の続編小説。波乱万丈な一つながりのストーリーでホラー要素も前回よりも強くなっていて楽しく読める一冊。
桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
https://indus.andrew.ac.jp/opac/volume/1323326 -
幻想シリーズは数えきれぬほどありますが、始まりの『幻想郵便局』直接の続編はこちら
なんかもう全てが懐かしいな・・・・・・ -
幻想郵便局の続編。前作を読んでから随分と時間が経った気もしますが、ひさしぶりの郵便局の面々に会えて良かったです。主人公のアズサは東京でお菓子会社のOLをしてるんですね。
今回の舞台は罪を洗い流せる温泉。その前に神様に脅されたとは言え銀行強盗をしてみたりと以外とハチャメチャ。温泉も一筋縄では辿り着けない。新キャラの占い師のベガさん。実は...
罪にも大小はあるけれどひとには言えずにあの世まで持って帰りたい罪もあるはず。悪いことをしたから次は良いことをしようとも思うはず。
あの世とこの世を繋ぐゆるい世界観がほのぼのしていて好きな作品。最後、幽霊からの贈り物をもらったアズサ。その後の続編もあると嬉しいな。 -
「幻想郵便局」の続編。タイトルから、のほほんとした感じかなと思ったけど、全然違くて、狗山比売の所為かなとか……。「幻想郵便局」を読んでからしばらく時間が空いていたので、思い出すのにちょと時間がかかった。
罪を洗い流すというなんとも胡散臭いところから話は始まるわけなのだけど、<罪>ってなんだろう、<ゆるし>ってなんだろうって思った。仕事柄、悪いことをしたら「ごめんなさい」と言いましょうと言う機会は多いのだけど、じゃあ謝ったらオールオッケーなのかってなる。逆に、<罪>を犯した人はその<罪>をずっと背負って、負い目を感じながら、後ろ指を指されながら、ひっそりと生きなければならないのかなともなる。
「幻想電氣館」のあの2人や支配人が出てきてちょっとにやけた。特にあの2人は傍から見るとああなるのね~。 -
幻想シリーズです。
この世とあの世の境にある幻想郵便局で臨時手伝いをすることになったアズサ。
「罪を洗い流す温泉」の謎を解きに奔走します。
おなじみの登天さん、赤井局長、鬼塚さん、青木さんといった個性豊かな面々に、狗山比売、奇妙な占い師ベガ・吉村、好青年の新聞記者、生田さんが加わり…ドタバタと。
罪のない人も居ないだろうし、罪を洗い流すことができたとして、それが必ずしもいいことではないのかも。
おもしろかったです。 -
幻想郵便局の続編。他の幻想シリーズとも登場人物が絡んでいて、チラッと出てくるのが楽しい。
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幻想シリーズ第五作。
第一作の「幻想郵便局」の続編という位置付け。
あの世へ旅立つ入り口の『登天郵便局』で、死者が成仏せずに消える事件が多発。鍵を握るのは『罪を洗い流す』という噂がある謎の温泉。
再び戻ってきたアズサが温泉の在りかを探すことに。
懐かしい『登天郵便局』の面々、狗山比売との再会が嬉しい。
第一作より残酷さが薄れていたので良かった。しかしアズサの初めて受けた告白の相手が…とは、なんとも幻想シリーズらしい。
浦島汽船も気になる。いつか取り上げて欲しい。
楠本の大奥様の登場が少ないのが残念。スミレと有働は上手く行ってる様子。
罪が洗い流せることは良いことか。死なないのは良いことか。
著者プロフィール
堀川アサコの作品






ありがとうございます。
ありがとうございます。
こちらもさてさてさんの三段攻撃の一つですね。
温泉。
行きたいですねぇ。
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温泉。
行きたいですねぇ。
こちらこそいつもありがとうございます。
同意見です。
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