きなりの雲 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
3.85
  • (13)
  • (12)
  • (9)
  • (5)
  • (0)
本棚登録 : 214
感想 : 25
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062936200

作品紹介・あらすじ

大切な恋を失い、生きる気力さえなくしていたさみこ。ある時、アボカドの種の水栽培を始める。白い根が伸び、葉が出て……ここから、彼女の“蘇生の物語”が始まる。古びたアパートの個性的な住人たちや編み物教室の仲間たちとの交流。そして、仕事の編み物にうち込んでいくうちに、彼女の心の中に光が射し込み始める。静謐で美しい文章が、日常の中のかけがえのないものを描き出す。著者初の長編小説。第146回芥川賞候補作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ずっと読みたいと思っていた本。

    2012年芥川賞候補になった作品。
    正直に言うと、芥川賞候補になる作品はちょっと合わないことが多いのですが…

    この本はブクログのお友達のレビューを読んで以来、探していた本。
    アマゾンや楽天BOOKSにもなく。
    実家近くの図書館にも所蔵されておらず。
    これはもう本帰国してから探そうと思っていたら、昨年、文庫化されていたのです!
    気づかなかった…(反省!)
    そして、ようやく一時帰国の時に購入してきました。

    石田千さんの本は「バスに乗って」以来、2冊目。
    (ちなみに「バスに乗って」は☆5つをつけました)
    やっぱり良いです。
    やわらかな文体。
    じわじわと沁みこんでくるような文章。

    主人公のさみ子さんは、築47年のアパートに住み、編み物の講師などをして生計を立てている。
    40歳の時に失恋をして、引きこもってしまう。
    身も心もよれよれになってしまったさみこ子さん。
    ゆっくり、ゆっくり、けれどもしっかりと時間を編むように回復していく。

    「人の手は、貸すより、借りる方が勇気がいる」

    だけど、ちょっぴりその勇気出すことで、前に進めることもあるのですよね。
    周りの人は、見守りながら、手を貸す時を待ってくれているのですよね…

    「実らずとも、花は咲くんだから」

    実を結ばなくても良いのよね。
    頑張っている姿。
    それだけで素敵なんだから。

    • 杜のうさこさん
      azumyさん、こんばんは~♪

      おひさしぶりです!
      この本、良いですよね~~♪
      一目一目編んでいくうちに、さみちゃんの心の傷が癒え...
      azumyさん、こんばんは~♪

      おひさしぶりです!
      この本、良いですよね~~♪
      一目一目編んでいくうちに、さみちゃんの心の傷が癒えていく様子が良くて、何度も読み返してます。
      石田千さんの文章は、なんでこんなに優しく柔らかく響くのかといつも思います。
      それと私も編み物が大好きなので、特にこの生成りのセーターの本はお気に入りです。
      >実を結ばなくても良いのよね。
      頑張っている姿。
      それだけで素敵なんだから。
      私もそう思います。
      azumyさんのレビューを読んだら、また読みたくなりました。
      それと『エミリの小さな包丁』も!
      同じくズキューンです!

      ブクログのお友だち。もしかして…?
      なんて相変わらず図々しいです(笑)
      2018/06/29
    • azu-azumyさん
      うさこさん、お久しぶりです!
      コメントありがとうございます!(^^)!

      ピンポ~~~ン!
      はい!
      ブクログのお友達は、うさこさん...
      うさこさん、お久しぶりです!
      コメントありがとうございます!(^^)!

      ピンポ~~~ン!
      はい!
      ブクログのお友達は、うさこさんのことですよ~
      うさこさんのレビューを読んで、ずっと読みたいと思っていた一冊です。
      なかなか手に入れることができず、ようやく念願かないました^^

      やっぱり良い本でした!
      素敵な本を紹介してくれて、ありがとう~(^^♪
      2018/06/29
  • 失恋で日常を失ったさみ子が
    編み物通してあたらしい場所に辿り着くまでの物語。

    情景描写が柔らかく、
    毛糸の質感が伝わるような温かい文体で
    安心して読み進めることが出来た。

    何かを劇的に変えるエネルギーが無くても
    身の廻りの出来事を電車に揺られているような気持ちで
    任せていくだけでいい、と慰められるようだった。

    好きなことを、好きな人を、
    大切に出来ない時があってもそばにある環境を整える
    その気持ちだけは失わないように居ようと思った。

    個人的にはフワフワ綺麗過ぎたので、
    もう少し毒が加わった小説が好み。

    「あたらしい場所にいくひとの目をしているからかもしれない」

    「だれかのためにつくるのは、幸せなことですね」

  • 《再読本》失恋して生きる気力を無くした女性が、水耕栽培していたアボカドの種から根っこと芽が出たのをきっかけに、徐々に日常を取り戻して行くお話。物語の中に出てくるご飯が美味しそうだった。
    日常の中に小さな喜びを見つけたり、大事なこと、大切なことに気づいたりしていけるのって良いなぁ。

  • 久々に石田千さんの小説。やはりこの方の文章は好きだなぁ。素朴でじんわり、するする旨いお蕎麦のようで、時々わさびの塊にビックリする感じ。(美味しいお蕎麦食べた時に読んでいたので、似ている…と)

    読み終わるのが勿体なく、大事にしっかり咀嚼しながら読む作品だった。「ビール」が何度も出てくるんだけど、いいなぁ…こういう人達と知り合って、しみじみ飲んでみたいなぁと。(日本酒もね‼)

  • 深い傷を癒すのは結局、劇的な何かではなくて、日々を正しく生きて自分のすべきことをすることなのだ、とじわじわと染みるように思う物語だった。
    その中でいつの間にか流れている時間とか、当たり前の人とのやり取りだとか。普段なら見逃してしまうことが、自分にとっていかに大事なのかということ。

    大切な恋を失い、生きる気力さえなくしたさみ子。死んだように生きることを続けていたある日、アボカドの種の水栽培をきっかけに彼女の気持ちに変化が生じる。
    そして、古びたアパートの住人たちや編み物教室の仲間との交流により、少しずつさみ子の心の中に光が差し始める。

    花でも動物でも植物でも、命を傍に感じるということは、自分を立て直すにはけっこう重要だったりする。
    小さな命を見守るために自分も元気にならないと。そう思ううちにすくすく育つ命に自分も少しずつ励まされたり。
    この物語に出てくる命の存在はとても優しい。食べ終えたアボカドを水栽培してみることだとか、グリーンカーテンのために屋上で育てたゴーヤをみんなで美味しく頂くことだとか。
    爽やかに、だけど力強く、そこに在る。

    少しずつ力を取り戻したさみ子は仕事(編み物教室の講師)に復帰し、そこであらゆる年代の人たちを交流することで更に自分を取り戻してゆく。
    そんな中で、失ってしまったはずの元恋人から不意に連絡が来て…
    嬉しい気持ちもある反面、複雑な想いも当然ある。そのとても微妙な心模様が伝わってくる。

    失った人や物、時間は、取り戻したように見えても、けして同じかたちではない。
    それは一度心が変わってしまい、傷から立ち直った自分自身が変化しているから。
    とても正しい人の変化や在り方。人間の、前に進んでゆく力というものは凄い。

    とても優しい物語だった。少しの残酷さも孕んで。
    アボカドの水栽培、やってみたくなった。

  • 生きることは食べること、笑ったり泣いたりすること、人に会うこと話すこと。焼けるような胸の痛みは、自分が自分であるということ全てを奪っていきました。それでも彼女はまた編み物教室で毛糸と針を持つ。ひと針ひと針、ゆっくり大切に再生していく。自分の為に。そして雁字搦めの結び目を解いてくれた誰かの為に。贈り物をあげたい人が居ること、誰かが自分だけの為にしてくれること、それは人と人が紡ぐ沢山の優しさと幸せの温もりで煌めき溢れていました。

  • 人との出会い。温かさ。静かだが力強い物語。
    あらすじ(背表紙より)
    大切な恋を失い、生きる気力さえ失くしたさみ子。だがある日、アボカドの水栽培をきっかけに彼女の気持ちに変化が生じる。古びたアパートの住人たちや編みもの教室の仲間との交流により、少しずつ心の中に射し込み始める光―。傷ついたからこそ見えたこと、失ったからこそ得たもの。第146回芥川賞候補作。

  • 再読。前も思ったけれど、読後に当然の様に編み物がしたくなる。(でも編み物をする季節に合わなくて結局しないのだけれど)手に職のある人は堅実だなぁ。失恋で身体を壊す様な生活を経ても立ち直るのに自分の技術を使って身を立て直す事が出来る。仕事も生活も編み物を軸にして堅実に生きる主人公が羨ましく思える。

  • 静かに生きる力を取り戻していく蘇生の物語。芥川賞候補作 失恋し、生きる気力さえ失くしたさみ子。だが、アボカドの水栽培をきっかけに気持ちに変化が生じる。アパートの住人や編み物教室の仲間との交流により、心の中に射し込み始める光。傷ついたからこそ見えたこと。

  • これからどうなるかはわからない。
    でもたぶんやっていける。
    ひとりではない。

  • 「大切な恋を失い、生きる気力さえなくしていたさみこ。ある時、アボカドの種の水栽培を始める。白い根が伸び、葉が出て……ここから、彼女の“蘇生の物語”が始まる。古びたアパートの個性的な住人たちや編み物教室の仲間たちとの交流。そして、仕事の編み物にうち込んでいくうちに、彼女の心の中に光が射し込み始める。静謐で美しい文章が、日常の中のかけがえのないものを描き出す。著者初の長編小説。第146回芥川賞候補作。」

    「作者が紡ぐきれいな言葉の中からあふれる音、移り行く季節の美しい風景、淡くて素敵な人間関係、ちょっとした会話の優しさ、この物語に詰まっているさみ子が過ごした半年間を全てお伝えしたい。」
    (『小泉今日子書評集』の紹介より)

  • じんわりじんわりしみてくるお話でした。編み物を久しぶりにしたくなりました。糸えらびにいくことがシンプルに楽しみです。

  • 登場する人物が多い割に一人一人に対しての心理描写が少なく一体誰に感情を傾ければ良いのか分からなかった。状況的背景としての表現は、やはり石田千さんだと感心。エッセイの様に鮮明だが、小説としては少し物足りないというか全体的にボヤけた文章だった気がする。

  • じろうくんとの仲はどうなるの、
    じろうくんの店は繁盛するの、
    玲子さんたち夫婦はどうなるの、と「〜はどうなるの」づくしの最後ですが、同時に「きっとこうなったんだろうな」と思い、「そうだよ!」とキャラたちが一緒に笑ってくれている気がします。

    ひとりひとり、考えがあって、変わっていく。それは何一つ当たり前ではなくて、今日この瞬間にも変わっていくかもしれない。期待した通りに日々が進まないこともある。
    それでも、ひとはひとと繋がって生きている。
    そう教えてもらったような小説でした。素敵な作品でした。

  • 失恋で生きる気力を失った主人公が徐々に癒されていくストーリー。アパートの住人の松本さんと、手芸教室の生徒のちさちゃんが大好き

  • 出てくる人たちの言葉ひとつひとつが染み渡るような、
    暖かい小説でした

  • 主人公は、編み物を生業としている。
    そこにとても共感を持った。
    自分より年上の生徒に「先生」と呼ばれると、シャキッとするなんていうのも、頷きながら読んだ。
    勿論、編み物の話だけではない。
    恋人に振られた主人公が、落ち込み、悩み、成長していく様子も描かれている。
    時間が、人の成長を、人と人との関係性を育んでくれるのだろう。
    これといった事件が起きるわけではない平凡な日常が、丁寧に描かれている。
    編み物をする人は、きなりが好きな人がきっと多いんだろうな。
    私も、楽しいことだけ考えながら、編み物をしたい。

  • まったく筋とは関係がないアボカドの成長と共に進む物語。
    何かと何かを重ね、リンクさせて物語が進んでいく作品は多いけれど、ここまで自然で邪魔にならないのは初めてかもしれない。
    そこに気持ち良さを感じた。

  • 主人公と自分の状況が重なるところはまったくないのに,冒頭の,アパートの住人とのやり取りのシーンでなぜか涙腺が緩んだ。
    石田千さんのエッセイは読み切れなかったけれど,この小説は大好き。誰にでも勧めたい。

  • 本屋でふと目に止まって、特に理由があった訳ではないけれどなんとなく手を離し難かったので買ってしまいましたが、素敵なお話でした。

    ていねいに、でも悩みながら等身大に暮らしている人たちが多く出てきて、こういう生活をしたいなぁと思いました。主人公と同じアパートの、おしゃれなおばあさん、松本さんがお気に入りです。

    もうちょっと涼しくなったらまた編み物始めたいなぁ。

  • モチーフになっている編み物の糸と失恋の心の動きがラップしている。
    編み目が綺麗に積み重なったかと思えば、編み間違いに気付き、その多くを解いてみたり。

    進んでは後戻りしてみたりするのも、行動しているからこそ。

    あっちこっち行ったとしても、とてもゆっくりだったとしても、それでも光射す方に進んでいる。

  • とてもとても丁寧に時間が流れる本。恋を失ったときの心の揺れが、丁寧。

  • 著者の文体が本当にすき。台詞が「」書きじゃないこともあって、流れるように歌うようにするすると心の中に言葉がたまっていくのが快感。
    恋の喪失と再生といえばありきたりなんだけど、そこにある痛みと葛藤が押し付けがましくないのにリアリティがあって泣ける。
    ハードカバーを買い逃していたので文庫化してくれてとても嬉しいです。

全25件中 1 - 25件を表示

著者プロフィール

石田千(いしだ・せん)
福島県生まれ、東京都育ち。國學院大學文学部卒業。2001年、『大踏切書店のこと』で第1回古本小説大賞を受賞。「あめりかむら」、「きなりの雲」、「家へ」の各作品で、芥川賞候補。16年、『家へ』(講談社)にて第3回鉄犬ヘテロトピア文学賞受賞。16年より東海大学文学部文芸創作学科教授。著書に『月と菓子パン』(新潮文庫)、『唄めぐり』(新潮社)、『ヲトメノイノリ』(筑摩書房)、『屋上がえり』(ちくま文庫)、『バスを待って』(小学館文庫)、『夜明けのラジオ』(講談社)、『からだとはなす、ことばとおどる』(白水社)、『窓辺のこと』(港の人)他多数があり、牧野伊三夫氏との共著に『月金帳』(港の人)がある。

「2022年 『箸もてば』 で使われていた紹介文から引用しています。」

石田千の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
村田 沙耶香
恩田 陸
今村夏子
宮下奈都
森見 登美彦
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×