永山則夫 封印された鑑定記録 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062936286

作品紹介・あらすじ

19歳の連続射殺犯・永山則夫。生前、彼がすべてを語りつくした膨大な録音テープの存在が明らかに。犯罪へと向かう心の軌跡を描く。

感想・レビュー・書評

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  • 死刑制度について考えたことがなかったと思い知らされる。未成年の凶悪事件って昔からあったのか。など自分の無知が情けない。圧倒的な筆力でぐいぐいと永山と石川の対話や、永山の生い立ちに引き込まれていく。ズドーン!心に重くのしかかる、小説ではないから余計に。

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  • 永山氏が事件を起こした頃に自分は生まれた。
    彼が育った時期は、今思えば、そんなに昔のことではない。自分の父母が育った時期よりは、現代に近い。
    しかし、想像もつかないくらい、厳しい環境に育ったようだ。

    あるいは、これほどまでに厳しい環境に育てば、「正常」な判断は期待し得ない。責任能力は期待できない。という人もいるのかもしれない。

    「責任」とはなんだろうか。
    法とはなんだろうか。
    法の根底には、論理が存在するのだろうか。
    「社会」を成り立たせるための虚構として存在しているに過ぎない、という論を読んだことがある。
    私もその論に傾いている。

    永山氏についてどうか、と問われたら、それは不運な悲運な人だったと思うが、だから死刑が不当かといえば、事情が事情だから不当だったなどとは思えない。
    大体、量刑の過不足なんてこと自身さっぱりわからない。多分ほとんどの人がそうだろうけど。

    そうした意味では、(ほとんどの人に)よく分からない種類の話でしかない話であって、法だの刑罰だの量刑だのというのは、考えてもしょうがない話なのかもしれない。

    しかし、堀川惠子さんの、取材対象に対する、真摯で労を惜しまない粘り強い姿勢には感動する。
    そうして得たコンテンツを、基本的に硬質で抑制的に描き、押し付けにならない絶妙な筆致で、自ら伝えたいことを、しっかり伝えるという技術にも改めて感動した。

  • 最初の30ページくらいまでは何と素晴らしい文を書く作家なのだろうと感心して良い作家を見つけた喜びに満ちていた、正直痺れた。ここでブクログの本書の評価を見てみると、4.5超えか確かにその通りだとも思った。こう書くとその後が悪いみたいになってしまったが、当初の期待を上回る程でもない。
    永山の逡巡が随所というかずっと続く。ルポルタージュであり人間とはこう言うものだと言えばそれまでだが・・・。
    読み物としては、ややグダグダしたものに感じられた。

  • 精神鑑定を通して姉以外の他者に理解され、ようやく自分を理解出来たのだと思う。
    理解者を得て過去の自分の存在を認められたからこそ、心神喪失という鑑定記録を受け入れられなくなったように思えた。

    無知、貧困、虐待、刑罰と償いなど様々な社会問題について考えさせられる。

  • 思ってたよりずっと面白かった。
    精神鑑定って何やってんのかなとずっと思っていたが、こんな風に被疑者が生きてきた軌跡を聞き取ることでなぜ犯罪を起こしたのかに迫っていくのかーと、初めて得心した。
    永山の犯罪の理由は単なる貧困ではなく「家族」に端を発するものであることが、特に上京後の描写から如実に分かり興味深い。犯罪は直接的には「家族」への当てつけであったことも鮮やかに明らかになる。
    まるで小説を読んでいるようだった。

    裁判記録ってすごいなと、今後の仕事へのやる気がむくむく湧いてくる。

  • p446 遺骨は、かつての妻の手によって、生前の遺言どおり帽子岩の見える網走の海に撒かれた。

    この一行に戦慄した。ここに込められた深い意味。ここまでに至る濃密な人生の記述。人間洞察の深さと広がり。

  • 連続殺人犯として死刑になった永山則夫の膨大な精神鑑定書、その作成にあたって医師と交わした録音テープが残っていた!その録音テープと鑑定書から、永山則夫の半生と、彼がなぜ犯罪を犯すに至ったのかを徹底した調査で描き出す。そこには、永山家の家族、両親と四男四女の八人きょうだいの物語があった。幼い時に母親に置き去りにされ、網走の厳冬を子供だけで生き抜いた壮絶な体験、その後も兄たちからくわえられたリンチ、唯一の優しさを示してくれた姉の精神病…不幸には不幸の数だけ顔があることを思わせる迫真の記録である。

  • 著者の長期にわたる丁寧な調査が、永山という死刑囚の人物像を生き生きと描き出し、彼の経験してきた苦難の人生が胸に迫る。永山に自身の鑑定を否定され、犯罪心理研究を断念した石川医師が、永山の死後に、彼が死ぬまで鑑定書を大事に取っていたという事実を知り、自分の費やした時間と努力が無駄ではなかったと、報われた思いを味わうくだりは感動的だ。

  • 石川医師が向き合い続け、永山が言葉にし内省を深めていく膨大な時間と知力を尽くした歴史が綴られている。

    印象的な言葉

    人間の心の奥深さ、そしてそれを本当に理解することの難しさを語りかけているようだった 

    このとき、この出会いがあったからという宝物を得た人は、たとえそれが家族でなくても道を切り拓くいて行けるはずです

    たった一本でもつながっていれば

    努力するには愛情や褒められた経験などのエネルギーがいる

    非行ということものの多くは、親の仕打ちにこれ以上、我慢できなくなった子どもが止むに止まれず行動で示すことなのだと。
    人に嫌われて怒られる非行を好き好んでする子どもなどいない。そこには何か理由があり、非行は彼らが発する苦しみまたは悩みのシグナルだと受け止めるようになった
     

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著者プロフィール

1969年広島県生まれ。『チンチン電車と女学生』(小笠原信之氏と共著、日本評論社)を皮切りに、ノンフィクション作品を次々と発表。『死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの』(日本評論社)で第32回講談社ノンフィクション賞、『裁かれた命―死刑囚から届いた手紙』(講談社)で第10回新潮ドキュメント賞、『永山則夫―封印された鑑定記録』(岩波書店)で第4回いける本大賞、『教誨師』(講談社)で第1回城山三郎賞、『原爆供養塔―忘れられた遺骨の70年』(文藝春秋)で第47回大宅壮一ノンフィクション賞と第15回早稲田ジャーナリズム大賞、『戦禍に生きた演劇人たち―演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇』(講談社)で第23回AICT演劇評論賞、『狼の義―新 犬養木堂伝』 (林新氏と共著、KADOKAWA)で第23回司馬遼太郎賞受賞。

「2021年 『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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