まるまるの毬 (講談社文庫)

  • 講談社 (2017年6月15日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (384ページ) / ISBN・EAN: 9784062936873

作品紹介・あらすじ

親子三代で菓子を商う「南星屋」は、  売り切れご免の繁盛店。武家の身分を捨て、職人となった治兵衛を主に、出戻り娘のお永と一粒種の看板娘、お君が切り盛りするこの店には、他人に言えぬ秘密があった。愛嬌があふれ、揺るぎない人の心の温かさを描いた、読み味絶品の時代小説。吉川英治文学新人賞受賞作。

みんなの感想まとめ

親子三代が織りなす菓子屋の物語は、愛情と絆が深く描かれています。主人公の治兵衛は、職人としての道を歩む中で出会った様々な人々との関係が、物語に温かみを与えています。彼の家族や弟とのつながりが、時には困...

感想・レビュー・書評

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  •  知り合いの中学生が受けた高校入試で、この作品の一部が出題されました。

     「おばちゃん、現代文は誰の作品が出ると思う?」
     と尋ねられたので、過去問題集を見ながら、

     「そうねぇ、この人の小説とか、読んでおく?」
     と、したり顔で何人かの作家の名をあげておきました。去年の夏の話です。

    けど、、
     時代小説は、ノーマークでした!

        Yちゃん、ごめんよぉ。。。

     見事、空振りしました。
     フルスイングで空振りして、勢いあまってヘルメットを飛ばした上に、もんどりうって、地面にひざまずいてしまった気持ちです。バッターボックスの土が、ユニフォームの膝を汚します。あ~ぁ、お母さんに叱られる。。。w
    (こんな書き方をするのは、センバツ高校野球の影響です。)(今も、エンモユカリモナイ学校の試合を眺めながら、これを書いています。)

     ずっとバッターボックスにうずくまっていてもしかたがないので(邪魔なので)、出典の小説を読んでみることにしました。
     わたしの出題予想も甘かったですが、この作品も、甘い和菓子屋さんのお話です。書名は『まるまるの毬』。毬は(いが)と読みます。連作短編小説です。

     このお話の舞台は、お江戸麹町にある菓子屋「南星屋(なんぼしや)」です。
    半蔵門から西に向かって、ゆるい弧を描く蛇のように長く伸びている麹町。その中ほど、六丁目の裏通りにあります。

     少し引用しますね。
    『間口一間(いっけん)のささやかな構えの店は、屋号の珍しさより他は、とりたてて目立つところもない。この辺りは北に番町、南に外桜田と、武家屋敷ばかりが軒をつらね、自ずと武家相手の店が多い。』

     五七調に似たキレの良い文体。眼前に見ているような江戸の町の描写。きっと、作者の西條奈加(さいじょう なか)さんの頭の中には、VRのように江戸の町並みがあって、そこを歩きながら小説を描いているのでしょうね。

     南星屋の店主は、治兵衛(じへえ)。十歳で五百石の旗本家の身分を捨てて、上野の菓子職人に弟子入りして修行を積み、その後は渡り職人として各地の菓子を学んだ人です。
     今日も、昼の鐘とともに、中から板戸が外されて南星屋が開店します。表には、多くのお客が、滅多に江戸では食べられないお目当ての菓子を待っています。

     さて、
     知り合いの子の高校入試問題は、2作目の「若みどり」から出題されました。
     ある日、武家の嫡男 十歳の、稲川翠之介(いながわ すいのすけ)が、治兵衛を訪ねてきて「弟子にしてください!」と頼みます。
     治兵衛は弟子入り許可はしませんが、次の日から翠之介は、毎日、南星屋の菓子作りを見に来るようになりました。
     半月ほどした頃の夕刻、翠之介の父親 崎十郎(さきじゅうろう)が南星屋に怒鳴り込んできます。
     
     入試問題文は、「治兵衛を前にして、崎十郎が翠之介に対して、弟子入りをやめるよう説得する場面」をもとに作られていました。

     祖父の頃は羽振りが良かった稲川家は、崎十郎の代になって窮乏しています。
     崎十郎は、翠之介が貧乏暮らしを嫌がって、菓子屋に弟子入りしたいのだと思っています。
     ところが、翠之介は、崎十郎が毎日、愚痴ばかり言っている姿が嫌で南星屋に逃れたのでした。
     二人の話を聞いていた治兵衛は、翠之介が本当は崎十郎を強く慕い心配していることを見抜き、翠之介に遠国への修業を命じて動揺させ、弟子入りを思いとどまらせます。
     
     説得の最後に、治兵衛は翠之介対し、「己のすべきことを修めて、それでも菓子屋になりてえなら、相談に乗りやしょう。それまでは、決してここへ来てはなりやせん。」と言います。

     「それまでは、決してここへ来てはなりやせん。」と述べたのは、なぜか? 八十字以内で書きなさい。
    が、問題でした。みなさんも原作を読んで、解答を試みてはいかがでしょうか。

     「みどり」というお菓子の作り方(砂糖を幾度もかけて縁取る)を例えに、翠之介に身を縁取ることを説く治兵衛。素敵なお話でした。読みやすい表現に、美しいリズムの名文でもあります。15歳の受験生に読んでもらうのにぴったりな文章だと思いました。

     ま、この出題ならイイかな(負け惜しみ)、と心のいがを収めて、まるまるの心を取り戻したわたし(みのり)なのでした。

     よぉし、来年こそは、出題予想をジャストミートするぞぉ!
    と、思ってみたものの、来年はもう予想する必要はないんだった。。。
     あぁ、見逃し三振の気持ち。。。

     でも、Yちゃんは、合格ホームランでした!⭐︎
     良かった良かった♡
      カキーン!⭐︎

    • kuma0504さん
      合格おめでとうございます!
      出題作家を予想するなんて、
      それはおそらくどの読書家も無理!
      合格おめでとうございます!
      出題作家を予想するなんて、
      それはおそらくどの読書家も無理!
      2025/03/25
    • みのりんさん
      ありがとうございます♪
       ですよねえ。。。
      訊かれたので、無謀にも答えてしまいました。
      ありがとうございます♪
       ですよねえ。。。
      訊かれたので、無謀にも答えてしまいました。
      2025/03/25
  • 親子三代の菓子屋の物語と思ったら情報量が非常に多い。大身旗本の二男が菓子屋職人を目指し、全国を巡りながら修行。その途中で妻ができ、子供が生まれて3人で全国を回る。途中で妻が死に、江戸へ戻って小さな菓子屋を開業。これに三男の弟が力を貸すが、大きなお寺の大僧正となっている。各国を回って覚えた菓子を順に作って大好評となるが、あまりに出来が良すぎて平戸藩の門外不出のカスドースを作って騒動となる。これを打破するのが過去の料理帳の記憶を辿る娘。表題の「まるまるの毱」はお互い言いたい事も言えない父と娘が、せめて気持ちだけは「まあるく」というもの。
    孫娘の結婚話しがあり、やっと皆が結婚に向かった時に出てきた父親の出自問題。結婚の差止めや実家の立ち退き、弟の大和尚退任等、大騒動もお菓子でほぼ解決するが結婚だけは戻らない。立ち直った孫娘の明るさに救われる。三代での新菓子の開発もあり、将来も見えてきたところでの終わり。この先が読みたいと思ってしまう。

  • 美味しいお菓子が毎回出てきて、お腹が減ります。

    江戸は麹町六丁目の裏通りにある菓子店、南星屋(なんぼしや)の主人、治兵衛が、修行で諸国を廻り覚えた諸国の名物菓子を庶民が買える安価な値段で店頭に並べ、娘のお永、孫のお君。そして弟で四ッ谷にある大きな寺の相典寺(しょうてんじ)の格の高い大住職、石海(こっかい)の四人がおりなす物語です。
    カスドース、若みどり、まるまるの毬(いが)、大鶉、梅枝(うめがえ)、松の風、南天月、の短編七話。

    【カスドース】
    南星屋で作った印籠カステラが、肥前平戸藩松浦家の江戸家老から賄方の河路金吾を通して、門外不出とされるお留菓子のカスドースと同じものだと訴えられた南星屋治兵衛は、製法を変えてなんとか同じような味の菓子を作って…。石海は、もし捕まることがあれば治兵衛の出生の秘密を明かそうと…。

    【若みどり】
    三十俵二人扶持の御家人で御先手同心・稲川埼十郎の嫡男・翠(すい)之介10才は、家族に黙って、道場はおろか、手習いさえ行かずに南星屋に来て、還暦を迎えた治兵衛に菓子職人になりたい弟子にしてくださいと。治兵衛は、男の孫が出来たように思えて嬉しくて半月が過ぎた。これではいけない…と思っていたやさき父にばれた…。

    【まるまるの毬(いが)】
    お君は、母・お永の様子が変なので後を付けると、母と娘を捨てて女と大阪へ逃げた父・修蔵と会っているのを目撃して。お君は、激しく母と父をののしる。お永は、6年ぶりに会いに来た修蔵と…。

    【大鶉】
    治兵衛は、十歳の時に出た実家の岡本家を父の法事のために訪ねた。岡本家の当主は、長兄の興隆(おきたか)の息子で、治兵衛の甥にあたる慶栄(よしえ)である。父に怒られて木に登った7歳の弟の五郎(石海の幼名)を木から降ろすために、治兵衛が、下男の権助を手伝って初めて作った饅頭が大鶉です。法事で同じ麹町で菓子屋を営む大店の柑子(こうじ)屋為右衛門と会う。

    【梅枝(うめがえ)】
    平戸藩賄方の河路金吾26才が、中老の職にある父が倒れたために急遽国元に帰らなければならなくなり、お君17才に嫁に来てほしいと話した。河路が、国元に帰ったらしかるべき役職に就き江戸へ出て来ることがないかもしれない。それを聞いた治兵衛は、お君を岡本家に1年間行儀見習いに出す決心をします。

    【松の風】
    岡本家でのお君の生活が、三ヶ月になり少し慣れてきた。治兵衛は、お永には内緒で別れたお永の亭主・修蔵と会った帰り。悪意に満ちた柑子屋為右衛門から「上様の御落胤が、腹に一物抱えているとなれば、ただでは済みますまい」と言われて背筋が凍る思いをする。為右衛門は、父から治兵衛を見習えとさんざん言われて、治兵衛を逆恨みしている。

    【南天月】
    治兵衛は、七年前に逝去した十一代徳川家斉の実子で、現十二代家慶の兄にあたる。その治兵衛のもとに徒士目付組頭、有馬尚茂が来て「十一代家斉の子ではないか」とただした。治兵衛は、そのような事実はないと突っぱねるが。
    松浦家に幕府大目付からお君と河路家の祝言は相ならぬと。実家岡本家は、お役を免じられ小普請組入り、屋敷替え。弟の石海は、相典寺の住職を辞職。そのような折に、家斉の息子で紀州徳川家の当主が病にかかり、小さい頃に江戸城で食べた菓子・橘月が食べたいと…。

    【読後】
    展開が早く、面白い、お君がおかしくて笑いが起きる。治兵衛が作る、全国の美味しいお菓子が日替わりで毎日二つ、三つと出して一刻(2時間)ほどで売り切りる。こんな店が近所にあったら並んででも買いに行きます。短編7話の中で、治兵衛が、翠之介を孫のようにかわいがる「若みどり」がよかったです。

    【再読】
    忘れていましたが、2019年5月14日に単行本で読んでいました。そして西條奈加の本を読んだのが、この本が最初でした。続編の「亥子ころころ」は、2019年12月11日に字が小さくて読むのを諦めています。西條奈加さんの本は、字が小さくて私には読めませんが、大活字本が有りました。

    【音読】
    2022年6月21日から7月3日まで、大活字本を音読で読みました。この大活字本の底本は、2017年6月に講談社文庫から発行された「まるまるの毬」です。本の登録は、講談社文庫で行います。社会福祉法人埼玉福祉会発行の大活字本は、上下巻の2冊からなっています。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    まるまるの毬(いが)
    2020.11発行。字の大きさは…大活字。
    2022.06.21~07.03音読で読了。★★★★☆
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

  • 読後の感想、シンプルだけど「面白かった!!」

    後半はハラハラする場面が出てきて、ここで読むのはやめられない!ということで一気読みでした。
    でも読んでよかった。心あったかく幸せな気分で寝れました。そしてもちろん和菓子食べたい!

    ....うん、ほんと面白かった!!(何回言う)

  • 時代小説初挑戦。主人公で和菓子職人の治兵衛と孫娘、娘、弟との関係に心が温かくなる。甘いものと家族愛の親和性高し。和菓子よりも家族の絆のほうが物語の核となっている気もするが、まあるい気持ちになりたい人はぜひこの本、ご賞味あれ(?)。

  • 武家の次男に生まれて、菓子職人になった治兵衛と娘のお永とお君の家族の物語。

    甘いお菓子の物語に治兵衛の出生の秘密がぴりりと辛い味付けをしている。

    人生は甘いだけじゃない。
    でも、だからこそ生きていく価値があると思わせてくれる一冊です。

  • おもしろかった。
    治兵衛と石海の兄弟の絆に心が温まり涙が...
    ラスト最高です。

    治兵衛の「大きな欲を出さず、無闇に敵を作らずに、ただ良い仕事をして人生を程良く送る」という生き方は、私の価値観とフィットしました。
    しかし、治兵衛ほど人間ができていないので、為右衛門に対しては謝罪の一言も無しか!?と腹が立ちましたが笑

    唐津銘菓という若みどりが気になって調べてみたところ、ネット販売でそれらしいものはなく、佐賀県まで行かないと食べられなそうでショック。食べたい。

  • 店主『治兵衛』
    出戻り娘の『お永』
    『お永』の娘『お君』
    親子三代で営む菓子屋
    『南星屋(なんぼしや)』
    売り切れ次第 閉店の繁盛店
    『南星屋』に看板商品はなく…日替わりで二、三種類の菓子が並ぶ

    開店前には行列ができていて
    看板娘の『お君』が「お待たせいたしました」と開店の挨拶をすると「お君ちゃん、今日の菓子は何だい?」と声がかかる


    西條奈加さんの作品が菓子職人親子の ほのぼの話で終わるわけがない!
    この店には他人には言えない秘密があった…

    一生懸命に誠実に生きることの大切さを感じる 続きが楽しみな作品になりました





    「お君ちゃん、今日の菓子は何だい?」って通いたいな…
    でも『南星屋』のように毎日 お品書きが変わる和菓子屋さんが近所にあったら財布も体重もオーバーするなぁ…

  • 次作「亥子ころころ」を先に読んでしまっていたのだが、その時、「?」と思ったことがちゃんと書いてあった(当たり前)
    西條さんの人情物は、少しの憂いや世の中の無情のようなものを含みつつ、それでも前を向いて歩く人の姿が描かれていて、好感が持てるし読後感もよい。
    治兵衛さんの作るお菓子は本当に美味しそうで、今すぐ和菓子が食べたくなる。
    「亥子ころころ」の次も出てるようなので早く読みたい。

  • 表紙絵の和菓子。
    名前いっぱいあるけど、この場合、御座候よなー。
    あ、でも江戸が舞台なら違うのか。
    とか、ちょっとウキウキしながら読み始めるも、すぐに雲行き怪しくなってしまった。

    あまりに何も起こらない。
    趣のある和菓子の表現にごまかされてる気がする。
    このままじゃ脱落する。
    と思い始めたら、中盤の「大鶉」で待ったがかかる。
    ほっとするも、ありきたりではあるなぁ、と少し逆戻り。

    そして最終話の「南天月」
    人情に厚い話で見事逆転。
    その後を知りたいと魅力に落ちました。

    どうやら、謎解きや事件があって当たり前になってしまっている。
    戦国の世じゃない平和な時代って事も考慮すべきだったな。

    脱落しないでほんとよかった。










  • 「お君ちゃん、今日のお菓子はなんだい?」

    還暦の治兵衛とその娘・お永、そしてさらにその娘のお君の3代で営む小さなお菓子屋さん、南星屋。

    ここでは決まった看板商品はなく、主人の治兵衛が季節や天気や仕入れ、あるいはその日の気分などでその日のお菓子を決めて販売します。

    お菓子×時代小説だなんて絶対に好きなやつー!と思って手に取りましたが、やっぱりすごく面白かった。

    出自に秘密を抱える主人とその家族はみんな、自分の幸せよりも家族の幸せを願う人たちばかり。
    だからこそ自分のせいで人が辛い思いをするのは自分のこと以上に辛いんだけど、身分や立場が現代では考えられないほど重んじられる時代だからどうすることもできない…

    そんな、わりとやるせない話も多いんですが、いつも中心には甘くて繊細ですごく美味しそうなお菓子があって、ホッとしたような、いとおしいような気持ちにさせてくれます。

    あと治兵衛の弟の五郎が良い!めっちゃ豪快かつ頼もしいお方なので、出てくると安心感がすごい。大好き。

    続編もあるようなので読みます!お君ちゃんが今度こそ幸せになってくれると嬉しいなぁ。

    ※読んでる間中もう甘いものが食べたくて食べたくて仕方なくなるので読む時間にはくれぐれも要注意な一冊です

  • 時代小説は全く読まないのに、なんとなくのジャケ買い。今の心にスッと入り込むこの「なんとなく」の予感は当たりだった。素朴な味わい深い作品。

    主人公、治兵衛とその家族は慎み深く、利他の精神を持った温かい人柄で、麹町の小さな菓子屋「南星屋」を切り盛りしている。

    何気なくお菓子をお持たせによく使うけれど、
    お菓子は確かに人と人との空気を柔らかくする効果があるよなぁ。と改めて気付かされた。
    それが和菓子ともなれば季節やその土地の魅力も合わさってさらに滋味深い。

    今よりも身分制度が厳しく、思いがけず理不尽なことも多々あるけれど、もう忘れかけている日本人の美徳がこの家族に溢れている。そのせいか、どんな結末になろうとも、実に清々しい心持ちでいられる。
    胸の奥がじんわり温かく沁みる読後感だった。

  • 本なので、映像は出てこない。
    でも、お君ちゃんは明るくて人気者、かわいかったのだろうな、と読み取れます。
    応援したくなります。

    時代が古い設定なので(時間や距離の感覚、人間関係もいまひとつ)よくわからないけれど、それがまたいい。これが深夜2時から2km先まで歩いていった、なんて書かれてあったら興ざめですもんね。

  • あっさりしているのに、コクと深みがある。

    西條奈加さんの時代小説を一文で評するとしたら、こうなるでしょうか。平易で読みやすく分かりやすい文章で、サラッとあっという間に読めてしまう。一方で登場人物の生き生きとした雰囲気であったり、物語の暖かさと哀切といった小説の芯はしっかりと描かれている。

    読みやすさによって、小説の深みを損なうどころか、むしろ味わい深い。自分が西條作品を読むのはこれで三冊目ですが、完全に沼にハマった気がする。

    店主の治兵衛、出戻り娘のお永、孫娘のお君と家族三代、三人で経営する売り切れ御免の人気の菓子屋「南星屋」を舞台にした連作長編。
    元々武士の家の出自ながら、その身分を捨て菓子職人として全国を回り、店を開くに至った治兵衛。そんな治兵衛には娘たちにも語っていない、出生にまつわる大きな秘密を抱えています。

    描かれるのは美味しそうなお菓子の数々と家族の絆。諸国をめぐる修行の途中で妻を亡くし、その最期を看取れなかった治兵衛の後悔や、お永に対しての申し訳なさ。お永の別れた夫は、よそに女を作って出ていき、お君はそのせいで、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとばかりに、父の職であった左官職人という職業そのものを嫌うほど。

    親子三代仲良く、力を合わせてやっているものの、家族それぞれに抱える心情というものは、なかなかに複雑で、それが南星屋で巻き起こる様々な騒動を通して徐々に表れてくる。その描き方がとにかく巧い。短編個々の小気味よく、時に少しほろ苦い物語を通して、南星屋の家族の秘めたる思いや変化が少しずつ見えてくるようになっています。

    印象に残るのは家族や人を想う暖かさ。治兵衛の亡くなった妻や、苦労をかけてきた娘・お永に対する想いであったり、治兵衛が菓子職人になるエピソードで語られるのは、弟で今は僧侶をしている石海との思い出。この兄弟の絆と暖かさも心地いい。

    そしてお君に訪れる出会いと恋の予感。しかしそれは一方で、治兵衛やお永の元からの旅立ちも意味しています。ここで描かれる治兵衛の心情であったり、お永の言動であったり、ここの描き方もしみじみと胸を打たれる。

    一筋縄ではいかない人生とそして家族。それでも失われないもの、奪われないものが確かにある。切なさを含みつつも、最後は暖かい気持ちで読み終えられる。これからも続くであろう南星屋を、ずっと見守っていたくなるような、読み心地の素晴らしい作品でした。

    第36回吉川英治文学新人賞

  • 「善人長屋」シリーズで西條作品が好きになり
    「千両かざり」を楽しんでから
    こちらの「南星屋」シリーズに読み継いできました。
    どの作品にも物語のカギを握る娘が登場しますね。

    特に本作の“お君”は明るくお転婆な一面がありつつも
    話を追うごとに一人の女性として成長していきます。
    次作以降で治兵衛ら家族に見守られながら
    お君がどんな菓子作りをするようになるのか
    とても楽しみになりました。

  • 何が食べたいかわからないけど、お腹も減ったのでたまたま入ったレストランで出されたのものが「え?私の食べたいもの知ってた?」と言いたくなるような、痒いところに手が届くちょうど良いお話でした。当たり前の感想ですが、和菓子が食べたくなりますので、何か調達してからお読みになるのがいいかと思います。

  • ------------------------------------------------
    お君ちゃん、
    今日のお菓子は何だい?

    頬が落ちて、心も温まる口福な時代小説。
    ------------------------------------------------
    西條さんはずっと気になっていた著者のお一人です。
    「心淋し川」も気になっていましたが、
    テーマ的に本作の方が読みやすそうで手に取りました。

    親子三代で営む菓子屋「南星屋」。
    お値段はお手頃で庶民味方だけど、味は天下一品。
    みんなから愛される菓子屋です。

    その南星屋を舞台に起こる様々な出来事。
    短編になっていて、それぞれにお菓子が登場します。

    時代版「和菓子のアン」という作品もこんな感じなのかな?と思いながら(読んだことないので違っていたらすみません。苦笑)

    各話で登場するお菓子をネットで検索して見ながら、
    南星屋さんの家族愛と、
    美味しそうなお菓子に癒されました。

  • あー面白かった、よかったあ。江戸のおじいちゃん、娘、孫娘三代で支える菓子屋の南星屋の話。お菓子を巡っていろいろな事件が起こる連作短編集。主人の治兵衛(おじいちゃん)の弟の和尚もいい味を出している。最後は、ほろりとする人情物、西條奈加さん最高!お菓子も美味しそう。

  • 江戸時代の人は、どんなお菓子を食べていたんだろう?と興味を持って手に取った本です。

    十二代将軍家慶の時代。江戸の町で、還暦を迎えた治兵衛は、娘のお永、孫のお君と一緒に菓子屋を営んでいます。治兵衛は元武家で、若い頃は、東は陸奥、西は薩摩まで諸国を旅し、その土地の菓子を研究し、自分の菓子職人としての腕も上げてきた人です。お店では、自分で回った土地の素朴な菓子を、たくさんの人に食べてもらいたいと、他の店よりも安く売っています。

    出てくる和菓子も魅力的ですが、治兵衛家族の、相手を思いやる優しさに心打たれました。特に、治兵衛の弟で、有名な寺の住職をしている石海(五郎)が良かったです。とても豪快な人だけど、子供の頃からの兄思い。兄の家族の幸せを願い、ダメな時は、本気で怒ります。

    お家大事で、無理難題を言ってくる武士達に振り回され、どうにもならないこともあるけれど、菓子という一つのものを極めた、治兵衛の逞しく生きる力と、家族への深い愛情を感じました。諸国を歩いて、治兵衛が書き留めた72巻の菓子帳、一度、見てみたいです。

  • 親子3代で切り盛りするお菓子屋のお話。

    ライオンのおやつとリンクするところが多々あり。甘いものは笑顔と優しさを引き出してくれる。それは時代には左右されない普遍的なものなのだろう。

    ほっこりと心が温かくなる小説。

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著者プロフィール

1964年北海道生まれ。2005年『金春屋ゴメス』で第17回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、デビュー。12年『涅槃の雪』で第18回中山義秀文学賞、15年『まるまるの毬』で第36回吉川英治文学新人賞、21年『心淋し川』で第164回直木賞を受賞。著書に『九十九藤』『ごんたくれ』『猫の傀儡』『銀杏手ならい』『無暁の鈴』『曲亭の家』『秋葉原先留交番ゆうれい付き』『隠居すごろく』など多数。

「2023年 『隠居おてだま』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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