- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062936873
作品紹介・あらすじ
親子三代で菓子を商う「南星屋」は、 売り切れご免の繁盛店。武家の身分を捨て、職人となった治兵衛を主に、出戻り娘のお永と一粒種の看板娘、お君が切り盛りするこの店には、他人に言えぬ秘密があった。愛嬌があふれ、揺るぎない人の心の温かさを描いた、読み味絶品の時代小説。吉川英治文学新人賞受賞作。
感想・レビュー・書評
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親子三代の菓子屋の物語と思ったら情報量が非常に多い。大身旗本の二男が菓子屋職人を目指し、全国を巡りながら修行。その途中で妻ができ、子供が生まれて3人で全国を回る。途中で妻が死に、江戸へ戻って小さな菓子屋を開業。これに三男の弟が力を貸すが、大きなお寺の大僧正となっている。各国を回って覚えた菓子を順に作って大好評となるが、あまりに出来が良すぎて平戸藩の門外不出のカスドースを作って騒動となる。これを打破するのが過去の料理帳の記憶を辿る娘。表題の「まるまるの毱」はお互い言いたい事も言えない父と娘が、せめて気持ちだけは「まあるく」というもの。
孫娘の結婚話しがあり、やっと皆が結婚に向かった時に出てきた父親の出自問題。結婚の差止めや実家の立ち退き、弟の大和尚退任等、大騒動もお菓子でほぼ解決するが結婚だけは戻らない。立ち直った孫娘の明るさに救われる。三代での新菓子の開発もあり、将来も見えてきたところでの終わり。この先が読みたいと思ってしまう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読後の感想、シンプルだけど「面白かった!!」
後半はハラハラする場面が出てきて、ここで読むのはやめられない!ということで一気読みでした。
でも読んでよかった。心あったかく幸せな気分で寝れました。そしてもちろん和菓子食べたい!
....うん、ほんと面白かった!!(何回言う) -
江戸の下町の菓子屋「南星屋」を商う親子三代の人情味あふれる物語。
徐々に明かされるそれぞれの思いや主人が抱える出生の秘密。
身分や立場が重視される時代ゆえ、ままならないことも多々ありながらも
、お互いに思いやる気持ちは揺るがない。
菓子のおいしさと家族の絆の強さが上手く描かれる。
お君ちゃんの愛嬌のよさにほっこりし南星屋を応援したくなった。
初めての時代小説だったが、とても読みやすい文体で楽しんで読むことができた。物語の続きも気になる。 -
次作「亥子ころころ」を先に読んでしまっていたのだが、その時、「?」と思ったことがちゃんと書いてあった(当たり前)
西條さんの人情物は、少しの憂いや世の中の無情のようなものを含みつつ、それでも前を向いて歩く人の姿が描かれていて、好感が持てるし読後感もよい。
治兵衛さんの作るお菓子は本当に美味しそうで、今すぐ和菓子が食べたくなる。
「亥子ころころ」の次も出てるようなので早く読みたい。 -
「お君ちゃん、今日のお菓子はなんだい?」
還暦の治兵衛とその娘・お永、そしてさらにその娘のお君の3代で営む小さなお菓子屋さん、南星屋。
ここでは決まった看板商品はなく、主人の治兵衛が季節や天気や仕入れ、あるいはその日の気分などでその日のお菓子を決めて販売します。
お菓子×時代小説だなんて絶対に好きなやつー!と思って手に取りましたが、やっぱりすごく面白かった。
出自に秘密を抱える主人とその家族はみんな、自分の幸せよりも家族の幸せを願う人たちばかり。
だからこそ自分のせいで人が辛い思いをするのは自分のこと以上に辛いんだけど、身分や立場が現代では考えられないほど重んじられる時代だからどうすることもできない…
そんな、わりとやるせない話も多いんですが、いつも中心には甘くて繊細ですごく美味しそうなお菓子があって、ホッとしたような、いとおしいような気持ちにさせてくれます。
あと治兵衛の弟の五郎が良い!めっちゃ豪快かつ頼もしいお方なので、出てくると安心感がすごい。大好き。
続編もあるようなので読みます!お君ちゃんが今度こそ幸せになってくれると嬉しいなぁ。
※読んでる間中もう甘いものが食べたくて食べたくて仕方なくなるので読む時間にはくれぐれも要注意な一冊です -
時代小説は全く読まないのに、なんとなくのジャケ買い。今の心にスッと入り込むこの「なんとなく」の予感は当たりだった。素朴な味わい深い作品。
主人公、治兵衛とその家族は慎み深く、利他の精神を持った温かい人柄で、麹町の小さな菓子屋「南星屋」を切り盛りしている。
何気なくお菓子をお持たせによく使うけれど、
お菓子は確かに人と人との空気を柔らかくする効果があるよなぁ。と改めて気付かされた。
それが和菓子ともなれば季節やその土地の魅力も合わさってさらに滋味深い。
今よりも身分制度が厳しく、思いがけず理不尽なことも多々あるけれど、もう忘れかけている日本人の美徳がこの家族に溢れている。そのせいか、どんな結末になろうとも、実に清々しい心持ちでいられる。
胸の奥がじんわり温かく沁みる読後感だった。 -
本なので、映像は出てこない。
でも、お君ちゃんは明るくて人気者、かわいかったのだろうな、と読み取れます。
応援したくなります。
時代が古い設定なので(時間や距離の感覚、人間関係もいまひとつ)よくわからないけれど、それがまたいい。これが深夜2時から2km先まで歩いていった、なんて書かれてあったら興ざめですもんね。 -
あっさりしているのに、コクと深みがある。
西條奈加さんの時代小説を一文で評するとしたら、こうなるでしょうか。平易で読みやすく分かりやすい文章で、サラッとあっという間に読めてしまう。一方で登場人物の生き生きとした雰囲気であったり、物語の暖かさと哀切といった小説の芯はしっかりと描かれている。
読みやすさによって、小説の深みを損なうどころか、むしろ味わい深い。自分が西條作品を読むのはこれで三冊目ですが、完全に沼にハマった気がする。
店主の治兵衛、出戻り娘のお永、孫娘のお君と家族三代、三人で経営する売り切れ御免の人気の菓子屋「南星屋」を舞台にした連作長編。
元々武士の家の出自ながら、その身分を捨て菓子職人として全国を回り、店を開くに至った治兵衛。そんな治兵衛には娘たちにも語っていない、出生にまつわる大きな秘密を抱えています。
描かれるのは美味しそうなお菓子の数々と家族の絆。諸国をめぐる修行の途中で妻を亡くし、その最期を看取れなかった治兵衛の後悔や、お永に対しての申し訳なさ。お永の別れた夫は、よそに女を作って出ていき、お君はそのせいで、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとばかりに、父の職であった左官職人という職業そのものを嫌うほど。
親子三代仲良く、力を合わせてやっているものの、家族それぞれに抱える心情というものは、なかなかに複雑で、それが南星屋で巻き起こる様々な騒動を通して徐々に表れてくる。その描き方がとにかく巧い。短編個々の小気味よく、時に少しほろ苦い物語を通して、南星屋の家族の秘めたる思いや変化が少しずつ見えてくるようになっています。
印象に残るのは家族や人を想う暖かさ。治兵衛の亡くなった妻や、苦労をかけてきた娘・お永に対する想いであったり、治兵衛が菓子職人になるエピソードで語られるのは、弟で今は僧侶をしている石海との思い出。この兄弟の絆と暖かさも心地いい。
そしてお君に訪れる出会いと恋の予感。しかしそれは一方で、治兵衛やお永の元からの旅立ちも意味しています。ここで描かれる治兵衛の心情であったり、お永の言動であったり、ここの描き方もしみじみと胸を打たれる。
一筋縄ではいかない人生とそして家族。それでも失われないもの、奪われないものが確かにある。切なさを含みつつも、最後は暖かい気持ちで読み終えられる。これからも続くであろう南星屋を、ずっと見守っていたくなるような、読み心地の素晴らしい作品でした。
第36回吉川英治文学新人賞