おはなしして子ちゃん (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062936897

作品紹介・あらすじ

理科準備室に並べられたホルマリン漬けの瓶。ただの無駄な存在に見えた標本のひとつが、けれども「私」には意外と使えた。クラスの噂話や自慢話の聞き役として、私に激しくお話をせがむのだから(短編「おはなしして子ちゃん」より)。

ユーモラスで、アンチデトックス!
才能あふれる芥川賞作家が紡ぐ類まれな物語世界、全十編。

感想・レビュー・書評

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  •  2006年に『爪と目』で芥川賞を受賞した著者の、その受賞後第一作として刊行された短編集。2013年度の第4回Twitter文学賞の結果発表放送を観ていた時に、絲山秋子さん、古川日出男さんとともに第8位に選ばれている選評を聞いたのがきっかけで、興味を抱いて手に取った一冊です。
     全体的に不穏でシュールなテイストに満ちているのが特徴であり魅力でもあるのですが、個人的にはホラーというより「ストレンジ・フィクション」と呼ぶのが最もしっくりくる印象。

     いじめに使った理科準備室のホルマリン漬けの猿に「お話をして」といじめっ子が乞われる表題作。十四歳で高熱を出して以来「一日に一度だけ嘘をつかなければ死んでしまう」後遺症を抱えた少女の顛末と、歪な愛憎が語られる「エイプリル・フール」。夫が連れてくる知人たちを自宅でもてなすパーティで、SNSに築いた妻としての像と乖離していく事態に見舞われ自我と現実感が溶解していく「ホームパーティーはこれから」など、文字通り粒ぞろいの奇想・綺談のオンパレードながら、中でも群を抜いて鮮烈な1編となれば、やはり「ピエタとトランジ」かなと。
     女子高生ピエタの通う学校に転校してきた、トランジと呼ばれる同級生(いずれも作中ではあだ名で呼びあい、本名には言及されない)。トランジはいわゆる名探偵で、頭脳明晰だが周囲に事件を誘発させてしまうという体質を持っていた。それにより、ピエタとともに遭遇することになった殺人事件を電光石火で解決したことがきっかけで、逆にピエタはトランジに惚れ込み、半ば強引にトランジの助手となって、人を避けようとする彼女を毎日学校に登校させるのだが…という内容で、さらに「その後」を描き継いだ短編をまとめて、2020年3月には連作長編『ピエタとトランジ <完全版>』として改めて刊行されるにも至りました(喝采!)。
     犯罪という混沌に解決と秩序をもたらす才能を持ちながら、その体質によって近しい人たちの破滅を呼び込んでしまうという究極のジレンマを抱えた孤独な少女と、そんな彼女との出会いで生きがいを見出し、彼女に寄り添うことを“軽薄に”決めるフツーの女子高生。このふたりの関係性と距離感、そして交わされる言葉の(校内では悲惨な事件が起き続けるにもかかわらず)なんと微笑ましくて眩しいことか! 青春ミステリとしても女性バディものとしても味わい深く、切れ味鋭い傑作だと思います。

  • 「いやーな感じ」で「いい」なー。
    藤野さんの小説はどれも「わたし」の扱いが巧みで、語り口がそのままぞっとするお話に直結する。

    おはなしして子ちゃん
    ピエタとトランジ
    アイデンティティ
    今日の心霊
    美人は気合い
    エイプリル・フール
    逃げろ!
    ホームパーティーはこれから
    ハイパーリアリズム点描画派の挑戦
    ある遅読症患者の手記

  • 一言で言ったら、 こわい 。
    あと不気味、不穏。
    最近こういうじめっと怖い感じの女性作家さん多くない?
    小川洋子さんとか小島未青さんとか。
    局地的に描写が緻密でお話はふわーっともやーっとしてるから余計ぞっとできるっていうか。
    この短編集は後半へ進むにつれて危険度合が上がってゆくね。
    エイプリル・フールあたりからの爆走具合やばい、そして好きだ。
    表紙が水沢そらさんなので読んでみました。
    文庫になるとき装丁が変わらないと個人的には嬉しいです。

  • 短編集。表題は一見可愛らしめだけど全体的にかなり毒が効いてて可愛いどころかかなりの刺激物。表題作「おはなしして子ちゃん」からして、そう呼ばれるのは理科準備室のホルマリン漬けのお猿さんだし、大人にとってはちょっとしたホラー。

    お気に入りはまるでラノベのような語り口の女子高生ピエタと、殺人事件を引き寄せる体質の転校生トランジの「ピエタとトランジ」(続編があるらしい。これは読みたい)、鮭と猿を合体させて干物にした人魚の「アイデンティティ」、アンソロで既読だったけど写す写真すべてに心霊が写り込む女性の「今日の心霊」あたり。

    どの話も突拍子もないようでいて、着想のきっかけは多分ささいな日常的なことなのだろうなと思う。たとえば行く先々で殺人事件が起こってしまうトランジは、解説にもあったように探偵もののパロディだろうし、連続通り魔犯人の「逃げろ!」も、ものすごく重い蜂蜜の瓶を持ったときになにげなく(これで殴られたら死ぬな)なんて想像したことが発端かもしれないし、「ホームパーティーはこれから」は、承認欲求の強いSNS依存な人たちへの嘲笑だろうし、「ハイパーリアリズム点描画派の挑戦」は激混みでろくに絵を鑑賞する余裕もない昨今の美術館ブームで、周囲の全員を殴り倒していいならそうしたい衝動に私自身も駆られる。

    あたりまえの日常がちょっとズレただけでホラーに早変わりする、ふとした違和感を捉えるのが藤野可織はとても上手いですね。

    ※収録作品
    おはなしして子ちゃん/ピエタとトランジ/アイデンティティ/今日の心霊/美人は気合い/エイプリル・フール/逃げろ!/ホームパーティーはこれから/ハイパーリアリズム点描画派の挑戦/ある遅読症患者の手記

  • 作風がすごく好き!

    ・ピエタとトランジ
    言わずもがな。2人は行く先々をめちゃくちゃにしてほしい。世界を全滅させてしまうのかな?完全版が楽しみ。

    ・アイデンティティ
    題材のセンスよ…どうやったらこの題材が思いつくんだろう。すごい。

    ・今日の心霊
    長編で読みたい。「我々」のことをもっと詳しく知りたい。

  • 2020/7/15購入
    2021/10/24読了

  • ちょっとよく分からない

  • これまで読んだ藤野さんの作品集の中では一番良かったです。
    まず一作目にあたる表題作で引き込まれました。「ホルマリン漬けの猿」と「いじめ」と「おはなし」をこんな風に結びつけるとは。結末もひねりも効いていて、他では味わうことのできない読後感を堪能できます。
    続く「ピエタとトランジ」は、ミステリのお決まりのパターンってやつを念頭に置いたパロディで、こちらもなかなか面白いです。東野さんの名探偵シリーズを思い出しました。ちょっと内容を詰め込みすぎかな、とも思ったのですが、どうやら完全版の長編として別途発表されるようなので、そちらも楽しみです。
    本書ではこの二作が双璧をなしていると思いますが、他の作品も佳品揃いです。猿+鮭=人魚という組み合わせが凄い「アイデンティティ」、撮った写真が必ず心霊写真になる「今日の心霊」、宇宙船を主人公にした「美人は気合い」、タイトルそのまんまの名前を付けられた「エイプリル・フール」、通り魔が主人公の「逃げろ!」、ホームパーティーの気疲れを描いたと思ったらやっぱりそれだけじゃなかった「ホームパーティーはこれから」、訳分かんないけど何だか凄い「ハイパーリアリズム点描画派の挑戦」、本が無機物ではない世界を描きラスト4ページが衝撃的な「ある遅読症患者の手記」と、どれもよくできているなあと感心しました。
    以前藤野さんの作品を『世にも奇妙な物語』のようだ、と書きましたが、この作品集に関していうと、小説世界の中でしか表現できないような趣向の作品が多いなあという印象で、作家としての藤野さんの進化を感じます。そのあたり、本書を読んで少し認識が変わりました。

  • かわいらしいタイトルのわりに、どの短編もぞくりとする。不思議だったりホラーだったり、けれどそれを日常のように淡々と綴っている。
    特に最後の「ハイパーリアリズム点描画派の挑戦」と「ある遅読症患者の手記」が面白かった。
    2019/11/8

  • 理科室にあった猿のホルマリン漬けに永遠と話し続けたこと。いじめっ子といじめられっ子。

    トランジのそばにいると周りが次々と不幸にあうこと。
    猿の頭と鮭の体で作られた人魚のアイデンティティ。

    撮った写真が必ず心霊写真になる人。
    壊れた宇宙船が胚細胞に念じていること。

    一日一回嘘をつかなければ死んでしまうエイプリル・フールの人生。

    頭のおかしい奴の異様な足の速さと蜂蜜と通り魔。
    夫の会社の人たちとの夢広がるホームパーティー。

    点画を鑑賞する心得と作品に掛ける情熱。
    遅読症の人と真っ黒な血を吐く本。

    ホラーでいながらもキュート。
    おはなしして子ちゃんは、怖かったなー。

    ぞくぞくして、中毒になりそうな一冊。
    著者のこういうのまた読みたい。

    ファイナルガールの襲ってくる殺人鬼を倒していくリサを思い出した。

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著者プロフィール

藤野可織(ふじの・かおり)
1980年京都府生まれ。2006年「いやしい鳥」で文學界新人賞を受賞しデビュー。2013年「爪と目」で芥川龍之介賞、2014年『おはなしして子ちゃん』でフラウ文芸大賞を受賞。著書に『ファイナルガール』『ドレス』『ピエタとトランジ』『私は幽霊を見ない』など。

「2022年 『青木きららのちょっとした冒険』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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