献灯使 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 477
レビュー : 52
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062937283

作品紹介・あらすじ

大災厄に見舞われ、外来語も自動車もインターネットもなくなり鎖国状態の日本。老人は百歳を過ぎても健康だが子どもは学校に通う体力もない。義郎は身体が弱い曾孫の無名が心配でならない。無名は「献灯使」として日本から旅立つ運命に。
大きな反響を呼んだ表題作のほか、震災後文学の頂点とも言える全5編を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 多和田さんの描く震災後文学は一味違う。
    大災厄に見舞われた後「鎖国」状態になった日本。
    世界から孤立してしまった島国・日本は外来語もネットも自動車もなくなり、まるで時代が後退してしまったかのよう。
    老人は「死」を奪われ意思に反して生き続けねばならず、一方の若者は病気と死の恐怖に怯え老人に介護してもらう始末。
    長寿社会と少子化が進む現代の日本の未来を予感させる内容に怖くなった。

    「野原でピクニックしたいって、曾孫はいつも言っていたんだよ。そんなささやかな夢さえ叶えてやれないのは、誰のせいだ、何のせいだ、汚染されているんだよ、野の草は」
    自分は死にたくても死ねず、のびのびと元気に長生きさせたい曾孫の死に怯える老人の悲痛な叫びが聴こえてくる。

    多和田さん特有の言葉遊びが沢山出て来てとにかく面白いし、物語の内容も我々の未来を予想するかのようなものでのめり込む。
    今回は漢字を巧みに遣った言葉遊びが多く、これを英訳するのは相当難しいだろう。
    どんな英訳なのか、またアメリカ人がどのような感想を持ったのか、言葉遊びの意味がどこまで伝わったのか、とても興味深い。

  • 「原発事故」後の日本を描いたディストピア小説として、自分が読んだ中では今の所、一番おぞましい……。

    曾祖父は100歳を超えても死ねず、小学生の曾孫、無名の「介護」に勤しむ。
    「介護」としたのは、トーストを食べるだけで口内を血に染めたり、オレンジジュース飲むだけで必死だったり、乳歯がボロボロと欠けていく無名を何とか生かしたいと思うおじいちゃん心を、孫の世話、と軽い言葉で置くのもなんだかな、と思って。

    都心部には最早住む者もなくなり、果ては日本自体が鎖国をし、外来語も変容した日本。
    その中に在って、学校でも、子供たちが怪我のないようゆっくりとじゃれ合う様子や、男女共同トイレなんかを目の当たりにすると、鳥肌が立つ。
    彼らは本当に「人間」なんだろうか。
    こういう問いはタブーだろうけど、自分と重ね合わせることがどうにも出来なくて、気味が悪かった。

    どんな形でも生きてくれさえすれば、というのは、問いになる台詞だと思う。
    原発事故だけでなく、様々な事件や事故に触れて、この台詞は問われ、考えられてきた。

    ただただ、苦しい。

  • 東日本大震災が起きる直前の、2010年の夏は、とても暑かった。2009年の夏も暑かったけど、2010年の夏の暑さは異常だった。本当に毎日、夜遅くまで、休みなく暑かった。コンビニで棚卸をしていると、真っ黒に日焼けをしてぐっしょりになった作業服のおじさんが、「ガリガリくん、無い?」と言って空になったアイスケースを見ていた。そんな2010年の夏を、「人生でいちばん涼しい夏だった」と村上春樹が言ったのを知って、それは震災前に言ったんだけど、まるで震災直後に言ったかのように、嫌悪した。その嫌悪は、大災害前夜に生まれたので、私の中で固まって、溶けることがない。

    多和田葉子さんの文章は、今回も楽しく、無名は魅力的に描かれている。無名が献灯使となって、世界を旅することができたら、それはそれは楽しい冒険譚になりそうだ。でも、たぶんそれはかなわない。無名は、献灯使になることは出来ずに死ぬだろう。私は、忘れかけている。震災後の、壊れた信号や、ストーブのご飯や、スタンドの渋滞や、節電の街や、崩れた塀や、テレビの木支里予やシーベルトや、妹と連絡が取れずに静かになって便秘になった母や、パンとコーヒーしか口にしない親戚と東北に行ったことや、琵琶湖で左に曲がった友人を。

    夜中に、思い出そう。

  • 面白かったです。
    多和田葉子さんは初めて読みましたが、不思議な世界でした。
    お話が進むにつれ、大震災、鎖国、政府の民営化、元気なお年寄りと弱い子どもなどと大きく変容した日本のことがわかってくるのですが、描写にリアリティーがありました。
    滅びつつある世界、それから人類が滅んでしまった世界…寓話のように感じてしまいます。
    改めて、ディストピア文学好きだ、と思いました。
    するする読めるのですが噛み砕くのにはまだまだ時間がかかりそうです。何度も読みたい。
    平成最後の読書でした。

  • 多和田葉子さんが翻訳部門で全米図書賞を受賞
    とネットで見た。多和田女史は
    私と同い年で国立市の小中学校、都立立川高校から
    早稲田大学文学部卒。
    「多摩育ち・都立72群・私立文系」
    というところが私とかなり似た経歴で
    さらに憧れのドイツの大学、大学院を卒業している。
    これは読まないわけにはいかない!というわけで
    未体験の多和田葉子ワールドに足を踏み入れた。

    標題作品「献灯使」は、
    極めて暗く重たい
    だが「さもありなん」な未来の日本。
    震災後、原発事故後の日本はすでに
    大層なデストピアになっているのだが
    住人であるあなたたちが一番気づいていないのよと
    ドイツ在住の多和田女史が教えてくれているようだ。

    正直、最初は「なんだコリャ」と思った。
    だが、郷に入っては郷に従え。
    読書の心得その1である。

    読み進むうち

    第一段階 う〜む・・・
    第二段階 おおお。そう来るか〜。
    第三段階 ほほ~なるほど〜。

    という変遷を辿り、私はすっかり
    多和田式未来日本の住人になった。
    なかなか死ねない義郎さんと
    はかない蜻蛉のような無名君が
    なんとも愛おしくなった。

    異国で文学を極める人らしく
    言葉をいじくり遊び倒し
    壊しまくり再構築する様は
    同じく言葉に関わる身としてかなり面白い。

    初期の川上弘美ワールドが好きな方には
    おすすめしたい。

  • 言葉によるVR(Virtual Reality)を感じた。真摯に選ばれ連ねられた言葉で喩え、投影される物語には、切迫しながらも乾いた現実味があって読まされる。しんどい気持ちになるも目を反らせず読み切った。

  • なんだか少しずつ気持ち悪くなる。言葉遊び?と、私には面白く感じられなかった。
    無名と、曾おじいちゃん。

  • 久々に文学らしいものを読んだ。言葉遊びもまあまあ楽しい知的な本。
    震災文学。日本の未来はうすぐもりの世界。

  • 最近よく耳にするディストピア小説。未来の話だけれども、現在からつながる未来の話。怖い怖い。早く逃げないと。言葉遊びがたくさん使われ、軽やかに伝えられる献灯使。
    百歳以上の老人が健康で、死ぬことができず、子どもは歩くこともままならないほど病弱な世界。悲嘆をしらない子ども。
    他、表題作の前日譚ともおもわれるの韋駄天どこまでも、不死の島、彼岸、後日譚とおもわれる動物たちのバベル。
    独特な文体で、なんというか興味深い一冊でした。

  • 3・11以降の日本を極端に描いたディストピア小説。短編集であるが、表題の『献灯使』が半分以上を占めている。
    『献灯使』で描かれる世界は、老人は死なず、子供はしっかりと成長できない謎の状況に汚染された日本。鎖国された日本。世界から取り残された日本。しかし、そのような状況でもそれを受け入れて日々を生きる人たち。地獄のような状況ではあっても、それを淡々と生きる人々。
    非常に抽象的な言葉が綴られるが、言葉一つ一つの意味が深く、重く、そして美しい。

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著者プロフィール

多和田葉子(たわだ ようこ)
1960年、東京都生まれの小説家、詩人。早稲田大学第一文学部ロシア文学科卒業後、西ドイツ・ハンブルクの書籍取次会社に入社。ハンブルク大学大学院修士課程修了。長年ドイツに暮らし日本語・ドイツ語で執筆する。著作は各国で翻訳されており、世界的に評価が高い。
’91年「かかとを失くして」で第’34回群像新人文学賞。’93年「犬婿入り」で芥川賞受賞。’96年、ドイツ語での文学活動に対しシャミッソー文学賞を授与される。’11年、『雪の練習生』で野間文芸賞、’13年、『雲をつかむ話』で読売文学賞と、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。
世界的な賞も数々獲得している。2016年ドイツの文学賞「クライスト賞」を日本人として初めて受賞。そして2018年『献灯使』がアメリカで最も権威のある文学賞「全米図書賞」翻訳文学部門を受賞している。

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