九年前の祈り (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 71
レビュー : 9
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062938273

作品紹介・あらすじ

三十五になるさなえは、幼い息子の希敏をつれてこの海辺の小さな集落に戻ってきた。希敏の父、カナダ人のフレデリックは希敏が一歳になる頃、美しい顔立ちだけを息子に残し、母子の前から姿を消してしまったのだ。何かのスイッチが入ると引きちぎられたミミズのようにのたうちまわり大騒ぎする息子を持て余しながら、さなえが懐かしく思い出したのは、九年前の「みっちゃん姉」の言葉だった──。
九年の時を経て重なり合う二人の女性の思い。痛みと優しさに満ちた〈母と子〉の物語。 表題作「九年前の祈り」他、四作を収録。芥川賞受賞作文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 第152回芥川賞受賞作。

    芥川賞というと、合う合わないがスパーンと訣れることが多いのだけど、この作品の重みは好き。
    いわゆるムラ社会色の強い熊本の小さな集落に、カナダ人とのハーフである息子、希敏(ケビン)を連れて出戻ってきたさなえ。
    彼女は同じ故郷に住む「みっちゃん姉」と呼ぶ、かつて共にカナダを旅した初老の女性に逢いに行こうと思い立つ。

    ともすれば、ムラ社会のしがらみを強く意識させる母と、反する生き方を選んでしまうさなえのドロドロになりそうなのに、この「みっちゃん姉」の存在が作品世界の色そのものを変える。
    まださなえが若い時分、集落の女性達が、ジャックという先達を伴ってカナダ旅行に行く。
    旅の中でさなえは、年の離れたみっちゃん姉の中にある、明るさに潜んだ哀しみを見つける。

    その時は声のかけようもない「感じ」を、巡り巡って自分の影の中に見出したとしたら。
    一概に共感とは言えない複雑な重なりの中で、だからこそ、さなえは彼女を追い求めているように見えた。

    他の話とも繋がりのある短編集。
    どの話でも、一番逢いたい人には逢えないままに筋が進んでゆく。
    逢おうと思い立ったその感情は、逢えるその瞬間までに、思い出を伴って濃いものに変化してゆく。

    そうか。逢うことだけが大切なのではないのか。
    そこに至る過程の中で、その人との距離や時間を相対化しながら、改めて自分を見つめる時間が生まれる。
    その過程を、とても快く感じた。

  • 九州の片田舎、離島、カナダ、結婚、離婚というさまざまなキーワードが絡み合いながら、今と9年前の記憶が交錯する。何度読んでもその都度楽しめる。でもちょっと複雑で、読めば読むほど面白くなる作品だと感じた。再読することになりそうだ。

  • 芥川賞受賞作の表題作を含む4編が入る。連作というのか登場人物が重なる短編集。危惧したとおりでやっぱり芥川賞受賞作って何が言いたいのか、何を描いているのか読み解くのが難しかった。
     小野さんは大分県の現・佐伯市の出身で、4編ともそのあたりが舞台になっている。自分にとっての小野さんのイメージって「日曜美術館」の司会をしてたり、そのときのファッションとか見ても都会的でややクセのある人という感じだったので、大分の田舎町が舞台というのは意外な感じだった。
    巻末に芥川賞受賞時のスピーチが載っていて、そこでは小説のなかの登場人物のモデルであろう亡兄への感謝が語られていて、それがよかった。都会的なイメージ・印象の小野さんだけど大分にしっかり根っこがあるんだな、そのことを大切にしているんだろうなと感じた。

  • 小野正嗣さんは、『水に埋もれる墓』『にぎやかな湾に背負われた船』と読んで、興味のある作家となった。どの作品も郷里である大分県のリアス式海岸にある小さな集落に根ざした物語だ。一方で小野さん自身はフランスに長く住んでいてインテリのイメージがある。そのギャップに興味がわく。いまの時代はグローバル化とローカルの再発見が同時進行していると思うのだが、小野さんの小説はローカルに徹底し、血の繋がりならぬ地の繋がりを見据えた先に、人間の悲しさや愛しさが描かれている。特にこの小説は、他界したお兄さんに捧げられている。付録に収録された芥川賞のスピーチが心を打った。

  • 初小野。芥川賞受賞作。表題作。ま、偏見だが女性が描きそうな内容に感じました。希敏は障がい者なのだろうか?そんな子を何処か憎みながら接している母・さなえ。みっちゃん姉他、おばさんたちはよう描けていましたw 他全四篇は同じ場所を舞台にした作品集のようだ。付録の文章を読み「嗚呼、だからか…」と、この何とも云えない重い気持ちの原因は。人生が生き写しのように描かれていました。

  • -

  • 文学とは、与えるものである。

  • 芥川賞受賞作文庫化!優しさに包まれる母と子の物語 さなえは、故郷の海辺の町へと戻った。幼い息子、希敏とともに。母子の前から姿を消した父親。〈引きちぎられたミミズ〉のように大騒ぎする子を持て余しながら、さなえの胸には、九年前のあの言葉がよみがえる。

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著者プロフィール

1970年、大分県生まれ。小説家、仏語文学研究者。現在、立教大学文学部文学科文芸・思想専修教授、放送大学客員准教授。2001年、「水に埋もれる墓」で朝日新人文学賞、2002年、『にぎやかな湾に背負われた船』(朝日新聞出版)で三島由紀夫賞、2015年、『九年前の祈り』(講談社)で芥川龍之介賞受賞。エッセイ集に『浦からマグノリアの庭へ』(白水社)、訳書にV・S・ナイポール『ミゲル・ストリート』(小沢自然との共訳、岩波書店)、ポール・ニザン『アデン・アラビア』(河出書房新社)、アキール・シャルマ『ファミリー・ライフ』(新潮社)ほか多数。

「2018年 『ヨロコビ・ムカエル?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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