教誨師 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062938679

作品紹介・あらすじ

半世紀にわたり、死刑囚と対話を重ね、死刑執行に立ち会い続けた教誨師・渡邉普相。「わしが死んでから世に出して下さいの」という約束のもと、初めて語られた死刑の現場とは? 死刑制度が持つ矛盾と苦しみを一身に背負って生きた僧侶の人生を通して、死刑の内実を描いた問題作! 第1回城山三郎賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  •  昨年末に柚月裕子さんの『教誨』を読んで教誨師の仕事に関心をもち、本書を手にしました。
     読後、「よくぞ本書を世に送り出してくださった!」と、著者の堀川惠子さんには敬意を表する以外にありません。
     全く知らない異世界事実の重さに、圧倒されました。50年間にわたり、死刑囚と対話し刑の執行に立ち会った教誨師・渡邉普相。本書に記されているのは、ひとりの僧侶の目に映った「生と死」、そして「教誨師としての苦悩」の告白です。

     法治国家日本の「死刑制度」への疑問は、本書を読むほどに増します(個人的に死刑反対論者を公言するものではありません)。被害者遺族の心情も大切ですが、死刑廃止により凶悪犯罪の抑止力が落ち、増加の懸念が‥などあるでしょうか?
     この問題には、死刑判決を下す司法、刑を執行する行政いずれにも高いハードルがありそうです。
     そもそも、人は人を裁けるのか、人が人に死刑を執行できるのか、更には人は人を救えるのか‥。これらは、当事者でない圧倒的多数の私たちにとっては、全くの他人事です。だからこそ、本書の価値が高く、多くの方々が読むべき必読書だと思います。

     ちなみにネット情報によると、世界的には死刑の廃止が進んでおり、(2021年現在)死刑廃止は108カ国(196カ国中)。10年以上執行がない事実上の廃止を加えると144カ国とのこと。ただ、死刑存続国は、先進38カ国加盟のOECDの中では日本のみ(※米国は50州中23州が廃止)だそうです。

     死刑制度の是非についての議論が進むことを願って止みません。

  • 教誨師(きょうかいし)とは、刑務所等の矯正施設において受刑者の育成や精神的救済を目的として行われる活動を行う者のこと。
    この本は、半世紀にわたり、死刑囚と対話を重ね、死刑執行に立ち会い続けた教誨師・渡邉普相氏へのインタビューを基に構成されたルポタージュである。

    渡邉普相氏は、広島出身の浄土真宗の僧侶で、原爆の被爆者だ。晩年はアルコール依存症にも悩まされながらも教誨活動を行った。
    教誨は、通常、受刑者の社会復帰つまり「生きること」支援するが、死刑の教誨となると「死んでいく」ことを手伝うということになる。渡邉氏は時には自らの活動を死刑という「人殺し」の手伝いと蔑むようなことを言いながらも、死刑囚に寄り添いながら、その心を救済し続けた。それこそ、刑場での死刑執行のその瞬間まで。

    帯に「死刑の裏側が書かれています。」とあるが、まさしくそんな本。
    死刑制度に賛成か反対か、僕の中でもなかなか答えは出ないが、「明日は刑が執行されるかもしれない」という恐怖の中で生きていくことはそれだけで充分過酷な刑罰である気はする。死刑判決後の死刑囚の精神状態は尋常なものではないだろう。
    そして、そんな死刑囚のケアを(なんせ、心身ともに健康に死刑を受けさせなくてはならない)しなくてはならない拘置所の職員や教誨師の精神的苦痛は相当なもののはずだ。「制度がある限り誰かがやらないといけない」という強い使命感を持ってその職務を遂行している。
    そんなことも考えさせられた。

    あと、自分の生をしっかり生きようと。
    平生業成(へいぜいごうじょう)=今こそ大切

  • 50年もの間、死刑囚と対話を重ね、死刑執行に立ち会い続けた教誨師・渡邉普相。「自分が死んでから世に出す事」という約束のもと、語られた死刑の現場とその内実とは。


    刑務所で服役中の囚人に対して、過ちを悔い改め徳性を養うための道を説く「教誨師」を長く務めた僧侶、渡邉普相さんの人生と告白を書いた本。
    教誨師の目を通して書かれるのは、生死に対する無力感や人殺し(=死刑)の手伝いをしながら人を救う事に対しての苦悩。どんなに徳の高い宗教者やベテランの刑務官であったとしても、彼らもまた一人の人間であり、人の死に対して達観しきっているわけではないことを実感します。

    恥ずかしながら、今まで死刑制度について、そこまで深く考えた事がありませんでした。それは、馬鹿みたいだけど、自分と周囲の善性について根拠のない自信があったからですが、そんな事を考えていたのが恥ずかしくなりました。死刑が執行されても、被害者も加害者も誰も幸せにしないと渡邉普相さんは語っていたそうです。そんなことになる前に、犯罪自体を減らす、犯罪者予備軍を減らす社会づくりを、今後は考えていかないといけないのかもしれません。

    ただ”死刑囚”、”僧侶”、”被害者”、”被害者遺族”、”加害者家族”という名称だけでなく、そこに”個”を認識してしまうと、何の疑問も持っていなかった社会システムについての重みがぐんと増して、ましてや死刑囚個人と個々に向き合う事になる教誨師ともなればなおさらその苦しみはどれほどのものなのか。
    言いたいことは色々あるのに言語化が難しくもどかしいですが、ただ、読んでよかったです。

  • その「たったひとり」との出会いにすら恵まれない人生を不運と片付けるのは 何ともやりきれない。
    何度も出てきたこの「たったひとり」との出会い という言葉。誰か信じられるひとや大切に思い思われるひとと どこかで出会っていたら。出会ったことに気づいていたら。

    まさに最期の時まで 教誨師として走り続けた
    篠田龍雄

    自らの身を削り 迷いながらも進み続けた
    渡邉普相

    どちらかの僧侶もまさにこれぞ宗教家。
    相手の心にそっと寄り添うあたたかさ。
    その生き様の激しさに圧倒された。

    買ってから 何度も手に取りながら なかなか読み始めることができなかった本。
    重くて心が暗くなりそうで 日常の中で少しずつ読めるかなぁと思うと なかなか思いきれず。
    新年早々読むにはなぁと思いつつ じっくり時間のあるときと
    いったら 今しかないなぁと決心。
    たしかに重い。たしかにつらい。
    でも 読み始めたら 途中でやめる事はできなかった。
    今まで たくさんの死刑に関わる本を読んできたけど 教誨師がここまで心のうちをさらけ出したのは初めて読んだ。
    正直言うと 教誨師に対して ここまで熱いものがあるとは思ってなかった。あんまりいいイメージなかったし。誤解してたかも。ごめんなさいという気持ち。

    だれも恨まずに その時を迎えられるように。
    被害者の無念さに思い至ることができるように。
    うーん そこまでの境地に至るのは難しいことだろうなぁ。
    もちろん そうなってほしいけど その道の険しさに ため息が出る。

  • 絶対読むべきです!

    『死刑反対か賛成か』
    そんな薄っぺらい言葉で語られるような、
    本ではありません。

    人間が人間を赦すということが
    どういうことか?
    読んでいて時に、
    その重さに押し潰されそうになります。

    死刑囚の重荷を一緒に背追い込んで、
    それを墓場まで持っていかなければならない
    (そんな苦痛を伴うにも関わらず、ボランティア)
    教誨師の苛烈な苦悩。

    その活動には、
    尊敬の念しかありません。

    この本によって、
    教誨師としての活動が
    もっと多くの人に認知され、
    死刑制度について沢山の人が議論する
    きっかけが生まれることを願います。

  • 死刑囚に「救い」を与えることは出来ない。

    そのような結論に至ってもなお、どうにか救ってあげたい一心で死刑囚と向き合う教誨師。

    このような厳しくも尊い役割について、私たちはもっと知ろうとしなければならない。
    世界的には少数派となった死刑制度をとる日本においては特に。




  • 非常に興味深い本だった。
    犯罪者や犯罪心理的なものにもともと興味があったという事もあり非常に読みやすい。

    死刑については、賛成か反対かは非常に難しく結論が出せない。

    とりあげられてた各死刑囚の話は1970年代以前ということで、最近の死刑囚とは罪を犯す理由や心理的な変化はあるのだろうか?

    被害者遺族も死刑が執行されて必ずしも浮かばれるわけではないよう。
    逆に恨む相手がいなくなり、気持ちのぶつけ所がなくなるという話も聞いた事がある。
    でも、死というものに直面し反省や後悔するのも一理あるっちゃあるかとは思う。

    死刑執行の様子は知っていたがそれぞれの死刑囚がどういう状況なのかは知らなかったので、すごく印象に残った。

  • 堀川惠子『教誨師』講談社文庫。

    死刑囚と半世紀に亘り対峙した教誨師・渡邉普相の告白の記録。渡邉普相は人間として、僧侶として死刑制度の矛盾と己の苦しみを包み隠さず全てを素直に告白している。

    死刑制度とは被害者の代理制裁なのか、更正不可能者の社会的抹殺なのか…いずれ社会に戻れる無期懲役などと比較しても、余りにも不可解な制度だと思う。

    第1回城山三郎賞受賞作。

  • 「教誨師」と言うお仕事がある事すら知りませんでした。

    深すぎるテーマで、簡単に感想を述べる事ができません。
    が、犯罪はあまりにも多くの人々を不幸にしているのは間違いないと思います。

  • 以前この方の本を読んだので

    引き続き読んでみたいと思ってこの本を選びました。

    死刑囚という人達を見たこともない私にとっては、
    メディアの情報のみから受ける印象しかありませんでした。

    数々の接点やタイミング 条件が違っていれば
    彼らは死刑囚というほどの犯罪を犯さずにすんだかもしれない。

    私達は人を裁く事は できない。
    でも、罪を犯した人をほおって置く事もできない。
    まして 死刑を!と 声高々に言えないし、廃止!とも 言えません。

    この教誨師の死刑囚に対する態度などは 
    他の場面でも共通の事なのかもしれないと思った。

    多くの人の命を 目の前で失い
    僧侶といっても つらかった事だと思います。

    しんどい本ですが 若い人たちにも読んでもらいたい
    一冊です。

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著者プロフィール

1969年広島県生まれ。『チンチン電車と女学生』(小笠原信之氏と共著、日本評論社)を皮切りに、ノンフィクション作品を次々と発表。『死刑の基準―「永山裁判」が遺したもの』(日本評論社)で第32回講談社ノンフィクション賞、『裁かれた命―死刑囚から届いた手紙』(講談社)で第10回新潮ドキュメント賞、『永山則夫―封印された鑑定記録』(岩波書店)で第4回いける本大賞、『教誨師』(講談社)で第1回城山三郎賞、『原爆供養塔―忘れられた遺骨の70年』(文藝春秋)で第47回大宅壮一ノンフィクション賞と第15回早稲田ジャーナリズム大賞、『戦禍に生きた演劇人たち―演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇』(講談社)で第23回AICT演劇評論賞、『狼の義―新 犬養木堂伝』 (林新氏と共著、KADOKAWA)で第23回司馬遼太郎賞受賞。

「2021年 『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

堀川惠子の作品

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