水に犬 (モーニングKC)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・マンガ
  • / ISBN・EAN: 9784063284393

感想・レビュー・書評

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  • 『JIN 仁』完結をひと区切りにする6月に出た原画+エッセイ集『終りなき旅』を契機に、私もこれまでの村上もとかをもう一度きちんと捉え直そうと全マンガを再読していたら、本書を未読なのに気がつきました。

    この本の主人公は、タイ内務省警察局中央犯罪捜査部(CSD)第7課のボスで、スラム出身だけれども名門大学卒のワッサン大佐。彼はタイ全土で日ごと夜ごと凶悪犯罪と格闘するエリート刑事だが私生活は日本人妻を愛する食いしん坊の呑気なおじさんという憎めないキャラ。清濁入り乱れた混沌のタイの社会情況を、悪戦苦闘しながらもマイペースで生きているという、これは村上もとかがタイを舞台に繰り広げる人間ドラマです。

    全体は三部構成で、第1部は・・・
    男女ふたりの遺体がバンコクの港で発見されたが、それは全裸で片手を針金でつながれ、銃撃後に顔面をつぶされた状態だった。男は日本人のやくざで女はタイ北部の村の出身で少数民族の売春婦。
    ふつうは警察管轄の事件だが、投書があって、この事件にヘロイン取引がからんでいるかもしれないと、ワッサン大佐は殺害された娘が働いていた店の摘発に乗り出す。

    第2部  NGOからの情報は、違法な森林伐採がミャンマー国境地帯で組織的に行われているとのこと。北部国境近くで、秘密裏にタイ国内のチーク材を大量に伐採しミャンマー産と偽装して運ぼうとしているというらしい。

    第3部  ワッサン大佐がレストランで食事中に、暴走車が突入。運転手は即死状態の頭部を銃撃され男、そして車内からは大量の宝石が発見され、しかもそれは精巧に偽造されたもの。遺体は内務省警察局の捜査官で、これは大規模な宝石偽造スキャンダルに発展しそう。

    賄賂を一切受けつけず清廉潔白な警察幹部のワッサンは、マフィアやヤクザ、さらに腐敗した軍や警察の上層部相手にも、恐れずひるまず捜査を実行していくけれど、こんなにも誰でも彼でも摘発しまくっていると、いつかは疎んじる奴らに消されてもちっとも不思議じゃないんじゃないの、と心配になってしまいます。

    それから、彼はそうとうのグルメで、毎回食事シーンがどどーんと頻繁に出てくるのですが、
    「うまい物を食うのはセックスするのと同じだよ 特にタイの料理は世界で一番官能的な味だから」

    なんてふうに奥さまに言ってのけます。そんな豪放磊落な彼の人間性がとても素敵で魅かれます。

    それから、この首をひねりたくなるようなへんてこりんなタイトル「水に犬」には、いったいどんな意味があるのでしょう?

    警官でも誰でも、人間はいつでも好むと好まざるにかかわらず、濁った水の中にどっぷり浸かりながら生きていかなければならないこともあるけれど、そしてひょっとして向こう岸までたどり着くことができないかもしれないが、たとえ犬のように惨めに溺れながら沈んでいこうとも、けっしてあきらめず全力を尽くして生きてゆこう、というような意味かななんて考えました。

    それに、彼のいつも言う言葉が「マイペンライ」ですが、これは英語では No Problem みたいな感じで、大丈夫、とか、のんびりいこうよ、とか、まあいいか、のようないろんな意味を含んだとても重宝する言葉だそうです。

    タイ語はボキャブラリーが少ないそうですが、その方面の話題は、いま現地におられるsagami246さんに詳しいことはお願いするとして、あとはとにかく食いしん坊の彼で、本当に毎回食事シーンが出てきて興味をそそられますが、そういう方面でのレクチャーもよろしくお願いしまーす。

    たとえば、カポ・プラーのスープ(干した魚の胃袋のスープ)やパッ・ペッ・ムー・パア(イノシシ肉の唐揚げ甘炒め)とか、トート・マン・クン(エビすり身サツマ揚げ)や、トート・マン・プー(カニすり身サツマ揚げ)とか、トム・ヤム・タレー(魚介入りの辛いスープ)やクン・パオ(エビの炭火焼き)とかカオ・トム・プラー(魚入りのおかゆ)など未知なる料理が美味しそうに描かれていますが、それにもましてこの作品の唯一無二の特徴は、なんといっても村上もとかのマンガにおいて例外的に、濡れ場、があることです。

    子供の頃から旧知のタイ料理店の美人店主チャラライに誘われて、つい、というものですが、3頁にわたるチャラライの裸体は美しく、特に3枚目は1頁まるまるを費やして彼女の裸身だけを描いたもので、村上もとかの確かなデッサン力に今さらながら驚嘆するというところですが、彼のモットーとしてでしょう、あからさまな絡みはなくただ女性の恍惚情態の裸像のみというのがまた官能的なのです。

    これは、今から18年前の村上もとか42歳の時の逸品です。

  • タイの警官が主人公。活気あふれるバンコクの裏の顔、そして警察や政府の腐敗。それらに対し、肩肘張らずに、しかし矜持は失わず、酸いも甘いも噛み分けながら、「マイペンライ」で立ち向かっていくスタンスがいい。
    心温まる中にもほろ苦い話です。
    あと、作中に出て来る食べ物がやたらに美味しそうです。

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著者プロフィール

"1972年、集英社・週刊少年ジャンプにて『燃えて走れ!』でデビュー。『JIN-仁-』『龍-RON-』『六三四の剣』などのヒット作多数。ドラマ化、アニメ化された作品も数多い。

「2014年 『メロドラマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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