私家版鳥類図譜 (KCデラックス モーニング)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 32
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784063346947

感想・レビュー・書評

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  • 個人的にはモズは好き
     ホムチワケの関係がなんか、いつもの諸星先生ぽいといふか、老けたなといふか。最後になんかの感動が出るんだけど。
     「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らぁん」
    といふしょーもないのがなんか、クる。

  • 古本屋でふと手にとった一冊。2000年始めの頃の「鳥」をテーマにした短編集。特に50pの中編「本牟智和気(ホムチワケ)」が素晴らしかった。諸星大二郎の古代漫画は、いつも映画や小説では未だ描かれていない古代を描いているのだが、その描き方は、一旦紙に描かれてしまうと、たとえどんな奇異なことが起きようとも、それしかあり得ないような世界を創造してしまう。そもそも四世紀の日本など、今迄小説にはほとんど描かれない。文献がないからである。

    ここで描かれていることは、もちろん「古事記」を下敷きにしているのだが、彼らの服装や巫女の立ち位置、神籬(ひもろぎ)の描写、伯耆の国の砂丘と森との関係などは、ちゃんと考古学的な知見に基づいて描かれているので、とっても説得力があるのだ。

    考古学は、たった一つの真実(らしきもの)をいうために無数の事実を積み重ねて無数の小さな定説を築き上げてゆく。漫画や小説は、たった一つのウソを描くために無数の事実を散らばめてゆく。この場合のウソは、本牟智和気の幼児の頃の戦災のトラウマで、魂が鳥になっていたのが、出生の地の出雲に帰った時に魂を取り戻し呆けた純粋な青年が残酷で優秀な皇子に変身する話である。

    最後の場面はこのように結んでいる。「古代、人の魂は鳥の形をしていると信じられていた。」(←これは考古学的な知見であり、数々の証拠がある。しかし、諸星大二郎が描いたような形の鳥かどうか、また位置付けもこれで正しいのかは心許ない)「本牟智和気は出雲へ進撃し、目的を果たした。その後大王は、本牟智和気のために、鳥を取ったことに因んで、鳥取(とっとり)部を定めた。伯耆の国(鳥取県)の古代の物語である」(←出典は記紀神話だと思うが、登場人物たちの性格付けはかなり変わっており、侵略者に成る前の本牟智和気を、私は好きである)

  • 以前仕事で学生向けのコンテストを実施したことがあった。写真やイラストを利用した広告を募集したのだが、多くの学生さんが参加しやすいように、と募集要項を決めるときに、なるべく緩やかに広い内容にした。媒体もなるべく自由にと、広告のテーマは与えるけどそれは雑誌やポスターでも構わない、自由な発想で媒体も決めてほしいと。

    どうしようかな学生さんから、「ビル全体をラッピングした広告です、納品はどうしましょうか?」なんて言われたら、そんなでっかいものオフィスにおけるかな~とか、「体全体にボディペインティングをして広告にしたんですけど写真でいいですか?自分が出向けばいいのでしょうか?」なんて問い合わせとかあったら、それって質問っていうよりもやや緩やかな攻撃じゃん?!

    なんて。ふふふふん、楽しみだなぁどんなムチャがくるんだろう。


    ところが。
    実際にあたしが受けた質問と来たら、「できれば媒体を決めてもらって、雑誌なら雑誌にして欲しい。デザイン系の雑誌なのかビジネスなのか、実際の雑誌だともっとイメージしやすいんですけど」「何月号で訴求先は具体的にどこでしょうか」「サイズをできれば1つにしてきめてほしい」

    あたしは自由にしたほうが想像力を発揮できるのかと思ったんだけどその逆だった。みんなが寄ってたかってあたしから引き出そうとしたものは制限と決め事。ちょっとビックリ。そんなもんなのかな?自分でこうこう、と仮定をたてて、それに対してはこれが効果的、そういったアプローチって逆に、難しいんだろうか?


    なんでそんなことを考えていたのかと言うと、今日のマンガがすべて、鳥縛りだったから。ただしその定義は広くて、怪鳥から天使まで、およそ羽があるものは全部含む~~みたいな感じだったんだけど。鳥にまつわる、というテーマで一番あたしが気に入ったのは最後の「鳥を見た」。ここでは少年たちのちょっとすれ違い気味の友情?のようなノスタルジックなエピソードが語られるんだけれど、病院でほとんど外出できない少年が、鳥を見に行きたいけれど怖い、憧れと恐怖が自由に対するそれなのかと思ったら軽く反転したちょっとしたサスペンスに、という転換が美しかった。

    縛りがあるというのは時に、集中と精査を生むのかもしれない。作者もそうだろうけれど、実は読者側も。こういったテーマなのですよ、この制約の中でこう知恵を絞ったのです、といわれれば比較もしやすいんだろう。

    ま、件のコンテストもそうだ。もしボディペインティングとビルラッピング、ゲリラライブとか一気に提出されちゃったら、さすがに収拾がつかなかったかもしれない。結局は架空の雑誌を決めて、何月号で特集はナニ、ターゲットはこうこうで発行部数はいくらいくら、書店でも売られていて、その表4の広告に。と、決めざるを得なかったあのコンテストをあたしはぼんやりと思い出していた。

    うーんいやでもさ、本当にそれでいいのかな?
    昔コマーシャルで、日本の算数は1+1の答えを聞くけどイギリスの算数は□+□=12とかしてあって、何個も答えを考えるんだ、ってきいて、あーそのほうがずっといいんじゃないかって思ったことがある。想像力って、大事じゃないのかな。かまぼこが海を泳ぐんだって思う子供ばっかりが世の中にあふれて、君と僕だけでセカイが閉じちゃって、いつか「あ、ごめん、こんな簡単に人が死んじゃうなんて思わなかった、でも大丈夫でしょ、ライフをいれたら」なんて真顔で血まみれのナイフを持った誰かに言われたら、あたし、泣くぞ。

  • 「鳥」を巡る幻想譚。
    豊穣なイマジネーションの世界。
    『私家版魚類図譜』とセットで。

  • 鳥をモチーフにした話6編収録。
    読むほどに味が出るような本。

  • 諸星大二郎は偉大だ。確固とした知識と人間性についての深い洞察に裏付けられた空気感のなかにあっては、起承転結のテクニックなど小賢しくもあまりに表層的だ、と思わせてくれる作品が「塔に飛ぶ鳥」なら、底知れない謎のすべてがひとつのコマに劇的に収束する「鳥を見た」においては、その技量の深さに感嘆する。わたしは個人的にはギャグ系もけっこう好き。おやじギャグ満載の「何アホ言ってんじゃ」臭ふんぷんたる感じに、シュールがミックスされている。本作品集では「鳥探偵スリーパー」がそれにあたる。でもつまらない人はつまらないのかもしんないなあ、これ。

  • 再会は何年ぶりかしら?そう、ここ何年か新刊だと喜んで手に取ると、いつも編集本だったり再販本だったり文庫化だったり小説本だったりで裏切られていました。もうマンガ創作はやめたのかも、と、この本もてっきりアンソロジーだとばかり思って未購入でした。一昨日、書店でビニールカバーが破れていたので中を覗いてみたらなんと新刊でした。3年あまり気づかずにいたなんて諸星大二郎フリーク失格ですね。久しぶりのモロ★は、これはこれで満足しましたが、小品のイメージは免れません。ただの読者でなくフリークともなれば強欲さを剥き出しにするもの。『暗黒神話』や『西遊妖猿伝』や『生物都市』『妖怪ハンター』『コンプレックス・シティ』『ぼくとフリオと校庭で』『マッドメン』『孔子暗黒伝』『徐福伝説』ああ、もう全作品を列挙してしまいそう。これだけ名作・傑作を読ませてもらったのに、まだその次を、というのだから残酷ですねファンって、と他人事のように言っております。でも本当に次の傑作を心待ちにしているのは私だけではないはずだと思います。

  • おもしろかった。
    スノウホワイトで興味を持って、諸星さんの作品を探したら、たまたま興味を持っていた本でした。
    可愛い鳥もいれば、不可思議であったり、面白かったり。ここに出てくる鳥って、人間に近いかもしれません。

  • 諸星大二郎作品。この世ともあの世とも知れぬ世界観がとても美しい。

  • 諸星大二郎氏の作品『私家版鳥類図譜 (2003)』を読了。

    ”鵬の墜落 ”と”鳥を見た”がお気に入り。

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著者プロフィール

1974年、「生物都市」で手塚賞入選。「週刊少年ジャンプ」で「妖怪ハンター」連載デビュー。民俗学、中国の古典、SF等を題材に、幅広い分野で活躍する漫画家。代表作に「暗黒神話」「マッドメン」「西遊妖猿伝」がある。その独創的な作風から、高い評価を受け、2000年に手塚治虫文化賞マンガ大賞、2014年に芸術選奨文部科学大臣賞、2018年に日本漫画家協会賞コミック部門大賞等、受賞歴は多い。ジャンルを越え、多くのクリエイターに影響を与えたとされる。

「2019年 『幻妖館にようこそ 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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