- 本 ・本 (386ページ)
- / ISBN・EAN: 9784063709285
作品紹介・あらすじ
持統天皇が即位して、はや6年。次期天皇を決める時期が近付いてきた。律令制定、国史編纂。近代国家の基盤が整ってきた中で、誰もが納得する人物を選ばなければ、国の乱れに繋がりかねない。孫の珂瑠皇子を推したい持統天皇は、敢えて合議制という賭けに出た!
感想・レビュー・書評
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珂瑠がついに。。
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弓削と紀皇女の恋愛
柿本人麻呂の哲学
歌に著された人の気持ちで、公では残せない歴史を残す
言葉の力
讃良は病床につき、孫のかるを天皇に -
持統天皇に老いが迫り、いよいよ皇太子をきめることに。数多いる皇子のなかでも頼りなげな珂瑠皇子を推挙すべく暗躍する藤原史に三千代ら。弓削皇子と珂瑠の正妃紀皇女の密会は二人の運命を大きく狂わせる。忍壁皇子に任された史書の編纂に意見しつつ、独自の歌集を編むべく動き出す柿本人麻呂。そろそろ収束に向かっていろいろなものの運命が気がかりな巻。
珂瑠皇子に譲位して、自らは太上天皇(上皇)という立場を新設して頼りない天皇を補佐しようという持統天皇の気持ちが、平成の退位・譲位に重ね合わせられるような気もしてしまう。 -
第9巻では、弓削皇子と紀皇女の不倫が彼らの破滅を招き、心身ともに疲れ果てた持統天皇は、後継者争いを恐れて荷瑠皇子を天皇とする。しかし、その統治能力を不安に思い、自らは太政天皇となる。疲れた体に鞭打って国造りに邁進する讃良皇女に「ご苦労様」と同情を覚える。
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讃良(持統天皇)の孫、珂瑠が皇太子に即位した。
それにより、珂瑠の第一夫人である紀皇女は皇太子妃となる。
しかし、その後も弓削皇子との不倫関係は続けられたまま・・・。
それを知った弓削の愛人であり、采女の立野は彼に関係を終わらせるよう説得する。
・・・が、もちろん、そんな事を聞くような弓削でなく、結局二人の不倫関係は続く。
そんな中、弓削は讃良に取り上げられ、出世する事となる。
さらには讃良の孫であり、国一番の美女との誉れ高い氷高皇女を妻としていただく事となる。
それにより、あれほど燃え上がった紀皇女への思いはすっかり消え去ってしまう。
そして、全てを知っている立野を疎ましく思う彼は彼女をあっさりと追い出してしまう。
さすがにそれを恨みと思う立野は弓削と紀皇女の不倫関係を洗いざらい、史の愛人に話してしまう。
そして全ては露見。
弓削は失脚し、氷高皇女との縁談話も破談となった。
さらに、紀皇女も妃の立場を解かれ、謹慎処分となった。
だが、皮肉にもそうなって初めて彼女は弓削を愛するようになる。
しかし、その時、男の心はすっかり冷えて切っていて-悲劇が起きる。
今回は男性と女性の愛の違いだとか、男性の薄情さ、みたいなのが際立った巻だと思います。
この頃の女性は男性の愛にすがってい生きるという所が大きく、どうしてもそこの比重が大きくなる。
一方、この時代の男性は今よりも出世する事が人生の生きがいとなる所が大きく、愛だけでは生きられない。
そのギャップによる悲劇。
それは前にも描かれていた但馬と穂積の愛の結末もそうだった。
男性の気持ちも分かる・・・つもりなんだけど・・・、でも一時は愛した女性をぼろ雑巾のように捨てたり、見捨てたりってどうなんだ・・・って思います。
反対に、仕事に身を入れず、紀皇女の事ばかり考える、視野の狭い珂瑠のような男もどうかって感じだけど・・・。
ここではさらに、政治的、歴史的話としては、皇位継承問題について、国史の編さん、それによる人麻呂と讃良の対立、後半では珂瑠に天皇の位を譲り、自分は上皇となる讃良の姿が描かれています。
さらに、この巻でも仏教の話が載っていて、分かりやすく人間の生死について説かれています。
その後の
「その人自身の人生に意味があるかどうかそんなことは答えがあるものではないのです」
「人はただ生きているだけで意味があるのです」
という言葉には心救われる気になりました。
また、今回も体調を崩した讃良のもとを額田王が訪れて讃良にかける言葉がすごくいい。
こんな時にこういう言葉を言ってもらえたらどんなにいいだろう、心がほぐれるだろう、という事を今回も言っていて、ほんのちょっとしか出番がなくでもこれほど印象的な女性はいないといつもながらに思った。
それは何気ない言葉だけど、ただ上っ面の優しい言葉じゃないというのが伝わってくる。
この人は言葉をとても大切にしている、そして心が澄んだ人だ、と思った。
また自分に恨みを抱く亡霊たちに讃良がどなりつけるシーンは圧巻だった。
さすが!!
普通は罪悪感だとか、心の弱さに負けて一気に命を縮める所を・・・。
この女性はどこまで強いんだろう・・・。
こういう人だからこそ、国の基礎を固めるような事業をいくつも成しえたのだろう・・・と改めて思った。
著者プロフィール
里中満智子の作品





