アンダーカレント (KCDX)

  • 講談社
3.97
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  • 本 ・マンガ (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784063720921

作品紹介・あらすじ

ほんとうはすべて知っていた。心の底流(undercurrent)が導く結末を。夫が失踪し、家業の銭湯も手につかず、途方に暮れる女。やがて銭湯を再開した女を、目立たず語らずひっそりと支える男。穏やかな日々の底で悲劇と喜劇が交差し、出会って離れる人間の、充実感と喪失感が深く流れる。 映画一本よりなお深い、至福の漫画体験を約束します。 「今、最も読まれるべき漫画はこれだ!すでに四季賞受賞作で確信していたその物語性と演出力に驚く。豊田徹也は心の底流に潜む、なにかの正体を求めるように静かに語る。」――(谷口ジロー)

感想・レビュー・書評

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  • 映画がとても良かったので、原作の漫画も読んでみることにした。
    沈黙と間(ま)がずいぶん多い漫画だ。その沈黙の中に、“自分の人生なのに自分の人生ではないみたい”……そんな感覚が描かれているように感じた。

    【あらすじ】
    主人公・関口かなえは、亡き父の残した町の風呂屋を経営している。数ヶ月前に共同経営者の夫・悟が何の前触れもなく失踪して以来風呂屋は休業していたが、先の見えない状況の中でかなえは営業再開を決める。
    かなえの風呂屋は薪で風呂を焚くという昔ながらのやり方をとっているため、人手が足りず困っていたが、営業再開後程なくして「住み込みで働きたい」と言う男・堀が訪ねてくる。謎の多い寡黙な男だが、堀は風呂屋の仕事にも常連客にもあっさり馴染んでいく。
    堀と手伝いのおばちゃんと3人で風呂屋を切り盛りしながら、かなえは私立探偵に夫の調査を依頼する。そうして判明した夫の真実はかなえにとっては意外なものばかりで……。


    【感想】
    よく身体を使い五感を刺激する風呂屋という仕事がかなえと堀の人生を支えているのかなと、読みながらふと思った。お湯の温かさや店の賑やかさが感じられるシーンに安らぎを感じ、「この仕事が好きだ」というかなえの言葉に嬉しくなる。
    でも、そんな温かで賑やかな毎日は、いつもかなえの心の外側を滑るように流れているようにも見える。かなえは「しっかり者で気丈な関口かなえ」という役割を生きている。幼い頃に遭遇したある事件をきっかけに、かなえはかなえではなく別の誰かの人生を生きはじめた。傷付いた本当のかなえの心は、深く暗いところに閉じ籠って、ずっと身を隠している。シビアな状況でもかなえの日常がどこか淡々と進んでいるようにも見えるのは、現実の出来事が全て「本当のかなえ」の外側で起こっているからなのかもしれない。

    終盤、学生時代の友人のつてで頼んだ私立探偵が失踪した夫・悟の居所が突き止め、かなえと会わせる手筈を整える。再会の日の朝、かなえは無表情でイヤリングをつけ、口紅に手を伸ばし、口紅を引きかけて(引きながら?)鏡を見つめ、口紅を置く。このシーンがとても好きだ。

    風呂屋を手伝うおばちゃんと変わり者だが憎めないサブ爺は、映画よりも原作の方がずっとアクの強いキャラクター。自らのアンダーカレントに潜り込んでしまいそうな、引き摺り込まれていきそうなかなえや堀さんの心を、この2人が現実の生活に繋ぎ止めているように感じた。

    また、漫画と映画ではラストシーンが少しだけ違う。映画には原作にないワンシーンが最後に流れる。先に映画を観たときには、余韻を残す何ともいえない終わり方だと思った。でも、漫画を読んだ後では印象が変わった。あの映画のラストは明確に希望であり、監督の優しさなのだと思う。


    【印象に残った箇所】
    風変わりな私立探偵が、失踪したかなえの夫・悟についてこう述べる。

    人当たりがいい
    面倒見がいい
    責任感がある
    そんなのは その人がその人 たりえてるモノとはなんの関係もないんですよ

    この後、探偵は悟という人物にさらに深く切り込む発言をする。ドキッとしたというかズキンと来たというか。かなえも堀も悟も抱えているものはそれぞれ暗く重たい。かなえや堀と違って、悟の抱えているものには嫌悪も感じるし自業自得じゃないかとも思うけど、一段深い孤独を感じてやるせなくもなる。

  • 「自分のことをわかって欲しい」と言えない苦しみ。それは薄っぺらい承認欲求とは違って、本当は自分の心の奥底に沈めたままにしておきたかったものをさらけ出すことへの恐怖があるからだろう。そして、わかってもらおうとすることをあきらめた閉ざされた心は、他人のそれに気づかなかった。夫がある日突然何の理由も言わずに失踪してしまう事件をきっかけに主人公が「わかってほしい」と言える気持ちを取り戻そうとする歩みと、それを見守る男たちの物語。男たちと書いたのは、もちろんメインは主人公の経営する銭湯に新しく働きにきた男だが、脇の探偵や近所の爺の果たした役割もまた大きいと思った。おそらくキャラのモデルであろうリリー・フランキーは映画版でまたまた儲け役だったなぁ。

  • undercurrent
    1 下層の水流、底流
    2 《表面の思想や感情と矛盾する》暗流

    小説のような豊田徹也の漫画。大雨の夜に読了。

    家業の銭湯を継ぎ、日々の暮らしを営む主人公かなえ。
    8年の時間を共にしてきた夫の突然の失踪。
    その後、町で起こるいくつかの事件。

    ミステリー要素と共に展開される人間の描写。
    探偵山崎の「人をわかるってどういうことですか」という問いかけが
    作中全体を通じて、じわりじわりと投げかけられる。

    長い時間を共にしてきたからといって、
    その人の考え方を知ったからといって、
    その人のことを”分かっている”わけじゃない。
    ”ちょっとした表情とか間とか…沈黙とかそういった”
    言葉にならない本当の言葉の部分に触れることができるのか。

    人に言えない過去を抱えながら生き続けていることへの葛藤や
    今を共にする人に分かってもらいたい・分かち合いたいという願望。
    そういった繊細な心情が人の水面下でゆらゆらとしている。

    死を願うかなえの涙を拭う堀さん。
    夫との最後の別れにビンタではなくマフラーをかけるかなえ。

    undercurrentというタイトルが妙味を持って迫ってくる。

  • 他人をわかるってなんだろう。改めて考え直す漫画でした。登場人物には語らせず表情などから考えを読み取らせるような構成がよかったです。

  • 映画を観てから。映画がすごく丁寧に作られてたのがこちらを読んでよく分かった。原作を一本の映画を観ているような、と評するものがあったが、確かに。
    映画のパンフで、原作のラストは完璧、との監督の言葉があった。でも堀さんが去るのをやめたのかどうかを読者に任されたことよりも、映画の方が良かった。

  • 逃げずに悲しむこと、赦すこと、助けを借りること。

  • きっとまた読み返したくなる作品

    最後、サブじいが堀さんに言ってたことが全てだと思う
    人のことを、その心まで完全に理解することはできない。でも、自分のことは分かってもらえないだろう、言ってもなんにもならないだろうと決めつけて、黙って離れるだけで解決することはない。少しでも分かってもらうために、お互いに分かりあうために言葉を交わす。それで分かり合えるとは限らないし、どういう結果になるかも分からないけど、苦しみを内に秘めても身を腐らせるだけ…

    悟は本当にかなえが好きだったんだろうな
    堀さんが戻ったのが、別れを告げるためではなく、言葉を交わして分かり合おうとするためであって欲しいと思う

  • 小説のような漫画、見事な漫画だった。
    人をわかるってどういうことですか。

  • お借りした本。
    小説みたい。すごくいい、温度感。
    映画になるのかな。たのしみ

  • まいった。人の底流。ほんとうのあなたの心の奥底に流れているものは、誰かに伝えていますか。
    これは傑作。

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