- Amazon.co.jp ・マンガ (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784063720921
作品紹介・あらすじ
ほんとうはすべて知っていた。心の底流(undercurrent)が導く結末を。夫が失踪し、家業の銭湯も手につかず、途方に暮れる女。やがて銭湯を再開した女を、目立たず語らずひっそりと支える男。穏やかな日々の底で悲劇と喜劇が交差し、出会って離れる人間の、充実感と喪失感が深く流れる。 映画一本よりなお深い、至福の漫画体験を約束します。 「今、最も読まれるべき漫画はこれだ!すでに四季賞受賞作で確信していたその物語性と演出力に驚く。豊田徹也は心の底流に潜む、なにかの正体を求めるように静かに語る。」――(谷口ジロー)
ほんとうはすべて知っていた。心の底流(undercurrent)が導く結末を。夫が失踪し、家業の銭湯も手につかず、途方に暮れる女。やがて銭湯を再開した女を、目立たず語らずひっそりと支える男。穏やかな日々の底で悲劇と喜劇が交差し、出会って離れる人間の、充実感と喪失感が深く流れる。 映画一本よりなお深い、至福の漫画体験を約束します。
感想・レビュー・書評
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銭湯「月之湯」を継いだ主人公・かなえには夫が居たが、2ヵ月前に突如失踪。暫く営業を休んでいたが、改めて再開することにした。組合から技師である堀を紹介され、彼の寡黙ながら真面目な仕事ぶりに助けられつつ、順調に銭湯は運営される。しかしかなえには夫の失踪のほかに、ずっと心の奥に閉まっていた辛い過去があった。
本作で出てくる登場人物はみんな極端に口数が少ないけれど、内に各々想いを抱えながら生きている。多くは語らずとも、登場人物のちょっとした心の動揺や変化が伝わってくる絶妙な描写。結局のところ何も変わらないかもしれない。でも、それぞれが前に踏み出せればいいなと思う。 -
稀有な作品だ。カチカチと鳴る時計の文字盤の下に確実なメカニズムが存在するように、目に見える人間関係の[底流<undercurrent>]でじょじょに形をなす因果が描かれる。豊田徹也はひとコマひとコマに緻密な計算をほどこしつつ、あまりにさりげなくその意図を隠す。これもまた本編の[アンダーカレント]である。なんども読み返して、作者の意図を読み解いていく……そんな至福を期待できる、オレ的には2005年ベストの大人マンガ。
なんの前触れもなく夫が失踪。しばらく呆然としていた主人公だが、なかば惰性で家業の銭湯をとりあえず再開した。夫の失踪の真相は? 人手の足りない銭湯を手伝うようになった無口な男の正体は? それでもなにげなく進む日常の奥底で、深く静かに物語が動き始める。
ふつう「失踪モノ」といえば、だんだんと「失踪した人」の意外な素顔とかが浮かび上がるのが定跡というもの。ところが、この話、「失踪された側」しか描かない。作中で、調査を請け負った探偵が主人公に「人をわかるってどういうことですか?」と問いかける。言葉につまる主人公。私は夫の何を見て、夫のことをわかったつもりになっていたのか。読者は主人公とおなじ情報しか与えられないまま、最終回に向けた残りの3話で主人公と同様に振り回される。
失踪した夫のほかに、主人公にはもうひとつ失ったものがあることが、だんだんとあきらかになっていく。それは幼いときの記憶。その代わりによく見る夢がある。泣いている自分をやさしくなぐさめてくれる誰かに、首を絞められたまま深い水の中に沈められる……。
銭湯の手伝いにあらわれる不思議な男。昔はやくざだったという馴染み客のすけべじじい。頼りになるやらならないやらようわからんサングラスの探偵。主人公の前に現れる人物ひとりひとりが触媒となって、すべての伏流がさいごにざっぱーんと波をたててひとつになる。
ストーリーテリングが秀逸なだけではなく、この話は「演出」がものすごくよくできている。風呂に溜まっていくお湯をじーっとみつめる第1話の主人公。最終話を読んだ後このさいしょの一コマに戻れば、きちんと最終話の姿に収斂していく作者の意図が見えるはずだ。主人公と「探偵」との出会いという、前半のキーポイントを迎える第4話。扉に出てくるのはエリック・ドルフィーの『OUT TO LUNCH』のジャケットの切れ端。ジャズファンなら、ドルフィーの怪しげで危うげなフルートが頭の中にひびいてくるはずだ。(そもそも「アンダーカレント」って、ビル・エバンスのアレだろうし) 主人公が見上げる空に見える網の目のような電線。ぴしっとセットしたはずの主人公の髪が、心の乱れとともにじょじょにほつれてくる様子。突然来たはずなのに、まきでタバコに火をつける様子が妙に手慣れている手伝いの男。読めば読むほど、ひとつひとつのコマに、作者の偏執的なまでの計算……いや、そうじゃない……「確信」が隠されているのがわかってくる。この伏線の巧みさが、この物語のもうひとつの「アンダーカレント」だ。
今、渚で白い頭をのぞかせている波は、ここにたどりつくまで海の底で、どれほどの上下動を繰り返してきたのだろう。夫の失踪……という、ある意味手あかのついた感じもするできごとに、どれほどの因果がめぐっているのだろう。人を理解すると言うことはいったいなんだろう。どうして失ってからしか気づけないものがあるのだろう。
『アンダーカレント』は、マンガという表現にどこまで深みを持たせられるかの、ひとつの挑戦であると思う。そして、ものすごい密度と冷たいまでの抑制で、きちんと物語を描ききった好例であるのだ。 -
銭湯を継いだ一人娘に婿入りした同級生だった男は、ある日理由もなく失踪した。友人の紹介で夫の捜索を頼んだ私立探偵と、住み込みで銭湯に雇われたポーカーフェースの謎の男。静かに緩やかに氷解していく隠されていた事実。嘘つき女と嘘つき男。
この人は本当にただの漫画家なんだろうか? かつて漫画は映画であると本に書いた手塚治虫の教授を久しぶりに思い出した。まるで良くできたドラマを1本観終えたような感動が静かに心を揺らす名篇だ。
気まぐれに手にした「珈琲時間」があまりにも面白かったのでずっと探していた豊田徹也の長編は、やっぱりただの漫画とは思えないほど完成された上質の物語だった。道化探偵の山崎がここでも活躍している。ただもう素晴らしいとしか言いようがない。 -
雰囲気がとても好きだった。美しい。
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多くを語らない。
文学的な作品。 -
人を知ること、それをどんなに求めたところで、どうしても知られたくないことはある。対話や過ごした時間ではどうにもならないとこもある。だから世界はこうなっている。
そんな風に考えてしまうのは、悲観的だろうか。 -
物語に大切なものは何かと聞かれたら、その一つに「リズム」と答えたい。著者の作品は初めて読んだけれど、回想や風景の差し込み方は映画的であり、細やかに演出されたリズムに乗って物語に没頭することができた。
大切なものの喪失=不在が、アンダーカレントの姿を明らかにする。痛いほど分かる。再会の場面で語られた悟の言葉は、かなえの苦悩や不安と比べると掴みどころがなく呆気ない。現実もそのようなものかしれない…だからこそ、完璧に理解することは難しくても、相手を分かりたいというその気持ちが尊いのかもしれない。
豊田徹也の作品






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