自閉症の世界 多様性に満ちた内面の真実 (ブルーバックス)

  • 講談社
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本棚登録 : 273
感想 : 17
  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065020142

作品紹介・あらすじ

現代は自閉症が増えている!? 天才や起業家には自閉症的傾向が多い!?
知的障害ではなく、精神疾患でもない、自閉症とはいったい何なのか?
20世紀半ばに研究が始まった自閉症。さまざまな誤解と偏見を経て脳科学的に理解されるまでを緻密な取材でたどりながら、自閉症の真の姿に迫る。現在、「自閉症スペクトラム」としてアスペルガー症候群やサヴァン症候群などの発達障害も含む幅広い概念として捉えられるようになったのはなぜか。知的障害ではなく、精神疾患でもなく、感じ方や考え方が異なる人たちである自閉症者を、人類に備わった「脳多様性(ニューロダイバーシティ)」という新たな視点から捉え直す科学ノンフィクション。
序文をオリバー・サックス(脳神経学者で、映画『レナードの朝』の実在の主人公、『火星の人類学者』などの著者)
「ニューヨーク・タイムズ」ベストセラー、英国で最も権威あるノンフィクション賞BBC Samuel Johnson Prizeを受賞。

自閉症であるとはどのようなことかを理解するために、これほど多くの時間を費やした人を私は彼以外には知らない。(中略)これは、洞察力に富む自閉症の歴史書であり、読者を魅了する物語である。この書物があなたの自閉症に対する考え方を変え、自閉症と人間の脳の働きに関心を持つ多くの人々の本棚に並ぶことになることを切に願う。──オリバー・サックスによる序文より

自閉症、失読症、注意欠陥/多動性障害(ADHD)のような状態は、技術と文化の発展に貢献するそれぞれ固有の強みを持つ、自然に起こる認知的多様性とみなされるべきだ──「序章 自閉症は増えているか」より

感想・レビュー・書評

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  • 脳の話に興味があり時々その分野の本を読んできており、題名からいろんな症例を元に自閉症とはどんなものかということを紐解いてくれる内容かと期待し図書室で借りました。読んでみると、個別の症例は出てくるものの、そこに主眼があるわけではなく、自閉症というものが時代背景や政治情勢、医師や学者や製薬会社の思惑と野心、周囲の人々やメディアの反応によって、当事者も含めてその時々でどんな風に翻弄されてきたのか、そして人々の様々な活動や努力の継続によって、その中でどのようにして誤解や誤診、偏見と間違ったイメージを払拭してあるがままの状態を広く認知させようという試みが現在も続いているのか、ということを詳細に綴ったものでした。ノンフィクションならではの固有名詞の多さ、事実の羅列、専門用語の洪水にときどき睡魔におそわれながらも、大変興味深く読了しました。特に、自閉症スペクトラムの人たち(知的障害でも精神疾患でもない、感じ方や考え方が異なる人たち)が、コンピューターとインターネットの普及によって、対人関係で生じるストレスを最小限に抑えながら自らの経験や考えを発信することが可能になったことが、NT(定形脳、いわゆる「通常の感じ方考え方をする人たち」、自閉症スペクトラムの人たちの反義語)にはこれまで分かり得なかった、想像もしづらかった彼らの精神世界や感じ方に触れる入り口を作ったのだ、というエピソードが印象深かったです。

  • 現代は自閉症が増えている!? 天才や起業家には自閉症的傾向が多い!?
    知的障害ではなく、精神疾患でもない、自閉症とはいったい何なのか?
    20世紀半ばに研究が始まった自閉症。さまざまな誤解と偏見を経て脳科学的に理解されるまでを緻密な取材でたどりながら、自閉症の真の姿に迫る。現在、「自閉症スペクトラム」としてアスペルガー症候群やサヴァン症候群などの発達障害も含む幅広い概念として捉えられるようになったのはなぜか。知的障害ではなく、精神疾患でもなく、感じ方や考え方が異なる人たちである自閉症者を、人類に備わった「脳多様性(ニューロダイバーシティ)」という新たな視点から捉え直す科学ノンフィクション。
    序文をオリバー・サックス(脳神経学者で、映画『レナードの朝』の実在の主人公、『火星の人類学者』などの著者)
    「ニューヨーク・タイムズ」ベストセラー、英国で最も権威あるノンフィクション賞BBC Samuel Johnson Prizeを受賞。

    自閉症であるとはどのようなことかを理解するために、これほど多くの時間を費やした人を私は彼以外には知らない。(中略)これは、洞察力に富む自閉症の歴史書であり、読者を魅了する物語である。この書物があなたの自閉症に対する考え方を変え、自閉症と人間の脳の働きに関心を持つ多くの人々の本棚に並ぶことになることを切に願う。──オリバー・サックスによる序文より

    自閉症、失読症、注意欠陥/多動性障害(ADHD)のような状態は、技術と文化の発展に貢献するそれぞれ固有の強みを持つ、自然に起こる認知的多様性とみなされるべきだ──「序章 自閉症は増えているか」より

  • 原題:Neuro Tribes: The Legacy of Autism and the Future of Neurodiversity (2015)
    著者:Steve Silberman  
    訳者:正高 信男
    訳者:入口 真夕子
    備考:抄訳。
    感想:著者の仕事は素晴らしいのに、日本語翻訳チームが妙なことをしている。抄訳にすること自体は問題ないが、(元の論旨をゆがめるほど)取捨の方針がおかしいうえ、翻訳の質がヤバい。原著を読むことをオススメします。

    ・原著のページ
    [http://stevesilberman.com/book/neurotribes/]

    ・著者へのインタビュー(を訳し2015年12月に掲載した)記事。
      『NeuroTribes』の著者が語る、自閉症のいままでとこれから
    [http://tentonto.jp/?p=8120]

  • 原題はさておいても、内容的には非常によい本でした。なんでもかんでもダイバーシティでくくるのには違和感ありますけれど、それ以上に自閉症をめぐるカナーとアスペルガーの考え方の違いやその後の治療の変遷、レインマンの話など非常に記述がしっかりしているのでとてもよいと思いましたね。自慢じゃないけど自閉症関連本でこれはいいなと思える本はほとんどないのだけれど、これはいいなと思えました。

  • 自閉症スペクトラム障害の入門としては難しいかもしれない。歴史を含めて極めて情報量多く、本格的。

  • 自閉症スペクトラムの発見から迫害、再定義に至る歴史をひもとく。
    当初からどれだけ偏見と差別にあってきたのか。
    各時代の親に感情移入してしまい、読むのが辛かった。
    その分、世界初の親の会発足、そして映画レインマン効果のあたりは胸が熱くなる。

    脳の働き方には個性があり、「脳多様性」がある。
    一般的な定型脳に対し、自閉スペクトラムは少数派なだけで、パソコンで言えばOSの違いみたいなもの。
    脳多様性があることを認め、それにあった環境を整えることが大事。

    やや読みづらい部分もあり、長大な本だったけど、読んでよかった。

  • 自閉症がどのように発見され定義されてきたかの歴史

  • ピンク色のハイライト | 位置: 86
    近年、脳多様性(ニューロダイバーシティ:neurodiversity)という概念が流布しつつある。自閉症、読み書き障害、注意欠陥/多動性障害(ADHD)のような状態は、技術と文化の発展に貢献するそれぞれ固有の強みを持つ、自然に起こる認知的多様性とみなされるべきだという理解である


    ピンク色のハイライト | 位置: 397
    現在では、カナーの自閉症の考えは間違っていたことが分かっている。彼は数十年間にわたり、彼のいう自閉症が子ども時代に限られ、しかもごく限られた子どもにのみ見られる障害であるという定義を信奉してきた


    ピンク色のハイライト | 位置: 404
    カナーは、自閉症をただ奇妙な認知スタイルでもなければ、もう一つの心のあり方でもなく、不十分な子育てにより引き起こされた、統合失調症と同じような子ども時代の精神病の悲劇的な形態であると考えていた


    ピンク色のハイライト | 位置: 407
    スペクトラム・モデルの立案者は、ローナ・ウィングという自身も自閉症の子どもを持つ母で、イギリスの心理学者だった


    ピンク色のハイライト | 位置: 489
    子ども一人一人に学習目標を設けた計画、IEP(Individualized Education Program:個別教育計画)を作るために、学校の教師とどのように効率良く連携すれば良いかも理解している。一九七五年に議会が「全障害児教育法」(一九九〇年に「個別障害者教育法」へ名称変更)を可決するまで、障害を持つ子どもたちは、どのような障害であれ教育を受けることを拒否されるのが当たり前であった。とりわけ自閉症の子どもたちは、ほとんどの心理学者でさえ、暗記も学習もできないと考えていたため、学校、学界からも偏見にさらされていたのだった。こうした主張は一九七〇年代に誤りであると分かった。だが差別は続いており、障害を持つ子どもの家族同士が互いに連絡をとりあって、障害者教育法によって保障された教育を子どもたちが受けられるよう、地道に学校関係者にはたらきかけを行っている


    ピンク色のハイライト | 位置: 1,042
    アスペルガーは子どもたちとただ座って、お気に入りの本の中から詩や物語を読みきかせた。「私は、子どもを外から刺激したり、距離を置いて冷静に観察したり、指示を出してみたりするやり方を好まない。それよりも、子どもといっしょに遊び、話し、子どもが私と話をするなかで、どのように気持ちをかよわせようとするのか、その様子を観察したい」とよく言っていた


    ピンク色のハイライト | 位置: 1,630
    同時にナチスは、オーストリアの精神病院の患者を誹謗するプロパガンダをエスカレートさせていく。国家社会主義党の公的機関紙は、「思いやることの酷さ」および断種礼賛の見出しと共に、ほくそえむ「知的障害者」、ゾンビのような「精神障害者」、そして奇形の乳児のイラストを一面すべてを割いて掲載した


    ピンク色のハイライト | 位置: 2,729
    フランクル夫妻がいなくなったことで、カナーにとって、自閉症患者が成年期以降どういう人生をたどるか追跡することが困難になった。加えて、障害が両親や親戚に見られる異常と関係しているのではないかという、ウィーン以来考えられてきた研究の継続性も失うことになった。アスペルガーは、まさにこういう状況から、患者の家系と当人が受け継いだ才能と資質を、すなわち障害の遺伝的ルーツを、「患者のパーソナリティの社会的価値」ととらえていたのだった。他方、カナーはというと、のちに世間で「冷蔵庫マザー」という名称で知られるところとなる、悪魔のような養育者の影響を、自閉症の原因として想定するようになっていくのである


    ピンク色のハイライト | 位置: 2,772
    この理論は、自閉症児の奇妙な物事への関心と驚嘆すべき記憶力についての、カナーの考え方に決定的なインパクトを与えた。子どもたちが実際に、それほどまでに物事の細部に関心をいだき、情熱をかたむけることが彼には信じられなかった。それらを混沌とした世界からデータを体系的に獲得していく特殊な形式の知能であるとアスペルガーと同僚が考えたのに対し、カナーは親が我が子を愛するがゆえに、とんでもない知識を発達早期から詰め込んだ結果だと批判した


    ピンク色のハイライト | 位置: 2,829
    残念なことに、カナーは自分のデータを考察するにあたり、ほかにも誤りを犯していた。その結果、以後四〇年にわたり、自閉症研究について関心がもたれることがあまりない状況が続くことになるのである。すなわち自閉症という障害がどの程度に広汎に存在するかを推測するにあたって「非常に稀である」と断定してしまったのである


    ピンク色のハイライト | 位置: 2,932
    そして自閉症の子どもが他人に背を向けるのは、彼らが「解凍されない冷蔵庫にほうりこまれたままで」、孤独に慰めを求めたからだとしめくくった


    ピンク色のハイライト | 位置: 3,899
    子どもが自閉症になる理由の解釈としての毒親仮説を葬り去ってくれたのは、自分自身も自閉症の息子を持つ、一人の愛情深い父親だった。彼の名前はバーナード・リムランド、アメリカ海軍所属の心理学者であり、温かい心の持ち主で、話好きでこの上なく好奇心の強い人物であった


    ピンク色のハイライト | 位置: 4,310
    当時のアメリカで心理学を専攻する学生のほとんど誰もがそうしたように、ロヴァスも精神分析学者をめざしていた。しかし、彼にはその才能がなかった。「よく患者たちに『あなたに相談すればよくなる、そういうことですか?』と聞かれて『そうですよ』と答えたものだよ。でも、彼らがよくならないことはしょっちゅうあったんだ。それどころか、病状が悪化したこともあったね」。ソファで自由にくつろぐ患者に興味があるふりをするのにうんざりした彼は、シアトルの上流階級のわがままな御曹司たちに宿を提供するような施設にすぎなかったピネル研究所で、精神科の看護助手のポストに就いた。夏に、二人の患者が二階の窓から舗道にとびおりて自殺した。「医者たちはみんな医学的治療重視だったので、あたかも伝染病であるかのように『自殺の流行』と呼んだんだ」とロヴァスは不快そうに思い出した。すぐに彼は、理論偏重の精神医学の偏った推論に我慢できなくなった。同僚たちがシンポジウムでだらだらしゃべり続けるのを聞いた後で、「彼らは世界が燃えたのにヴァイオリンを弾いている皇帝ネロみたいだったよ。戦争を目にしていかにそれが人々にとって恐ろしいものなのか知ったら、意味のある存在になりたいはず──この世界のために何かしたいはずなんだ」と語った


    ピンク色のハイライト | 位置: 4,338
    スキナーのモデルを人間に応用するため、ビジューは先行事象(ある行動にとって、その直前にあったこと)と結果事象(その行動によってどんな結果が得られたのか、実験者が行動の頻度をふやしたいのなら報酬、減らしたいのなら消去)という観点から行動を分析した。彼はこの関連を詳細に記録し研究することを「行動分析」と呼んだ。先行事象と結果事象を実験的に操作することで、ビジューは行動分析が被験者の反応に変化をもたらす強力なツールになり得ることを発見した


    ピンク色のハイライト | 位置: 5,497
    混乱した状況を打開するため、ローレッタ・ベンダーはミルドレッド・クリークを促して専門家による作業部会を招集し、彼女が「小児期の統合失調症の症状」を明示したことにより、一連の統一化された基準というものがはじめて策定されることになった。九ヵ条(Nine Points)として知られるようになる、これらの基準は自閉症研究に、そっくりそのままもちこまれることになっていく。 一、他者との大局的かつ持続的な情動的関係の欠落 二、年齢に不相応な、自身のアイデンティティーについての認識不足 三、機能に関係のない、特定の物事あるいはそれらの持つ特定の特徴への病的なこだわり 四、環境の変化に対する持続的な抵抗、変化した状態を元にもどそうとする異常なまでの情熱 五、(はっきりとした器質的異常を欠く中での)異常な知覚体験 六、頻繁に起きる急性かつ過度で一見して理屈のとおらない不安 七、発話の消失、未習得、あるいは低年齢レベルにしか到達しない言語発達不全 八、運動型のゆがみ 九、全体として重度の遅滞であるにもかかわらず、並外れた知的機能・技能が散見されること  このリストでは、カナーのモデルからは大幅な変更が加えられている。とりわけ、知的障害や結節硬化のような器質性疾患もまた、臨床像に不可欠な要素であるという考えがいままでと大きくちがっていた。カナーが明らかに、カナー型症候群が定義する範囲を確定できなかったように、クリークのNine Pointsも実際に臨床的に適用するのはむずかしいことが判明した


    ピンク色のハイライト | 位置: 5,721
    アスペルガー自身が用いることはなかったアスペルガー症候群という用語を、最初に考え付いたのはローナではなかった。ドイツ人心理学者ゲルハルト・ボッシュが、一九七〇年に出版した著書『小児自閉症』の中で、「アスペルガーとカナー」症候群について言及し、「我々の経験からいって、ふたつの症候群の間には中間的な領域があると思われ、どちら側であるのかを簡単に、かつ明確にわけることはできない」と結論を下していた。そこでカナーが早期小児自閉症について取り組んだように、ローナはアスペルガー症候群を体系化し、腕時計をふたつ装着する男や五名の若年成人についての記述など、彼女自身の一連の症例をまとめた『アスペルガー症候群:臨床報告』を執筆した。その論文が公刊されたのは一九八一年のことである


    ピンク色のハイライト | 位置: 6,258
    モローは、映画が公開された直後に届いた、ある母親からの手紙を読んだことで、自分が一役かったブームの一端を初めて見た思いがしたという。息子がほとんど必ずパニックになってしまうため、買い物が苦しい試練であり、そのような手のつけられない子どもがいることで他の母親たちから、いつも非難を受けてきたと彼女は書いていた。しかしつい先日、市場で出会った女性が、こちらの身をすくませるようなまなざしで彼女をにらみつけたとき、こう尋ねたのだという。 「『レインマン』をご覧になりました?」 「あら、もちろんよ」とその女性は答えた。「あの映画が大好きになったわ」。 「そうですか、息子のジョニーはレイモンド・バビットと同じなんですよ」  相手の女性の表情が穏やかなものに変わった。「まあ、ジョニー」と彼女はいった。「自閉症なの? 納得したわ」


    ピンク色のハイライト | 位置: 6,368
    DOP(data-oriented people:データ指向派


    ピンク色のハイライト | 位置: 6,464
    マーティン・バックスは、患者数の増加について世界で最初に注意を呼びかけた臨床医のひとりであった。非常に才気あふれるロンドン在住の小児科医で、前衛美術や詩や性愛文学をテーマにする『Ambit』という雑誌を創刊した人物である(定期的寄稿者には、J・G・バラードやラルフ・シュテッドマンやデイヴィッド・ホックニーがいた)。一九七〇年代に執筆した『病院船(The Hospital Ship)』という名のディストピア小説は、精神病が世界的にまん延した結果、大勢の子どもたちが自閉症になるという話であった。一九九四年までには自分が描いた終末論的な光景が、現実のものとなるのではという危惧を彼は抱いていた


    ピンク色のハイライト | 位置: 6,515
    リムランドのチェックリストよりもさらに信頼性が高くて、汎用性のある評価ツールを考え出すべく、長年にわたっていくつかの試みがなされたすえに、ようやく一九八〇年になって、エリック・ショプラーとTEACCHの同僚たちによって、CARS(Child Autism Rating Scale)が開発された


    ピンク色のハイライト | 位置: 7,157
    彼女が一九八六年に出版した回顧録『我、自閉症に生まれて』を「回復した自閉症者によって書かれた初めての本」として紹介したリムランドに促され、グランディンは自らを自閉症から「回復」した人物であると紹介した。けれども、それは苦労の末に周囲の人たちの社会規範に適応することを学習したということであり、自分が回復したわけではないことが彼女には、はっきり分かっていた


    ピンク色のハイライト | 位置: 7,217
    グランディンは、肥育場や競り市場や食肉解体場における畜産業従業員たちの、家畜に対する態度に影響を及ぼす社会的要因と環境要因についても研究していた。彼女の観察によると、日常的に動物たちがツルツルした床で足を滑らせたりバタンと閉まるゲートに挟まったりするような、ひどい設計の施設では、従業員たちは動物の窮状に鈍感になりがちで、やたらに鞭や電気棒を使っていた。家畜が日常的にひどい扱いを受けている国では、障害を持つ人たちは慢性的な虐待や差別に直面していると指摘した。  自分が感じている動物に対する深い心のつながりは本質的に自閉的なものであり、自分の仕事には不可欠なものであると彼女は理解するようになった。「もし指をパチンと鳴らすことで自閉症じゃなくなるのだとしても、わたしはそうしようとは思いません。なぜならもはやわたしではなくなってしまうからです。自閉症はわたしであることの一部なのです」


    ピンク色のハイライト | 位置: 7,267
    一年後、彼はマーク・レスター主演の映画『野にかける白い馬のように』を観た。レスター演じるフィリップという名の少年は、支配的な母親のせいで心に傷を負ったことが原因で、三歳のときに突如言葉を話さなくなってしまう。当時の自閉症に対する典型的な見解である。年配の男性による忍耐強い指導と野生の白い仔馬に対する愛情によって、フィリップはついに孤独から抜け出し、そんな彼に対してシンクレアは深い連帯感をおぼえたのだった。  


    ピンク色のハイライト | 位置: 7,504
    一九九〇年代後半に、人類学と社会学を専攻するジュディー・シンガーという名の、やはりアスペルガー症の学生が脳多様性(ニューロダイバーシティ:neurodiversity)と命名した発想こそが、それに他ならない


    ピンク色のハイライト | 位置: 7,521
    ユング派精神分析家でロンドン在住のアン・シアラーが書いた『障害と差別(Disability : Whose Handicap?)』を読んだことが、シンガーの考え方に影響を与えた。シアラーは、身体的および認知的な相違点を持つ人たちを、どのようにして社会が体系的に無力化したり、疎外したり、悪者扱いしたりするのか調べたのだった


    ピンク色のハイライト | 位置: 7,590
    二〇〇七年一二月、マンハッタンの街角や公衆電話ボックスに不吉な看板が相次いで出現した。身代金を要求する脅迫状のようにもみえ、そのうちのひとつには「息子はもらった。この子が一生、自立できず人付き合いできないようにしてやる。これは始まりにすぎない」と書かれていた。別のものには警告が書かれていた。「息子はもらった。この子の社会性を打ち砕き、完全に孤立した人生に追い込んでやろう。そちらの出方次第だ」。最初のものには「自閉症」、ふたつめには「アスペルガー症候群」と署名されていた


    ピンク色のハイライト | 位置: 7,782
    自閉症が単一の障害ではなく、集合体であることについては今日、大半の研究者が確信するにいたっている


    ピンク色のハイライト | 位置: 7,788
    過去の歴史を徹底的に検証すると、社会の片隅に追いやられている自閉症者が、常に人間社会の重要な一員であったというアスペルガーの主張もまた、正しいことが分かる。二〇世紀のほとんどのあいだ、自閉症者は診断基準の陰に追いやられていた。スハレバの「スキゾイドパーソナリティ障害」、ディスパートとベンダーの「小児統合失調症」、ロビンソンとビターレの「限局された興味を持つ児童」、グランディンの当初の診断結果である「微細脳損傷」、それ以外にも「解離性同一性障害」等々、この本で言及されなかった無数の分類は、もはや使われなくなって久しくなっている。けれどもワクチン論争がそうであったように、ことあるごとに社会は現代の精神病理現象を自閉症のせいにしようとする


    ピンク色のハイライト | 位置: 7,809
    インターネットが一世代で世界を変えられた主な理由は、それが「プラットフォーム非依存型」となるべく作られたものであったからだ。あなたの家のコンピュータあるいはモバイル機器がWindowsであろうが、Linuxであろうが、はたまた最新バージョンのAppleのiOSであろうが、インターネットには関係のないことだ。そういったすべての環境で能力を最大限に発揮できるよう、プロトコルや規格は設計されている。  近年になって、自閉症者の自立支援運動の提唱者、障害児の親、教育者のあいだで脳多様性(ニューロダイバーシティ)という概念は急速に受容されつつあり、多様なオペレーティング・システム(すなわち多様な障害者)と協力することを目的とする、開かれた世界の基盤となり得る数多くのイノベーションを提案している


    ピンク色のハイライト | 位置: 7,837
    『教室内の脳多様性(Neurodiversity in the Classroom)』の著者であるトーマス・アームストロングのような教育者たちは、学校での体験がその後の人生の成功や失敗につながるので、子どもたちそれぞれの学習スタイルが明らかになるタイミングの、幼児教育をもっと重視することを勧めている

  • 原書名:NEUROTRIBES

    クラハム・コモンズの魔術師
    緑のストローへのこだわり
    シスター・ヴィクトリンは何を見たのか
    魅力的な特異性(奇妙さ)
    毒親の誕生
    ハイテクのパイオニアとして
    怪物とたたかう
    自然界のものをはっきりと二分するのは不可能である
    レインマン効果
    パンドラの箱
    自閉空間の中で
    「脳多様性」の世界をめざして

    著者:スティーブ・シルバーマン( Silberman, Steve, 1957-、ジャーナリスト)
    序文:オリバー・サックス(Sacks, Oliver, 1933-2015、イングランド・ロンドン、神経学)
    訳者:正高信男(1954-、大阪府、発達心理学)、入口真夕子

  • 2018年4月8日紹介されました!

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著者プロフィール

米国サンフランシスコ在住の科学ジャーナリスト。20年以上にわたり、「ニューヨーカー」「タイム」「ネイチャー」誌等に寄稿している。米国カブリ科学ジャーナリズム賞受賞。ポップカルチャーにも造詣が深く、「ワイアード」誌に定期的に連載記事を掲載。

「2017年 『自閉症の世界 多様性に満ちた内面の真実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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