リウーを待ちながら(3) (イブニングKC)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065111345

作品紹介・あらすじ

横走市を封鎖した後も感染拡大は止まらず、死者の数は1万人を超え尚も増え続ける。疲労困憊する医師たちに出来ることは、「敗北をよりマシな敗北に、絶望をよりマシな絶望に」することくらいだった。そんな中、横走からの脱走を手引きする者が現れ、その脱走者リストが週刊誌にスッパ抜かれるという事態が……それは更なる悲劇へと繋がっていく。暗闇に光は射すのか? 各所で絶賛された、パンデミック物の新マスターピース完結!

感想・レビュー・書評

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  • 「でも今度は違う。まだ間に合うかもしれない。ここが地獄のような場所になってしまうのを、止められるかもしれないんだ」

    富士のふもとの街、横走市でペストがアウトブレイクする。
    当初は抗生剤で抑え込めたように思えたそのペストは、多剤耐性を持った新型へと変化して市全体へと広がっていく。

    主人公は横走中央病院の医師玉木涼穂。
    そして疫研(国立感染症研究所かな?)の原西、自衛隊病院医師駒野、そして多数の医療関係者・市民。

    全3巻の中にぎゅっと詰め込まれた緊張感。
    横走市民への差別、緊急事態宣言でロックアウトされた横走市からの脱走。そして感染症との果てない負け戦。名作です。

    アルベール・カミュの「ペスト」が、機能しなくなった地元FMで朗読されるなど印象的に使われています。読みたくなった。「リウー」は「ペスト」の主人公。

  • 2019年末~2022.6月現在も続いている新型コロナウィルス パンデミック禍。それを予見するような内容のマンガとして注目を集めている作品だそうで……
     恥ずかしながら、人に薦めてもらうまで知りませんでした。

     全3巻なのですが、1~3巻の感想をこちらのページにまとめて記載します。

     まず、皆さん抱かれている感想だとは思いますが、本当にコロナ禍と酷似している描写に驚きました。
     作中ではペストが流行という違いはあるものの、「濃厚接触者の隔離」「食料品の配給」「緊急事態宣言」「感染の多い地域からの移住者・移動してきた人への差別」「犯人捜し」「感染者への差別」などかなりの点で現実とリンクしていました。
     現実と明らかに違うところといえば、「都市封鎖」「致死率ほぼ100%」くらいでしょうか。本当のところはどうかまではわかりませんが、精肉店と畜産農家でウィルスが出会って云々~などはコロナ禍でも当初いわれていたことだったように思います。
     
     読んでいて胸苦しくなるような描写や悲劇が連続して起こるのですが、それを引きずらずに先へと読み進めることができるのは、だらだらと「その後」を描き切らずにさっと次のシーンにつないでいく作者のおかげです。
     確かに思い返したり、同じシーンを再び読んでみると、確かに辛い、切ない、悲しい。それでも、後味悪い泥沼ドラマのような嫌な感じがとても少ないんです。

     確かに人間いつ死ぬのか分からない。ちょっとしたことが命を左右するような結果になるときもある。それでも、やっぱり生きている以上は前に進むしか無いんだなということが、物語を読み終えての感想です。

     私は連載当時にこの作品に出会っていなかったので比較することはできないのですが、読んだ当時はピンとこなかったことが、今の我々なら他人事とは思えないほどリアルに感じられるのではないでしょうか。
     パンデミック発生当初、ほとんど毎日のようにテレビやラジオから流れてきていた言葉が、最近ではとんと聞こえなくなってきました。言葉だけでは足りないのは重々承知なのですが、それでもやはり……

     ――医療従事者の皆様、ありがとうございます

     そう言いたくなる作品です。

  • 「敗北できてるだけいいのかも…戦わなきゃ負けられないものね」
    1万人を超える死者を出す多剤耐性ペストとの戦い。封鎖された横走市の中で、ペストはただただ平等に命を奪う。その嵐の中で見つけた希望とは─。

    絶望の中にも希望はある。しかし、奇跡は起きない。これが一貫しているからこその説得力とリアリティ。猛威を振るうペストの悲壮感の中でも温かさを感じるのは「人々がいかに働き、いかに愛し、いかに死ぬか」を描いているから。ラストシーンは何回読んでも泣いてしまう。託した思いはきっと消えない。

    患者への差別が怖かった。朱戸先生の別シリーズ『インハンド』の「我々が戦うべき相手は感染症だ。感染者は救うべき仲間だろ」という紐倉の言葉を思い出す。全3巻とは思えない濃厚さ。敗北し続けても戦う人の強さも、解決できない事に耐えられない人の弱さも描かれていた作品。お薦め!

    最後に好きな文章を引用して終わります。

    「中世のペスト流行時はユダヤ人が大量に虐殺された 水源にペストの毒を入れたって言わされたりしてね…すぐ思い付く対象を攻撃して問題を“解決”しようとするのは500年間変わらない人類の営みさ…そもそも無理なのかもしれないな…人間は解決できない事に耐えられないのかもしれない」

    「この世界にはコントロールできる事とできない事があるんだ もっとあきらめながらがんばらないと続かないぞ」

  • 一見するとアウトブレイクのヒューマンドラマと言ってしまえばそれまでなんだが、渦中に身を置きながらずっと平常心で動いている様に見えた原神の死への向き合い方にプロの仕事人としての当たり前さと、感情を持つ一個人としての在り方の表現として、心に迫るものがある。漫画と言うフィクションの中に在りながら、一個人のリアルを感じさせてくれる感覚。漫画の中の演出として「引き算」の妙技を見せられた気がする。
    疫病研究センターの原神、名前と風貌から、登場した時は「原神」って「死神」って呼ばれてそうだな…とか、疫病の研究さえしてれば楽しいんだろうな、この男…みたいな雰囲気漂わせておいて…誰よりも詳しいが故に不安や焦燥を表に出さず、淡々と職務をこなしていたんだなぁ、イイ男だな…疫研の原神の冷静な情熱が光る。
    アウトブレイクものが何故か好きなんだよね…よくよく考えると、勃発し、死者が発生し、事件が発覚し、原因を突き止めようとする専門家が現れ、危機に必死で抗いながらも失われる命を留める事が出来ず、だが最後には原因を究明し、沈静するのを見届ける…ミステリの仕組に似てるからだと気付いた。

  • 静岡県の市内で感染症が発生し、その感染症に翻弄られる人々と、街の様子を描いた漫画。カミュの『ペスト』を参考にしているようで、2018年に発行した漫画だけれども、コロナが発生している現在と、なんら変わらない世界を描き切っていました。

    個人的にこの漫画で興味深かったのは、感染症が確認されると早々に、新型インフルエンザ等対策特別処置法に基づいた「緊急事態宣言」を行い、一つの市を隔離したことでした。

    感染症の巻き起こった世界は、架空であろうが、現実であろうが、絶望の連続です。ただ、政府の対応や差別など、現実が架空を上回る絶望に見舞われる可能性があることは、覚えておいて良いのかもしれません…スリルがあって面白かったです。

  • ヤマシタトモコ先生の花井沢町公民館便りみたいな部分もあるんだけど、こっちの方が断然むごくてリアル。
    閉鎖空間でのほぼ絶望と時間と共に光が見えてくるお話しで妙に現実感がある。
    人の業ってのは、どうしようもなくてどんな時でも自分だけは大丈夫とか思ったり、何だかんだ差別するし、ある意味すごく日本人らしい。(一部日本人以外も出てきますが)
    架空の話ではあるが、同じような現象が日本のどこかで起きた場合ほぼ同じような現象が起きるのではないかと思う。

  • 死に至る病をどう受け入れるか。
    パンデミックの中で自分にできることはなにか。

    いろいろ考える題材になった。
    でも、漫画は嵩張るし、高いな、と改めて思った。


  • ダヴィンチ・プラチナ本から。今読んだから、コロナ渦を経験したからこその作品かと思ったけど、何と、それ以前の作品でした。まあ確かに、今これを書かれても、別に驚きの要素も感じられず、埋もれてしまった可能性が高いかも。それにしても、現実のコロナと重なる部分があまりにも多くて、ちょっと感動的ですらあった。医療面、経済面、思想面など、色んな面で的確な描写がなされていてビックリ。カミュのペストを未読だから微妙なんだけど、同作を下敷きにしているとはいえ、本作も話題性十分なんじゃないか。自分が知らんだけで、実は世間的に話題にはなっていた?

  • 友人がポッドキャストで薦めてて即読。
    面白かった…!
    コロナの前に描かれた、というのが相当なスパイスになってるので、読むなら今かも。
    もちろんそれを除いてもパニックものとして秀逸。

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著者プロフィール

2010年、アフタヌーン四季賞冬のコンテストにて、準入選を受賞。
「アフタヌーン」にて2013年『ネメシスの杖』を、2016年『インハンド 紐倉博士とまじめな右腕』を連載。
医療サスペンスの新たな描き手として注目を集めている。


「2019年 『インハンド プロローグ2 ガニュメデスの杯、他』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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