『ネクロノミコン』の物語 新訳クトゥルー神話コレクション2 (星海社FICTIONS)
- 星海社 (2018年5月31日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065120040
作品紹介・あらすじ
話題の新訳クトゥルー神話シリーズ第2弾は禁断の書ネクロノミコンを巡る傑作集。「ダンウィッチの怪」「ピックマンのモデル」を所収
感想・レビュー・書評
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ネクロノミコン。それは、狂気に陥ったアラブの詩人が著した、読む者をを狂わせる魔道の書――。
2集は、クトゥルー神話において代表的な魔導書である『ネクロノミコン』とその著者であるアブドゥル・アルハズレッドが重要なアイテムまたはキーワードとなる物語が収録されています。
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『無名都市』
アラビアの砂漠で伝説の古代都市を見つけたわたし。探究心から内部に侵入したわたしが目にしたものは――。
(初めてアブドル・アルハズラットの名が出た作品。恐怖よりも強く感じたのは偽史的な面白さ。)
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『猟犬』
遊びで墓荒らしをするわたし達は、オランダで暴いた墓から奇妙な造形の魔除けを奪ったのだが――。
(犬の吠え声や唸り声、翼のはためく音、ぼんやりとした黒い雲のようなもの、そして再生する死体――。 全てが判然としないまま終わるのがラヴクラフトらしい。)
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『祝祭』
先祖の取り決めに従い、古都へやってきたわたし。やがて怪しげな老人に導かれて古びた教会に入っていくと――。
(最後まで老人の指示に従っていたら、どうなっていたのだろうかと想像するとぞくぞくする。)
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『ピックマンのモデル』
なぜわたしがピックマンと絶交したのかって? それはな――。
(体験者の話を直に聴かされているような会話体の体裁。虚実の境が曖昧にさせるような展開は実話系怪談にも通じる。)
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『ネクロノミコンの歴史』
これは、古代アラビアで執筆されたネクロノミコンが現代に伝わるまでのの歴史である――。
(ラヴクラフト自身によってまとめられた、古代アラビアで執筆されたネクロノミコンが現代に伝わるまでのの歴史。これを読んだらチェンバースの『黄衣の王』を読みたくなった。)
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『往古の民』
彼から送られてきた手紙には、古代ローマを舞台とした夢の話が綴られていた。彼はそこでは財務官で、囚人を捕らえて法廷へ連れ出すよう上から命じられたのだが――。
(ラヴクラフトの死後に発表された短編。元ネタはラヴクラフトが見た夢だが、彼はそれを作品に昇華しきれず、作家仲間のロングにネタを譲った。その後、ロングはこれを元に『恐怖の山』を著した。)
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『ダンウィッチの怪』
大学図書館に不法に侵入した男が番犬に噛み殺された事件を契機に、男の生地であるダニッチで住人や家畜が失踪したり殺されたりする事件が続発する。男が遺した、暗号で書かれた日記を読み解くと、そこに書かれていたのは――。
(『クトゥルフの呼び声』に次いで、クトゥルフ神話初心者向けの作品。その最後に、悍ましくも哀しさを感じるのは私だけだろうか。)
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『アロンゾ・タイパーの日記』
オカルト研究家のアロンゾ・タイパーが失踪する。後に発見された彼の日記には、生前に訪れた、忌まわしい屋敷の調査記録が記されていた――。
(『ダゴン』や『ダニッチの怪』や『インスマスの影』などをかけ合わせたような、過去作へのオマージュを思わせる内容。はたして、彼を連れ去ったのは千匹の仔を孕みし山羊か、それとも――。)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
内容はいいが誤植がひどい。校正の時間が取れなかったか。
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新訳クトゥルー神話コレクション第2巻。
<収録作品>
無名都市
猟犬
祝祭
ピックマンのモデル
『ネクロノミコン』の歴史
往古の民
ダンウィッチの怪異
アロンゾ・タイパーの日記(ウィリアム・ラムレイのための改作)
アロンゾ・タイパーの日記[初期稿]ウィリアム・ラムレイ -
創元の全集を持っているので、新訳でどうなったかが主な興味ではあるのだが、星海社版はやっぱり取っつきやすくなっている印象。しかし前回の時も思ったが、割と今時の画風がカバーなのはちょっと面白い。
(しかし、ラヴクラフトも、面白いとは思うけど怖くはないよなぁ……) -
本署の良いところは、ほとんど『クトゥルーの呼び声』の方で書いた。
しかしもうひとつ利点を挙げておきたい。
それは、「初稿」が併載されている事。
そうか~最初はこんな風に書かれていたのか、という事を比較するのはなかなか興味深いものがある。
しかし、ネクロノミコンというものが、存在感を増していく過程を追うのもなかなか面白くて、巻末の解説が大変面白かった。
もっとも、存在感を増している事には、多少、害もある。
個人的な敬虔になるけど、以前私はあるMMOのチャットで、
ネクロノミコンが実在する、大英博物館などに所蔵されていると主張してやまない人と遭遇してしまった事がある。
どれだけ反証を揚げてフィクションなのだと言っても聞く耳を持たなかった。
つまり、ネクロノミコンとクトゥルー神話は、一部の人にとって、信仰の領域に入ってきているのでは、と疑う。
これはちょっと怖い事だ。
『ピーター・パン』を引くまでもなく、人が信じる事をやめてしまったら、妖精は存在できなくなる。それは神にしても同じ事だろう。
逆に、全くのフィクションであっても、堅く信じる人が増えていったら、逆の事が起こるのでは。
どうしますか。
本当に、海のどこか、底知れぬルルイエになにかわけのわからない触手のあるものが眠ってたら。