- Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065128688
作品紹介・あらすじ
海外旅行でインスタにアップする写真で"本当”を実感する僕たち、ネットショッピング依存症から抜け出せず夫に携帯を取り上げられた妻、自分たちだけの"印”を世間に見せるために動画配信をする夫婦。SNSに頼り、翻弄され、救われる私たちの狂騒曲。
『異類婚姻譚』で芥川賞を受賞してから2年、本谷有希子の待望の最新小説!
感想・レビュー・書評
-
なかなかに皮肉のきいた、独立した三つの短編が収められている。それぞれのタイトルは、「本当の旅」「奥さん、犬は大丈夫だよね?」「でぶのハッピーバースデー」。
どの話もどこか「相容れない」感じがする。それは登場人物同士のことであったり、登場人物たちと社会全体であったり。それは最後まで拭えない。ついでに私とも相容れない(特に本当の旅の登場人物たちとは…苦笑)。
それなのにするする読めて、だんだん続きが気になってくるところがすごい。
そういえば、この三編を収めた本のタイトルが「静かに、ねぇ、静かに」である理由が、読み終わってもよくわからない。全編に漂うこの相容れなさが、社会の中で沈黙されるべきものだからだろうか。社会が彼らに、ねぇ、静かに、と彼らの口を塞いでいるのだろうか…?
以下それぞれの話のちょっとした感想。
そんなにネタバレはないと思うけど、念には念を入れて情報仕入れずに読みたいんだ〜という人は本書読了後にでも気が向いたら見てやってください。
本当の旅:
専門学校時代の同期で四十手前の男2人女1人がマレーシアに旅行する話。読み進めていくうちに、3人に対して、(えっ、なんだこいつら…)と思ってしまう。なんというか、うさんくさい。うん…多分私とこの人たちとは合わないんだなぁ…主人公の主体性のなさというか、無理してる感がちょっと見てられない。それでいいのか?本当にしたいことは、本当の主張は一体なんなんだ?流されるままでいいのか?そして匂わせな衝撃のラスト。
奥さん、犬は…:
主人公である主婦とその夫、そして夫の職場の知り合い夫婦でキャンピングカー旅行に。主人公は旅行に全然乗り気でなかったし、夫とはあまりいい関係ではなさそう。というかない。相手夫婦とも気が合いそうにない。しかしとあるきっかけからだんだんこの旅行にノってきて…(ヤケともいう)。自分が本当に必要としているものはなんだろう?これまた匂わせな衝撃のラスト。
でぶの…:
三作の中で一番登場人物にまだ共感というか、主人公夫妻の思いがひしひし伝わってきた話。主人公夫妻は会社が倒産して2人同時に職を失った。主人公で妻のでぶ(会話文でも実際夫にでぶって呼ばれてる。もっとマシな呼び方ないんか?)は歯並びがとても悪い。夫はそれを俺たちの報われない人生の"印"だという。だから変わるために歯を矯正しろと妻に提案。でぶは印だなんてなにさ、といった感じで歯の矯正なんてしないと思っていたが…
普通ってなんだろう?普通なんて存在するのだろうかと日々思うけど、やっぱり世間の理想とする、誰もが経験してるだろって前提でいる普通ってもんが存在していて、その普通に焦がれて、でもやっぱり自分たちには無縁だと思っていて、でもそのことを世間のやつらが知らないことになんだかモヤモヤするものがあって……そんな2人の人生が、いい方向に向きますようになんて、つい思ってしまった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
三作とも素晴らしかった。
読みながらずっとうすら寒い話と、ゾッとする話と、何だか泣けてくる話だった。 -
現代の文芸は刺激が強いな! 「痒いところ」と反対に、「触られると不快なところ」を刺激してくる短編群で、ホラー映画を観る思いで何度も中断しながら読んだ。特に、1作目に溢れるパワーワード群がエネルギーを吸い取るので、共感性羞恥の気があるネットユーザーはしにます。
いまどきのインターネットサービスに絡め取られてしまったダメな人たちが、そのダメ属性を全開に発揮してなんの希望もなくダメの穴に吸い込まれていく。作者が掃き出し窓からさっさっと処分していく手際が痛快という読者もいるかもしれないけれど、わたしは登場人物たちの打つ手の下手さに憂鬱になってしまったので、読み終えてとにかくほっとしています。今どきの小説をほとんど読まないので、頭に風穴があいた感覚がしたのはよかったかな。 -
短編集。
意識高いやつの頭ってこんな空っぽなの?
とイライラしながら、読むかどうか迷って、どうにか読了。
後味微妙。 -
怖かった。
人の弱い部分、見たくない部分、見てほしくない部分に、こんなにもしっくり来る言葉があったなんて想像もしなかったような、そんなぴったりな言葉で表現してくる。わざとらしくなく、淡々と綴る。そこが怖い。 -
静かな狂気。
タイトルの意味とは、、深読みしたくなる。
怖いもの見たさでページをめくる手が止まらなかった。
とくに冒頭の「本当の旅」は衝撃。
SNSに翻弄される滑稽さ、これはわたしにもあるしきっと多かれ少なかれ誰にでもあると思う。
タイトルをつけると奇妙な余裕が生まれるという感覚はめちゃくちゃ分かる。
こういう人いる~あるある~と思いながらも異常すぎる展開にゾッとした。
「じゃがりこを食べている人間によくないことが起こるはずがない」
笑った。
個人的には冒頭の話が良すぎて他の2作が霞んでいる感。
他の作品も読んでみたい。 -
「あー、あるある」「居るわ~こういう人」と高見の見物のつもりで読み進めるのだが、だんだん自分も「そっち側」なんじゃないか?という思いがつきまとい始める。
今の時代、自分と、ネットやSNSに翻弄される登場人物達とは違うと言い切れる人は、どれだけいるだろう。
本谷由紀子という人は、ほんと冷酷だ。これからも、普段は目をそらし続けている、自分の薄っぺらさを、著作を通して思い知らせてほしい。 -
3編の中編が収められている。
徐々に日常から離れていく非日常を描くことが得意な作家だが、なかでも『本当の旅』に登場する、若くもない男女3人の世間を甘く見ている姿が本当に恐かった。
世間からずれている境遇を自己正当化し、同じような仲間とつながることで安心し、なんでもポジティブに解釈することで優越感にひたる彼らの、お気軽で薄っぺらい幸福感にゾっとしながら読み進んだ。
「人から見たら、四十二にもなって実家に住んで親に依存してるだけの男かもしれない。でも、違うんだよ。それはそういうやつらが、俺のことをそう見たいと思ってるだけで、ニュートラルな眼差しをきちんと持ち込めば、俺があえて働いてないってことも理解できるはずなんだよ。俺は、俺の眼差しを守ってる。社会から報酬を貰わないことで、人とは違う眼差しを手に入れてる。」(P.50)
愉快な旅から一転してマレーシアの山林に連れ込まれ、明らかにこれから殺されようとしている直前でも、”こんなはずじゃない”と内心思いながら真正面から現実に目を向けることができない。
「なんか怒ってるよ」
とづっちんが言った。
「怒ってるのとか、ウケるね」
「ウケる。マジウケる」(P.78)
他の中編『奥さん、犬は大丈夫だよね?』『でぶのハッピーバースデー』もじんわりくるものがあった。
著者プロフィール
本谷有希子の作品





