静かに、ねぇ、静かに

著者 :
  • 講談社
3.30
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  • (16)
  • (7)
本棚登録 : 551
レビュー : 70
  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065128688

作品紹介・あらすじ

海外旅行でインスタにアップする写真で"本当”を実感する僕たち、ネットショッピング依存症から抜け出せず夫に携帯を取り上げられた妻、自分たちだけの"印”を世間に見せるために動画配信をする夫婦。SNSに頼り、翻弄され、救われる私たちの狂騒曲。

『異類婚姻譚』で芥川賞を受賞してから2年、本谷有希子の待望の最新小説!

感想・レビュー・書評

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  • 三作とも素晴らしかった。
    読みながらずっとうすら寒い話と、ゾッとする話と、何だか泣けてくる話だった。

  • 『本当の旅』
     LCCの深夜便でクアラルンプールに向かう専門学校時代からの友人男女3人組。「わかるー」「ウケるー」「ヤバい」ばかりの中身ゼロの会話、【感動。】という題でアップされる雲の形の写真、お金に縛られている人々への蔑み、各々がスマホを弄るだけのホテルでの時間。「うわぁ…」って感じることの連続だが、さらに彼らがアラフォーであるという事実が明かされ、読むのがどんどんしんどくなる。
     が、物語は意外な局面へ。ただただ痛々しさを嘲笑うだけで終わるのかと思いきや、彼らの軽薄さが取り返しのつかない事態を引き起こす。SNSに依存し、自分の心の良い部分ばかりを切り取り続けていると、リアルな危機が起きてもどの感情を発動させるべきかわからなくなるのかもしれない。

    『奥さん、犬は大丈夫だよね?』
     大して仲良くもなさそうな夫の同僚夫婦と行くキャンピングカー旅行。倹約家の同僚夫婦、狭い車内、同行する白い犬、さらに犬の毛が浮くぬるくて不味いコーヒーに対する嫌悪感が、主人公の感情と重なる。
     しかし、この旅行を計画した主人公の夫の目的が、ネット買い物依存症の妻を治すためだったとわかり、登場人物への印象が一変する。子どもができて、「赤ちゃんのものがいくらでも買えるんだ」と真っ先に思うのは、確かに常軌を逸している。さらに、ネットショッピングを止めようとする夫に驚きの行動をとる…。

    『でぶのハッピーバースデー』
     仕事を同時にクビになった“でぶ”とその夫。失業後3ヶ月を過ぎ、夫はでぶのがちゃがちゃの歯が「いろんなことを諦めてきた人間だっていう印」なのではと言い出す。二人揃ってステーキレストランで働き始め、物事が好転したとき、でぶは矯正をしようという気になり、まず抜歯をする。が、痛みと腫れに心が折れ、抜糸もせず放置(こればっかりはわかる、辛いよね)。でぶの顔は次第に歪み、夫は諦めてきた印を世界に向かって動画配信しようと言い出す…。

     『静かに、ねえ、静かに』の頭文字がSNSになってるやん。どれもSNSに翻弄される(されそうになる)人々を描いた短編。恐ろしさもあり、身につまされるようないたたまれなさもあり…。ほんと嫌な作品を書くよこの人は(褒めてる)。

  • 現代の文芸は刺激が強いな! 「痒いところ」と反対に、「触られると不快なところ」を刺激してくる短編群で、ホラー映画を観る思いで何度も中断しながら読んだ。特に、1作目に溢れるパワーワード群がエネルギーを吸い取るので、共感性羞恥の気があるネットユーザーはしにます。

    いまどきのインターネットサービスに絡め取られてしまったダメな人たちが、そのダメ属性を全開に発揮してなんの希望もなくダメの穴に吸い込まれていく。作者が掃き出し窓からさっさっと処分していく手際が痛快という読者もいるかもしれないけれど、わたしは登場人物たちの打つ手の下手さに憂鬱になってしまったので、読み終えてとにかくほっとしています。今どきの小説をほとんど読まないので、頭に風穴があいた感覚がしたのはよかったかな。

  • 『本当の旅』
    自分に酔って生きる男女三人。インスタグラムにアーティストっぽい写真をアップしていいねを稼ぐ無職。意味不明なTシャツを作って自分にしか作れない一点物、と胸を張る中年女。中途半端に夢を見たけど何もできないまま田舎で農家をやっている語り手。
    いつまでも大人になれず、真面目に生きる人たちを何もわかっていないと嗤い、周りに取り残された中年三人。
    アーティスト気取りでアジア旅行をするが、インスタに夢中で危険が迫っていることにすら気づかない。

    『奥さん、犬は大丈夫だよね?』
    買い物依存症の奥さんは携帯電話を夫に取り上げられている。それでも奥さんはネットショッピングしたくてたまらない。
    (たぶん)夫はそんな奥さんを変えたくて同僚夫婦と一緒にキャンピングカーでキャンプに出掛ける。ケチ臭い旅行に最初から不満な奥さんだったが、お酒を飲んで本性を現し始める。車で踏んだのは夫?

    『でぶのハッピーバースデー』
    失業中の夫婦の話。自分たちが職にありつけない理由は、そういう”印”が押してあるからではないかと言い出す夫。でぶの妻の歯並びを直せば色んなことがよくなるのではないかと考えるが、歯並びを直す前にでぶの妻はウエイトレスの仕事を見つける。やがて夫も一緒に働き出し、生活が好転したかのように思えた。
    でぶの妻は歯並びを直すために抜歯をするが、その後仕事を抜けることができず、歯並びどうこうというより歯が抜けたおかしな人になっていく。夫はそれをどうにかしたいがでぶの妻は仕事を休まないから、でぶの妻の顔はどんどん崩れていく。まるで”印”が押してあるみたいに。

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    怖い、と思わせるために書かれたような三つの話。
    『本当の旅』はインスタで盛り上がる社会に思いっきり皮肉をぶつけてるみたいで気持ち良かった。SNSを眺めていると、芸能人気取ってんじゃねえよこの一般人が、と思ってしまうことがよくある。
    アーティストっぽく振る舞う自分に酔ったまま、SNSでなれ合っている人たちの”痛さ”をここまで的確に表した作品を他に知らない。

  • 怖かった。
    人の弱い部分、見たくない部分、見てほしくない部分に、こんなにもしっくり来る言葉があったなんて想像もしなかったような、そんなぴったりな言葉で表現してくる。わざとらしくなく、淡々と綴る。そこが怖い。

  • SNSでのポジティブさ、ネット通販の便利さなど、どっぷり浸かっていなくても現代では誰もがその恩恵を受けている。収録されている3編の作品にはそれらに浸かってしまいすぎたために奇妙な人間になってしまった人々を描いている。しかし、この作品にでてくる程度の奇妙さは実はそれほど大したものではなく、これくらいならおそらく世界は受け止めてくれる。それを本谷有希子は拡大して見せてくるもんだから、この作品の登場人物は全員「キモイ」。その「キモイ」奴らがそれなりの痛みを受けるので読んでいる方は面白い。でもこれを面白がっていいのか…俺もこっち側じゃないのかと自問し始めることになる。ホラーです。

  •  3編の中編が収められている。
     徐々に日常から離れていく非日常を描くことが得意な作家だが、なかでも『本当の旅』に登場する、若くもない男女3人の世間を甘く見ている姿が本当に恐かった。
     世間からずれている境遇を自己正当化し、同じような仲間とつながることで安心し、なんでもポジティブに解釈することで優越感にひたる彼らの、お気軽で薄っぺらい幸福感にゾっとしながら読み進んだ。

    「人から見たら、四十二にもなって実家に住んで親に依存してるだけの男かもしれない。でも、違うんだよ。それはそういうやつらが、俺のことをそう見たいと思ってるだけで、ニュートラルな眼差しをきちんと持ち込めば、俺があえて働いてないってことも理解できるはずなんだよ。俺は、俺の眼差しを守ってる。社会から報酬を貰わないことで、人とは違う眼差しを手に入れてる。」(P.50)

     愉快な旅から一転してマレーシアの山林に連れ込まれ、明らかにこれから殺されようとしている直前でも、”こんなはずじゃない”と内心思いながら真正面から現実に目を向けることができない。

    「なんか怒ってるよ」
    とづっちんが言った。
    「怒ってるのとか、ウケるね」
    「ウケる。マジウケる」(P.78)

     他の中編『奥さん、犬は大丈夫だよね?』『でぶのハッピーバースデー』もじんわりくるものがあった。

  • 表紙タイトルは、スマホで自撮りすることで撮った写真が反転し、読めるようになるのだそう。

    SNSやオンラインショッピングなどのふだん私たちもよく使うインターネットサービスに蝕まれた女性たちの3編。

    とくに「本当の旅」には何度もどきっとさせられた。

  • 期待していなかったが楽しめました。「本当の旅」「奥さん、犬は大丈夫だよね?」怖い。

  • 面白かったです。
    SNSに翻弄される人たちが薄ら寒く、そして迎える結末に恐怖しました。
    一話目の人々の薄っぺらさ…薄っぺらなところに感動したり共感したりしていて、でも確かにこういう人たちインスタで見る、と思いました。
    二話目のラストは、Toy(e)さんの描かれた【カンキリ】が来たんだ…!と勝手に思いました。
    三話目、主人公を普通に「でぶ」と呼んでくる夫が不快でたまりませんでした。
    壊れたものを与えられている、現実を諦めるのか、それでも腐らず生きるのか。前向き、にはならなくても、そのことで人生を諦めてじっとしてるのはわたしはしたくないなぁと思います。
    心が沈んでいく読書でしたが、読んで良かったです。(・_・)スッとなりました。

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著者プロフィール

本谷有希子(もとや・ゆきこ)
1979年生まれ。2000年に「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。2006年上演の戯曲『遭難、』で第10回鶴屋南北戯曲賞を史上最年少で受賞。2008年上演の戯曲『幸せ最高ありがとうマジで!』で第53回岸田國士戯曲賞受賞。2011年に小説『ぬるい毒』で第33回野間文芸新人賞、2013年に『嵐のピクニック』で第7回大江健三郎賞、2014年に『自分を好きになる方法』で第27回三島由紀夫賞、2016年に「異類婚姻譚」で第154回芥川龍之介賞を受賞。著書に『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』『ぜつぼう』『あの子の考えることは変』『生きてるだけで、愛』『グ、ア、ム』などがある。

「2018年 『静かに、ねぇ、静かに』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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