近江商人の哲学 「たねや」に学ぶ商いの基本 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 210
感想 : 18
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065129036

作品紹介・あらすじ

和菓子業界が縮小する中で、なぜたねやグループは右肩上がりの商売繁盛を続けるのか。

成功の裏には、「三方よし」「先義後利」に象徴される近江商人の商売道を現代に昇華させた著者・山本昌仁(たねやグループCEO)の哲学がある。

たねやのフラッグシップ店にして本社機能もある「ラコリーナ近江八幡」は、ショッピングモールのように快適に整備されているわけでもなく、派手なアトラクションもない。甲子園球場三つ分の敷地には、田んぼがあり、あえて地元の雑草を植えるなど自然の空き地のまま。50年後、100年後に近江八幡を人が集まる場所にして、地元に恩返しするために、目先の利益を追わなかった。融資を受ける際、「なんで菓子屋が田んぼをやる必要があるんや」と反対されても、押し切った。

結果、「ラコリーナ」は今、年間300万人近くが訪れる。最中や饅頭が飛ぶように売れ、焼きたて、切りたてのバームクーヘン売り場には長蛇の列ができている。
自分たちの利益より、まずはお客様が喜ぶことを考える。お客様以外の人々の利益も考える。生まれ育った地域に還元する。本社は地元から動かさない。
実は著者は会社の売上にはほとんど興味がない。「数字はあとからついてくる」

本人は意識していないのに、たねやが「現代の近江商人」と呼ばれる所以である。

近江商人がふたたび今注目されているのは、「企業の社会的責任」との関連だろう。社会や地域に貢献する、環境を保護する、持続可能な発展のあり方を考える……。

たねやの成功のは、今後の商売、特に地方での商売繁盛のためのヒントとなるはずだ

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、たねや四代目山本昌仁氏の語る「現代の近江商人」です。

    あゝ、絶対に勝てない人がまた一人増えてしまった。この本を学生のときによんだら、「たねや」に就職したいとおもったほど、うらやましいというか、共感をもちました。また、自分はまだまだ甘かったと心から反省しました。
    営業をされていらっしゃる方は一度はお読みになられたほうがよいとおもいます。隠れた販売の名著です。

    気になったのは次です。

    ■商売のやり方
    ・バブル絶頂期で、「一人一人のお客様に向き合う」決断をしておいたことが、たねやを救った。
    ・支店を出すのであれば、家族ともども移り住んですべてを投げ出して全力投入する。これは支店ではない、全部が憧れの本店や。
    ・「簡単に言うたら、売れたらええんや」、「売れへんもんを一生懸命作ったら、ゴミになるんやで?そしたら農家の方に顔向けできんやろ?」だから、まず売ることだと。
    ・移り変わりが激しい場所よりも、ずっと変わらない場所のほうが継続した商いができる。
    ・すべてを自分の手でやるというのは、たねやの伝統です。アウトソーシングの時代に、アウトソーシングを避けている。コンサルタントに頼らない。
    ・自分たちで作ったものを、最後まで自分たちで商う。これが、たねやの哲学です。

    ■経営者としての工夫
    ・どこに問題があったかというと、いろんな性格のお店があるのに、一律に対応しようとしていたことです。そこで、店ごとに売り方を変えました。
    ・経営者にとってもっとも大切なのは、「聞く力」だとおもっていますから、自分と意見が違っても、その人の言葉に自信が感じられたら、最後まで聞きます。
    ・父が盛んにいっていた現場主義は、私の代になって加速していると思います。無駄の会議はいっさい辞めた。
    ・部長たちにも口うるさく「現場に行け」といっています。情報が欲しいなら、本社で報告を待っているより現場に入るほうが早い。だから営業部長もほとんど本社にいません。
    ・部長や店長につねづね言っているのは、自分の後釜を育てろということ。自分が倒れたとき代わりがいないようでは、その人はリーダー失格です。

    ■家訓 口伝の教え
    ・見返りを求めて商いをやったら必ず失敗する。誰も見ていないところでも、世間のためになるように行動しろ 陰徳善事
    ・利益を求める前に、お客様の喜ぶ顔を見て満足しろ。人としてあるべき道義をないがしろにしなければ、利益はあとからついてくる。 先義後利
    ・如在(おわすがごとく)「いつ、どこに居ても 師の在すがごとく 父の在すがごとく 母の在すがごとく 伴友の在わすがごとく 己に厳しく 心寛く 豊に 清和健進をなすなり」
    ・「走る勿れ されど止まるは尚愚なり」 気張ってやってるけど、あまり飛ばすなよ 着実にやらんといずれ投げ出すことになる

    ■商品へのこだわり
    ・自信のあるものだけで勝負しないとダメだ。大きな学びでした。
    ・和菓子の味を決めるのは主人です。主人の舌がすべてを決める。主人がOKを出したものしか店頭に並ばない。
    ・まずは食べてもらい、おいしいと感じていただかなければ始まらない。
    ・主人が変わったら味を変えるのは、そこでいったんリセットし、新しい時代の嗜好に近づけていく知恵なのでしょう。
    ・私は伝統とは「続けること」だと思っています。

    ■後継者の苦悩
    ・「この男はたねやの息子です。たねやはすごいけど、こいつはなにもできない」。みんな大爆笑ですが、悔しくて、早く見返したいと思っていた。
    ・父も自分がランナーの一人にすぎないと意識しているのでしょう。いまのリーダーは、バトンをもって走っている私一人だと。
    ・「あんたはあんたのやり方でいいやん。なんで親父さんと比べる必要があるの」と教わった。同じことをやったら、絶対父にかなわない。偉大な父をもった二世ならではの悩みだと思います。ならば、違うことをやればいいだけの話です。自分の世界を作り上げることだけに集中すればいいんだ。そう割り切れたとき、不安もなくなりました。
    ・ずっと父に言われ続けてきたのは、「自分一代でええと思ったらあかん」。次の世代のことも、その次の世代のことも考えて行動しろと。

    ■結論
    時代が代わり、商品も変わります。変えることを恐れてはいけません。
    でも、ずっと変わらないものもある。商いの精神です。枝葉の部分は変わっても、幹の部分は昔と何も変わっていない。
    先人たちの精神を愚直に引き継いでいくことこそ、私なりの近江商人道なのかもしれません。

    目次

    まえがき

    第1章 たねやはなぜウケたのか
    第2章 なぜ世代交代は成功したか
    第3章 ラ コリーナの思想
    第4章 「三方よし」をどう生きるか
    第5章 たねや流「働き方改革」
    第6章 変わるもの、変わらないもの

    ISBN:9784065129036
    出版社:講談社
    判型:新書
    ページ数:256ページ
    定価:860円(本体)
    発売日:2018年08月20日

  • 「たねや」「クラブハリエ」等のブランドで展開し、滋賀県を代表するたねやグループの山本社長の著書。
    「商売の原点は顧客が喜ぶこと」「お店は商品を売る場所でなく、顧客に感動を与える場所」「ここにしかないものを作る」など、商売の本質が多く散りばめている。

  • 2021/5/8(土)午後読了。いつでも書店の電子書籍にて。

    とても良い本だった。
    たねやの社長が著者。たねやは私の人生にはあまり馴染みがないけれど、
    本書自体はビジネスの信条や絶え間ない工夫がこれでもかと詰め込まれていて、
    それでいて丁寧で平易な文体なのですらすらと読み進められる。
    今すぐたねやのお菓子を食べたくなるくらい、魅力的な社長であり会社と感じました。
    たくさん勉強になりました。

    ※ちなみに最近いつでも書店を多めに読んでいるのは、どうやらいつでも書店のアプリは端末間の同期機能が無いようで、仕方なく一番使用頻度の高いiPhoneで読んでいるので最近そうということで。
    なんで使い続けてるかといえば、エポスカードの関連でzittoというのが月500円で800円分買えるので、実質約37%オフはでかいので。(でも在庫はダメダメ。ひどい。電子書籍なのに。)
    私が一番好きな電子書籍サプライヤーはダントツでhontoです。在庫・品揃え多いし、割引クーポン頻繁で割引率高い(20%はザラ)し、アプリはたぶん一番機能高い。

  • 全国区になっていく菓子屋がどういった精神で運営されてきたのか知れる本。

    ごくたまに買いに行く側としては有名な和菓子屋さんとしてしか認知していなかったが、「たねや」としての哲学、商売を大事にしながら日々運営されているのだと知れた。
    何十年と商売を続けるなかで、変えるものと変えないものを絶妙にバランスを取っているように見えたが、実際はいろいろなものを少しずつ変えていて結果的にうまくいったものを変えてきたのだろうなぁとか想像した。

  • 三方よしといえば、近江商人。

    ビジネスにおいて、すべてのステークホルダーを大切にしないといけないということがよくわかる。

  • 夏の6冊目。
    教育とも通ずるものがある。ラコリーナを訪れたからこそ、感動して一気読みしました。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/729376

  • 第1章 たねやはなぜウケたのか
    第2章 なぜ世代交代は成功したか
    第3章 ラコリーナの思想
    第4章 「三方よし」をどう生きるか
    第5章 たねや流「働き方改革」
    第6章 変わるもの、変わらないもの

  • 経営の本として非常にためになる本。優秀な経営者のバトンリレー、現場主義、経営者の現場との距離感、そして三方よし。三方よしの考え方は、渋沢栄一の「論語と算盤」にも近いものを感じた。そしてこれまで触れることがなかった和菓子業界の話も、新鮮で非常に興味深かった。

  • 【評価の理由】
    自分が知りたかった部分と少しズレていたため。
    最近観光地になっている「ラコリーナ」が、どんな理由で生まれたのか気になっていた。
    しかしこの書籍では、「たねや」や「近江商人の歴史」について述べられている部分が多かった。

    ただ、ラコリーナは故郷への恩返しという願いが込められており、数百年単位で成長させようとしていた事に衝撃を受けた。

    【見習いたい事】
    お客様のために動くこと。それを貫けば数字はついてくる。

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著者プロフィール

和洋菓子製造のたねやグループCEO。一九六九年滋賀県近江八幡市にてたねや創業家の十代目として生まれる。十九歳より十年間和菓子作りの修行を重ねる。二十五歳のとき全国菓子大博覧会にて「名誉総裁工芸文化賞」を最年少受賞。二〇〇二年、たねや洋菓子部門のクラブハリエ社長、二〇一一年たねや四代目を継承、二〇一三年より現職。

「2018年 『近江商人の哲学  「たねや」に学ぶ商いの基本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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