- Amazon.co.jp ・本 (410ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065132180
作品紹介・あらすじ
「将棋に闘争心は要らない、と思っています」「自分の役割? ないですよ。役割はないです」「最後は自我の強さ、欲の強さが大事なのかな、と」「人並みに欲はあります…ノンビリしたいとか(笑)」深い深い奥行きをたたえた「超越者」の言葉に、なぜ人は癒しを感じるのか――珠玉のインタビュー・ノンフィクション。
感想・レビュー・書評
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羽生さんの言葉が、回り回って自分自身の今抱えているものに、グサグサ刺さってくる良本だった。
絶対的な強さを誇っていた羽生さんが負けるという部分に、ある意味フォーカスしている流れはあまり好きではない。
もちろん、負けてどんな気持ちですか?みたいな部分を「超越」して、意味や目的を突き詰めすぎない境地を見せてくれるから魅力的なのだけど。
諦めること、和すること。
葛藤に対しては、目の前の一手に集中し、そこに闘いも何もない、その無心を呼び起こすこと。
でも、恐怖心に対しては、AIのように臆することなく一手を繰り出すことに、つまらない感じがしますけどね、とも話している。
鬱を患ったことのある筆者が、対話から癒しを得るように、羽生さんの「見えている」ようで「ぼんやりとした」言葉に触れていると、自分の抱えている物事も、ストンと落ちるような気がした。
この本のもう一つすごい所は、「雀鬼」と呼ばれた桜井章一さんのパートだ。
麻雀にのめり込むことを「腐る」と表現し、人間は皆腐って死ぬわけだから、その練習をしていると言う。
将棋には名局があっても、麻雀にはない。
勝つことに正義もなく、負けた人間の向こう側に自分が見えた。「何だよ、結局、俺が俺をやっつけてるだけじゃねえか」と気づき、寂しさを感じるくだりを読んで、自分まで辛くなってしまった。
「固い信念や意思というのは危ない。固いもの同士というのは、必ずぶつかりますから」
対象との境界が極限までなくなりながら、でも自分を保っていること、その自分とは何なんだろう。
感情すること、思考すること、なんだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
将棋の羽生永世7冠のインタビューを主とした著書だが、将棋の専門知識は全く不要。
つまるところ、人はなぜ生きるか?の問いについて。
羽生さんは、野球で言えば、バッターで3冠、ピッチャーでも、最多勝・最優秀防御率を獲得したような、突出した棋士。
人工知能の研究の対象になったり、一方でAIの専門家のような立場にあったり。将棋がソフトがソースを公開したことで進歩したように、羽生さん自体が、思考をオープンにして。 -
私は羽生善治先生のことを崇敬しています。
本書は羽生先生のインタビュー本ですが、
ライターの方が非常に熱心に取材され、まとめられており、
とても読みやすい本でした。
羽生先生の思想に興味のある方には
非常にオススメする一冊です。 -
ルポライター高川武将氏が羽生善治との対話を通して、羽生善治の実像に迫った作品、407頁の大作です。渡辺明、久保利明、谷川浩司、森内俊之などの棋士との関係(対局)にも触れられています。カープ帽の最強の少年から将棋史上最強の棋士に。寝癖髪の絶対王者、羽生マジック、羽生睨み・・・。そんな羽生善治になぜか癒しを感じる著者です。(多くのファンも、同様に、畏敬の念と癒しを感じるのではないでしょうか)現代将棋はソフトの影響からか、手損を気にしない、形にこだわらない、時系列でものごとを考えない所がありますが、それらにもしっかり対応し、復活されることを確信しています。
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文字で読んでも羽生さんの淡々とした印象が伝わってくる。好印象だが、将棋界で問題になった闇の部分のニュースについても少しは聞いてみてほしかった。
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無冠になるか、通算100期か、絶妙なタイミングでの発刊。
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将棋に興味のない人でもまず知っている棋士と言えば、羽生善治氏ではないでしょうか。永世7冠と国民栄誉賞というとてつもない実績を残している羽生氏に7年に渡りインタビューを繰り返し、その人間像に迫ります。
羽生氏ご本人へのインタビューだけではなく、渡辺明氏、久保利明氏、谷川浩司氏、森内俊之氏など羽生氏とタイトル戦を数多く戦った棋士へのインタビューも掲載されています。
読後の印象としては「まるで哲学書を読んだような、禅問答を聞かされたような」印象でした。
誰よりも多く勝利を収めた棋士でありながら「何と闘っているのか突き詰めると、何もない」、誰よりも真摯に将棋に向き合っていながら「あまり真面目な人は棋士に向かない」、誰よりも長い期間に渡って安定的に勝ち続けていながら「テンションが上がらないときは諦めも大事。自分でコントロールするのは無理」、「なんの為に将棋をしているのかという問いを突き詰めれば『理由はない』」等々、羽生氏の言葉に翻弄される著者。
一方で、羽生氏の事を語る棋士達の言葉はあまりに対照的に明確です。「羽生さんにあって自分にないものがあると嫉妬した(谷川氏)」、「羽生さんにだけ備わっている特別な力がある。劣等感があった(森内氏)」、「もう、何をやっても羽生さんには勝てないんじゃないかと
心の中で泣いた(久保氏)」
400ページに及ぶ本書を読み終えても、羽生氏の本当の姿には到達できなかったような印象を受けます。それほどに羽生氏とは奥の深い、懐の深い存在なのでしょう。しかし、ここまで羽生氏に迫った著者のインタビュー力と執念に脱帽です。 -
2010年から2018年に渡って計9回行われた羽生先生のインタビューと、渡辺棋王や谷川永世名人などのインタビューをまとめた本。
羽生先生の本は、全部とは言わないまでもほとんど読んでるけど、この本は本当に読んでよかったと思いました。
長期間にわたってインタビューされているので、その間に羽生先生の中で変わった考え方、変わらないものなどを追うことができます。
羽生先生著の決断力や大局観なども佳作だけど、昔はこう思ったけど今はこう思ってるなどがわかるので、どの年代の人にも参考になるのではないかと思います。
特に印象深かったのは2点。
まず、最初のインタビューが終わったとき、同席していた人は著者のインタビューの技術を褒めますが、著者はある種の敗北感を感じます。
「羽生先生は、あらゆる質問にあらかじめ答えを用意して、本音で語っていないのではないか?」
実は僕も1章のインタビューを読んだとき、面白いんだけど今まで読んだ内容と変わらないなと少しがっかりし始めていました。
そんな時に、この著書のズバリ僕の気持ちを代弁してくれるような反省文。ここから著者は羽生先生の本音を引き出そうと奮闘します。
テニスのロジャー・フェデラーもそうだけど、今のトップ選手は、良くいえば紳士的な、悪くいえば当たり障りのない回答が求められ、なかなか本音で語ってくれることはありません。
もちろん、昔のように「あいつは嫌いだ」「俺が一番だ」と感情的な本音は論外だけど、トップの人が本当は他の人をどのように評価し、どのような目標を持ってその競技を行っているか、一般人には理解できないにしても、言葉や文章として残して欲しいと思うことがあります。
はじめの数年は、羽生先生独特の笑いや冗談を含めた会話が多いんですが、著者の努力もあり、後半になるにつれ、羽生先生が真剣に考えて答えるシーンが多くなって行くのが面白い。
2つ目は、いつも朗らかな羽生先生が見せた、孤高の世界。
羽生先生が、相手の得意な戦型でわざと勝負するというのは有名な話しですが、これは「目先の勝利より、未来の可能性を広げる」ためと一言で伝わることが多い。
しかし実際は、相手の得意戦法で戦い、それでその戦法のことがわかっても、それを活かそうと思った時にはもうその戦法は時代遅れになっているということもある。
つまり、目先の勝利より未来の可能性をとったのに、その未来に可能性が残っていないので、投資に対する回収もできないということがあるということです。
ここで、著者は「それでもリスクを取るのは、将棋の幅を広げて強くなるためですよね?」と聞いたときの回答が、本書で一番衝撃的な言葉でした。
「もう、強くなっているかどうかもわからなくなっている」。
僕程度のレベルであれば、詰将棋をしたり、定跡を覚えれば確実に強くなるというのはわかります。
しかし、当然、歴史上羽生先生より将棋を深く知っている人はいないわけで、何をしたら強くなるかなんて当然わからないし、下手をすると、いまやってることで弱くなっている可能性すらある。
それでもなんらかの勉強をし続けないといけない。
想像しただけでゾッとしました。
どの分野の人でも、道を極めようと思っている人はぜひ手にとってみて欲しい本です。