私はあなたの瞳の林檎

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 538
感想 : 59
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  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065132555

作品紹介・あらすじ

ずっと好きで仕方がない初恋の女の子。僕の告白はいつだって笑ってかわされる。でも、今好きなものを次なんて探せない!(表題作)いいものは分かる、けど作れない。凡人な美大生の私が、天才くんに恋しちゃった!(「ほにゃららサラダ」)僕が生きていることに価値はあるのだろうか。僕は楽しいけど他の人にとっては?(「僕が乗るべき遠くの列車」)思春期のあのころ誰もが直面した壁に、恋のパワーで挑む甘酸っぱすぎる作品集。

感想・レビュー・書評

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  • ○私はあなたの瞳の林檎
    バイト先を合わせようとしたり進学先を合わせようとしたり、彼の気持ちはすごくわかりました。同じことはしていないけどそれに類似するところが、いくらか大人になった自分の過去にもあったことを思い出しました。その件については迷惑をかけたなと何度も後悔したし、何度も恥ずかしんだけれども、今更そこを突かれ、耳が少し熱くなりました。

    ○ほにゃららサラダ
    人生で出会った中で1人だけ天才がいます。今でも付き合いはありますが、その天才と一緒にいると自尊心をとことん削られます。自分としてはこれ以上ないというほど考え抜いたものが、そいつによっていとも簡単に否定されるからです。
    ヤツと真面目な話をすると、言葉を発するのにも体力を使います。間違いを言ってはならない。説き伏せなければならない。納得させなければならない。そんな条件に当てはまる言葉を編み出すのには時間がかかり、その時間がヤツの態度や語気の強さに更に拍車をかける。結果彼と会った日にはいつも、満身創痍。
    男同士なので、この話のように男女の別れのようなことは起きないのですが、やはり一緒にいて真面目な話になった時には、自分の不甲斐なさが浮き彫りになり、苦痛に感じます。もっと努力しろよ、自分に自信を持てよ、と言われているような感覚があるのです。
    一方良いこともあります。そんな奴と普段から議論を交わすわけだから、有難いことにいつのまにかその他大勢を上回る力が付いていた、なんて感じることがままあります。

    天才じみたヤツと一緒にいると、こいつは僕のことを下に見ているはずなのに、なぜ一緒にいたいと思うのだろう、と考えることがあります。
    少なくとも、自分が精神的に前を向けている時にしかヤツとは会いたくない。なのにヤツはそんなことお構いなしに連絡をしてくる。
    ヤツは、人一倍努力している人間であり、その努力に裏付けられたスキルと自信をもっています。その姿を見て自分の怠慢さに嫌気がしますし、ヤツもそのことには気がついているはずです。ヤツと僕は互いに、自分とはかけ離れた人種のはず。なのに、なぜ一緒にいたがるのだろうか。僕はそこに答えを見つけられていないから、高槻くんを振った理由は分かっても、高槻くんが泣いた理由が分からなかったです。

    「いいものは分かる、けど作れない。」この感覚はものすごく共感できました。頭で先に考えてしまって自由に作れない、本能的に作れないことを、理に落ちていると表現している感覚も、ものすごく身に染み入ります。天才とは、努力を続けられる人間。でもヤツらは努力を努力と思っちゃいない。そこの決定的な違いが僕にはどうしても埋められない。熱中して、気づいたら凄く出来るようになっていた、そんなことが人生全てに当てはまればいいのに。

    ○僕が乗るべき遠くの列車
    難しかったので時間おいてもっかいよみます。

  • 愛に溢れてて気持ち揺さぶられるから舞城王太郎作品好き
    私はあなたの瞳の林檎
    ほにゃららサラダ
    僕が乗るべき遠くの列車

  • 著者初読み。
    勝手な思い込みで、もっと回りくどくてエグい小説を書く人かと思っていたのだけど、装丁に惹かれて読んでみたらびっくりするほどストレートな文体でストレートな話だった。
    2話目が一番好き。
    対になると思われる作品の方も読みたい。

  • タイトルや表紙のイラストからは想像できない、ラブストーリー短編集だった。
    3つの物語を読みながら、色々な環境や人間関係の中で、様々な恋愛の始まり方・終わり方がある
    ことを改めて学んだ。
    しかし、所々分かりにくい描写や想像しにくい
    シーンがあり、あんまり好きではない。

  • 初読みの作家さん。

    『私はあなたの瞳の林檎』『ほにゃららサラダ』『僕が乗るべき遠くの列車』の3編が収録されています。

    初出は順に2012年、2010年、書き下ろしとなっていますが、先の2作も古さは感じずイイ感じの甘酸っぱさがありました。

    お気に入りは『私はあなたの瞳の林檎』
    同級生の鹿野林檎(かの りんご)の事を好きで好きで堪らない戸ヶ崎直紀(とがさき なおき)二人の間のパワーバランスとツンデレ、ドキドキする感じが微笑ましい。

    直紀のお母さんの存在も温かくて和まされる。

    初恋話はいつだって懐かしさと甘やかな想いが蘇る。

  • 私にはKraftwerk・駕籠真太郎・舞城王太郎という生涯追いかけ続られる相手がいて幸せだ。

  • 昔『煙か土か食い物』に衝撃を受けて、暫く追いかけてたんだけど、『好き好き大好き超愛してる』あたりからあんまり面白いと思わなくなって読まなくなり、もう何年?一時期は芥川賞の候補にもなってたけど、この頃はそういう話も聞かないし、それでいて今も書き続けているってことは何かしら変わったのかもね、と思って読んでみた。
    書いてる内容は随分変わったな、という印象。昔はこういう普通の青春小説みたいな設定自体なかったと思う。
    しかし独特の捻りは健在で、あからさまでない分上手さが感じられた。
    特に美大生の葛藤を描いた「ほにゃららサラダ」が良かった。表題作と三番目も良かったけど、どうしてもさ、こういう話、一定以上のルックスの人たちだから成り立つ設定という気がして。林檎がブスだったら、同じ身の上でも成り立たない話のような気がして。ごめんね、根性悪くて。
    でも三番目の主人公の考え方は共感した。こういう風に考える人って少数派だけど必ずいると思う。
    ちょっと哲学っぽい話でもあった。
    久し振りの舞城王太郎は結構良かった。

  • タイトルといい装幀といい文章といい
    甘酸っぱさといい。とてもとても好きでした。
    檸檬の方も買う!
    舞城王太郎さん、 初めて読んだけど
    好きかも。 大好きかも。
    ほかのも読みたいかも。

    わくわく

  • 小学生から中学生、高校生、大学生。10代のそれぞれの恋の話。

    『私はあなたの瞳の林檎』
    戸ヶ崎くんは同級生の林檎が好き。思春期真っ盛りの中学生の時もずっと人目をはばからずに林檎に視線を送り続けたし、林檎もずっとそれに応えることはなかった。
    戸ヶ崎くんが林檎を想い続けられた理由は、小学生のときの秘密の思い出と、小学生から中学生に上がる間の春休みに過ごした時間があったから。バイト先の藤井優さんのおかげで気持ちに在り方に気づき、戸ヶ崎くんと林檎は無事に付き合う。

    『ほにゃららサラダ』
    ほにゃらら、とはうんこのことで、ほにゃららサラダはうんこサラダのことだ。芸術家ぶって良い物を作れない奴らをバカにした造語で、高槻くんが好んで使う言葉。松原はそんな高槻くんが大好き。美大生の恋。
    高槻くんと付き合うようになれた松原だったが、高槻くんと自分との才能の差に悩む毎日。何度か光が見えそうな瞬間が来るけど、自分を上回る作品を作り出す高槻くんがに対して気持ちが変化していく。

    『僕が乗るべき遠くの列車』
    祐介は色んなものに対して意味がないと思っていた。たとえば自分が中学で違うクラスになっていても、同じように楽しかっただろうし、たとえばいま自分が死んでしまっても後悔はないような、そんな達観した態度で生活していた。
    それを同じクラスの鴨ちゃんに見破られて、すこし恥ずかしいような気持ちにもなったが、そのおかげで夏央と交流を深めることができた。中学生の短い恋愛。
    大学生になった祐介は鴨ちゃんに告白され、夏央の死を知る。そこで思い知らされる、鴨ちゃんの想いと生きていることの意味。

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    3つの短編すべてが素敵な恋の話だった。
    『私はあなたの瞳の林檎』と『僕が乗るべき遠くの列車』に共通する、好きなのに会話をしなくなってしまう(できなくなってしまう)期間って本当に何なのかわからないけど、十代の恋愛あるあるなんだろうな。
    『ほにゃららサラダ』はレベルの高い美大生の話で、ちょうど漫画『惰性67%』を読んでいた自分からすると色んな美大生がいるんだな、という感じだった。『惰性67%』の美大生たちはうんこサラダどころか、ただのうんこエロ学生たちだった(彼らは逆にそこが長所だ)。高槻くんは『ハチミツとクローバー』の森田さんとかはぐちゃんみたいな才能がある側の人間なんだなあ。いいなあ。

    違う種類の恋の話を3つ読んで色んな感情が生まれたけど結局は、10代の恋っていいなあと思う。

  •  舞城王太郎という作家は、基本的に読者や評論家を煙に巻くような作風なのだが、時々誰が読んでもわかりやすい作品を出す。本作のように。

     舞城さんの過去の作品でいえば、『好き好き大好き超愛してる。』や『ビッチマグネット』の流れを汲むだろうか。前者は綺麗な恋愛物、後者は日常の物語。本作が甘酸っぱすぎる作品集と聞いたとき、手を出すのをやめようかと思ったが、結論から言うと読んでよかった。

     「私はあなたの瞳の林檎」。語り部の男子と、相手の女子との出会いは、小学校時代までさかのぼる。毎日のように出かけたあの頃。微妙な距離感を保つ中学時代。自分の過去を思い起こせばわかるが、思春期特有の面倒臭さの描写がうまい。気になる部分を明かすのを、敢えて避けているのも効果的だ。時間がかかったねえ。

     「ほにゃららサラダ」。恋愛要素は薄めかもしれないが、考えさせられるテーマだ。芸術を志す若者たち。自分の身近に、圧倒的な才能がいたとしたら、どうだろう。そこでどう振る舞えるか。相手の才能と自分を比較し、腐ってしまうか。自分には自分のできることがあると、前向きに進めるか。今輝いている彼が、今後も輝き続けるかはわからない。

     「僕が乗るべき遠くの列車」。何となく達観している中学生。こういうある種醒めた心理は、わかる気がする。本作中では珍しく、価値観を巡る哲学的問いかけが多いが、難解ではない。誰もが考えたことではないか。若者というのは、わかっているのにわかっていないふりをするし、それをなかなか認めない。またまた時間がかかったねえ。

     読んでみると、ベタベタに甘いわけではなく、むしろこの年代らしい潔癖さを感じた。「性」の話題がないわけではないが、極めてプラトニックであり、アラフィフのおっさんには眩しくて眩しくて困ってしまった。でも、たまにはこういうのもいいかもしれない。

     11/28には、『されど私の可愛い檸檬』が刊行予定だ。こちらもチェックしよう。

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著者プロフィール

1973年福井県生まれ。2001年『煙か土か食い物』でメフィスト賞を受賞しデビュー。2003年『阿修羅ガール』で第16回三島由紀夫賞を受賞。『熊の場所』『九十九十九』『好き好き大好き超愛してる。』『ディスコ探偵水曜日』『短篇五芒星』『キミトピア』『淵の王』など著書多数。2012年『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦著)の25周年に際して『JORGE JOESTAR』を刊行。近年は小説に留まらず、『バイオーグ・トリニティ』(漫画・大暮維人)の原作、トム・ジョーンズ『コールド・スナップ』の翻訳、短編映画『BREAK』や短編アニメ『龍の歯医者』『ハンマーヘッド』の原案、脚本、監督などを手掛けている。

「2015年 『深夜百太郎 入口』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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