ハロー・ワールド

著者 :
  • 講談社
3.82
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本棚登録 : 610
感想 : 48
  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065133088

作品紹介・あらすじ

インターネットの自由は、僕が守る

藤井太洋は諦めない。技術(テクノロジー)も、そして未来も。ーー宮内悠介          
現実の話なのにSFに見せかけてる不思議な構造。ーーひろゆき
現代人必読! 未来はまだまだ捨てたもんじゃない。ーー大森望

専門を持たない「何でも屋」エンジニアの文椎の武器は、ささやかなITテクニックと仕事仲間と正義感。郭瀬と汪の3人でチーム開発した、広告ブロッカーアプリ〈ブランケン〉が、突然インドネシア方面で爆発的に売れ出した。〈ブランケン〉だけが消せる広告は政府広報だ。東南アジアの島国で何が起こっているのか――。果たして彼らはとんでもない情報を掴んでしまった。文椎は、第二のエドワード・スノーデンなるか?

スケール、エッジ、ハートを兼ね備えた旗手による、静かで熱い革命小説

感想・レビュー・書評

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  • SF作家の藤井太洋氏による、ソフトウェア会社への勤務経験を持つ著者の経験が存分に発揮された、ある意味「お仕事小説」とも言える本著。
    「SF」と言うほどには、技術的にも、時間的にも飛躍していないと感じましたが、それでも「アリモノの技術+発想」でここまでの変化を世界にもたらせるんだなぁと思うと、我々は凄い時代に生きているのかもしれません。

    本著は5つの短編(中編?)で構成されていて、いずれも主人公は同じITエンジニア。それぞれ独立して読むことも可能ですが、全体を通して読むと主人公の成長を見て取ることもできます。
    「オービタル・クラウド」ほどのスケール感ではないのですが、それでも主人公は「ファイヤーマン(火消し)」として世界を股にかけて動いており、編ごとに舞台となる国も違います。著者の作品の中では、比較的気軽に読めると感じました。

    本著の5編にに通底していると感じたのは、「技術が社会においてどういう存在であるべきなのか?という問題意識」です。
    もはや、ソフトウェア技術者がラップトップを開いてコードを書くだけで、Amazonの荷物配送にも、徴税にも、果ては人の命にも影響を与えてしまう時代な訳です。
    そのような中で、ソフトウェアやサービスは、どのような存在であるべきか。本著の主張は「ソフトウェアやサービスは、ごく一部のエンジニアやギークのためのものでも、グローバル企業のためのものでもない」「誰でも使えて、特に弱き者たちを助けるものでないといけない」というコトなのではないかと。当たってるかはわかりませんが…。

    私の日々の仕事では、会社内の火消しに追われている毎日ではあるのですが、こういう一段上の発想を忘れちゃいけないよなぁ。。と思った次第です。

    ちなみに、最後の「めぐみの雨が降る」の結末の展開は、著者の手掛けるものとしては珍しいなぁと感じたのですが、恋愛要素だったんでしょうか。人類愛のようにも思え、どっちだったのかしらと。

    著者の本にはハズレが無いなぁと。引き続き読んでいきたいです。

  • 日本のITベンチャー企業の社員で商品の売り込みやユーザーサポート、そして少しだけだがコーディングもできるソフトエンジニア(もしくはエンジニア営業、技術営業?)文椎泰洋(ふづいやすひろ)を主人公に、彼が遭遇する危機や奇妙な出来事を描く。SFと呼んでいいのだろうか?

    中々評価が難しい。たぶんソフトウェア開発の経験がなければ、そして最近のインターネットを前提とした開発環境と、コミュニティ、技術を前提としなければ理解する事も難しいかも。

    しかも、話の主題はそういう技術的な部分のリアリティにではなく、物語の中で文椎が遭遇する事態に対して、彼が彼なりの論理で筋を通すやり方、生き方にあるからだ。
    そのへんの文椎という人物の拘りは、彼が単なるエンジニアや、ギークではないという事、いや、そこまで突き抜けられない、突き抜けようとは考えない部分にあって、IT界での話でありながら、一種の人情話的な側面を持っているように感じる所以ではないだろうか。

    呼んでない人に説明するのは難しいが、呼んでみてほしいと思わせる本だ。

  • 「Hello World!」とは、ITの初心者向け教科書で、プログラムを組んで初めて画面に表示させる文字列らしい。

    本書はIT的に器用貧乏な主人公を軸に、暗号資産やドローンといったIT的小道具を使いながら、舞台は世界に広がり、全くのフィクションなのだが、十分な説得力をもって、現代の断面を切り取ってみせる。

  • 藤井太洋氏の著作は近未来ガジェットで現実感がすごいが、本作もWEB広告ブロックアプリ、GPS特異点2019年4月7日、ドローンを使ったリアルタイム放送、Twitterの暗号化、ビットコインとリアリティーがワクワク。特に主人公文椎泰洋さんが考案したリャンはすばらしいアイデアだ。ユニバーサルインカムでインフレーションが組み込まれている。換金できずモノやサービスの対価として受け取ったリャンだけが他の通貨と交換できる。送金時には徴税される。物品購入時は消費税(もらったときに徴税されるのであれば、売上税の方が良いかも)、サービス対価は所得税、単なる送金は贈与税だ。インフレし続けるから蓄財したくなくなる。一見パーフェクト。 電子マネーなのでタンス預金もできないし、リャン自体の価値は制御して徐々にさがるように誘導することが可能。不動産や金・株等に投資する際も、リャンで売買すれば売買自体の行為にたいして公平に課税される(値上がり益に対しては課税されないので中長期投資が推奨される)電子マネー自体が投機手段とはならず普通の人たちが普通に使う通貨になる。これ実現しないかな・・・・

  • 「小説現代」に掲載された4編に書き下ろしを加えた5編の連作集。
    習作で始めたアド・ブロッカーが、なぜかインドネシアだけで売れ始める、いったい何が起きているのかー
    という魅惑的な導入。
    個人から始まった制作に、わずかな(しかし有能な)賛同者が加わって小さいプロジェクトが始まり、それが世界に繋がり、個人の人生が変わり、世界を変えるに至る、一連の大きなうねりは、『オービタル・クラウド』に通じるものを感じる。
    この主人公は、一瞬著者本人ではないか、と思ってしまうほどに筋が通っているし、技術動向に関する幅広い知識を有している。
    その上で、自ら「専門を持たない「何でも屋」エンジニア」と言う文椎は、トップIT企業に入れるような特段鋭いスキルを持たない普通のエンジニアである自分には、とても共感しやすいキャラクタになっていた。IT系エンジニアは大体「何でも屋」になるのではないか?そして「動くコードを目の前にしないと一歩も進めない」ということにも、共感する。
    一方で、彼の手の速さ・行動力やコミュニケーション力、スタートアップでありながら社長の右腕として世界を飛び回り、という姿が徐々に明らかになると、それは憧憬に変わる。可能性を拓くポジティブSFであると同時に、主人公キャラクタはやはりヒーローだった。
    ただしヒーローの資質は、これで行くという「覚悟」を受け入れることができるかどうか、だと示しているのだ。

  • 自称何でも屋のプログラマが主人公の小説(本人はプログラミングの能力はたいしたことないと思っているよう。というより、周りにすごい人が多いだけな気が……)
    主人公は同じだけど、基本的に一話完結形式の5話構成の話に思えた。そういうことを知らないで読み始めたので、1話で起きた事件が、最後のほうで解決するのかなと思ったらすぐに解決し、2話目は舞台が日本からアメリカに変わっていて主人公の名前もなかなかでてこなかったので、てっきり2話を読み始めた時は短編小説集だったのかと思った。
    それにしても、主人公がすごい。ソースコードは汚いみたいだけど、発想と行動力がすごい。あちこちの国に行きすぎだろと。それと、1話目で人が死ぬ映像を見てビビっていたのに、最後の話では誘拐されても銃を突きつけられてもくっしないのは、すごい変わったなと思った。
    ところで、インドネシアは三百の民族がいるけど、五百を超える言語を使うって、初めて知ったけどどうしてそうなったんだ。まあ、日本語の方言も、別の言語のようなものだということもあるし、そういうもんなのか。
    ちょっと笑ったのが、右手を高く上げて小指でリターンキーを勢いよく叩いた人がでてきたこと。いったいどういう状況だよと。なぜ、人差し指や中指じゃなくて小指なんだ。
    2019年4月7日問題なんて初めて知った。GPSが週数を10ビットで管理しているため、その日にリセットされるらしい。1999年8月21日も週数がリセットされたそうだけど、その時もちょっと問題が起こったらしい。それより、GPSの週数って何に使ってるんだ。必要なのか?
    ところで、中国が舞台の話で、逮捕から1日も立たないうちに裁判が行われて判決もでた(しかも、懲役50年)という話があったのだけど、実際中国ってそんなスピード感なのだろうか? さすがにそんなに早くないだろって思ったのだけど。証拠集めて精査するだけでもっと時間かかりそうだけど、そのへんいい加減なんだろうか。

  • 超近未来を見渡す観察眼はますます精度とスピード感を増し、特異点である現在に近づく。

  • GPS 週のデータ
     週は10 bit 1024までしか割り当てなし
     運用が始まった1980/1/6から1024週後の 1999/8/22にリセットされて0にもどった このとき初期のカーナビで不具合 次のリセットは2019/4/7

    ビットコイン 発行上限 2100万

  • プログラムの知識がないと難しい部分もあるが、主人公が海外でも通用するような技術力を見せるシーンは面白く、自分が仕事に使う以上の知識も学んでみたいと思うようになった。

  • ――

     しびれた…
     ネットネイティヴ世代には必読の一冊、なんてネット黎明期に遊んでただけのオレが云っても説得力無いんだろうなぁ。これもジェネレーションギャップのひとつである。
     エンジニア・文椎が(基本的には自分の思いつきのせいで)巻き込まれ、立ち向かうことになるのは、過激派に対しスマホアプリを通じて非合法に監視を行おうとする一国の政府、革命を起こそうとしているタイの学生民主戦線、最先端の秘匿通信網を接収しようとする国家権力、ビットコインを乗っ取り独自の仮想通貨にしようとする超大国…などなど。こうやって書くと荒唐無稽なスーパーヒーローものみたいに見えるんだけれど、主人公の文椎はなんというか、普通、なのだ。可能性を追求して、思い付いたコードを書いている。それだけと云えばそれだけ。
     ただひとよりも主人公なのは、そのプログラムが本来の機能のままでいられることに責任を持っているから、というところ。
     口に出した手前、みたいな意地に似てるけど、そういう意地がいま、足りてないんだよなと思うところでもあった。どこに? さぁね。


     さてさて、そしてそんな骨太エンタメな物語の中に、しっかりといまのメディアやITの扱い方、扱われ方に対するしっかりとした視座、スタンスが示されていて、またそれがかっこいい。

     いまの若い世代はネットの危険性を理解してない! みたいな論調には疑問で、そう云ってるひとたちって云うのはインターネットのなんたるかを、解ったつもりでいるのかそもそも解りきっていないのか、少なくともオンラインであることの「いまの」常識からは外れてしまっているんだろうなと感じている。それの、どちらが良いか悪いか、真っ当かどうかというのはこの際問題ではなくて。
     この、「問題じゃない」というのがなかなか問題で、なんでそれを問題にしないんだ! と騒ぐことで別に問題じゃないことも問題になったりする。ネットの世界こそ諸行無常の響きあり、困るのは、置いてかれていても誰も教えてくれないことである。


     まぁでもそもそも、エンジニアリングに関しては技術的に丸腰な自分がそんなこと云えた立場じゃないんだなぁ。現役のプログラマとかエンジニアのひとたちが読んでどう感じるんだろう、というのが素直に気になる。
     しかしそんな丸腰なオレがこんなに面白く読めるっていうのはほんとに凄いんじゃないかしら。
     小説的な技術もそうだし、発想力もそう。そしてなにより、そのアイデアをどう物語にするか、どんな要素を以て語るか。あまりに荒唐無稽になりそうで、けれどきちんと論理的に筋が立っているから単なるスーパーマンの物語にならず、少なからず自分自身のメディアとの関わり方、世界とのつながりかたを省みさせてくれる。
     読む楽しさ、という意味では、小説もコードも変わんないのかもしれませんね。
     そして読めれば書ける、というわけではないというのも一緒で。


     そう云えば中学か高校のとき謎にプログラミング初歩、みたいな授業があって、C言語の基礎の基本のき、くらいのコードを書いたんだけれど、内容まるで理解してないのにタイプだけはめっちゃ早かったよね…すっかりタタミゼされちゃったからもう今や日本語打つスピードしか自信ないけど、これ単純に英語が遣えるようになったら同じスピードで打てるかっていうとそういう問題じゃなさそうだよなぁ。指の使い方全然違いそう。
     …よく考えたらqwertのキーボードでこんなにスムーズに入力できるローマ字入力って凄くない? あとこの、キーの右下のひらがな最初に設定したひとも凄いと思う。慣らせば結構使えるもの。


     えーと、なんだっけ。
     面白い小説のレヴュほど横道に逸れがち、という自覚はあります。



     青臭さを見せる序盤から、段々と(それは事が大きくなっていくからというのもあるのだけれど)剛気になっていく終盤へかけての流れもあるので、連作短編集として読むが吉。

     繋がり続けることで希薄になっていく関係性? 見せ掛けのネットワーク。
     そのへんはもう、今でさえ陳腐なテーマかもしれないけれど、いまのインターネットにいまいち馴染み切れないこじらせ系には是非読んでもらいたい。



     あと、世界の書き方も上手だなぁ、と思いました。コードに人種は無い、と云われるけれど、コードもひとつの言葉であるからには、それを扱うひとの世界観はもろに出てくるんだろうなぁ。
     主人公文椎は、日本人らしからぬ日本人、と云う風に描かれるけれど彼の発想、というか繋がり方はいかにも日本人的で。そも、なんでも屋を自称するあたり、ジェネラリストになりがちな――んーこれは、個人的にこうあってほしい、という理想像かもしれないけれど、とにかく器用貧乏な日本人、て感じがして良かったです。
     



     この作品もいつか、「古臭い」であるとか「時代遅れ」であるとか、そんなふうに云われる日が来るのだろう。それは技術を題材にした小説には避けられないことで。
     けれどそれって歴史を学ぶときの姿勢と同じで、その時代そのときに、当事者はどんな自由を願い、どんな閉塞感を感じ、どんなふうに戦ったのか。
     いつかそれを、こんなふうに素敵に読めるとしたらそのひとは幸運だろうな、と思います。

     ☆4.4


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著者プロフィール

1971年、奄美大島生まれ。2012年7月、SF小説『Gene Mapper』をセルフ・パブリッシングで電子出版。同年の国内キンドル市場で、最も売れた文芸・小説作品となる。13年、『Gene Mapper -full build-』(早川書房)で単行本デビュー。15年、『オービタル・クラウド』で第35回日本SF大賞と第46回星雲賞を同時受賞。19年『ハロー・ワールド』で第40回吉川英治文学新人賞を受賞している。他の主な著書に『アンダーグラウンド・マーケット』『ワン・モア・ヌーク』などがある。

「2022年 『第二開国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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