「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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レビュー : 30
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065135228

作品紹介・あらすじ

人は悲しいから泣くのか? それとも泣くから悲しいのか? これは脳科学においては、昔から論争が続いている根源的なテーマです。実は人間の行動は「頭で考えたこと」に従うよりもはるかに、「情動」によって支配されています。情動がなければ、私たちは永遠に意思決定できない場合もあります。いったい情動とは何なのか? それはどこから起こるのか? 最先端のテーマについて、世界のトップランナーが興味津々に解説します!

感想・レビュー・書評

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  • 大脳辺縁系の働きや、情動と身体の関係性、脳内の報酬機構などが比較的わかりやすく語られる。こういった内容の本が新書として出版されるのは社会貢献の観点からもとても喜ばしい。さすが、ブルーバックス。

    この本で共有されている意識に関する知見として大きなものを二つ挙げるとすると、次の内容を挙げることができるかもしれない:
    ・「意識」はすでに自律的に起こった情動などの意識下の反応を、脳が認知して解釈したものである。したがって意識の情動に対する優位性は否定される。
    ・精神は、脳を含む進化論的な発展を基盤としている。

    なお著者は、感情と情動を明確に区別をした上で包括的な理解をしているので注意が必要である。著者の感情と情動の区別はアントニオ・ダマシオに由来しているので、正確に理解するためにはダマシオの著作も読んだ方がよいだろう。

    著者によると、「こころ」は脳単独で生まれるものではなく、感覚系や神経系、内分泌系を通して全身の各器官に影響を及ぼし、それらの器官からフィードバックを受けた上で全体として生成されるものである。この辺りの論は、先に挙げたダマシオの論に沿ったものである。その流れに乗る形で、著者は意識に対する「こころ」の優位性をその理解の前提としておくのである。特に情動の成立には情動を引き起こす事象の認知のみでなく、それに伴う身体反応が必要であるとするのである。

    言うまでもなく、深く考えれば考えるほど、いわゆる「こころ」の定義は難しい。ここで著者は狭い意味で「こころ」を情動と捉えて定義するのではなく、その範囲を広げて、次のように書く。

    「「こころ」には、情動以外にも、報酬を得ようとする欲求、困難を成し遂げようとする意志力、他人に共感する力、社会で適切な役割を果たす力などが含まれている」

    「「こころ」は脳深部のシステムの活動、いくつかの脳内物質のバランス、そして大脳辺縁系がもととなる自律神経系と内分泌系の動きがもたらす全身の変化が核となってつくられている。また、他者の精神状態は表情を含むコミュニケーションによって共感され、自らの内的状態に影響する。そして最終的には、前頭前野を含む大脳皮質がそれらを認知することによって、主観的な「こころ」というものが生まれるのである」

    さらにそもそも人間が「こころ」を獲得した経緯について、「こころ」は進化論の求めるところにより、個体の生存確率を高めることによって獲得されたという理解が前提とされる。また人間の情動は、一般にそう思われている以上に身体的なものであり、生物的なものである。いずれにせよ、「こころ」が生物の一機能である以上、進化論的な議論を避けて済ますことはできない。その意味でも、「こころ」の議論において、「記憶」という機能も生存確率に影響するという観点からも興味深く、この本でも取り上げられるべき重要な要素である。「エピソード記憶」、「意味記憶」からなる陳述記憶と「手続き記憶」、「情動記憶」からなる非陳述記憶、また一時的記憶領域である「作業記憶」に大きく分類される。これらと海馬や偏桃体などの大脳辺縁系の役割についても比較的詳しく説明される。また、ドーパミンなど報酬系の脳内での仕組みも、その進化論上の観点含めて「こころ」を理解する上で重要である。
    そして進化論が教えるところによると、「実は「こころ」はいまもなお進化し続けている」のである。

    「「こころ」とは、行動選択のためのメカニズムである。そして「こころ」には、学習機能が備わっている。それゆえに「こころ」は、社会の変化に伴いこれからも変化していくのだ」

    インターネットによるコミュニケーションの変容や、報酬系に与える変化はおそらくは「こころ」に対する環境の変化として働き、実際の「こころ」の動きに対してときに想定を超える影響を与える。

    各章の最後にまとめが書かれているのも理解をよく助ける。佳作。

  • 前から心理学や人間の精神みたいなものには興味があった。割と人文学的な本を良く読んでいたように思う。本書は、そういった「こころ」を科学の視点で説明している。
    (冒頭では、心理学的、あるいは精神病理学的な問題ではなく、神経科学からみた「こころ」の働きを扱う、とある。)

    同じこころ・精神といったものを扱っていても、学問によって捉え方が全く違うんだなと面白く読めた。この本では、「こころ」を生物の生きていく上での"機能"として捉えている。「こころ」の働きには煩わされたり、苦しんだりすることもあるが、それらは進化の過程で獲得した、意味あるものなんだろう。

    以下のようなことが、何となくわかる。
     - 曖昧で形にできない「こころ」をどうやって科学的に捉え、研究されているのか。
     - 「こころ」がどんな要素で成り立っているのか。
     - 人体でどのように「こころ」が作られているのか。
     - 「こころ」は何のために必要で、どんな役割を果たしているのか。

    夏目漱石の『こころ』を読みたくなった。

    ————————————
    ・脳の「機能局在」と呼ばれる概念が興味深かった。大脳皮質、大脳辺縁系、扁桃体、海馬、、、脳の部位によって役割が決まっている。各部位がどのように働くのか、ある精神の働きがどの部位にどのような経路で伝わるのかが説明される。何となくわかった気になれる。

    ・曖昧な「感情」を科学の視点で(客観的・定量的に)扱うための「情動」という概念。

    ・情動がどこに端を発するのかの二つの論争。
     悲しいから泣くのか、それとも、泣くから悲しいのか。
      - 感情は全身の状態を脳が認知することによって引き起こされる(末梢起源説)
      - 脳が情動をつくりだし、それが全身の状態に影響を与える(中枢起源説)
     感情や情動は、脳だけが支配しているものではない。

    ・情動を評価するための動物実験。
    具体的な実験手法がある。実験用のマウスはこんな目に遭わされているのか、とちょっとかわいそうにも・・・。

    ・脳手術を受けた患者ヘンリー・グスタフ・モレゾンの症例。
    テレビか何かで見た記憶がある。手術の副作用で、新しい陳述記憶を作ることができなくなった。父の死を知って悲しむけれども、それを記憶できないので話を聞く度に驚き、悲しんでしまう。
    検査に協力的だったために、神経科学の発展に大きく寄与した。

    ・同性愛者の異性愛者への”治療”
    患者の脳に電気刺激を加えることで、人工的に”快感”を与える。報酬系のくだりでそんな話が出てくる。
    昔はこういうことも治療と考えられていた。自分が感じる快・不快も、脳内の電気信号でできているのかと思うと不思議な気分になる。
    スイッチを押すだけで気持ちよくなれたらいいなと思うけど、それが麻薬や覚醒剤なんだろうな。

  • 「こころ」とはなんだろう?そして、
    「こころ」とはいったい、どこにあるのだろうか?(P3)
    自分の行動のほとんどは、自分の確固たる意志が
    決めていると信じているだろう。しかし、
    神経科学の立場から言えば、多くの行動は意識下で
    選択されている。(P7)

    上記のことが分かりやすく説明されている一冊。
    内容は難しいが各章の終わりにとても簡単な
    「まとめ」が書かれていて親切な内容になっている。

    ・大脳皮質の作動原理の説明。
    ヒトの「共感」する能力は「こころ」を考える
    うえで欠かせない機能である。
    ・「感情」と似た概念の「情動」について。
    情動とは感情の客観的・科学的な評価である。(P73)
    情動は「情動体験」(≒感情)と「情動表出」
    (身体反応)に分けられ、後者を観察することに
    より客観的に記載できる。(P73)
    情動は脳が作り出すが、その結果、引き起こされた
    情動表出は脳に、フィードバック情報を送り、
    情動を修飾する。(P73)
    ・大脳辺縁系が情動を生み出す方法。
    大脳辺縁系は記憶に深くかかわっている。
    ・記憶と情動は「こころ」を作るうえで欠かせない
    車の両輪である。
    ・報酬系について
    前頭前野は不確実な報酬を大きな報酬ととらえる。
    予測した報酬の大きさと、実際の報酬の差
    (報酬予測誤差)が、前頭前野が感じる報酬の
    大きさとなる。(P177)
    ・ニューロンについて
    ・「こころ」とはなにか
    「こころ」は進化していて、現代のヒトにとっては、
    「自分はどこから来て、何のために生きているのか」
    といった疑問や不安を解消してくれるのは、
    他者からの承認(SNS)である。

  • 人は悲しいから泣くのか? それとも泣くから悲しいのか? これは脳科学では昔から論争が続いている根源的なテーマです。実は動物やヒトの行動は「理性」よりもはるかに強く「情動」によって支配されています。情動がなければ、私たちは意思決定さえままなりません。そしてヒトはさらに、情動より複雑で厄介な「こころ」を身につけました。それはいかにして生まれるのか? 私たちを支配するものの「正体」に第一人者が迫ります!

  • 「こころ」って何だろう?どこにあるのだろう? そんな疑問を脳科学から解き明かす本。

    ・もっとも進化的に新しくて認知や思考をつかさどる大脳皮質と、脳の深部にあり動物にも共通する情動をつかさどる大脳辺縁系。
    ・大脳皮質は前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分かれ、領域ごとに機能が細かく分かれている。
    ・大脳皮質はものごとの要素を分解して情報処理を行う。視覚情報は左右別々に傾きや色、明るさなどの要素が入力され、脳内で再構成されてイメージを作る。「味、におい、色などは意識の中だけに存在する」→音楽も脳の中だけに存在する…?
    ・共感力も大脳皮質に存在し、こころに影響する。
    ・情動は脳大脳辺縁系でつくられる。結果としての情動表出が脳にフィードバックされて情動を修飾する。
    ・作業記憶(ワーキングメモリー)は前頭前野、エピソード記憶や意味記憶などの陳述記憶(言葉で表せる記憶)は海馬と大脳皮質、手続き記憶(技能の取得)は大脳皮質、大脳基底核、小脳、情動記憶(条件や文脈で引き出される)は海馬と偏桃体が関わっている。
    ・ストレスホルモンは陳述記憶を弱め、情動記憶を高める。
    ・ドーパミンの放出による快感で行動を強化する「報酬系システム」によりその行動をやめられなくなる。人間を向上にも破滅にも導く。
    ・脳内にはこころの機能に影響を及ぼす多数の神経伝達物質があり、認知や記憶など速く正確なもの、ゆっくりと気分を醸成するものなど特性もいろいろ。
    ・行動のほとんどは認知よりも情動のもとに行われている。大脳皮質での共感性や社会性、認知などの機能をフィードバックすることで人間のこころは複雑化し、社会の変化とともに日々進化している。

  • ブルーバックスらしい一冊。ただし、タイトルはミスリードで、サブタイトルの最新脳科学で解き明かす情動がふさわしいタイトル(編集者がタイトル変えたか!?)
    内容は非常によくまとまっており、ブルーバックスらしい本。

  • とても面白い。情動の仕組みがよくわかる。(2019/5/6)

  • 【#今日の読書 No.5】 https://amzn.to/2R0sWcu
    行動の原動力は感情なので、その仕組みを学び直すために、読んでみました。

    こんな目的で、こんな本を読んでるのかぁ~って感じで、参考にしてもらえたら嬉しいです。

    1日2冊以上(年間750冊以上)の読書を目標積み上げ中です。
    お手数ですが、書評はリンク先のレビューをご参照ください。

  • 情動を中心に、脳のシステム全体をヒューム的な人間観を神経科学の立場から解説してある。

    本書での情動の分類だけはヒュームと大きく異なり、「感情を分類する3つの要素」というあまり知られていない分類で解説してあり、これが普通ではない捉え方に感じられてとにかく新鮮。

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著者プロフィール

1964年東京生まれ。筑波大学大学院医学研究科修了。医師、医学博士。日本学術振興会特別研究員、筑波大学基礎医学系講師、テキサス大学ハワード・ヒューズ医学研究所研究員、筑波大学大学院准教授、金沢大学医薬保健研究域教授を経て、筑波大学医学医療系および国際統合睡眠医科学研究機構教授。1998年、覚醒を制御する神経ペプチド「オレキシン」を発見。平成十二年度つくば奨励賞、第14回安藤百福賞大賞、第65回中日文化賞、平成二十五年度文部科学大臣表彰科学技術賞、第2回塩野賞受賞。

「2018年 『「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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