「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」 (ブルーバックス)
- 講談社 (2018年10月17日発売)


- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065135228
作品紹介・あらすじ
人は悲しいから泣くのか? それとも泣くから悲しいのか? これは脳科学においては、昔から論争が続いている根源的なテーマです。実は人間の行動は「頭で考えたこと」に従うよりもはるかに、「情動」によって支配されています。情動がなければ、私たちは永遠に意思決定できない場合もあります。いったい情動とは何なのか? それはどこから起こるのか? 最先端のテーマについて、世界のトップランナーが興味津々に解説します!
感想・レビュー・書評
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大脳辺縁系の働きや、情動と身体の関係性、脳内の報酬機構などが比較的わかりやすく語られる。こういった内容の本が新書として出版されるのは社会貢献の観点からもとても喜ばしい。さすが、ブルーバックス。
この本で共有されている意識に関する知見として大きなものを二つ挙げるとすると、次の内容を挙げることができるかもしれない:
・「意識」はすでに自律的に起こった情動などの意識下の反応を、脳が認知して解釈したものである。したがって意識の情動に対する優位性は否定される。
・精神は、脳を含む進化論的な発展を基盤としている。
なお著者は、感情と情動を明確に区別をした上で包括的な理解をしているので注意が必要である。著者の感情と情動の区別はアントニオ・ダマシオに由来しているので、正確に理解するためにはダマシオの著作も読んだ方がよいだろう。
著者によると、「こころ」は脳単独で生まれるものではなく、感覚系や神経系、内分泌系を通して全身の各器官に影響を及ぼし、それらの器官からフィードバックを受けた上で全体として生成されるものである。この辺りの論は、先に挙げたダマシオの論に沿ったものである。その流れに乗る形で、著者は意識に対する「こころ」の優位性をその理解の前提としておくのである。特に情動の成立には情動を引き起こす事象の認知のみでなく、それに伴う身体反応が必要であるとするのである。
言うまでもなく、深く考えれば考えるほど、いわゆる「こころ」の定義は難しい。ここで著者は狭い意味で「こころ」を情動と捉えて定義するのではなく、その範囲を広げて、次のように書く。
「「こころ」には、情動以外にも、報酬を得ようとする欲求、困難を成し遂げようとする意志力、他人に共感する力、社会で適切な役割を果たす力などが含まれている」
「「こころ」は脳深部のシステムの活動、いくつかの脳内物質のバランス、そして大脳辺縁系がもととなる自律神経系と内分泌系の動きがもたらす全身の変化が核となってつくられている。また、他者の精神状態は表情を含むコミュニケーションによって共感され、自らの内的状態に影響する。そして最終的には、前頭前野を含む大脳皮質がそれらを認知することによって、主観的な「こころ」というものが生まれるのである」
さらにそもそも人間が「こころ」を獲得した経緯について、「こころ」は進化論の求めるところにより、個体の生存確率を高めることによって獲得されたという理解が前提とされる。また人間の情動は、一般にそう思われている以上に身体的なものであり、生物的なものである。いずれにせよ、「こころ」が生物の一機能である以上、進化論的な議論を避けて済ますことはできない。その意味でも、「こころ」の議論において、「記憶」という機能も生存確率に影響するという観点からも興味深く、この本でも取り上げられるべき重要な要素である。「エピソード記憶」、「意味記憶」からなる陳述記憶と「手続き記憶」、「情動記憶」からなる非陳述記憶、また一時的記憶領域である「作業記憶」に大きく分類される。これらと海馬や偏桃体などの大脳辺縁系の役割についても比較的詳しく説明される。また、ドーパミンなど報酬系の脳内での仕組みも、その進化論上の観点含めて「こころ」を理解する上で重要である。
そして進化論が教えるところによると、「実は「こころ」はいまもなお進化し続けている」のである。
「「こころ」とは、行動選択のためのメカニズムである。そして「こころ」には、学習機能が備わっている。それゆえに「こころ」は、社会の変化に伴いこれからも変化していくのだ」
インターネットによるコミュニケーションの変容や、報酬系に与える変化はおそらくは「こころ」に対する環境の変化として働き、実際の「こころ」の動きに対してときに想定を超える影響を与える。
各章の最後にまとめが書かれているのも理解をよく助ける。佳作。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
前から心理学や人間の精神みたいなものには興味があった。割と人文学的な本を良く読んでいたように思う。本書は、そういった「こころ」を科学の視点で説明している。
(冒頭では、心理学的、あるいは精神病理学的な問題ではなく、神経科学からみた「こころ」の働きを扱う、とある。)
同じこころ・精神といったものを扱っていても、学問によって捉え方が全く違うんだなと面白く読めた。この本では、「こころ」を生物の生きていく上での"機能"として捉えている。「こころ」の働きには煩わされたり、苦しんだりすることもあるが、それらは進化の過程で獲得した、意味あるものなんだろう。
以下のようなことが、何となくわかる。
- 曖昧で形にできない「こころ」をどうやって科学的に捉え、研究されているのか。
- 「こころ」がどんな要素で成り立っているのか。
- 人体でどのように「こころ」が作られているのか。
- 「こころ」は何のために必要で、どんな役割を果たしているのか。
夏目漱石の『こころ』を読みたくなった。
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・脳の「機能局在」と呼ばれる概念が興味深かった。大脳皮質、大脳辺縁系、扁桃体、海馬、、、脳の部位によって役割が決まっている。各部位がどのように働くのか、ある精神の働きがどの部位にどのような経路で伝わるのかが説明される。何となくわかった気になれる。
・曖昧な「感情」を科学の視点で(客観的・定量的に)扱うための「情動」という概念。
・情動がどこに端を発するのかの二つの論争。
悲しいから泣くのか、それとも、泣くから悲しいのか。
- 感情は全身の状態を脳が認知することによって引き起こされる(末梢起源説)
- 脳が情動をつくりだし、それが全身の状態に影響を与える(中枢起源説)
感情や情動は、脳だけが支配しているものではない。
・情動を評価するための動物実験。
具体的な実験手法がある。実験用のマウスはこんな目に遭わされているのか、とちょっとかわいそうにも・・・。
・脳手術を受けた患者ヘンリー・グスタフ・モレゾンの症例。
テレビか何かで見た記憶がある。手術の副作用で、新しい陳述記憶を作ることができなくなった。父の死を知って悲しむけれども、それを記憶できないので話を聞く度に驚き、悲しんでしまう。
検査に協力的だったために、神経科学の発展に大きく寄与した。
・同性愛者の異性愛者への”治療”
患者の脳に電気刺激を加えることで、人工的に”快感”を与える。報酬系のくだりでそんな話が出てくる。
昔はこういうことも治療と考えられていた。自分が感じる快・不快も、脳内の電気信号でできているのかと思うと不思議な気分になる。
スイッチを押すだけで気持ちよくなれたらいいなと思うけど、それが麻薬や覚醒剤なんだろうな。 -
人は悲しいから泣くのか? それとも泣くから悲しいのか? これは脳科学では昔から論争が続いている根源的なテーマです。実は動物やヒトの行動は「理性」よりもはるかに強く「情動」によって支配されています。情動がなければ、私たちは意思決定さえままなりません。そしてヒトはさらに、情動より複雑で厄介な「こころ」を身につけました。それはいかにして生まれるのか? 私たちを支配するものの「正体」に第一人者が迫ります!
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「こころ」は進化する。現代社会での承認欲求にまで話は及んで、面白かった。 「嫉妬」について、「ある報酬を他者が得られ、自分が得られないことを理解できる」共感性によるもの、という部分を読んで、なるほど嫉妬とはそういうことか、ここまで客観的に書かれると「嫉妬」が孕んでいる荒ぶる感情のようなものが一気に色褪せるなあ、「嫉妬」に振り回されてしまうことの馬鹿らしさが際立つなあと思った。
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意識の問題
神経科学からみた「こころ」の働き方、いわば生体の機能としての「こころ」の働き方
●ドーパミン
ドーパミンが前頭前野や前帯状皮質に放出されると「気持ち良い」という情動認知、つまり、快感が生まれる。
そしてドーパミンが側坐核という部分に放出されると、その放出に至った原因となった(と脳が認知した)行動が強化される。報酬系では、これがキーイベントとなる。
●脳のモード調節
「気分」に作用するモノアミン類(アミノ基がひとつだけ)
脳全体のモード調節
ノルアドレナリンのレベルが上がれば興奮状態になり、筋緊張は高まり、一般的に「緊張している」という状態が生まれる。ドーパミンは緊張を緩め、動きを大きくする。セロトニンはすべての調整役として働き、適切な状態にとどめる役割をしている。これらのレベルがチューニングされることによって、動物は「気分」を大幅に変動させる -
脳科学において今までわかったことから「こころ」の仕組み
に迫る。最新の研究から推測されることではなく、現に判明
している事実をひとつずつ積み重ねて今までにわかってきた
ことをわかりやすく説明しているという印象。その分間違い
はないが新しい発見もないという感じかな。人の脳という
ものが増築に増築を繰り返し、最初の古い母屋の部分も未だ
に活用しているという事実には中には驚く人もいるのかも
しれない。 -
中々書いてある内容が頭に入ってこなくて難しい本でした。脳科学の分野に携わっている人が見るとすごく面白いと思えるのだと思います。
ただ、こころはヒトにとって動物にとって大切なものなのだと分かりました。また、こころも進化していっている事が分かりました。
著者プロフィール
櫻井武の作品






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