琥珀のまたたき (講談社文庫)

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  • 講談社 (2018年12月14日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784065139967

作品紹介・あらすじ

魔犬の呪いから逃れるため、パパが遺した別荘で暮らし始めたオパール、琥珀、瑪瑙の三きょうだい。沢山の図鑑やお話、音楽に彩られた日々は、琥珀の瞳の奥に現れる死んだ末妹も交え、幸福に過ぎていく。ところが、ママの禁止事項がこっそり破られるたび、家族だけの隔絶された暮らしは綻びをみせはじめる。


壁に閉ざされた別荘、
家族の奇妙な幸福は永遠に続くはずだった。

私の内側の奇跡の記憶を揺さぶる、特別な魔法の物語。
――村田沙耶香
最後の数ページの美しさには、息をのむほかない。
――宮下奈都

魔犬の呪いから逃れるため、パパが遺
した別荘で暮らし始めたオパール、琥
珀、瑪瑙の三きょうだい。沢山の図鑑や
お話、音楽に彩られた日々は、琥珀の瞳
の奥に現れる死んだ末妹も交え、幸福に
過ぎていく。ところが、ママの禁止事項
がこっそり破られるたび、家族だけの隔
絶された暮らしは綻びをみせはじめる。

感想・レビュー・書評

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  • 姉はオパール、下の弟は瑪瑙、真ん中の男の子は琥珀。
    「こども理科図鑑」の中から選ばれた新しい名前がつけられたのは、それまで住んでいた家を引き払い、昔パパが仕事用に使っていた古い別荘へ引っ越した時だった。
    すべてのはじまりは、妹が死んだこと。
    妹のいない世界を生き抜くための、帰り道のない旅。
    たくさんの図鑑に囲まれた生活。
    オパールはダンスを踊り、瑪瑙は歌をうたう。
    ママはツルハシを担いで仕事に出かける。
    最も大事な禁止事項は「壁の外には出られません」

    とても普通ではない、風変わりな状況なのに、ここでの生活のひとつひとつが愛おしく思えて仕方がない。
    品位を失うことなく語られてゆく閉ざされた世界を、思わず息を潜めながら読んでいた。

    琥珀の描く「一瞬の展覧会」とは何だったのだろう。

    あの古びた別荘で、きょうだいが一緒に過ごした7年余りの間のささやかな風景が、おとぎ話のように深く心に刻まれてしまうような、ほんとうに美しい物語だった。

  • 静寂の中で読みたい一冊。

    小川作品の中でも無音、静寂が一番似合う。
    その環境で読みたい作品。

    現実から見れば仄かな狂気の世界。

    それをくるっと小川ワールドに裏返すと瞬く間に自分の世界を慈しむ人の美しい世界へと変わる。

    息づかい、瞬きの音や微風さえも感じとれそうな閉ざされた場所でオパール、琥珀、瑪瑙は確かに自分たちなりの輝きを放ち、限られた場所でもささやかな幸せを見つけその幸せに心を守られていたと思う。

    突然の終わりが来ようとも瞬きで会える思い出のかけらたち。

    これは小川さんが本に閉じ込めた、愛と家族の証を紡いだ物語

  • ただただ切なくて悲しくなった。

  • 小川洋子さんの世界観、想像力、感性はとても素敵だと思います
    独特の世界の中に生きる人々の、世の中に影響されていない価値観や心の豊かさに触れることによって気持ちが楽になるというか、自由になるというか
    騒がしい世の中ではなかなか気づけないことに触れられる気がします

  • 静かな環境でないとなかなかこの本の世界観に入り込めず読むのに時間がかかってしまった。
    壁の中で外の世界から閉ざされて、閉塞的な場所で身を寄せ合い、それでも楽しみを生み出し密やかに暮らしていたこの姉弟は幸せだったのだろうか…
    壁から出だ後のそれぞれの人生はどんなものだったのだろう…
    母は何を守りたかったのだろうか…

  • ハラハラドキドキ胸が掻き回される。かと思えばふわふわとなぜか包まれている気分になる。
     母の言いつけを守り、3人寄り添い必死に生きる姉弟。ロバのボイラー、よろずやジョーそして嘘を抱えるようになる。
    琥珀の図鑑の中で生きる末の妹が家族をささえ、
    夢の中で生きる日々
    不思議なお伽話のような話の中に、現実的な琥珀の今が語られる。
    琥珀は姉は、弟はいつが幸せだったのだろうか?

  • この本の世界観が独特で全く意味がわからなかったが、解説を読んでなんとなくわかった。
    時間が止まっている表現であったり、この閉塞感、視点の移り変わり、すべてが難しいが読み終わった感想としては、その人の境遇だけで決めつけることをしないということ。

  • 現実世界で起これば母親は親としての在り方を非難されるに違いないが、小川洋子の世界の中では誰も糾弾されることはない。いろんな人にとっての真実がただそこに存在している。

    他の作品でも登場人物や小川洋子の世界観が強く存在していることは多々あるが、この作品は他のどの作品よりも絶対に自分は入り込めない、触れてはいけない世界だと感じた。
    そして、その世界、家族の在り方は信仰に通ずるものを感じた。ムスリムの友人は宗教で自由になれると私に話した。外から見れば戒律に縛られた自由のない世界。内から見れば従うものがあるからこそ迷いなく守られながら自由でいられる世界。そんな信仰に近いものを彼らの壁の内にも感じた。

    化石としての琥珀がそうであるように、彼の瞳は外部ではなくその内側に深く潜む彼らの記憶を見ている。では、オパールと瑪瑙は?考えてみたが、いまいち腑に落ちる解釈が浮かばなかったのでまたいつか再読してみたい。

  • 小川洋子さん、いつも目に見えない心の中を深く伝えてくれます。末娘を失った母親の狂気、外との世界を遮断し母の望むように生きようとする三姉弟。
    オパール、琥珀、瑪瑙。名前の言葉選びも奥深い。母との関係を精算した父が作った百科事典。その中で生きる末娘。琥珀の目に映る世界は幻想か希望か。百科事典の中で生きる家族だけは永遠であり続けて欲しい。

  • 小川洋子さんの書くお話は、「現実のようだけどどこにもない話」が多かったような気がするのですが、これは「非現実のようだけど、どこかにありえそうな話」にも感じ、そこが不気味で怖くて、でも大好きです。
    幻想的で美しく、儚く頼りない日々の物語。

    あと、この表紙がとても素敵。
    オパールに琥珀に瑪瑙。崩れそうな本からのぞく「あの子」の姿。この本の世界のすべてがあるようで、見とれてしまいます。

    個人的な印象ですが……。
    このお話が好きなら服部まゆみさんの『この闇と光』が好きな方とかも好きなんじゃないかなと思います。

  • 私は、何を求めて、この本を読んだのだろうか。
    ひとつ言えることは、美しくて繊細でとても静かな物語だということ。
    極めて特殊な環境で育ち、その分特殊な感性をそれぞれに養っていった3人の子どもたちの過ごした時間は、外から見ればそこに虐待の影のある抑圧的な暗い色付けをついしてしまいがちだが、ところが実際は、それに反して極めて静謐かつ美しく幻想的な色合いただそれのみを有している。その世界はたしかに豊かだ。しかしただ美しく静謐に始まった物語は、美しく静謐なまま終わりを迎える。
    一筋縄では決して捕えられない、あまりに特殊なセッティングだが、にもかかわらず物語のテンションは微動だにせぬほど静かなままで、そこに何か色々なものを回収できなかったような気持ちを覚えるのは、果たして私の俗な部分がざわつくからだろうか。
    そこになにかの意味はおそらく求められない。
    アンバー氏に会いたくなったら、あるいは琥珀の左眼の奥に広がる宇宙を感じたくなったら、おそらくこの本をまた開くのだろう。

  • オパール、琥珀、瑪瑙の三人が過ごす世界は「壁の内側」と名付けた、森の奥の別荘の部屋と庭だけ。小鳥の囀りよりも静かに囁きながら、彼らの想像力が紡ぎ出す世界は、どこまでも微細な結晶のように美しく、宇宙のように果てしなく広がってゆく。庭を舞台に踊るオパールのバレエ、壊れたオルガンを伴奏に歌う瑪瑙のささめき、図鑑の空白に描かれる琥珀の絵。オリンピックごっこ、事情ごっこ、シグナル先生、猫のカエサル、ひっつき虫、アイルランドの沼、ロバのボイラー、よろず屋ジョー。そして、知らないことはなんでも図鑑が教えてくれる。しかし、子どもたちの世界にはいつしか綻びが生まれ、瑪瑙のほとんど音のない歌と共に滅びていく。ひとたび壁の外に住む人間の目にふれたとき、無邪気で天使のようだった瑪瑙の姿は、みすぼらしく、いびつなものに変わってしまう。作中アンバー氏は「私たちは、図鑑の中でしか生きられません」と語っている。それは壁の内側でしか、彼らが真に生きられなかったことと結ばれる。つまり、図鑑は彼らの家であり、また家は彼らの図鑑でしかない。閉ざされた世界の中で、琥珀の左目の地層が「一瞬の展覧会」という独自の世界を生み出し、見事な芸術となっていく。オパールは幸せに暮らしているのだろうか。子猫のカエサルの肉球を優しく包む瑪瑙の小さな手が、切なく愛しくいつまでも胸に残る。

  • オパール、琥珀、瑪瑙。壁の中で過ごす3きょうだいは、まるでママの変わらない宝石たちの様。
    その境遇は「かわいそう」なのに、壁の中の3人はきらきらと幸せそうで、壁の外の世界のアンバー氏の方が寂しい感じがする。ちょっとしたことで崩れそうな危うい世界で、終わりがくることはわかっていて、読み進めるごとに少しずつ綻んでいくのが悲しい。

  • 壁の内側で暮らした3きょうだいの話。

    ため息が出るような美しさ、
    身動ぎひとつで台無しにしてしまうほどの静けさ、
    うすら寒い不気味さ、喪失後の生の残酷さ……
    彼らの全てになった閉じた世界は、
    どこか狂っている。

    壁の内側ではママの言いつけが法律だ。
    でも、彼らは少しずつ
    ママへの内緒事を作ってしまう。
    閉じた世界も少しずつ崩壊していく。

    内緒ごとと崩壊の理は、
    超個人的な経験を持って痛感していて、
    豊富ではない恋愛経験の中のひとつが
    そうだったなと思い出す。

    保身のための小さな嘘を守るために
    内緒ごとが増えて、
    そうなってからは長くは続かなかったんだっけ。
    嘘をついてまで守りたかった関係だったんだと、
    風化した切なさと共に思い出した。

    閉じた世界が崩れ去ったあとも、生は続いていく。
    残酷だ。
    鉄が酸化して錆びるみたいな不可逆の変化を経て、
    消えない傷を抱えてなお、
    死ぬまでは生きるしかない。

    琥珀が描く一瞬の芸術には
    彼が失った大切な人達が登場するけど、
    彼はそうすることで思い出に浸っている、
    というわけではないと感じた。
    そういう短絡的な発想ではなくて、
    心を世界に置いてきてしまったから、
    それしか描けなかったんじゃないかなあ。

    主人公が3きょうだいの真ん中の男の子というのも
    上手く機能している。
    姉ほど利口で毅然としてなくて、
    弟ほど奔放で純粋ではなくて、
    基本的には観客とか同伴者という立ち位置だ。
    だからこそ1番全体を俯瞰できたのだろうし、
    実は彼が1番変化を恐れる頑固者だ。

    彼の頑固さを感じていちばん怖かったのは、
    行方知れずになったオパールを
    「ママが殺して沼に埋めた」と証言したこと。
    よろず屋というヨソ者が
    彼女を連れ去ったというのは
    受け入れがたかったのだと思う。
    彼の世界はとびきり厳重に閉じられていたのだ。

    客観的に見れば、閉じた世界はおかしい“悪”で、
    ママは“悪者”で、3きょうだいは“被害者”だ。
    でも、当事者である琥珀はそうは思っていない。
    真実は、それが世界の捉え方によるものなら、
    人の数だけあるものだ。

    救いのない苦しい話とも言えるし、
    実際そういう側面もあると思うけど、
    残酷で美しい、各々の目で歪んだ世界を
    淡々と語る作風が好きだし、
    個人的にはそれって、
    本当の世界に近いんじゃないかな、と思う。

  • 許されないことなのかもしれない。
    でもそれは誰にとってだろう。
    ママの言いつけを守り、壁の外へ出ることのなかった6年と少し。
    話の中でそれぞれの葛藤はあるものの、とてもしなやかに伸び伸びと生きている子供たち。
    どっちかといえば、ママが一番この壁の中に捕われてるのではないかと思う。
    外の人間たちは彼女を断罪しただろう。
    だけれども彼女は本当に彼らを守りたかった。
    そう思えてならない。

    彼らだけの遊びと約束と秘密を作り慎ましく生きていたその時間は悲しさをまといながらもかけがえなく過ぎていたと思う。

    読み進めていくうちに、不穏な景色が少しづつ含まれていく。
    ほんの少しの変化が起きるたび、どれかひとつでも違っていたらもっと長く生活が続いたかもしれない。反対にどれか一つが欠けたら、もっと早く終わりを迎えたかもしれない。

    前半は伸びやかに、後半はジリジリとゆっくりと、そして素早く読み手に訴えかけている。
    どんどん動悸が早くなると同時に言葉の残酷なまでの美しさにページをめくっていく指が早くなった。

    まだ続いて欲しい気持ちが読み終わっても残っていました。

  • 静かな声で話したいと思った。
    設定は怖いが、その一方で、皆の可愛さ健気さ美しさがあって、その落差が不思議だった。

  • 小川さんの美しい文章が紡ぐ非常に残酷な物語。親の立場から子どもを守るとは何か。子どもの世界とは何か。

  • 絶望をこんなに美しく描ける作家を私は知らない。美しい絶望の世界を写し取っていく琥珀が愛しいと思う。
    オパールの絶望も、瑪瑙の外界への興味に理解してなお変わらずに生きていこうとする琥珀はどんなに孤独だったことだろうか。

  • すごかった。。。読み終えてまずこの気持ちが溢れてきました。背表紙のあらすじには、『「魔犬」の呪いから逃れるため』と書いてあるのでおとぎ話のような世界観のものなのかとドキドキして読み進めましたが、全く違いました。
    結果的にお母さんが3人の実の子を6年も監禁していたという驚きの結末でした。
    読み進めていて、少しずつこの家族、お母さんの怪しさというか狂気のようなものを感じるのですが、この物語の視点は当時の琥珀の視点と、現実の琥珀をみている第三者からの視点で進んでいき、幼き頃の琥珀の視点では母親が自分にとっては愛する人であるということが伝わってきます。
    同時に絶対にお母さんの言いつけを守らなくちゃならない、お母さんに心配かけてはならない、という緊張感のようなものを感じ、お母さんのいる世界でしか生きていない儚い命をも感じました。

    監禁されているとは思ってもいない子どもたちの視点は、とても純粋に、その隔離された家の中でのびのびと各々がやるべきことをやって生きている姿が描かれています。
    誰も監禁されていることに不満を漏らしたりせず、与えられた物を受け入れて3人で楽しめている描写もあって、無知の怖さも感じました。

    後半読み進めていくと、瑪瑙を保護した人の証言が出てきますが、今まで読み進めていた琥珀からの視点とは大きく変わり、そんなにかわいそうな姿でずっと生きていたんだね…と心が痛みました。
    琥珀の視点と、一般的にその家族を見た時の異常な光景での視点、この二つを同じ情景でありながら全く違う書き方で記しているのは小川洋子さんの世界は本当にすごいと思いました。

    琥珀が書き続けた辞書は、彼そのものだと感じてしまいました。
    大人になってからも変わらず、お母さんの言いつけを守るような言動には、まるでその時から成長ができていないのかと思わされ、とても心が痛みます。
    幼少期の大切な時期に与える大きな影響に恐怖も感じました。

    • yhyby940さん
      面白そうですね。読んでみます。
      面白そうですね。読んでみます。
      2024/11/03
    • maiさん
      yhyby940さん
      コメント嬉しいです☺︎!
      小川洋子さんが好きなので、わたしの偏愛すぎるものかもしれませんが…笑
      よかったら読んでみて損...
      yhyby940さん
      コメント嬉しいです☺︎!
      小川洋子さんが好きなので、わたしの偏愛すぎるものかもしれませんが…笑
      よかったら読んでみて損はないと思います(*^^*)
      2024/11/03
  • 閉ざされた空間だからこそ際立つ美しさと狂気。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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