山海記

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 75
レビュー : 11
  • Amazon.co.jp ・本 (274ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065149942

作品紹介・あらすじ

東北の大震災後、水辺の災害の歴史と土地の記憶を辿る旅を続ける彼は、その締めくくりとすべく、大震災と同じ年に台風12号による記録的な豪雨に襲われた紀伊半島に向かう。天嶮の地、大和は十津川村へと走るバスの車窓から見える土砂災害の傷跡を眺める彼の胸中には、かつてこの道を進んだであろう天誅組の志士たちの、これまで訪れた地や出会った人、クラシック好きで自死した友・唐谷のことなど、さまざまな思いが去来する。バスはいよいよ十津川村へと入っていき、谷瀬の吊り橋前で休憩停車する。ここで途中下車した彼は吊り橋を渡る。風に揺れる橋の上で彼は、電気工だったころのこと、中学生時代のことなどを心のなかで唐谷に語りかけるのだった。
二年後、小説の彼の足取りを辿るように、病の癒えつつある「私」はふたたび谷瀬の吊り橋の上に立っていた。橋を渡りながら、「私」は宿のおかみさんと話をした北海道の新十津川町のことを思い出し、唐谷への友情にひとつの答えをみつける。
現代日本における私小説の名手が、地誌と人びとの営みを見つめて紡ぐ、人生後半のたしかで静謐な姿。

感想・レビュー・書評

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  • 東日本大震災。

  •  このあたりは台風銀座やから台風には慣れっこになっとるけど、台風が熊野灘沖を通るのか、それとも紀伊半島の山中をもしくは紀伊水道あたりを通るのかはいつも気にしとるんです、経験的に熊野灘を台風が通るときは風雨の影響をあまり受けないことを知っとりますから、とTさんは言った。(p.140)

     1時間に100ミリを超える雨量というのは想像が付きますか、とTさんに訊ねられて彼はかぶりを振った。気象庁の説明にあったんやが、よくバケツをひっくり返したような雨いうでしょう、あれで30から50ミリの雨量なんやそうです。それで滝のようにゴーゴーと降り続いて、傘がまったく役に立たへんようにナルト50から80未満、そして80ミリを超えると、私も表へ出てみたんやけど、水しぶきで視界も悪くなり、生き苦しくなるような圧迫感があって恐怖を感じましたわ。それに加えて風も吹いて雷もなっていたしねえ。
     頷きながら、彼は改めて1時間に100ミリという雨量を考えてみた。それまで天気予報などで耳にしてもきちんと意識してみることはなかったが、降った雨がそのまま貯まったら、1時間で推進10センチになるということだろう。ということは1平方メートルに100ミリの雨が降ったら、水の量は100リットル、重さにして約100キロとなる。その水量がいたるところで高所から低所へと流れ込んでいくときの膨大なエネルギーを彼は想った。(p.141)

  • 紀行文の形を借りて、私小説の手法をさらに深化させた会心作。
    健康が許せば日本中を回ってシリーズ化してほしいくらい。
    ちなみに、「八木 新宮 バス」でいろんな動画が見つかる。作中で作者が辿った各所を映像で回想するのも楽しい。

  • 8月4日 吊り橋の日 にちなんで選書

    小説内で、十津川村の谷瀬の吊り橋が重要な場所になっている。

    日本最長の鉄線の吊り橋「谷瀬(たにぜ)の吊り橋」など、村内に約60ヵ所の吊り橋があり、その数は日本一といわれる奈良県吉野郡十津川村が制定。

    日付は「は(8)し(4)」(橋)と読む語呂合わせから。村の急峻(きゅうしゅん:傾斜が急でけわしいこと)な地形が生んだ吊り橋は、人々にとって切っても切れない命の道。毎年この日は谷瀬の吊り橋の上で太鼓を叩く「揺れ太鼓」という「つり橋まつり」を行い、吊り橋に感謝をする日としている。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。

  • 416年 日本書紀 日本最古の地震の記述

    1666年 越後高田地震
    1670年 越後村上地震

  •  10年前、2009年に豊橋を出発して伊勢に亘理、吉野から山に入り十津川を新宮まで抜け、串本を回って和歌山まで自転車で走った。
     十津川は北海道以上に何もなく、100km走ってコンビニもない。
     昼飯どうしようかと、当時はつるんで走る二人で困り、十津川の河川敷にテントを張って野宿したりと、五日間走った。

     日本で最長の路線バスは大和八木駅から新宮へ至る、166.9km、6時間半のバス旅だ。
     その途中、天辻峠を越えてからは十津川沿いを走る。
     十津川は明治に大水害があり、そして近年2011年にも水害に見舞われた。
     かつての水害、近年の水害とを東日本大震災の津波被害と重ね、そして自身の過去をも重ね合わせて旅は進む。
     南朝時代、明治維新の天誅組、遠い津の川という都から遠く急峻な山に囲まれた土地の物語が語られる。

     内容が散文的だ。
     バスに揺られながら、歴史が語られ、自身の過去が語られ、そのバスでの出会いが語られ、過去と現在が入り混じる。
     そして終わりは唐突だ。
     バスに揺られて散逸する思考そのまま文字に起こしたごとく。

  • 主人公と一緒に旅をした気になった。主人公と一緒に過去の出来事や旧友を偲んだ気になった。
    とても大きな喪失の後、旅に出ずにはいられない気持ちはとてもよくわかる。

    愛読していた著者が被災され、どのようなことを感じ、どう行動され、どうなっていかれるのか。
    私小説を愛読していた読者は待ち望んでしまう。はしたない感じはするし、人ごとのように作品を読んでしまうのは違う感じはする。
    その反面わかった気になるのも違う感じがする。
    本当の意味で共有できないのに共有しなきゃとプレッシャーがかかる。
    だから、この本の感想もなんか書きにくい。
    お気楽感想しかいつも書いてないから書きにくい。

    日本というのは本当に災害の多い国。昔から。諦めのいい、我慢強い国民性(ほんまか⁈)はそんなところからもくるのだろうか。
    十津川には2度行ったことがあるが、なかなか遠い。
    大和八木から新宮に抜ける路線バス乗ってみたい。




  • 災害の記憶たどる巡礼の旅(評/千葉一幹=大東文化大教授)
    <書評> 山海記:どうしん電子版(北海道新聞)
    https://www.hokkaido-np.co.jp/article/302656?rct=s_books

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    東北の大震災後、水辺の災害の歴史と土地の記憶を辿る旅を続ける彼は、その締めくくりとすべく、大震災と同じ年に台風12号による記録的な豪雨に襲われた紀伊半島に向かった。バスの車窓から見える土砂災害の傷跡を眺める彼の胸中には、クラシック好きで自死した友・唐谷のことなど、さまざまな思いが去来する。現代日本における私小説の名手が、地誌と人びとの営みを見つめて紡ぐ、人生後半のたしかで静謐な姿。

    東北の大震災後、水辺の災害の歴史と土地の記憶を辿る旅を続ける彼は、その締めくくりとすべく、大震災と同じ年に台風12号による記録的な豪雨に襲われた紀伊半島に向かう。天嶮の地、大和は十津川村へと走るバスの車窓から見える土砂災害の傷跡を眺める彼の胸中には、かつてこの道を進んだであろう天誅組の志士たちの、これまで訪れた地や出会った人、クラシック好きで自死した友・唐谷のことなど、さまざまな思いが去来する。バスはいよいよ十津川村へと入っていき、谷瀬の吊り橋前で休憩停車する。ここで途中下車した彼は吊り橋を渡る。風に揺れる橋の上で彼は、電気工だったころのこと、中学生時代のことなどを心のなかで唐谷に語りかけるのだった。
    二年後、小説の彼の足取りを辿るように、病の癒えつつある「私」はふたたび谷瀬の吊り橋の上に立っていた。橋を渡りながら、「私」は宿のおかみさんと話をした北海道の新十津川町のことを思い出し、唐谷への友情にひとつの答えをみつける。
    現代日本における私小説の名手が、地誌と人びとの営みを見つめて紡ぐ、人生後半のたしかで静謐な姿。
    http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000320758

  • <読了>#山海記 #佐伯一麦
    少し辛い読書時間になってしまった。
    奈良の十津川村の水害の跡を訪ねるバス旅
    そこに、東北震災の悲しい記憶を重ね合わせ
    さらに、地誌のような歴史やそういうのを入っていく
    肩が凝る話しだった。
    読む本の選択を間違えたかな。

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著者プロフィール

佐伯一麦(さえき・かずみ)
1959年、宮城県仙台市生まれ。仙台第一高等学校卒業。上京して雑誌記者、電気工などさまざまな職に就きながら、1984年「木を接ぐ」で「海燕」新人文学賞を受賞する。1990年『ショート・サーキット』で野間文芸新人賞、翌年『ア・ルース・ボーイ』で三島由紀夫賞。その後、帰郷して作家活動に専念する。1997年『遠き山に日は落ちて』で木山捷平賞、2004年『鉄塔家族』で大佛次郎賞、2007年『ノルゲNorge』で野間文芸賞、2014年『還れぬ家』で毎日芸術賞、『渡良瀬』で伊藤整賞をそれぞれ受賞。


「2019年 『山海記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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