創造と狂気の歴史 プラトンからドゥルーズまで (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065150115

作品紹介・あらすじ

アップル社の最高経営責任者だったスティーヴ・ジョブズが「師」と仰いだ起業家ノーラン・ブッシュネルは、企業に創造性をもたらすには「クレイジー」な人物を雇うべきである、と説いている。ビジネスの世界でも「創造」と「狂気」には切っても切れないつながりがあることを、一流の企業人は理解していると言えるだろう。
だが、この「創造と狂気」という問題は、実に2500年にも及ぶ長い歴史をもっている。本書は、その広大にして無尽蔵な鉱脈を発掘していく旅である。
その旅は、「神的狂気」について論じたプラトン(前427-347年)から始まる。次いで、メランコリーと創造の結びつきを取り上げたアリストテレス(前384-322年)から《メレンコリアI》を描いた画家アルブレヒト・デューラー(1471-1528年)、そこに見出される創造性を追求したマルシリオ・フィチーノ(1433-99年)を経て、われわれは近代の始まりを告げるルネ・デカルト(1596-1650年)の登場に立ち会う。
デカルトに見出される狂気と不可分のものとしての哲学を受けて、あとに続いたイマヌエル・カント(1724-1804年)は狂気を隔離し、G. W. F. ヘーゲル(1770-1831年)は狂気を乗り越えようとした。しかし、時代は進み、詩人フリードリヒ・ヘルダーリン(1770-1843年)が象徴するように、創造をもたらす狂気は「統合失調症」としての姿をあらわにする。そのヘルダーリンの詩に触発された哲学者マルティン・ハイデガー(1889-1976年)が提示した問題系は、ジャック・ラカン(1901-81年)やジャン・ラプランシュ(1924-2012年)を通して精神分析の中で引き受けられる。そして、ここから現れ出た問題は、アントナン・アルトー(1896-1948年)という特異な人物を生み出しつつ、ミシェル・フーコー(1926-84年)、ジャック・デリダ(1930-2004年)、そしてジル・ドゥルーズ(1925-95年)によって展開されていく──。
このような壮大な歴史を大胆に、そして明快に描いていく本書は、気鋭の著者がついに解き放つ「主著」の名にふさわしい。まさに待望の堂々たる1冊が、ここに完成した。

感想・レビュー・書評

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  • 否定神学的な思考によって生まれる直接アクセスできないモノに特権的な意味を持たせる考え方ついてドゥルーズがどのような側面から批判しているかがわかり、参考になった。

  • それぞれの章のはじめに、その章の概要とそれまでのまとめが書かれているからあとで読み返すときにすごく便利だと思った

  • ▼福島大学附属図書館の貸出状況
    https://www.lib.fukushima-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/TB90358675

    (推薦者:人間発達文化学類 高橋 優先生)

  • 創造と狂気は紙一重と言われる。すなわち、ある真理と引き換えに狂気は憑依するのだと。

    本書では、古代ギリシャから現代にかけて、「創造と狂気」が転倒を繰り返し変遷する系譜について、病跡学と哲学のコラージュで辿られてゆく。
    西洋思想の注釈と言われて久しいプラトンによる対話篇『パイドロス』では、狂気は啓示と病、すなわち神的狂気と人間的狂気に分割され、神霊が吹き込まれた狂気を歌う存在こそが詩人であり、尊ばれる「詩人狂人説」が提唱された。一方で、プラトンの弟子であるアリストテレスは、鬱やメランコリーにおいて暗雲に溢れる人間的な思索にこそ、創造性が担保されているとして、天界から地上界へ我々を導いた。いずれにしても、古代ギリシャ的な霊魂は、神と人間を接合する媒介者であったが、中世へ移り行くにつれて、媒介者としての霊魂は、神による人間への誘惑そのものであって、人間を俗物的に陶酔させる悪魔として解釈され、いわゆる魔女狩りの犠牲者は、この誘惑に泥酔したヒステリー者であった。以降、西洋近代の地底を築き上げたデカルトやカント、ヘーゲルといった大家においても、決して狂気から完全に逸脱していた訳ではなく、狂気の御札がなくては機能不全に陥ったデカルト、狂気の隔離ゆえに作品を創造していたカント、狂気を弁証により超越するヘーゲルのように焼き直される。

    産業革命を経て台頭した反哲学の時流において、精神病理学の泰斗であるヤスパースは、狂人における創造性は、形而上学的な啓示に基づいており、その解体的深淵が、彼らを荒廃させてゆくと述べた。以降、詩人にして統合失調者であるヘルダーリンを皮切りに、ハイデガー、ラカンらの実存主義と構造主義の狭間からは「神は現れないが、現れないという形で現れる」否定神学にこそ本質があるとされ、ブランショをはじめ、その色彩は文学界へも波及した。

    現代思想においても、否定性の中に肯定性が導出される弁証法的人間にその着想が得られる。
    文学者の病跡学では、統合失調症と自閉症の世界観における差異が盛んに検討されてきた。両者は特に、創造性を駆動する源泉が対照的である。アルトー的な統合失調者における創造が、狂人による神の啓示の陳述であれば、キャロル的な自閉症スペクトラム者の創造は、健常の延長に広がる言語の横滑りなのだと。

    狂人を拘束する鎖を解いたピネル以降、ドイツを筆頭に精神障害の研究が進み、体系化されてきたが、カントの『脳病試論』を紐解けば、精神的な狂気が「あたまの病」と「こころの病」に分類され、後者の下層には、迫害妄想や関係妄想の端緒を紡ぐことができる。精神障害を近代まで遡及することができ、大変示唆に富んでいた。

  • 2019.04―読了

  • 本のタイトルにつられて読んだ。とても壮大なテーマ、かつ難解なのだが、ところどころに比喩もあり読者が脱線しないようにしてくれる。

    プラトン、アリストテレスから始まり近代哲学を経て20世紀のドイツ、フランス思想まで網羅し、概念理解ができたと思ったら次の章で突き崩されるという、知的なゲームとして読むととてもたのしめる。

    統合失調症中心主義と悲劇主義的パラダイムを両軸に進途中までも十分におもしろいし、精神疾患に対する偏見を是正してくれる効果もあるだろう。デカルトの箇所も近代哲学を確立した人物像を新たな視点で捉えられて新鮮だった。ヤスパースも効果的に出てきて、案内人のようであった。

    だが統合失調症ーーと、悲劇主義的ーーの両軸の雲行きも怪しくなってくる。後半に出てくる、横尾忠則と草間彌生の比較、ルイス・キャロルのエピソードは秀逸。そしてドゥルーズで締めるあたりもそうきたのか!とハッとした。デジタルで創造の方法も、狂気のあり方も変わる中で新たなじくを創り出す、いやそれないのかもしれない時代に突入したのだろう。

    今後のジェットコースターのような展開。とても痺れました。

  • 途中まで面白く読んでいたが、あまりにも知らない分野のことだったため、読むのをやめてしまった。
    評価が良い本だし、ここにでてきた人物についてもう少し知ってから読もうと思う。

  • 何よりも「創造と狂気」という視点で西欧哲学のビッグ
    ネーム─プラトン・アリストテレスからデカルト・カント、
    ハイデガー・ラカン・ドゥルーズまで─を貫けるという、
    その事実に驚いた。もちろん「創造」も「狂気」も時代や
    場所によって様々であり一様ではないのだが、だからこそ
    そこに「歴史」が生まれるのだろう。この本は「哲学」が
    「創造と狂気」をどう考えてきたかという本なので、次は
    実際の「創造と狂気」に触れるような本を読んでみたい、と
    思った。

  • 理性を持つ人間とは、どういう存在か?

    理性があるからこそ、反対の狂気が存在するとカントは言う。狂気を常に内包しているのが人間であると。だからこそ、世の哲人たちは狂気に魅せられ、その解読を試みる。

    狂気とは何か?

    内に住む自分以外の誰かか?
    はたまた神の吹き込みか?
    狂気こそが常人にはない創造を生み、歴史を動かしてきたのかもしれない。
    狂気なくして人類の進化はなかったのかもしれない。

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著者プロフィール

松本 卓也(まつもと・たくや)
1983年高知県生まれ。高知大学医学部卒業、自治医科大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。専門は精神病理学。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科准教授。著書に『人はみな妄想する ジャック・ラカンと鑑別診断の思想』(青土社、2015年)、『発達障害の時代とラカン派精神分析』(共著、晃洋書房、2017年)、『創造と狂気の歴史 プラトンからドゥルーズまで』(講談社メチエ、2019年)、『心の病気ってなんだろう』(平凡社、2020年)など。訳書にヤニス・スタヴラカキス『ラカニアン・レフト ラカン派精神分析と政治理論』(共訳、岩波書店、2017年)がある。

「2020年 『現実界に向かって』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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