日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)
- 講談社 (2019年7月17日発売)


本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
本 ・本 (608ページ) / ISBN・EAN: 9784065154298
作品紹介・あらすじ
「日本社会のしくみ」は、現代では、大きな閉塞感を生んでいる。女性や外国人に対する閉鎖性、「地方」や非正規雇用との格差などばかりではない。転職のしにくさ、高度人材獲得の困難、長時間労働のわりに生産性が低いこと、ワークライフバランスの悪さなど、多くの問題が指摘されている。
しかし、それに対する改革がなんども叫ばれているのに、なかなか変わっていかない。それはなぜなのか。そもそもこういう「社会のしくみ」は、どんな経緯でできあがってきたのか。この問題を探究することは、日本経済がピークだった時代から約30年が過ぎたいま、あらためて重要なことだろう。(中略)
本書が検証しているのは、雇用、教育、社会保障、政治、アイデンティティ、ライフスタイルまでを規定している「社会のしくみ」である。雇用慣行に記述の重点が置かれているが、それそのものが検証の対象ではない。そうではなく、日本社会の暗黙のルールとなっている「慣習の束」の解明こそが、本書の主題なのだ。 ――「序章」より
【本書の構成】
第1章 日本社会の「3つの生き方」
第2章 日本の働き方、世界の働き方
第3章 歴史のはたらき
第4章 「日本型雇用」の起源
第5章 慣行の形成
第6章 民主化と「社員の平等」
第7章 高度成長と「学歴」
第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ
終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか
感想・レビュー・書評
-
よく海外サービスを日本に輸入して広がっている場面を見るが、採用や組織などいわゆる人事関連サービスは日本ならではの特殊な市場があると感じている。例えば、海外でよく使われる転職ツールはLinkedinだし、候補者も自ら応募して転職に踏み切るケースが多い。一方で日本はエージェントからの紹介やスカウトからの応募などどちらかというと受け身的な転職活動が多く、直近は新卒市場でも同様の傾向が見られるまでになりつつある。
上記のような状況を事実として受け入れつつも内心「なんでそんなことになっているんだろう?」と理解しきれていなかったが、本書を読んだことでその疑問が多少なりともクリアになった感覚がある。人や組織の慣習というのはとても根深く、そう簡単に変えられるものではないのだな、というのを再認識した。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
個人的に非常に興味深い内容であった。日本社会は、明治に入り国家が強力に近代化を進めてきたことにより、民間にも「官僚制の移植」が行われたため他国と異なる雇用性質を持っているという。これは他国と比べ違いが大きかった。現在も残る多くの大企業は元々国が運営していた会社も少なくない。官僚制とは、一言で言えば「企業を超えた横断的基準の不在」といえる。米独などの諸外国では、歴史的に「官僚制の移植」は経験してきているが、職種別労働運動などによって日本よりも影響が小さくなっている。
最後の著者の指摘がわかりやすかった。日本型雇用の慣行を打破するには、「透明性の向上」が必要不可欠であるということ。つまり、採用や昇進、人事異動や査定などは、結果だけでなく、基準や過程を明確に公表し、選考過程を少なくとも当人に通知すること。さらにこれを社内/社外の公募制と組み合わせることができれば効果的、という。こうした透明性や公開性が確保されれば、横断的な労働市場、男女の平等、大学院進学率の向上などは改善されやすくなるだろう。これまでこうした諸点が改善されにくかったのは、勤続年数や「努力」を評価対象とする賃金体系と相性が悪かったため。近年では勤続年数重視の傾向が低下しているが、それでも上記諸点が改善されないのは、採用や査定などにいまだに不透明な基準が多いことが一因である。
著者は、このような日本型雇用の成り立ちに日本の国民性や宗教観は影響を及ぼしていないとの考えであったが、個人的には日本人にありがちなはっきり決めずもやもやにしたままにする国民性も多分に影響があるような気がしてならない。 -
某大学の社会学教授とお話しする機会があり、軽い気持ちで「まったくの素人にお薦めの社会学の本を教えてください」とお願いした。するとしばらくして、「悩みました」とメールがあり、数冊の本を紹介してくださった。これはそのうちの一冊である。
かつて司馬遼太郎は「この国のかたち」という表現で、日本とはどういう国なのかを問い続けた。この、シンプルだが妙に頭に残るフレーズは、広く人口に膾炙して今に至る。そして、気鋭の社会学者である著者は、本書で「しくみ」という、これまた絶妙のワードを用いて日本社会を読み取ろうとするのである。
彼が注目した(あるいはせざるを得なかった)のは近代日本の雇用・教育・福祉、なかでも雇用のあり方である。大学名重視、学位軽視、年功序列、大企業優遇、女性の不利な立場…日本はなぜこのような社会なのか、歴史をひもとき、海外との比較をし、非常に詳細なデータを並べて考察していく。日本の企業や官庁組織内は、戦前からの軍隊組織の影響が色濃く残っているという。
著者は言う。ある社会の「しくみ」とは、定着したルールの集合知である、と。人々の合意により定着したものは、新たな合意が作られない限り、変更することは難しい。だが、難しいというだけで、変えられないものではないのだと。
非常にエキサイティングで、付箋とマーカーだらけになってしまった。文体も平易でわかりやすい。
ご推薦くださった先生に感謝。いつか、本書のお話を伺ってみたい。 -
・仕事内容が違うのに、Aという部署とBという部署の給料が同じ。
・大卒社員と高卒社員の初任給が同じ。
「それって変じゃない?」って、
なんとなく違和感があるのだが、これは「社員の平等」という話。これに異議を唱えても、「まぁでも、日本は『社員の平等』だからねぇ」という話。
「自分の学歴と現在の仕事内容が、釣り合っていないと感じる」━━こういう人が増えているという。
つまり、「大学を出たのに、それに見合った仕事をしていない」「雑務をしている自分に納得がいっていない」と。
しかしそれは昔からそうだったわけではない。
「なぜそういう時代になったのか?」、本書を読めばその歴史がわかる。
***
『日本社会のしくみ』というタイトルではあるが、主に、“雇用”の話が中心だと感じた。
「新卒一括採用」「定期異動」「定年」「学歴採用」……など、労働や雇用の仕組み、その歴史について学べる。
自営業の方よりも、いわゆる“大企業”というところに勤めている人のほうが、実感をもって理解ができるのではないかと思う。
分厚い本で、読み応えがあり。
「難しい」とか「読みにくい」とか、そういうのはない。
知らないことをたくさん知ることができて、読んでよかった。
「どのへんがよかったの?」と聞かれても、内容がたっぷりなので、抜粋するのが難しい。要約するにしても、同様。 -
・大企業型26%、地元型36%、残余型38%
・残余型には、政治的な声をあげるルートが無い。
・中小企業団体と結びついた自民党政権が、小規模小売店を保護してきた。
・一国のうちに、先進国(近代的大企業)と後進国(前近代的な労使
関係に立つ小企業および家族経営による零細企業と農業)の
二重構造が存在。
・日本では「大企業か中小企業か」つまり「どの会社か」が意識され
欧米では「ホワイトカラーかブルーカラーか」つまり「どの職務か」
の区分の方が強く意識されている。
・企業が重視するのは、どんな職務に配置しても適応できる潜在能力。
・大部屋は日本の官庁の特徴。
・「初めに職員ありき」の社会では、まず人を雇い、その人に職務をあてがう。
・日本の雇用形態を「メンバーシップ型」欧米を「ジョブ型」と言うが
「企業のメンバーシップ」と「職種のメンバーシップ」と形容した
ほうが良いのでは。
・日本と他国の最大の相違は、企業を超えた基準やルールの有無
・日本が独特なのは、軍隊や官庁にのみ向いていると考えられている
組織の型を産業にも適用したという点。
・官庁から始まった新規学卒採用は、1900年前後から民間企業に広まった。
・日本型雇用の構造的弱点。大卒社員を昇進させ続けるためには、
無駄なポストを増やし続けるか、組織を大きくするしかない。
・長期雇用と年功賃金を続けようとすれば、適用対象をコア部分に
限定するしかない。そのための方法が、人事考課による厳選、出向、
非正規雇用、女性という外部を作りだすことだった。
・「企業のメンバーシップ」「職種のメンバーシップ」「制度化された
自由労働市場」という社会的機能の内、日本は「企業のメンバーシップ」が支配的な社会。
・日本のしくみを変えるために、最も重要なことは「透明性の向上」
・日本では「カイシャ」と「ムラ」が基本単位。 -
COURRIER JAPON
著名人の本棚
篠田真貴子さんの推薦図書より
「歴史的経緯とは、必然によって限定された、偶然の蓄積である」
本の終わりに差し掛かるところで、印象的な一文に出会った。
社会のしくみは何によって作り上げられてきたのか。
また、どうやって変えていけるのか。
私は、どんな風に変えていきたいのか。
流れゆく時間の中で、いまの世の中の必然性から慣習が生まれていく。
それは合意形成を経て恣意的に作られたものだ。
本書は日本の雇用環境のみならず、広く、福祉や教育、格差や差別、戦争や軍隊の影響や、人々の潜在的な意識、アイデンティティに至るまで、あらゆる面から日本社会が考察されている。
が、福祉や教育に関する言及は薄い。
筆者は、雇用に絞って論を展開した。
物足りなさを感じる一方、その分、理解も深まりやすく、納得感は大きかった。
「労働史、経営史、行政史、教育史、さらには他国の歴史や慣行に至るまで、多くの領域にまたがるテーマである。」
と筆者も述べている。
かなりの大著だが、歴史の流れに沿って環境の変遷(経営者・労働者双方の選択であり、妥協点を歩んできた様)を語っているおかげで、さくさく読めた。
著書が雇用形態の文化的社会的な経緯に対して、「慣習の束」や「社会契約」と主張して、国際比較を論じているのも、興味深く感銘を受けた。
これは、国民自らが選び取ってきた道なのである。
勿論その議論の蚊帳の外に追いやられていた女性や非正規雇用の問題点も指摘している。
今まで生きてきた中で、ずっと思考の奥底で燻っていた日本社会の違和感への理解が深まった。
軍隊みたいだな…と軍隊に所属したこともないのに感じていた違和感は、まさしく、官庁や軍を倣い日本のあらゆる組織(企業や学校)が出来上がっていった歴史に触れ、納得である。
大部屋型オフィス、新卒一括採用、人事異動と終身雇用の成り立ちを言語化して頂き、職務や責任区分が曖昧でうやむやな働き方で成り立っている会社という閉鎖的なムラ、、、私が何に気持ち悪さと窮屈さを感じていたのかが明確になった。
また、日々組織や社会の透明性(情報公開)の重要性を進言してきたが、日本組織では歯牙にも掛けない理由がはっきりと分かった。
同質集団は自分達の領域を守りたいのだ。
筆者も最後に透明性の重要さを主張していた。
それは、政治にも経済にも、あらゆる組織や共同体に通底する真理ではないか。
社会の諸所の課題に対して問題提起をしている本であり、
答えを出すのは、著書を読んだ我々である。
私は技術職の為、ドイツのような職種を重んじ、ヨコ移動がしやすい流動性のある社会であって欲しいと願う。
さて、終章の③の福祉が充実した社会に変えていく為には何が必要か。 -
会社にいる年配の方々の考え方があまりにも理解できないと思い、日本の歴史や社会がこういった価値観を形成しているのでは?と思い購入した本
膨大なデータに基づいた分析をしているので、信ぴょう性が高く
キャリアモデルについても、意外なポイントが多くあった
読むのに非常に根気が必要なので、自分が疑問に思った事をベースに読むのが良いと思う。自分の視野が狭かったと思わされる本。周りに見えているキャリアは日本全体でも20%程度しか見えていない可能性があると思うと、改めて自分の無知さを残念に思った。良書。 -
日本の社会がどういう人を評価しているのか、何をみているのか戦前に遡って紹介されています。やっぱりそうかと思うと同時に、知ることで見えていなかったものも少しは気づくことがあるかもしれません。
就職活動前の大学生では遅いかもしれない。ああでも、高校生の頃に読んだとして果たして明るい未来を描くことができるかな? -
読了ならず、第三章までで断念(図書館で借りたため、返却期限到来…)
著者プロフィール
小熊英二の作品





