日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)
- 講談社 (2019年7月17日発売)


- Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065154298
作品紹介・あらすじ
いま、日本社会は停滞の渦中にある。その原因のひとつが「労働環境の硬直化・悪化」だ。長時間労働のわりに生産性が低く、人材の流動性も低く、正社員と非正規労働者のあいだの賃金格差は拡大している。
こうした背景を受け「働き方改革」が唱えられ始めるも、日本社会が歴史的に作り上げてきた「慣習(しくみ)」が私たちを呪縛する。
新卒一括採用、定期人事異動、定年制などの特徴を持つ「社会のしくみ」=「日本型雇用」は、なぜ誕生し、いかなる経緯で他の先進国とは異なる独自のシステムとして社会に根付いたのか?
本書では、日本の雇用、教育、社会保障、政治、アイデンティティ、ライフスタイルまで規定している「社会のしくみ」を、データと歴史を駆使して解明する。
【本書の構成】
第1章 日本社会の「3つの生き方」
第2章 日本の働き方、世界の働き方
第3章 歴史のはたらき
第4章 「日本型雇用」の起源
第5章 慣行の形成
第6章 民主化と「社員の平等」
第7章 高度成長と「職能資格」
第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ
終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか
感想・レビュー・書評
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・大企業型26%、地元型36%、残余型38%
・残余型には、政治的な声をあげるルートが無い。
・中小企業団体と結びついた自民党政権が、小規模小売店を保護してきた。
・一国のうちに、先進国(近代的大企業)と後進国(前近代的な労使
関係に立つ小企業および家族経営による零細企業と農業)の
二重構造が存在。
・日本では「大企業か中小企業か」つまり「どの会社か」が意識され
欧米では「ホワイトカラーかブルーカラーか」つまり「どの職務か」
の区分の方が強く意識されている。
・企業が重視するのは、どんな職務に配置しても適応できる潜在能力。
・大部屋は日本の官庁の特徴。
・「初めに職員ありき」の社会では、まず人を雇い、その人に職務をあてがう。
・日本の雇用形態を「メンバーシップ型」欧米を「ジョブ型」と言うが
「企業のメンバーシップ」と「職種のメンバーシップ」と形容した
ほうが良いのでは。
・日本と他国の最大の相違は、企業を超えた基準やルールの有無
・日本が独特なのは、軍隊や官庁にのみ向いていると考えられている
組織の型を産業にも適用したという点。
・官庁から始まった新規学卒採用は、1900年前後から民間企業に広まった。
・日本型雇用の構造的弱点。大卒社員を昇進させ続けるためには、
無駄なポストを増やし続けるか、組織を大きくするしかない。
・長期雇用と年功賃金を続けようとすれば、適用対象をコア部分に
限定するしかない。そのための方法が、人事考課による厳選、出向、
非正規雇用、女性という外部を作りだすことだった。
・「企業のメンバーシップ」「職種のメンバーシップ」「制度化された
自由労働市場」という社会的機能の内、日本は「企業のメンバーシップ」が支配的な社会。
・日本のしくみを変えるために、最も重要なことは「透明性の向上」
・日本では「カイシャ」と「ムラ」が基本単位。 -
会社にいる年配の方々の考え方があまりにも理解できないと思い、日本の歴史や社会がこういった価値観を形成しているのでは?と思い購入した本
膨大なデータに基づいた分析をしているので、信ぴょう性が高く
キャリアモデルについても、意外なポイントが多くあった
読むのに非常に根気が必要なので、自分が疑問に思った事をベースに読むのが良いと思う。自分の視野が狭かったと思わされる本。周りに見えているキャリアは日本全体でも20%程度しか見えていない可能性があると思うと、改めて自分の無知さを残念に思った。良書。 -
日本の社会がどういう人を評価しているのか、何をみているのか戦前に遡って紹介されています。やっぱりそうかと思うと同時に、知ることで見えていなかったものも少しは気づくことがあるかもしれません。
就職活動前の大学生では遅いかもしれない。ああでも、高校生の頃に読んだとして果たして明るい未来を描くことができるかな? -
読了ならず、第三章までで断念(図書館で借りたため、返却期限到来…)
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日本の「しくみ」を規定しているのは雇用のあり方であるとして、明治以来の歴史をさかのぼり、また欧米との比較を通じ、われわれが当たり前として受け止めてしまっている制度や慣習を問い直している。部分々々を見ればすでにどこかで誰かが触れているような議論が多いのだが、それらを統合して大きな絵を描くのが圧巻。よく「なぜ歴史を学ぶのか」という問がたてられるが、そのなぜがよく分かるような一冊
ただ、論旨が明快すぎるせいか、また読むコチラとしてもまったく案内のない分野ではないせいか、要約を読んだだけでかなりの所は「ああ、もうわかったわかった」という感じになってしまうところも。もちろん読んでいけば細部に発見もあるのだが、普通の新書の3倍の厚みがあるしね
個人的に新鮮だったポイント:
- 明治期に高等教育を受けた人間が限られたままで官主導でのキャッチアップ型の開発をやったことが、今の社会にまで影響している。まさに歴史の威力
- 団塊ジュニアの受難は単純にデモグラフィーだけから予想されていた(が注目されなかった)。バブル崩壊は追い打ちをかけたただけ
- 戦争が身分格差を大幅に緩和した。知らぬ話ではなかったが改めて複雑な思い -
なるほど、そうか。ドイツをはじめヨーロッパでは職業別で就職を考えるのか。だから、同じ職種で別の会社に移ることなどがわりと簡単にできるのか。日本は会社自体を選ぶことが多い。その中でどんな仕事に就くのかはあまり関係ない。最近はずいぶん変わっているかもしれないが、それでも大学生は仕事の内容より、会社名で就職先を選んでいるような気がする。私自身は、職種で選んだかな。だから、別の会社でも良かったのかもしれない。ただ、わりと初期の段階で、トップにいる人の考えに共感できるものがあって30年近く同じ会社に勤めてきた。同時に、他の環境に入る不安もあったかもしれない。前の会社に転職後、ちょっとつらい時期があったから。人事考課制度とか目標管理システムのようなものがどうやら軍隊から始まっているようだ。そう聞くと、なんかしっくりいかないのはそれが原因かと思ったりもする。それはそうと最低賃金がまた上がる。良いことではあると思うが、なんだか、昇給のための基準などが無駄なような気もしてくる。パートナーは非正規で働いているが、同一労働同一賃金にはなっていないようだ。それどころか、正規雇用で働きが悪い人のしりぬぐいもしているようで、なんともやり切れないようす。まあ、いろんなことはある。社会のしくみはとにかくややこしい。入試制度にしろ、税金のしくみにしろ、シンプルな方が良いように思うが、一律に決めてしまうような制度設計はそうそう簡単にはできないのだろうなあ。結局2ヶ月で読めた。(もっとかかると思っていた。)間に似たようなテーマの本を並行で読むから、どこに何が書いてあったかさっぱりである。
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この本、学術書です。新書レベルではない。現代の日本の雇用環境を中心に、教育や福祉について論述した本格的な一冊。一度では全部を落とし込めない、もう一度読み返したい。
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「保育園落ちた。日本死ね」ブログが炎上したとき、俺は全く同意できなかった一人である。
むしろ、保育園には子どもが集まらなくて廃業が増えていると人から伝え聞いていたからだ。
それは地方都市の実情であり、保育園が足りないというのは都会の事情であり、「保育園落ちた。日本死ね」というのは、日本全体に当てはまるものでない。
この違和感がなぜ起こるのか。
現在の日本人のコミュニティを以下の三つに大別する。
・大企業型:26%
・地元型:36%
・残余型:38%
それらコミュニティの壁が相互理解を難しくしている。
「保育園落ちた。日本死ね」は、残余型の人ではないか。
近年、日本で増加しているのは、残余型である。
大企業の保護もなく、地元社会のコミュニティの一員でもない。
この二つから離れ、非正規雇用、派遣社員、アルバイトなど社会からの保護を受けにくい残余型が増加している。
本書では、現代日本の雇用問題を戦前から検証し、また他国との比較検討を大量の資料を基に調査している。
雇用問題を考える資料としての価値がある。 -
COURRIER JAPON
著名人の本棚
篠田真貴子さんの推薦図書より
「歴史的経緯とは、必然によって限定された、偶然の蓄積である」
本の終わりに差し掛かるところで、印象的な一文に出会った。
社会のしくみは何によって作り上げられてきたのか。
また、どうやって変えていけるのか。
私は、どんな風に変えていきたいのか。
流れゆく時間の中で、いまの世の中の必然性から慣習が生まれていく。
それは合意形成を経て恣意的に作られたものだ。
本書は日本の雇用環境のみならず、広く、福祉や教育、格差や差別、戦争や軍隊の影響や、人々の潜在的な意識、アイデンティティに至るまで、あらゆる面から日本社会が考察されている。
が、福祉や教育に関する言及は薄い。
筆者は、雇用に絞って論を展開した。
物足りなさを感じる一方、その分、理解も深まりやすく、納得感は大きかった。
「労働史、経営史、行政史、教育史、さらには他国の歴史や慣行に至るまで、多くの領域にまたがるテーマである。」
と筆者も述べている。
かなりの大著だが、歴史の流れに沿って環境の変遷(経営者・労働者双方の選択であり、妥協点を歩んできた様)を語っているおかげで、さくさく読めた。
著書が雇用形態の文化的社会的な経緯に対して、「慣習の束」や「社会契約」と主張して、国際比較を論じているのも、興味深く感銘を受けた。
これは、国民自らが選び取ってきた道なのである。
勿論その議論の蚊帳の外に追いやられていた女性や非正規雇用の問題点も指摘している。
今まで生きてきた中で、ずっと思考の奥底で燻っていた日本社会の違和感への理解が深まった。
軍隊みたいだな…と軍隊に所属したこともないのに感じていた違和感は、まさしく、官庁や軍を倣い日本のあらゆる組織(企業や学校)が出来上がっていった歴史に触れ、納得である。
大部屋型オフィス、新卒一括採用、人事異動と終身雇用の成り立ちを言語化して頂き、職務や責任区分が曖昧でうやむやな働き方で成り立っている会社という閉鎖的なムラ、、、私が何に気持ち悪さと窮屈さを感じていたのかが明確になった。
また、日々組織や社会の透明性(情報公開)の重要性を進言してきたが、日本組織では歯牙にも掛けない理由がはっきりと分かった。
同質集団は自分達の領域を守りたいのだ。
筆者も最後に透明性の重要さを主張していた。
それは、政治にも経済にも、あらゆる組織や共同体に通底する真理ではないか。
社会の諸所の課題に対して問題提起をしている本であり、
答えを出すのは、著書を読んだ我々である。
私は技術職の為、ドイツのような職種を重んじ、ヨコ移動がしやすい流動性のある社会であって欲しいと願う。
さて、終章の③の福祉が充実した社会に変えていく為には何が必要か。
著者プロフィール
小熊英二の作品





