日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065154298

作品紹介・あらすじ

いま、日本社会は停滞の渦中にある。その原因のひとつが「労働環境の硬直化・悪化」だ。長時間労働のわりに生産性が低く、人材の流動性も低く、正社員と非正規労働者のあいだの賃金格差は拡大している。

 こうした背景を受け「働き方改革」が唱えられ始めるも、日本社会が歴史的に作り上げてきた「慣習(しくみ)」が私たちを呪縛する。

 新卒一括採用、定期人事異動、定年制などの特徴を持つ「社会のしくみ」=「日本型雇用」は、なぜ誕生し、いかなる経緯で他の先進国とは異なる独自のシステムとして社会に根付いたのか?

 本書では、日本の雇用、教育、社会保障、政治、アイデンティティ、ライフスタイルまで規定している「社会のしくみ」を、データと歴史を駆使して解明する。


【本書の構成】

第1章 日本社会の「3つの生き方」
第2章 日本の働き方、世界の働き方
第3章 歴史のはたらき
第4章 「日本型雇用」の起源
第5章 慣行の形成
第6章 民主化と「社員の平等」
第7章 高度成長と「職能資格」
第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ
終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか

感想・レビュー・書評

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  • 某大学の社会学教授とお話しする機会があり、軽い気持ちで「まったくの素人にお薦めの社会学の本を教えてください」とお願いした。するとしばらくして、「悩みました」とメールがあり、数冊の本を紹介してくださった。これはそのうちの一冊である。

    かつて司馬遼太郎は「この国のかたち」という表現で、日本とはどういう国なのかを問い続けた。この、シンプルだが妙に頭に残るフレーズは、広く人口に膾炙して今に至る。そして、気鋭の社会学者である著者は、本書で「しくみ」という、これまた絶妙のワードを用いて日本社会を読み取ろうとするのである。

    彼が注目した(あるいはせざるを得なかった)のは近代日本の雇用・教育・福祉、なかでも雇用のあり方である。大学名重視、学位軽視、年功序列、大企業優遇、女性の不利な立場…日本はなぜこのような社会なのか、歴史をひもとき、海外との比較をし、非常に詳細なデータを並べて考察していく。日本の企業や官庁組織内は、戦前からの軍隊組織の影響が色濃く残っているという。

    著者は言う。ある社会の「しくみ」とは、定着したルールの集合知である、と。人々の合意により定着したものは、新たな合意が作られない限り、変更することは難しい。だが、難しいというだけで、変えられないものではないのだと。

    非常にエキサイティングで、付箋とマーカーだらけになってしまった。文体も平易でわかりやすい。
    ご推薦くださった先生に感謝。いつか、本書のお話を伺ってみたい。

  • 著者は「日本社会のしくみ」とタイトルした。しかし、それだけでは、本書の内容をイメージするには困難であるので、副題がたくさんついている。

    「雇用、教育、福祉の歴史社会学」
    「日本を支配する社会の慣習」
    「日本の働き方成立の歴史的経緯とその是非を問う」

    この「日本社会」という言葉を、「日本の労働社会」とか「日本の経済社会」とかいう意味合いで自身はとらえて読み進めた。

    電子書籍で読んだので物理的な分厚さを感じることはできなかったが、新書にしてはかなりのボリューム。しかもすべての論拠に統計データが裏付けられており、直感的に述べたられたようないい加減さは全くなかった。

    また、「日本のしくみ」を述べるのに、欧米を中心とした世界的な実情との比較を述べることで、日本の特徴を浮き彫りにしており、本書は著者のこのテーマに関する論文のダイジェスト版ともいえるのではないだろうか。

    「終章」において、「自然科学」と「社会科学」の違いについて述べ、その「社会科学」の特徴をアダム・スミス、ウェーバー、ジンメル、デュルケーム等の学者の研究成果などを例示し述べられているあたり、著者の本来の論文は、それらも含めて述べられるべきところだろうと思うが、本書は「新書」の形で、できるだけ一般の読者にわかりやすくまとめられたのだろうと思う(正直、それでも大変な論文と感じたが・・・)。

    第1章 日本社会の「3つの生き方」
    第2章 日本の働き方、世界の働き方
    第3章 歴史のはたらき
    第4章 「日本型雇用」の起源
    第5章 慣行の形成
    第6章 民主化と「社員の平等」
    第7章 高度成長と「職能資格」
    第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ
    終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか

    話のつかみ(序章)では、2018年6月21日の日経新聞の記事「経団連、この恐るべき同質集団」であり、経団連の正副会長19名がどういう人物であるのかが切り口である。日本の経済界のトップの特徴を見れば、現在の日本の経済社会、労働社会の特徴がわかるだろうということだろう。

    日本人、男性、62歳以上、年功序列・終身雇用・生え抜き主義の成功者(=大企業システムの成功者)、学歴偏重(東大12名、一橋大3名、京大、横国大、慶大、早大=首都圏大学に集中)。

    ここから、女性、外国人、地方が不利の実情を指摘し、また学歴については「何を学んだか(専攻したか)を重要とせず、ただ学校名を重視している」と述べ、経歴については「1つの組織における勤続年数を重視している」と指摘している。

    欧米企業では、「どこの大学」というより「何を専攻してきたか、何を専門とするか」が重要要素であり、自身の専門とする職種をもって企業を渡り歩くことによりキャリアップしていく形態が社会の姿であることから、終身雇用の日本とは、この2つの点でまったく異なる特徴があるとする。

    これらのを取り巻く、雇用のしくみも、教育のしくみも、社会保障のしくみも、必然的に欧米と日本は異なってくるという。

    こういう「しくみ」が出来上がるのは、慣習(=暗黙のルール)によるところが大きいとし、では現在の日本の「しくみ」が出来上がったのは、どんな歴史的背景に基づく社会の慣習が原因しているのかということを述べていた。

    最初に興味をひかれたのは、第1章での「日本の生き方の類型」で、3つの類型を提示している。①「大企業型」
    ②「地元型」、③「残余型(①でも②でもない型)」の分類である。

    ここで読者は、自分自身の日本人としての生き方を、この分類に当てはめることになる。おそらく、自身の適合範囲の類型ばかりを見て、他の類型には全く振り返ることなく人生を過ごしてきたことを再認識するだろう。

    これらの類型がパラレルで存在しているならば問題はないが、例えば冒頭の経団連の記事のように、「大企業型が日本のしくみである」とされた瞬間に違和感を感じざるを得ない。

    そしてまた、日本のしくみがそういう大企業型のしくみへ誘導されることによって、②③の類型にひずみが発生していくる。そのことを述べられていたように思う。

    ②「地元型」には、自営業や農林水産業の人々が分類されるが、昨今では人口減少傾向にあるという。これまでの仕事を廃業した人は、どこへシフトしているかというと、非正規労働者の増加と連動しているという。そしてその次には、正社員と非正規労働者との処遇のギャップなどの問題が浮き彫りになってくる。

    あるいは、学歴偏重の方向性から、中卒、高卒就業者への減少傾向、大卒者の増加、、、しかしながら企業の人材需要に変動はなく、就職難の現象が現れたり、企業内の昇進ポスト不足の問題が発生したりと、現行システムに歪みが生じてくる流れなども説明されている。

    日本の特徴的慣行として、「定年制」「定期人異動」「新卒一括採用」を挙げている。「大部屋型オフィス」は、どこの企業でも当たり前の姿であるという認識だったが、これは日本独自の特徴なのだと改めて認識した。

    現在「人事考課」の基礎となっている職能資格制度なども、しくみの歪みの修復から発生してきた制度のようだが、それらも明治期の官庁制度や、軍隊の階級制度などがベースとなったものがほとんど変化していないようであり、それはそれで様々な驚きの要素がある。

    社会のしくみが、慣習に強い影響を受けていること。慣習はある意味、法律などと同等かそれ以上の影響力をもっていること。そして、そういう慣習の流れは、経済界であったり、政府であったり、同労組合であったりが作っているということを改めて認識した。

    一方で、戦後の高度成長、石油ショック、バブル崩壊、あるいは団塊世代、団塊ジュニア世代などによる人口現象による影響など、様々な要因でしくみの変化が常に求められるナマモノであるということも再認識できた。

    しくみへの不適合が発生しることにより、不満が発生したり、不平等が発生したりする。そして社会問題へと発展してくる。非常に難しいものだという認識だけは深まった。

    著者は、これらの分析から、将来の予測と改善に活かせと述べているのだと思う。

  • ・大企業型26%、地元型36%、残余型38%
    ・残余型には、政治的な声をあげるルートが無い。
    ・中小企業団体と結びついた自民党政権が、小規模小売店を保護してきた。
    ・一国のうちに、先進国(近代的大企業)と後進国(前近代的な労使
     関係に立つ小企業および家族経営による零細企業と農業)の
     二重構造が存在。
    ・日本では「大企業か中小企業か」つまり「どの会社か」が意識され
     欧米では「ホワイトカラーかブルーカラーか」つまり「どの職務か」
     の区分の方が強く意識されている。
    ・企業が重視するのは、どんな職務に配置しても適応できる潜在能力。
    ・大部屋は日本の官庁の特徴。
    ・「初めに職員ありき」の社会では、まず人を雇い、その人に職務をあてがう。
    ・日本の雇用形態を「メンバーシップ型」欧米を「ジョブ型」と言うが
     「企業のメンバーシップ」と「職種のメンバーシップ」と形容した
     ほうが良いのでは。
    ・日本と他国の最大の相違は、企業を超えた基準やルールの有無
    ・日本が独特なのは、軍隊や官庁にのみ向いていると考えられている
     組織の型を産業にも適用したという点。
    ・官庁から始まった新規学卒採用は、1900年前後から民間企業に広まった。
    ・日本型雇用の構造的弱点。大卒社員を昇進させ続けるためには、 
     無駄なポストを増やし続けるか、組織を大きくするしかない。
    ・長期雇用と年功賃金を続けようとすれば、適用対象をコア部分に
     限定するしかない。そのための方法が、人事考課による厳選、出向、
     非正規雇用、女性という外部を作りだすことだった。
    ・「企業のメンバーシップ」「職種のメンバーシップ」「制度化された
     自由労働市場」という社会的機能の内、日本は「企業のメンバーシップ」が支配的な社会。
    ・日本のしくみを変えるために、最も重要なことは「透明性の向上」
    ・日本では「カイシャ」と「ムラ」が基本単位。

  • 会社にいる年配の方々の考え方があまりにも理解できないと思い、日本の歴史や社会がこういった価値観を形成しているのでは?と思い購入した本
    膨大なデータに基づいた分析をしているので、信ぴょう性が高く
    キャリアモデルについても、意外なポイントが多くあった
    読むのに非常に根気が必要なので、自分が疑問に思った事をベースに読むのが良いと思う。自分の視野が狭かったと思わされる本。周りに見えているキャリアは日本全体でも20%程度しか見えていない可能性があると思うと、改めて自分の無知さを残念に思った。良書。

  • COURRIER JAPON
    著名人の本棚
    篠田真貴子さんの推薦図書より

    「歴史的経緯とは、必然によって限定された、偶然の蓄積である」
    本の終わりに差し掛かるところで、印象的な一文に出会った。

    社会のしくみは何によって作り上げられてきたのか。
    また、どうやって変えていけるのか。
    私は、どんな風に変えていきたいのか。

    流れゆく時間の中で、いまの世の中の必然性から慣習が生まれていく。
    それは合意形成を経て恣意的に作られたものだ。

    本書は日本の雇用環境のみならず、広く、福祉や教育、格差や差別、戦争や軍隊の影響や、人々の潜在的な意識、アイデンティティに至るまで、あらゆる面から日本社会が考察されている。
    が、福祉や教育に関する言及は薄い。
    筆者は、雇用に絞って論を展開した。
    物足りなさを感じる一方、その分、理解も深まりやすく、納得感は大きかった。

    「労働史、経営史、行政史、教育史、さらには他国の歴史や慣行に至るまで、多くの領域にまたがるテーマである。」
    と筆者も述べている。

    かなりの大著だが、歴史の流れに沿って環境の変遷(経営者・労働者双方の選択であり、妥協点を歩んできた様)を語っているおかげで、さくさく読めた。

    著書が雇用形態の文化的社会的な経緯に対して、「慣習の束」や「社会契約」と主張して、国際比較を論じているのも、興味深く感銘を受けた。
    これは、国民自らが選び取ってきた道なのである。

    勿論その議論の蚊帳の外に追いやられていた女性や非正規雇用の問題点も指摘している。

    今まで生きてきた中で、ずっと思考の奥底で燻っていた日本社会の違和感への理解が深まった。
    軍隊みたいだな…と軍隊に所属したこともないのに感じていた違和感は、まさしく、官庁や軍を倣い日本のあらゆる組織(企業や学校)が出来上がっていった歴史に触れ、納得である。

    大部屋型オフィス、新卒一括採用、人事異動と終身雇用の成り立ちを言語化して頂き、職務や責任区分が曖昧でうやむやな働き方で成り立っている会社という閉鎖的なムラ、、、私が何に気持ち悪さと窮屈さを感じていたのかが明確になった。

    また、日々組織や社会の透明性(情報公開)の重要性を進言してきたが、日本組織では歯牙にも掛けない理由がはっきりと分かった。
    同質集団は自分達の領域を守りたいのだ。
    筆者も最後に透明性の重要さを主張していた。
    それは、政治にも経済にも、あらゆる組織や共同体に通底する真理ではないか。

    社会の諸所の課題に対して問題提起をしている本であり、
    答えを出すのは、著書を読んだ我々である。

    私は技術職の為、ドイツのような職種を重んじ、ヨコ移動がしやすい流動性のある社会であって欲しいと願う。

    さて、終章の③の福祉が充実した社会に変えていく為には何が必要か。

  • 日本の社会がどういう人を評価しているのか、何をみているのか戦前に遡って紹介されています。やっぱりそうかと思うと同時に、知ることで見えていなかったものも少しは気づくことがあるかもしれません。
    就職活動前の大学生では遅いかもしれない。ああでも、高校生の頃に読んだとして果たして明るい未来を描くことができるかな?

  • 読了ならず、第三章までで断念(図書館で借りたため、返却期限到来…)

  • 日本の「しくみ」を規定しているのは雇用のあり方であるとして、明治以来の歴史をさかのぼり、また欧米との比較を通じ、われわれが当たり前として受け止めてしまっている制度や慣習を問い直している。部分々々を見ればすでにどこかで誰かが触れているような議論が多いのだが、それらを統合して大きな絵を描くのが圧巻。よく「なぜ歴史を学ぶのか」という問がたてられるが、そのなぜがよく分かるような一冊

    ただ、論旨が明快すぎるせいか、また読むコチラとしてもまったく案内のない分野ではないせいか、要約を読んだだけでかなりの所は「ああ、もうわかったわかった」という感じになってしまうところも。もちろん読んでいけば細部に発見もあるのだが、普通の新書の3倍の厚みがあるしね

    個人的に新鮮だったポイント:

    - 明治期に高等教育を受けた人間が限られたままで官主導でのキャッチアップ型の開発をやったことが、今の社会にまで影響している。まさに歴史の威力

    - 団塊ジュニアの受難は単純にデモグラフィーだけから予想されていた(が注目されなかった)。バブル崩壊は追い打ちをかけたただけ

    - 戦争が身分格差を大幅に緩和した。知らぬ話ではなかったが改めて複雑な思い

  • なるほど、そうか。ドイツをはじめヨーロッパでは職業別で就職を考えるのか。だから、同じ職種で別の会社に移ることなどがわりと簡単にできるのか。日本は会社自体を選ぶことが多い。その中でどんな仕事に就くのかはあまり関係ない。最近はずいぶん変わっているかもしれないが、それでも大学生は仕事の内容より、会社名で就職先を選んでいるような気がする。私自身は、職種で選んだかな。だから、別の会社でも良かったのかもしれない。ただ、わりと初期の段階で、トップにいる人の考えに共感できるものがあって30年近く同じ会社に勤めてきた。同時に、他の環境に入る不安もあったかもしれない。前の会社に転職後、ちょっとつらい時期があったから。人事考課制度とか目標管理システムのようなものがどうやら軍隊から始まっているようだ。そう聞くと、なんかしっくりいかないのはそれが原因かと思ったりもする。それはそうと最低賃金がまた上がる。良いことではあると思うが、なんだか、昇給のための基準などが無駄なような気もしてくる。パートナーは非正規で働いているが、同一労働同一賃金にはなっていないようだ。それどころか、正規雇用で働きが悪い人のしりぬぐいもしているようで、なんともやり切れないようす。まあ、いろんなことはある。社会のしくみはとにかくややこしい。入試制度にしろ、税金のしくみにしろ、シンプルな方が良いように思うが、一律に決めてしまうような制度設計はそうそう簡単にはできないのだろうなあ。結局2ヶ月で読めた。(もっとかかると思っていた。)間に似たようなテーマの本を並行で読むから、どこに何が書いてあったかさっぱりである。

  • この本、学術書です。新書レベルではない。現代の日本の雇用環境を中心に、教育や福祉について論述した本格的な一冊。一度では全部を落とし込めない、もう一度読み返したい。

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著者プロフィール

慶應義塾大学総合政策学部教授。
専門分野:歴史社会学。

「2023年 『総合政策学の方法論的展開』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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