トクヴィル 平等と不平等の理論家 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065157114

作品紹介・あらすじ

ポピュリズム、ポストトゥルース、グローバリズムに直面する今こそ読む――“アメリカのデモクラシー”その根源への探究

デモクラシーこそは歴史の未来である――誕生間もないアメリカ社会に トクヴィルが見いだしたものは何か。歴史的名著『アメリカのデモクラシー』では何が論じられたのか。「平等化」をキーワードにその思想の今日性を浮き彫りにする、鮮烈な思考。あらゆる権威が後退し混沌の縁に生きる私たちは、いまこそトクヴィルに出会い直さなければならない!

いま日本の思想界をリードする著者が、第29回(2007年) サントリー学芸賞(思想・歴史部門)を受賞し、現在に至る地位を築いた好著の文庫化。文庫化にあたり、現在の政治・思想状況をふまえた「補章」を増補。
トクヴィルの「今日的意義」は増すばかりである。ある意味で、「トクヴィル的」とでも呼ぶべき状況がますます強まっている―(「補章」より)

【本書の主な内容】
第一章 青年トクヴィル、アメリカに旅立つ
第二章 平等と不平等の理論
第三章 トクヴィルの見たアメリカ
第四章 「デモクラシー」の自己変革能
結び トクヴィルの今日的意義
補章 二十一世紀においてトクヴィルを読むために

感想・レビュー・書評

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  • 知性の健全な枠=宗教がまだよく分からなかった。
    でも宗教に対する曖昧さがむしろトクヴィルの人間味を感じられて良かった。

    信仰が自然なことだというのはすごく共感できた。
    そうかもしれないな。


    「いま、ここ」への従属から逃げ出したい。

  • 素晴らしかった

  • SDGs|目標10 人や国の不平等をなくそう|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/742026

  • トクヴィル―平等と不平等の理論家― 宇野重規

    宇野先生によるトクヴィルの解説書。学生時代から、トクヴィルファンを自認しているが、やはりトクヴィルの慧眼には舌を巻く。何より、デモクラシーの批判的分析の深さと、その対応策の検討の2点が、実際に政治家としての実務経験もあるトクヴィルの卓越した知性を物語っている。

    本書にまとめ的な文章はP181-182のデモクラシーのリアリティというところに集約されている。
    その文章をベースに本書の要約を行うが、トクヴィルのデモクラシー論の最大の特徴は、デモクラシーを単なる政治的な類型ではなく、そこに暮らす人々の思考や感性の在り方を含めた一つの社会類型として再定義したことにある。トクヴィルの時代において、デモクラシーは社会的な趨勢であった。ここでいうデモクラシーとは、社会の平等化を意味する。それまでは所与のものであった不平等が、フランス革命を経て可視化され、そして不平等の是正を多くの人間が望みようになった時代が彼の生きた時代である。そのような平等化の趨勢をトクヴィルはいち早く読み取ると共に、新たに形成されるデモクラシーという社会の在り方の特徴と、そのデモクラシーを適切に運用するためには何が必要かということを『デモクラシー』ではプラグマティックに述べたのである。
    では、デモクラシーの特徴とは何かという点であるが、一つには平等化による人々のアイデンティティ・クライシスについて述べている。それまで、人々は身分や社団によって自己のアイデンティティ形成をなしていたが、フランス革命中に施行されたル・シャプリエ法により、結社活動を含む多くの中間共同体は破壊されていった。そこで、人々はより個人として自立することを求められたのであるが、人々は自分の頭で考えようとすればするほど、自分の思考の無根拠性にぶち当たってしまい、不安になる。そして、その一方で、全ての人々が自分と同質の知性を持っているのであれば、その最大多数が賛同する意見に対しては無批判に正しいと思い込むという逆説的な状況がそこに立ち上がってくるのである。そうした多数者の意見が巨大な知的影響力を持ち、人々が容易にその意見に賛同してしまう現象を多数の暴政として批判したのである。平等になった諸個人から成る社会が、平等に自由になるよりは、平等に隷属する方に傾きがちであるという問題点をトクヴィルはデモクラシーの黎明期に指摘したのであった。
    この、平等に自由になるよりは、平等に隷属する方に傾きがちであるという一節は、その後のナチス政権の誕生を分析したエーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』を思い出させる。ジャン・ポール・サルトルもまた、人々が自由の刑に処せられている不安から、積極的な社会参加「アンガージュマン」によるアイデンティティ形成を提唱したのであるが、フロムやサルトルに近い提言を、デモクラシーの黎明期に予見したトクヴィルの先駆的知性については驚嘆すべきである。

    話がそれたが、トクヴィルはこのようにデモクラシーの問題点を指摘すると共に、デモクラシーをみんなで育てていかねばならないというデモクラシーに対する懐かしさのようなものを感じていたのかもしれない。それゆえに、トクヴィルはこのように欠点もあるデモクラシーを正常に機能させるためにその脆弱性を補完するものについて模索し続けたのであった。
    それは、二つの方向性から模索されるが、まず一つが、デモクラシーとは異質な原理をデモクラシーの内部に組み込んでいくというものであった。デモクラシーが異質性を否定する方に傾きがちであるのに対して、むしろ異質性を培養する装置としての結社の役割を重視したり、過去や未来への展望を見失い、現在のみにしか関心が向かわないデモクラシー社会の人々に対した過去からの時間の持続性を担保するための習俗や、あるいは未来への感覚を生み出すための宗教への期待をしたのである。これらをトクヴィルは「知性の健全な枠」と呼び、全てを疑うデカルト的な姿勢に対しての一種のアジールとして、全てを疑うという自分自身の気持ちと休戦するための仕掛けとして提示した。これは私の個人的な理解であるが、この知性の健全な枠というものは一種の必要悪のようなものであると思う。ワクチンを接種することがウイルスに効果的であるのは生ワクチンがウイルスを弱毒化した状態で体内に入れることで体内に免疫を作ることを目的としているからである。つまり、ウイルスのよる強毒を避けるためにあらかじめウイルスに感染させるという、毒をもって毒を制すという仕組みなのである。デモクラシーでいう強毒とは、多数派の意見への迎合であり、弱毒が宗教や習俗等の知性の枠なのである。トクヴィルは多数派の意見への迎合が招く大衆社会の到来を阻止する為に、宗教や習俗という必要悪の必要性を説いたのである。非常にプラグマティックで面白い考え方である。
    デモクラシーの脆弱性を補完するもう一つの可能性は、デモクラシー自身の持つ潜在力を全面的に開花させるというものである。これは、トクヴィルのアメリカでの経験に基づくものであり、デモクラシーを運用する人々の基本的な素養ともいえる。アメリカでは、タウンシップによる自治の精神を人々が持ち、各個人の自己利益と結び付くような形で公共の利益に対する感覚を身に付けている。これらは、政治に対して垂直的な強制力ではなく、水平的な自己矯正力をもたらしている。このように、このように人々の一人一人が政治に関心を持ち、一定の歴史的な射程を持ったうえで、政治家を審査し、運用していくデモクラシーを動かす人々のダイナミズムをトクヴィルは高く評価したのである。ここで印象的であるのは、トクヴィルが当時の大統領であるジャクソンを知性の足りない平凡な人物であると評したことにある。この話の肝心なところは、トクヴィルがジャクソンを批判したわけではなく、平凡で知性に欠ける人物が仮にトップに立ったとしても、正常に政治が機能しているというそのシステムの優秀さを強調した点である。トクヴィル自身が貴族の出自であり、それまでの旧来のアリストクラシー的な考え方では、少数の優秀な人物が為政者となることで国家は正常に統治されるという感覚が一般的であった。しかしながら、アメリカでは、極めて平凡な人物がトップに立ったとしても、デモクラシーを運用する市井の人々の水平的な評価システムによる統治によって、政治システムがうまく回っていたのである。ここにトクヴィルのパラダイムシフトがあり、トクヴィルは自分自身の出自を越えて、新たな時代の統治方法に賭けたのである。

    このように、トクヴィルの提言は、現代的にも非常に示唆に富む内容である。
    今後も民主主義について考える上で、読み返すべき本であるだろう。

  • トクヴィル専門家によるトクヴィル研究書。内容は理解できるのだが、トクヴィルの素人からするとその人物像や考え方がはっきり見えてこない。もともとそのような理解しづらい人物かもしれないが、トクヴィルがいかに偉大かは理解できなかった。また、最後に現代的な意義について述べているが、インターネットやSNSで自由に意見を述べられる時代が、トクヴィルの予言する自由で平等の社会にあたるとの意見はこじつけに思う。封建制、貴族制、自由と民主主義の時代や社会主義や資本主義が複雑に絡み合う中で時代は進んでおり、今までとは違う新たな理論が適応される時代が次々やってきてるわけで、自らの研究対象と現在を結びつけようとする他分野専門家と同様の安易な考えと言えよう。

    「カール・マルクスが階級闘争を軸に歴史の展開を読み解き、マックス・ウェーバーが「合理化」という概念を用いて近代という時代を説明したように、トクヴィルは「デモクラシー」によって、歴史の変化を意味づけ、近代社会の特質を描き出している」p17
    「共和制とは元来、世襲の君主のいない政治体制を指す。したがって、世襲の君主さえいなければ、貴族制でも民主制でも共和制ということになる」p51
    「共和制は公共の利益のための政治であるが、そのことは、多数者自身による政治、すなわち民主制とは区別されるべきであり、むしろ真に公共の利益を実現するためにも優れた少数者による指導を必要とする、という含意を持つことになった」p52
    「不平等が支配的な社会においては、誰も不平等に文句を言わないのに、より平等が発展した社会においては、人は残された不平等について、それがどれだけ些細なものであったとしても不満を持つ」p70
    「人々にとって、かつて自分たちから遠いところにいると思われた貴族たちは、今では比較を絶する存在ではない。そうだとすれば、彼らの持つ特権は、極めて目障りなものに見えてくる。かつては社会のヒエラルキーに組み込まれ目に見えにくかったその特権が、極めて不当なものとして可視化されたのである」p74
    「アメリカ人は哲学を好まず、多くの人は、デカルトの名前も彼の『方法序説』も知らないであろう」p80
    「「個人主義」という言葉は19世紀初めに初めて登場したものである」p85
    「トクヴィルは『旧体制と革命』において、フランス革命によって主権が王から人民に移ったとしても、政府の権力はけっして弱体化せず、むしろさらに拡大したと主張した」p91
    「フランス革命後も、共和制、王政、帝政と、激しい政体の変更を経験した」p98
    「アメリカのジョン・ロールズが示す正義の第一原則はまさしく「平等な自由」である」p108
    「(アメリカでのデモクラシーの定着)アメリカ人には隣人がなく、したがって、大戦争も、財政危機も、また戦災も征服も恐れる必要がない。膨大な租税も、多数の軍隊も、偉大な将軍も彼らは必要としない」p114

  • トクヴィル、トクヴィルと何度も目にするようになり、その音の響きが気にかかっていた。いったいどういう人物なのか、何を言っていたのか、興味がわいた。いつか読んでみよう。そう思っていたら、文庫になった本書と出会った。これはよかった。著者が現在かかえる問題にひきつけて書いてくれているので、非常に理解しやすかった。トクヴィルが示した「デモクラシー」の謎は、「そこに暮らす個人が自立して思考しようとすればするほどむしろ他者の意見に従属することになり、自分の頭で考えようとすればするほどむしろ自分の思考の無根拠性にぶち当たってしまうということであった。」まさに、いまのネット社会を描いているかのようだ。自分の思考の無根拠性?だいたい自分が思いついたと思っているアイデアなど、だれかがどこかでとっくに言っていることだし、もともと何かで読んだり聞いたりして出来上がっていったものだろう。そういう意味では、自分にとっての思考の権威というのは必要ではないか。森毅だったり、村上陽一郎だったり、養老孟子、内田樹、村上春樹などなど・・・さて、トクヴィルが目指すのは「平等な自由」だという。そういえば、平等と自由が両立した世界が過去にあった。ソクラテス以前の古代ギリシャに。そういうことを、柄谷行人の本で読んだような気がする。復習しないとだなあ・・・ところで、トクヴィルがアメリカに滞在したのは1年未満だったと思う。私自身も高校生のころに留学経験がある。1年やそこらで何が言えるか、という部分もあるが、1年だからこそ客観的に見られるということもあるのだろう。自分が想像していたアメリカは、皆が積極的で自由気ままにやっているというもの。実際は、人種差別などはひどいし、消極的な人間もいるし、まあどこも同じ人間なんだなあというものでした。

  • 東2法経図・6F開架:B1/1/2551/K

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著者プロフィール

東京大学社会科学研究所教授

「2023年 『法と哲学 第9号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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