戦禍に生きた演劇人たち 演出家・八田元夫と「桜隊」の悲劇 (講談社文庫)
- 講談社 (2019年7月12日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065163436
作品紹介・あらすじ
1945年8月6日、広島で被爆した移動劇団「桜隊」。著者は、その演出家・八田元夫の膨大な遺品を、早稲田大学演劇博物館の倉庫から発掘する。そこには戦中の演出ノートやメモ、草稿、そして原爆投下による悲劇の記録が書き残されていた。
八田が残した記録やメモには、大正デモクラシーの下で花開いた新劇が、昭和に入り、治安維持法による思想弾圧で、いかに官憲に蹂躙されたか。自身や俳優たちの投獄、拷問など、苦難の歴史が記されていた。さらに、桜隊が広島で遭遇した悲劇の記録――。8月6日、八田は急病で倒れた看板役者・丸山定夫の代役を探すため、たまたま上京中だった。急ぎ広島に舞い戻り、10日から仲間の消息を追う。「桜隊」9名のうち、5名は爆心地に近い宿で即死。仲間の骨を拾った八田は、座長であり名優と謳われた丸山定夫や美人女優・園井惠子ら修羅場から逃れた4名の居場所を探し当てるが、日を経ずに全員死亡。放射線障害に苦しみながらの非業の死だった。八田自身も、戦後、放射線被爆に悩まされることになる。16日、避難先の宮島で臨終を迎えた丸山の最期に八田は立ち会った。前日、玉音放送を聴いて丸山は呟いたという。「もう10日、早く手をあげたらなあ……」10日前、8月5日に降伏していれば。本書は悲劇の記録である。と同時に、困難の中、芝居に情熱のすべてを傾けた演劇人たちの魂の記録でもある。
感想・レビュー・書評
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広島出張の折、市の中心部にある平和大通りに、ひっそりと存在している、さくら隊の慰霊碑に気づき、この本を手に取りました。早稲田大学演劇博物館に眠っていた八田元夫の資料を読み解きつつ、改めて知る、あの時代、あの日の物語。初めて読み解かれる、様々な秘められた物語の多いことに吃驚、著者の取材力に★四つですね。
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この著者の作品はどれも面白いが、これはそうでもなかったのは何故だろう
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八田元夫さんも丸山定夫さんも全く知らなかったが、著者の手により、読んでいる間ずっと生き生きとわたしの中で存在した。たくさんの人が出てきたが、それぞれ背景や出来事が丹念に描かれ、その人たちの性格や暮らしぶりや、内面の苦悩や喜びが手に取るように伝わった。
どの職業の人も戦争の間、不条理な目にあったことがたくさんあろうかと思うが、演劇人の苦労は、表現の自由が奪われ、官憲との戦いもあり、収監されたり、拷問を受けたり、特別なものであった。読んでいて苦しくなる。
そして「桜隊」の悲劇。そこに辿り着くのはわかっていたが、いざ原爆の日が近づくとドキドキしてきた。そして想像以上の恐ろしい結果だった。なんの罪もない人が、一瞬にして死に絶える。なんとか助かったと思えた人たちが、1、2週間のうちに亡くなる。普通の生活に戻れ何年が過ごしたのち、原因不明の調子の悪さで亡くなったりする。
"いったん国が戦争することを許してしまえば、それに抗って生きることは容易ではない。もし、同じ時代が再び来れば、自分はまた同じことを繰り返してしまうだろう。人間はそんなに強くない。だからこそ、平和と言われる時代にあっても、無関心にその時代の行列に並ぶのではなく、自分が正しいと思うことに向かって意思を示し続けなくてはならない。それは演劇であってもいいし、デモでもいい。とにかく傍観者にならないことが自分たちに課せられた義務なのだと、晩年の八田は若い俳優たちに繰り返した。それが、戦禍の中を生き延びた1人の演劇人、ガンマ線に貫かれた1人の被爆者として辿り着いた道だった。"
次々と戦争を知る人たちが亡くなっていく。14年という長い期間丹念に取材され、資料を読み込まれ、著作にされた。そのことの意味をしっかり受け止めたいと思う。 -
東2法経図・6F開架:775A/H43h//K
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広島で全滅した移動劇団「桜隊」の悲劇を、圧倒的な筆致で描く、傑作ノンフィクション!