産まなくても、産めなくても (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 375
感想 : 21
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065164976

作品紹介・あらすじ

妊娠と出産にまつわる、女性にとって切実な話題を切り取った七つの物語──「第一話 掌から時はこぼれて」39歳の女性弁護士が、ふとしたきっかけで知った卵子凍結の情報に、心が大きく揺さぶられて……。/「第二話 折り返し地点」妊娠よりもオリンピック出場を優先してきた女性アスリート。レース前、胸に去来したものは?/「第三話 ターコイズ」不妊治療中の女性たちが集うイベントで、子宮の劣化の話を聞いて愕然となり……。/「第四話 水のような、酒のような」バブル時代に独身生活を謳歌した男が、不妊治療のクリニックで思わぬ宣告を受け……。/「第五話 エバーフレッシュ」妊娠をめざすのか、仕事を優先するのか。女性の厳しい現実に対応する、新しい社内制度とは?/「第六話 五つめの季節」三度目の流産で子供をあきらめかけたとき、養子縁組のことを知り……。/「第七話 マタニティ・コントロール」近未来。不妊治療や子育て支援に大きな予算が投じられ、妊娠は政府によって制御されようとしていた。

感想・レビュー・書評

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  • 妊娠、不妊、出産に関する短編集。
    私と同じ職業の人が登場すると知り、興味がわいて読んでみた。

    読みながら「この本はきっと、取材をたくさんして書いたものなんだろうな」と思った。
    なぜそう思ったかというと、同じテーマ、似たテーマで、ここまで様々な切り口で短編を揃えるのは、個人の想像力だけでは無理なのではないかと思ったことと、登場する人たちの話の内容に、何か裏付けがあるような説得力を感じたからだ。
    実際、本編の後には取材先への感謝が記されていたけど、取材先は、医療関係(複数)、法律事務所、会社名団体名からは業務内容までわからないもの、とにかく様々でたくさんだった。

    私自身は子どもが一人いるけど、産後体調を大きく崩してしまい、仕事復帰してからは、とても苦しい日々を送った。体調を維持するために、今でも服薬を欠かせない。
    そんなこともあって、私自身の心と体のキャパシティの問題で、「私はもうこれ以上の妊娠出産は無理だ、この子は一人っ子だ」と決めた。
    そう決めても、心のどこかで「35歳を過ぎてしまったな、今からでは高齢出産だな」「もう一人産もうとしたら、私何歳になるかな」などと、もう一人の子どもがいる可能性が何度も頭をよぎってしまう。
    自分でその可能性を消しておいて、未練がましいと思う。
    でも、そういう私なので、この本に登場する人たちの「明確にならない気持ち」に、すごく共感した。

    妊娠と出産には、タイムリミットがある。
    卵子凍結ができれば、タイムリミットがなくなる(先延ばしされる)から良いのか?といわれると、そういうことでもない。
    だって、その後の育児の方がはるかに大変なのだから。
    だから、正解はない、多くの人が悩むことなのだ。
    作者の甘糟さんは、女性たちを産む、産まないのプレッシャーから解放したいと思っているらしい。そんなふうに思ってくれる人がいて、実際にたくさんの取材を経て本を書いてくれている。
    正解のない問題に悩んだ私からしたら、その事実だけで、十分に嬉しい。
    妊娠出産子育てに孤独はつきものだ。でも、会ったこともない誰かが、気持ちを寄せてくれてる、それだけで少しは孤独が和らいだりする。
    この本を読んでいて、この本に登場する女性達は、悩みを共有できる心の中の友達みたいな…そんな風に思えた。ありがとう。

  • もっと早く出逢いたかった一冊。

    結婚しなくても、子供がいなくても
    幸せになれる時代だけど、
    男女問わず若いうちに読んで知ってほしいことが詰まった一冊でした。

  • 特別養子縁組、人工子宮による男性の出産など妊娠や出産にまつわる7つの短編が入った小説。
    その中の「エバーフレッシュ」という話が一番自分に近いからか、好きでした。
    不妊治療はしたけれど、こどもに恵まれず、2人で生きていこうとする女性が主人公でした。
    子供に興味がない上司、育休明けの部下、育休明けの部下に代わり仕事を引き受ける未婚の女性、と様々な立場の女性が出てきました。それぞれの立場で考えも抱えているものも違う。それぞれ尊重できる世の中がいいな〜。
    昭和の時代なら夫婦2人、子供2人がスタンダードかもしれませんが、令和の時代、どれがスタンダードだとか正しいとかなくなってきてるんだな〜と思いました。

  • 出産に関連する7つの短編集。7話目のみ異端だが、それ以外は実に現実的で考えさせられる物語。男性目線で見ると女性の心情など勉強になる部分が多かった。

    全体的に登場人物の発言がリアルなのがとても読みやすく心地よかった。例えば、『五つ目の季節』の女性課長の言動。流産を繰り返している部下に対して、変に優しくするわけではなく、ランチに誘いながら相談コミュニティを紹介し、反発する部下に強要せずにサラッと伝える。とても人間らしい温かみをリアルに感じられる。『エバーフレッシュ』の女社長もそう。独身のおしゃれなキャリアウーマンだから子育てをしながら働く女性に対して否定的や嫌悪を抱いているという人物を想像しやすいが、現実社会でそんな冷淡で極端な人物はあまりおらず、自分との違いを認識しながらも部下としてどう働いてもらうかを考えている気持ちのよい女性と受け止められた。

    話としては『ターコイズ』と『五つ目の季節』が好きだった。前者は、ともに妊活をしてきた女性が先に妊娠し、なぜ自分は恵まれないのかという悩み、なぜ彼女だけという嫉妬を抱く中、彼女が出産時に亡くなるという衝撃的な結末と、作中に出てくるターコイズが静かに物語を締めるのが非常に良い。後者は、2つの別の物語が進み、最後に特別養子縁組というキーワードでつながる点が単純にそう来たかという点で印象強かった。男性目線では『水のような、酒のような』が印象強く残った。男性も不妊の原因となりうること、知っていたけれど改めて突き付けられた感じ。

  • 命の話なんだからもちろん重たい話で
    重たいだけに思うところはたくさんあって
    でもそれを軽々しく言えないのもある。

    終盤まさかこんな展開とは思わずびっくり。

  • 妊娠、出産をめぐる七つの物語。医療の進歩で出産可能年齢は高くなっているとはいえやはり制限がある。女性の生き方が多様化してるから出産する、しないは自由だ。それでも母性本能というものがあり出産に囚われる時期もあるのではないか。子どもを欲しいと思う気持ちでなかなか授からないカップルの悩みは経験者にしか解らないのかもしれない。この話も共感できる人とそうでない人に分かれそう。

  • 一話一話ズシっと心にのしかかってくる一冊だった

    ちょうど子供を考える年齢になってきて
    でも同い年で2人くらい子供いる友達もいて
    私遅いのかなとか
    ほんとに産みたいのかなとか
    日々気持ちが揺れるよねぇ

  • なるほどなあと思う。女性、出産をとりまくいろんなケースをつまみ読みすることができて、いろんな選択肢があるんだな、という感想を覚えた。

    どうしても自分の子どもが欲しいという人もいるし、子どもよりも自分の人生を優先させたいという人もいる。また、医学の進歩によって選択肢が増えることで、悩みも複雑になっていくという面もある。

    子どもは育てたいと思っていたので、妊娠できる年齢のことについて、また、特別養子縁組についてのことが知れてよかった。作者も、悩んでいる女性たちに選択肢を提示するということをしたかったんだろうと思う。

    肉体的な女性と男性、精神的な男性と女性。それらが複雑に組み合わさって人間はできているから、ややこしい。最後の男性の妊娠劇も、どこか他人事めいた感じの描き方が印象に残った。

    個人的には、妊娠も出産も子育ても、女性がしなければいけないから女性は損だ、ということはまったくないと思う。それだけ神秘的な体験を出来る女性というのは、ほんとうにすばらしい性別だと思う。その体験をしたことが、仕事にも生かされるような社会になっていないとしたら、それは私たちの社会が未熟であるためだと思う。ほんとうに、女性というのはうつくしい。それを守るためには、どんな科学技術よりも、ひとりひとりの心がけしかないのだと思う。

  • 宮下夏子は三十九歳の女性弁護士。子供ができない夫婦の離婚調停に携わっているうちに「卵子凍結」のことを知り、心が大きく揺さぶられる。結婚も出産もそのうちにするものだとぼんやり思っていたら、年齢制限があるというのだ…。妊娠と出産をめぐる七つの物語。いろんな選択といろんな正解がきっと見つかる。

  • 展開早く淡白すぎてあまり好みではない

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著者プロフィール

1964年、神奈川県生まれ。玉川大学文学部英米文学科卒業。ファッション、グルメ、映画、車などの最新情報を盛り込んだエッセイや小説で注目される。2014年に刊行した『産む、産まない、産めない』は、妊娠と出産をテーマにした短編小説集として大きな話題を集めた。ほかの著書に、『みちたりた痛み』『肉体派』『中年前夜』『マラソン・ウーマン』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』『鎌倉の家』などがある。また、読書会「ヨモウカフェ」を主催している。

「2019年 『産まなくても、産めなくても』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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