我々は生命を創れるのか 合成生物学が生みだしつつあるもの (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065167786

作品紹介・あらすじ

生命とは何か。この根源的な問いに迫るために、いま、わからないなら自分でつくってしまおうというアプローチが有力視されている。いわば、時計がなぜ動くかを知るにはとにかくつくって、そこからしくみを考えよう、という発想だ。「合成生物学」と呼ばれるこの新しい考え方が、いま先端をゆく生命科学者の間で大きなトレンドとなっている。
本書は、合成生物学に取り組む研究者たちを横断的に取材して歩き、それぞれの生命観に迫ることで「生命とは何か」を輻輳的に考える試みであり、科学に造詣が深く、SFからノンフィクションまで縦横無尽に手掛ける著者ならではの意欲的企画である。
人工生命を供養する墓を建てたり、クックパッドに生命のレシピを投稿したり、「つくったときやばいと感じたら生命」と嘯いたり、微生物のゾンビやフランケンシュタインをつくったりと、各人各様の生命観、そして彼らの中の神や哲学らしきものとが織りなす、いま最もスリリングな生命探求。ブルーバックスウェブサイトで1年余り連載した「生命1.0への道」の書籍化!

感想・レビュー・書評

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  • 生命誕生に関する研究について、主に日本人研究者が進めているものを中心に紹介したものである。この手の本で、日本人研究者に対して集中的に直接話を聞いて取り上げてまとめるのは珍しい。グローバル標準の研究レベルが見えづらくなっているという欠点もあるように思えたが、面白い試みではある。

    そもそも「生命」とは何かを定義するのは意外と難しい。ちなみにNASAでは「生命」を「自律的で進化する能力を持つ複製システム」と定義しているらしい(『協力と裏切りの生命進化史』(市橋伯一著)より)。地球の「生命」はすべてDNA/RNAを持ち、そのシステムの中で特定のアミノ酸を使って作られているが、それを定義とするのは自己(地球)中心主義的にすぎる。本書では、自他を区別する「境界」と「代謝」と「自己複製」さらに「進化」を生命の必要条件として挙げている。

    生命の誕生のストーリーについては、ニック・レーンの『生命の跳躍』や『生命、エネルギー、進化』の中で丁寧に解説されているように、海底の熱水噴出孔付近で誕生したとされる説が最有力であると思っていたのだが、さすがに大昔のことだけあって、まだ色々な異論があるようだ。著者も熱水噴出孔が業界の主流の考え方だと断った上で、その説に傾く横浜国立大学の小林教授と一方で陸上の温泉地帯を推す東京薬科大学の山岸教授をそれぞれ紹介する。ちなみに山岸教授はアミノ酸は宇宙起源であるという立場を取っているいう。また、中沢弘基『生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像』でもアミノ酸が隕石の衝突によって得られたという説を採り、海底の地下で生命が発生したと考えている。『生命はなぜ誕生したのか』のピーター・ウォードは必要なアミノ酸は火星から来たという説が有力だとしている。要するに、基本的なところは意識が合っているというように言いながらも、細かい点においてはかなり幅がある状況だ。

    そういった地球上の生命の誕生について過去に起きたことを究明しようとするものとは別に、生命のようなものを実際に人工的に作ってしまおうとする研究がある。そう言った研究の中で、例えばベシクルと呼ばれる人工細胞膜を作る研究が行われている。この代表が海洋研究開発機構の車さんという研究者である。作ったベシクルに代謝のもとであるATPを移植したり、それが自己複製できるようにしたりといったことが試みられている。

    そういえば、大学の同期で入学時に一緒のクラスになった友達が、当時生命を人工的に創りたいと言って、理学部の化学科に進んだのを思い出した。生命の起源は、それだけ魅力的なのだ。本書では取り上げられたのが、日本人研究者に限定されているが、世界で何が起きているのかはとても知りたくなった。


    ---
    『生命、エネルギー、進化』(ニック・レーン)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4622085348
    『生命の跳躍――進化の10大発明』(ニック・レーン)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/462207575X
    『協力と裏切りの生命進化史』(市橋伯一)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/433404400X
    『生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像』(中沢弘基)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4062882620
    『生物はなぜ誕生したのか:生命の起源と進化の最新科学』(ピーター・ウォード)のレビュー
    https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4309253407

  • 生命とは何か、死とは何か、そんなことすら分かっていない人間が、あらゆる方向から生命に近づこうとする試み。
    突き詰めて考えてれば、生物学が化学にそして宇宙物理学、量子力学まで巻き込んだ壮大な世界に展開していく。

  • 教科書的、ザ・科学的な内容なのかと思いきや、さすがSF作家。読み物として面白く、素人でもするする読み進められた。
    ありがたいのは、論理構成がきっちりしていて、丁寧すぎるほどに丁寧で、私たち読者を迷子にすることなく、道案内してくれること。そして、先端技術の紹介をしつつも、セントラルドグマ、膜構造、エネルギー通貨ATP、シグナル配列など、気づけば分子生物学の基礎項目が結構カバーされている(当たり前?)。

    本書は分野的には「合成生物学」であり、一から生命を作り出そうとする人たちを紹介している。彼らの目的は、生命を理解すること。これは、観察や解剖だけからわかることには限界がある。一からつくりだすことができたとき、ようやく理解できたことになるのではないか、という考え方が背景にある。
    本では、「我々は生命を創れるのか」という問いの答えを見つけるべく、「そもそも生命の起源とは?」「生きてる」ってどういうこと?「生き物」とは?「生命とは?」「死とは?」というようなことを順を追って考察していく。
    面白いのは、これらの問いに対し、いわゆる生物学的な研究内容だけではなく、一般人へのアンケートなども用いながら、私たちの感覚も織り交ぜた答えを導き出そうとしている点。確かに、これらの問いは、実験やシミュレーションからだけでは解けないし(第一章では、私たちがいつ「生命」になったのか、という身近な問いですら、その社会的時代的背景によって大きく異なり、法律や科学を持ち出してみてもその解釈は揺れていることを紹介している)そうやって導かれた解答が、私たちの感覚とかけ離れていては、結局意味がないものである。本書で紹介されている研究者は、「社会的な影響や文化的な意義をも含んだ、「メタな」研究」をしている方たちである。

    科学の話だけど、社会的で、哲学的。読んだ後にじわじわきて、ついもう一回読んでしまった。

    以下メモ----------

    生命の起源の議論:近年支持されていたのは「海底熱水噴出域で生まれた」説。熱水の中にはメタンやアンモニアなどの物質が含まれており、またマグマからの熱というエネルギーがあるから。ただ、あまりに高温環境で、有機物は分解されてしまうのでは、という批判もあり、宇宙説、大気説、潮溜りや温泉説も根強い。
    生命の出発点の議論:RNAワールド説?(核酸のRNAが起源)、プロテイン説、リピッド(脂質)ワールド説(ベジクル(脂質二重膜の袋)が発生し、たまたまあったRNA的なものを取り込んだ)、がらくたワールド説など

    面白かった考え方
    「何にシンパシーを感じるか」:生命か生命でないかの考え方。
    「生」や「死」は文化や時代背景、特定の対象と自分との関係性などの中で形作られる、生命性が宿るような、柔らかいもの。だから、科学者でも考え方は一貫していないもの。
    ・「これやばいんじゃないか」と人を思わせられたら、それは生命でいいんじゃないか(→「チューリングテスト」に似ているもの。:コンピュータが人間並の知能を得たかどうか判定するために、アラン・チューリングが考えた方法。目隠しで機械と対話した人が、相手を同じ人間とみなすかで判定するもの)
    ・アーティストでもある岩崎秀雄教授が作った慰霊碑の考え方。人口生命の塚を作ることで、結果的に人口生命はあったことを追認させる。「後づけ」で認める、認めさせる。
    ・生命は「スーパーコンセプト」:歴史とともに人間の生命観は移り変わっている。かつては「神」がスーパーコンセプトだった。今は「生命」が人類に残された最後のスーパーコンセプトではないか。いつかは「生命」という概念が消失することさえ、ありうるかもしれない。

  •  「生命」と呼ばれうるものを実際の生命の要素を用いずに化学的に合成することを目論む合成生物学の分野の概要を説明する啓蒙書です。言ってしまえばその分野の入門書に近いような本であると言ってもよい気がします。
     本書は非専門家の著者が複数の合成生物学の専門家とのコミュニケーションを通じて学んだ情報を整理して提示するという体裁で書かれています。そのため、複数の専門家の誰に肩入れするでもなく第三者の視点から意見を紹介していたり、専門用語の説明が非常に丁寧だったり、初心者にも非常に読みやすい本になっていると感じました。おおむね中学理科+αくらいの知識がある人が読めば十分に理解できる内容だと思います。
     しかしながら、多くの研究内容の説明が妙に人物本位になっていてしかも日本人研究者に限られていたり、通常の日本語で説明しても十分にわかりそうな内容に妙に長いたとえ話を付与していたり、合成生物学との関連があまりに薄そうな内容を意味もなくこじつけて関連付けたエッセイのようなものを掲載していたりと、純粋な入門書として読むにはあまりにノイズが多い本でもあると思います。学術的な内容の説明が非常に優れている(少なくとも私はそう感じる)だけにこのような文体になっていることは残念であると感じました。著者はかなり経験豊富なライターのようですので、おそらく科学関係の書籍を読みなれていない読者への優しさとしてこのような書き方を選んだのだと思いますが、ブルーバックスで概説書を読もうとする人には向いていなかったのかなと思います。

  • 文字通り、合成生物学が生命を生み出せるのかを説明した一冊。

    難しかったが、勉強になった。

  • 生命とは何か、これを問うやり方の一つとして、人工的に作り出してみるというアプローチを紹介することを入り口に始まる本書ですが、細胞の中はどう出来ていて、どの様に動いているのか、基礎的な解説をしっかりカバーしつつ、一般人の感じる生死観や法学的な誕生や死に関する解釈、果てはアニミズムやアートとの関係性に触れ、今暮らしている私たちを取り巻く生命観を俯瞰。

    生命が惑星上に出来てくる過程を遡り、生命以前のアミノ酸などがどうやって生命的なものになっていくか、さらには、どうして地球上の生命を構成するアミノ酸は左側の鏡像異性体ばかりを使う偏りがあるのかという謎から、宇宙空間での紫外線などの円偏光が理由ではないかという仮説が紹介されます。宇宙全体としては、右回りの円偏光と左回りのものは同じだけあり、宇宙のどこかには右側鏡像のアミノ酸からなる生命がいてもおかしくはないという。

    生化学の教科書の様にはならず、生命、化学、物理、哲学、社会、法学、美学などの分野を一気にクロスオーバーして語られる本書は、なかなか刺激的で面白かったです。

  • プロでないと感得に至らない分メチャ刺激になる

  • 電子ブックへのリンク:https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000086341
    ※学外から利用する場合、リンク先にて「学認アカウントをお持ちの方はこちら」からログイン

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著者プロフィール

ふじさき・しんご 1962年、東京都生まれ。米メリーランド大学海洋・河口部環境科学専攻修士課程修了。科学雑誌『ニュートン』編集室に約10年間在籍。英科学誌『ニューサイエンティスト』に寄稿していたこともある。1999年に『クリスタルサイレンス』(朝日ソノラマ)で作家デビュー。早川書房「ベストSF1999」国内篇1位となる。現在はフリーランス。ノンフィクション作品には生命の起源に関連した『辺境生物探訪記』(共著・光文社新書)のほか『深海のパイロット』(同前)、『日本列島は沈没するか?』(共著・早川書房)がある。小説には『ハイドゥナン』(早川書房)、『鯨の王』(文藝春秋)など多数。



「2019年 『我々は生命を創れるのか 合成生物学が生みだしつつあるもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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