「私」は脳ではない 21世紀のための精神の哲学 (講談社選書メチエ)
- 講談社 (2019年9月12日発売)


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本 ・本 (392ページ) / ISBN・EAN: 9784065170793
作品紹介・あらすじ
今、世界で最も注目を浴びる哲学者マルクス・ガブリエル。大ヒット作『なぜ世界は存在しないのか』の続編にして、一般向け哲学書「三部作」の第2巻をなす注目の書が日本語で登場です。
前作と同様に目を惹きつけられる書名が伝えているように、本書が取り上げるのは昨今ますます進歩を遂げる脳研究などの神経科学です。それは人間の思考や意識、そして精神は空間や時間の中に存在する物と同一視できると考え、その場所を特定しようと努めています。その結果は何かといえば、思考も意識も精神も、すべて脳という物に還元される、ということにほかなりません。でも、そんな考えは「イデオロギー」であり、「誤った空想の産物」にすぎない、というのがガブリエルの主張です。
「神経中心主義」と呼ばれるこのイデオロギーは、次のように主張します。「「私」、「意識」、「自己」、「意志」、「自由」、あるいは「精神」などの概念を理解したいのなら、哲学や宗教、あるいは良識などに尋ねても無駄だ、脳を神経科学の手法で―─進化生物学の手法と組み合わせれば最高だが―─調べなければならないのだ」と。本書の目的は、この考えを否定し、「「私」は脳ではない」と宣言することにあります。その拠り所となるのは、人間は思い違いをしたり非合理的なことをしたりするという事実であり、しかもそれがどんな事態なのかを探究する力をもっているという事実です。これこそが「精神の自由」という概念が指し示すことであり、「神経中心主義」から完全に抜け落ちているものだとガブリエルは言います。
したがって、人工知能が人間の脳を超える「シンギュラリティ」に到達すると説くAI研究も、科学技術を使って人間の能力を進化させることで人間がもつ限界を超えた知的生命を実現しようとする「トランスヒューマニズム」も、「神経中心主義」を奉じている点では変わりなく、どれだけ前進しても決して「精神の自由」には到達できない、と本書は力強く主張するのです。
矢継ぎ早に新しい技術が登場してはメディアを席捲し、全体像が見えないまま、人間だけがもつ能力など存在しないのではないか、人間は何ら特権的な存在ではないのではないか……といった疑念を突きつけられる機会が増している今、哲学にのみ可能な思考こそが「精神の自由」を擁護できるのかもしれません。前作と同様、日常的な場面や、テレビ番組、映画作品など、分かりやすい具体例を豊富に織り交ぜながら展開される本書は、哲学者が私たちに贈ってくれた「希望」にほかならないでしょう。
[本書の内容]
序 論
I 精神哲学では何をテーマにするのか?
II 意 識
III 自己意識
IV 実のところ「私」とは誰あるいは何なのか?
V 自 由
感想・レビュー・書評
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哲学系の勉強をしている友人が
神経科学を専攻している人にこの本はどう写るか気になる、と言われて読んでみた。
作者は神経科学の中でもすごく極端な立場の人をあげていないか?と思ってしまった。筆者の主張はもちろん分かるのだけど、批判の対象が神経科学なのが全然納得できない〜
最初の導入部分で自然主義と反自然主義の議論を、
精神と神経活動の議論にすり替えているように思えてしまって
ずーっとひっかかってしまった。
筆者が批判すべきは方法論的自然主義なのでは。
別に脳の働きで人間の営みが全て説明できるだなんて思っていないし、
神経科学と精神哲学は排他的なものじゃない
本文で例に出されている友情とか、美や幸福とか、
現時点で科学の土台にのせられていないものはたくさんあるし
科学やその領域について議論していないよと思う
少なくとも神経科学を専攻した私も、
私を指導してくださった先生もそういう立場
あんまり冷静に読めなかったので
落ち着いたらもう一度読もうかな、でも少し心が挫けそう...詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
論理的で、バランスの取れた著作。
様々な論者の思想を暴き、批判し、人間の生、そして、哲学をあるべきものにする取り組みだ。
特に最終章が素晴らしい。上への野蛮化が現代では神ではなく、テクノロジーに結びつき、下への野蛮化は進化論万能に結びつく。 -
『なぜ世界は存在しないのか』に続く第二弾。前作もそうだが、挑発的とも感じられるタイトルが与えるインパクトは強い。
それにしても、哲学者ってのは、いっつもこんなことを考えているのか……色々と凄いな(そして、その思考と、やたらと頻出する食べ物の例えのギャップがやけに面白い)。 -
いま最も有名な哲学者といっても過言ではないマルクス・ガブリエル氏の一般向け哲学書三部作の第2弾。1作目同様、内容はほぼ理解できなかったが、著者の深い造詣と考察に触れているだけで知的好奇心が刺激される。
昨今のニューロネットワークのAI花盛りの時代にあって、「AGIの登場がまもなく」というまさに今、著者は「神経(ニューロ)中心主義」に異議を唱え、「私」≠脳というテーゼを以って、我々の精神の深淵や本質に対する論理展開を図る。自由意志の存在は第三章や量子力学的パラレルワールドからすると制約条件の結果という気もするが、志向的意識と現象的意識という観点を経ると「現象的」は人間の精神の複雑さを示しているように思える。
著者がユニークなのは例示に映画やTV番組、時事の話題などをふんだんに盛り込んでいる点だろう。だからといって解りやすいわけではなく、デカルトやカントのような不変的哲学書の地位にはなりえない面は否めないが、哲学をより身近にしていることは間違いない。 -
序論
本書では、精神哲学における反自然主義的視点の回復を論じ、自然科学的世界像と宗教的世界像の選択を捨てる必要性が強調されています。著者は、近代の民主主義社会が抱える世界像の論争について言及し、科学と宗教の関係が単純なものではないことを示しています。
主要な思想家
- サム・ハリス、リチャード・ドーキンス、ミシェル・オンフレ、ダニエル・デネットなどの現代の宗教批評家が「新無神論」として集結していることが紹介され、彼らは科学を真実とし、宗教を迷信と見なす考え方があることが指摘されています。
意識と自己認識
反自然主義的視点の重要性
著者は、意識を持つ生物としての自己認識を発展させることが、精神史における重要な伝統に結びつくと述べています。この伝統は、経済や技術のエリートによる近代的進歩の追求からは独立していると主張されています。
神経科学と意識
神経科学が自我の研究をリードする分野として注目され、アメリカ合衆国議会が「脳の10年」を宣言したことが詳細に説明されています。この期間には、アルツハイマー病やパーキンソン病の治療法の開発が進められました。
意識の多様性
意識は多面的であり、芸術、宗教、科学においてより深い理解をもたらす一方で、幻想や自己欺瞞も生み出します。著者は、人間の精神は自己イメージに基づいて形成されるとし、自己意識の重要性を強調しています。
神経構築主義
神経構築主義は、意識が外界を直接知覚するのではなく、脳が個人的な感覚の印象を構築するという考え方です。この理論では、私たちの意識は脳内での神経化学的プロセスに基づいているとされます。
決定論と自由意志
自由意志の問題
自由意志の問題について、神経決定論や物理的決定論が取り上げられ、私たちの行動がどのように決定されるのかが問い直されています。著者は、自由意志が決定論と共存する可能性を考察し、さまざまな哲学者の意見を紹介します。
決定論の批判
自由意志のハード・プロブレムに関する議論が展開され、自由意志の概念が内在的な矛盾を抱えている可能性が指摘されています。著者は、自由意志が存在するかどうかについての哲学的な問いが重要であると結論づけています。
結論
本書は、意識、自己認識、自由意志に関する哲学的な問題を多角的に探求し、現代の科学と哲学の交差点における重要な論点を明らかにしています。著者は、意識の理解が私たちの存在の根本的な問いに対する答えを導く手助けとなることを示唆しています。 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/791620 -
2019I294 114/G
配架場所:47(講談社選書メチエ 710) -
タイトル見て興味持って読んでみた。
最後のほうは説教くさく、哲学なんだか神学なんだかかと思った。
ただ、硬い因果論と柔らかい「条件」の比較は面白い。
今の自分の存在(「私」)は、過去の因果かただの条件が揃ってしまったのでこうなっているだけなのか。 -
なんとなくしか読めてないけど。
人間としての実態ってなに?
脳が死んだら死んだと言えるの?
種の保存の法則の延長線上に意志とか欲求とかあるの?
我々は自由であるって言い切れへんねんな。
奪いされないもの尊厳、経験、意志そんなんを持ってるって言い切れるよな。
それは、宇宙とか物理とかエネルギーとかそんな冷たい連中に関係あるかい!ってゆうてんねんな。 -
◆5/24 シンポジウム「自由に生きるための知性とはなにか?」と並行開催した「【立命館大学×丸善ジュンク堂書店】わたしをアップグレードする“教養知”発見フェア」でご紹介しました。
http://www.ritsumei.ac.jp/liberalarts/symposium/
本の詳細
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000315307
著者プロフィール
マルクス・ガブリエルの作品





