朔と新

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065175521

作品紹介・あらすじ

兄の朔(さく)が1年ぶりに家へと帰ってきた。朔と弟の新(あき)は、一昨年の大晦日、父親の故郷で正月を迎えるために高速バスで仙台に向かい、バスが横転する事故に巻き込まれた。朔は視力を失い、盲学校での生活を送っていたのだ。大晦日に帰省することになったのは、新が母親と衝突したことが原因だった。本来の予定より一日遅れでバスに乗ったのが、運命を変えたのだ。
中学時代、新は長距離走者として注目を浴びていたが、ランナーとしての未来を自ら閉ざし、高校に進学した後も走ることをやめた。
そんな新に、突然、朔が願いを伝える。
「伴走者になってもらいたいんだ、オレの」
激しく抵抗する新だったが、バスの事故に巻き込まれたことへの自責の念もあり、その願いを断ることはできなかった。かくして兄と弟は、1本のロープをにぎり、コースへと踏み出してゆく――。

東京2020オリンピック・パラリンピックをむかえるにあたり年、ブラインドマラソンを舞台に、近いからこそ遠くに感じる兄弟、家族の関係を描き切った一作。日本児童文芸家協会賞を受賞し、2年連続で夏の読書感想文全国コンクールの課題図書に作品が選出された、児童文学界屈指の書き手、いとうみくが渾身の書き下ろし!

感想・レビュー・書評

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  • 高速バス事故で視力を失った兄 朔が、1年間の寄宿盲学校生活から帰宅したが、家族も、朔のガールフレンドも、誰にも頼りたがらない朔の態度に傷つく。兄が失明したのは自分のせいだと思っていた弟の新は、事故以来、将来を嘱望されていた陸上を止めていた。ところが、突然朔はブラインドランニングを始めたいから伴走者になってくれと新に頼む。朔の役に立ちたいが、走りを再開することに新は心の痛みを感じる。

    不幸な事故に遭いながらも、互いを思いやる気持ちを持とうと葛藤する兄弟の姿を、疾走感豊かに描く。






    *******ここからはネタバレ*******

    弟の都合で、兄も一緒に、両親とは違う高速バスに乗り事故に遭った。それが原因で兄は失明したので、弟は自責し、母は弟のせいだと責め、その罪滅ぼしとして、弟は、将来を嘱望されていた陸上を止めた。
    兄は兄で、自分が人に頼らないと生活していけない身になったと自覚しながらも、頼ることによって重荷になってしまうことを嫌悪するあまり、そっけないほど自立を望む。
    我が(我が子の)身の不幸を嘆くあまり、どこかに怒りをぶつけたいと、母と兄は弟に、弟も自分自身に、矛先を向ける。

    悲しむ人に寄り添うことの難しさを、この物語は付きつける。


    滝本兄弟とガールフレンドの梓が成長しているのに比べ、この物語では、母親がおそまつな役割を演じている。
    兄の失明を弟のせいだとなじったり、弟がその代償にと陸上を止めても気遣いしなかったり、兄が失明するや、それまで冷たく接していた兄のガールフレンドにやたら親しくするようになったり……。
    これは、母親というものの盲愛の象徴なのか。できの良い兄だっただけに余計失ったものへの未練があるのか?


    兄の立ち直りのきっかけとなったのが、事故当時まだ未就学児だった女の子めぐちゃんの訪問だったらしいのだが、彼女が事故のことを母親に告げて、その母親が兄のことを調べて、母子揃って兄の滞在先に訪問するって、すごい。
    母子揃ってすごい勇気だ。普通、自分に責任のない(と思いたい)事故で、深刻な傷を追ってしまった人と、積極的に関わりを持ちたくないでしょう。


    最後に兄は、表面的な優しさや強さに隠した卑屈な思いを吐露するが、これは高校生の弟には酷ではないのか?兄弟ランニングを止めるにしても、それこそ最後まで隠し続けて感謝して終えるのが男ってもんじゃないのかーっと感じる。



    笑顔の影で刺すような人間関係がチクチクするので、これは年長者に向けです。
    メンタルの強い(笑)中学生以上からにオススメします。

  • 感想を書き直しました。

    お気に入りの本で、何度も読んでいる一冊。

    朔(さく)と新(あき)は兄弟だが、久しぶりに再会した。理由は、朔が盲学校に通っていたためだ。事故で失明した朔は、長い間家族に顔を見せず、寺社に籠っていた。飲酒した運転手が運転するバスに偶然乗り込んだ朔と新。事故が起こる直前、近くの席の女の子が落とした荷物を拾おうと、朔はシートベルトを外していた。

    重い。辛い。事故が起こったのは飲酒運転していたせいなのは明確だ。けれども朔と新の母、加子が新に当たるのも分かってしまう。そのバスに乗る原因となったのは新で、前々から新は反抗期だったため加子によく当たっていた。だからこそ、新のせいに、心の隅ではしてしまうのだろう。

    ブラインドマラソン。新には魅力的な響きなのだと思う。朔が失明し、明確には言っていないけれども新は、責任を感じ、今まで多くの時間を費やしてきた陸上部を退部した。それは新にとって、とても辛いことだろう。けれど朔は、勝手に新が退部していたことに驚きと怒りを示した。その理由は最後に述べられている。朔の本音。それがはっきりと書かれていた。

    朔は人に頼るのが苦手で、大切なパートナーの梓にも頼ることができなかった。でも、新には頼れる。兄弟の絆のようなものを感じることができた。

    未読で気になる人は、ここから先は読まないでください。



    朔の本音は、「部活を退部しただけで罪滅ぼしできると思うなよ」。新は、その気持ちに、真剣に向き合う。そして、ブラインドマラソンが始まった。

  • [本の森 医療・介護]『朔と新』いとうみく/『おっぱいエール』本山聖子 | レビュー | Book Bang -ブックバン-
    https://www.bookbang.jp/review/article/616092

    『朔と新』 いとうみく著 : 本だな : 本こども堂 : KODOMO新聞 : 読売新聞オンライン
    https://www.yomiuri.co.jp/kodomo/kbook/sinkan/20200406-OYT8T50053/

    『朔と新』(いとう みく)|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000325114

  • 中学受験お勧め読書本として良く取り上げられているのと、いとうみくの本なので、ずっと読まねば~と思ってた。
    同じ長距離バスに乗った兄弟、朔と新。朔は頭を打った後遺症で盲目になる。新の都合でそのバスに乗ることになったため、新は一番打ち込んでいた陸上を止める(母親はそれが当然、もしくはいつもの勝手な行動のような態度、事故前からうまく折り合いつかない母と新)。そして、一時帰宅もせずにずっと盲学校にいた朔が戻ってきて、新が陸上止めたことをしり、朔はブラインドマラソンを始め、伴走を新に頼む。
    盲目の人が体験する初めての外出、初めてのランを追体験できたりしますが、この本の主題は家族の意志疎通なのかもしれません。
    この母親は、こんな人いるのかなぁ、と思っちゃった部分が多いけど、まあ、いるんだろうなぁ。そして父親の比重薄っ。もっと機能して欲しい…。頑張れ、日本の父親達。テーマ暗めですが、二人がどうなっていくのかが気になって一気読みでした。

  • もしあの時、出発日を変えていなかったら...。事故に巻き込まれて視力を失った兄、責任を感じ好きだった陸上をやめた弟。自分の本音だって、ぶつかりあってみないとわからない。清々しいラストでよかった。嬉しいサブキャラ登場も楽しめた!

  • 朔と新、優等生の兄とちょっとやんちゃな弟、仲の良い兄弟かと思って読みだしたが、そうでもない。
    朔はバスの事故で失明してしまう。
    そのことで二人の間にはわだかまりがあり、しっくりとは行っていない。
    マラソンをやっていた新にブラインドマラソンの伴走をしてほしいと言い出した朔。
    ぎくしゃくしながらも二人の練習が始まる。
    最後の場面で朔が新に語る場面は朔も一人の若者、と納得。
    ブラインドマラソン、いとうみくさんの作品に出てきたなあ、「車夫」にと思ったらここに出てきた、吉瀬くん。
    3巻の最後は吉瀬くんはブラインドマラソンの練習場に行って興味を取ったところで終わっている。
    繋がっていたのだ、ここに。
    「車夫」の続編を期待していた私には最高の展開だった。

  • 高速バスの事故で視力を失った朔。乗るはずではなかったその高速バスに乗る原因を作った新。
    事故の後、新は自分にとって特別だった陸上をやめてしまう。そのことを知った朔は、ブライドマラソンに挑戦しようと決め、新に頼む。「伴走者になってもらいたいんだ、オレの」

    ブライドマラソン、そのことをなんとなくしか知らなかった。なにも見えない状態で走ることを想像してみる。相当な恐怖。そのサポートに回る大事な役割が伴走者であり、その関係性と兄弟の微妙な関係性とが真逆にも重なったりも感じられて、読んでいて面白かった。

    「できなかったことができるようになることも、わからないことがわかるようになることも、知らない世界を知ることも、全部、オレにとっては見ることなんだ」
    「オレにとって、走るってそういうこと」
    そんなかっこいいことが言える人格者な朔の、そうではない一面も…いいなぁ。

    そして、吉瀬くん✨うれしい登場に、テンションが上がった!
    また読み返したいなぁ。





  • 不運な事故で全盲になった朔。
    その原因を作ったと思ってしまった弟の新。
    2人の思いが複雑に絡み合う。

    「障がいって個性だっていう人がいるけど、そういう言いかたは好きではない、
    障がいはその人の大きな特徴である。」

    グッときた。

    途中、ビックリ!うれしい‼︎「車夫」の吉瀬くん登場♪

  •  朔と新が乗った仙台行きの高速バスが事故に遭い、兄の朔が重傷を負い失明した。このバスに乗るきっかけを作ったと責任を感じた新は、大好きな陸上を諦めることで自分を責めることにした。
     それを知った朔は、新に陸上を続けてもらいたいと考え、自分がブラインドマラソンを始め、伴走者を新に頼んだ。
     走ることを拒んでいた新だが、朔の役に立ちたいと言う思いを優先し、伴走者になることにした。

     二人の本当の気持ちは…。家族だから言えなかったこととは…。

  • バスの交通事故により視力を失った兄・朔と、そのバスに乗る原因をつくった弟・新を軸に、後悔や羨望といった暗い感情を整理していくお話。

    朔が突然視力を失い、急激に変化する環境で新を許せないのも、母親が現実逃避の手段として新を責めるのも、新が自分を責めると同時に母親の言葉に(本人は自覚していないかもしれないが)傷つくのも、すべてが追い詰められた人間の自然な感情であり、それがむしろ物語全体の切なさややるせなさを強調していると感じた。人間の汚い、暗い感情から目を逸らさず、丁寧に言葉を紡ぐことができるいとうみくさんには脱帽する。

    中学受験時代、塾のテストで出題されたことを機に読み始めた。小学生の頃は、話や感情を理解するのが難しく、ただただ朔への同情と朔の最後の本音に裏切られたような驚きが胸に残った。だが、中学生になって読んでみると物語に対する視点が変わり、新の心情を深く理解することができたように思う。自分の心の成長もともに感じられ、また内容も割とヘビーではあるが現実味があり、何度読んでもおもしろい本である。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。『糸子の体重計』で日本児童文学者協会新人賞(2013年)、『空へ』で日本児童文芸家協会賞(2015年)、『羊の告解』でうつのみやこども賞(2019年)『朔と新』で野間児童文芸賞(2020年)、『きみひろくん』でひろすけ童話賞(2021年)、『あしたの幸福』で河合隼雄物語賞(2022年)、『つくしちゃんとおねえちゃん』で産経児童出版文化賞(2022年)を受賞。そのほか、『かあちゃん取扱説明書』『二日月』『チキン!』『カーネーション』『ぼくんちのねこのはなし』『よそんちの子』など、話題作を多数発表している。全国児童文学同人誌連絡会「季節風」同人。

「2022年 『バンピー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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