伴走者 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065182550

作品紹介・あらすじ

「お前は伴走者だ。俺の目だ」
自分ではなく他人のために、勝利を目指す。選手の目の役割を果たす伴走者の、熱くてひたむきな戦いを描く、新しいスポーツ小説!

ばんそうしゃ【伴走者】=視覚障害のある選手が安心して全力を出せるように、選手の目の代わりとなって周囲の状況や方向を伝えたり、ペース配分やタイム管理をしたりする存在。

泣けた、とは言いたくない。それとはちがうのに、涙がでるのだ。―――糸井重里さん

◆夏・マラソン編:「速いが勝てない」と言われ続けた淡島は伴走者として、勝利に貪欲で傲慢な視覚障害者ランナーの内だと組むことに――。

◆冬・スキー編:優秀な営業マンの涼介は、会社の方針で全盲の転載スキーヤーの女子高生・晴の伴走者をするよう命じられるが……。

感想・レビュー・書評

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  • 「けれども強いから最強なんじゃない。たくさんの弱さを知っているから世界最強なんだ」(315ページ)

    「『弱さのない人は強くなれない』
     そうだ。弱さが俺たちを強くする。弱さを知る者だけが、その弱さを克服できる。たった一つの感覚の代わりに、多くの感覚に頼る力が晴の強さだ。頼れること。それが本当の強さなのだ」(同)

     目が見えない世界で、感覚だけでスキーをするのがどんなに怖いことか。でも、目が見えないはずの晴は怯えない。
     晴と伴走者の涼介が一緒に街を歩いているシーンで、些細な段差で晴がつまずく。一人で歩いているときは気を張っているけれど、助けてくれる人がいるときは、油断してしまうと言う。
     一人では生きられないから、支え合うこと、頼れることが強さなのかもしれない。
     視界が悪いときに、涼介の「伴走者」になる晴。こちらが〝弱者〟だと思っている相手でも、じつはできることがたくさんあると晴は教えてくれる。支え合うこと、頼り合うこと、でも相手のできない範囲・助けてほしい範囲を見極めて、必要以上には手を出さないこと。そんなことを、本作は教えてくれる。

  • 元々あまりスポーツ興味が無いので、パラリンピックに興味が無いと言っても許されるとは思っています。だってオリンピックにだって興味無いのですから・・・。
    しかし、この間読んだ車椅子テニスのプレイヤーと、車椅子制作者の物語「パラスター」はとんでもない名作で、今年のベスト10の中に絶対入る作品でした。
    にわかにパラスポーツに興味が出たので、視覚障碍者のマラソンを描いた本作を読みました。
    伴走者という名称は初めて聞きましたが、ニュースで見た時に一緒に走っている人が居るなという認識はありました。
    言われてみれば、一人で走るのは不可能なので誰かが誘導しなければいけないです。しかしパラアスリートに一般人が誘導しようと思ってもとてもついていけないですね。その為一流のアスリートが伴走者となる事が理想です。
    でもそういった一流の人は自分自身が記録や優勝を目指している訳で、葛藤があるのは物凄く理解が出来ます。
    この本は葛藤と伴走者となる喜びと絆を描いていて、とても感動出来るいい本でした。

    後半はスキーのパラアスリートの話ですが、女子高生の視覚障碍者と元一流スキープレイヤーとのもじもじするような恋愛っぽい話なので、純粋にうきうきして読みました。
    視覚障害緒者の晴がとても勝手気ままで可愛らしく、読んでいてこんな子だったら好きになっちゃうだろうなと思いました。

  • 視覚障害者の選手の「目」となって、サポートする伴走者。
    マラソンランナーとアルペンスキーの2つの作品を収録しています。
    マラソン編では、サッカー選手として活躍していた内田が事故により、視力を失ってしまいます。その後、マラソン選手として活躍しようと奔走していきます。
    冒頭から伴走者と共にある国際大会に出場するところから物語が始まります。今までの流れがあまりないままスタートし、随所随所に過去が描かれています。
    なので、レースでの緊迫感や緊張感が途切れ途切れになってしまうため、あまり重厚感はないように感じました。
    ただ、俺様なランナーと分析な得意な伴走者がお互いに反発しながらも同じ方向へ進む過程は見ていて面白かったです。

    スキー編では、スキーの方はあまり知識がなかったので、読んだ後に動画サイトをチェックしてみました。「この選手、本当に見えないの?」と思うくらい、スピードが速く、驚きでした。
    サポートする側も相当の経験がないと無理だわと圧倒されました。こちらは、順々に話が進行するので、それぞれの2人の心情の変化が楽しめました。こちらの方が繊細に描かれていて、より伝わりやすかったかなと思いました。

    当たり前だからわかることやわからないことが、この本を通して、再認識させられました。視覚障害者ならではの悩みや不満というものが、なかなか聞くことがなかったので、あーなるほど、言われてみればそうだなあと‪考えさせられました。

    試合の結果がどうあれ、そこからまた頑張っていく姿に感銘を受けました。パラリンピックにも注目して、楽しもうと思います。

  • 「目が見えないということは視覚に頼らないということだ。その代わりに晴は多くのものに頼っている。風に、音に、匂いに、皮膚に感じる僅かな気配と自分自身の感覚に。涼介は視覚を失えば何もできなくなるが、晴は視覚がなくとも多くのものを利用し、世界を見ている」「たった一つの感覚にしか頼ることのできない涼介と、多くのものに頼っている晴のどちらが強いのか。頼るものが多ければ多いほど、本当は強くなれるのではないか」(p254)

    夏・マラソン編と冬・スキー編に分かれている『伴走者』。私はスキー編がとても好きだ。「障害者は弱者」と考える立川が、視覚障害者の晴と滑ることによって、「晴と滑るのは、とても楽しい」と言うまで気持ちが変わっていく。読み終えたとき、その過程を感じてあたたかい気持ちになる。
    そもそも人とのコミュニケーションに難ありの立川は、自分の弱みを相手に見せないために、強がって無理をする。晴ちゃんはそんな立川に「弱さのない人は強くなれないんですよ」と言う。
    誰もが弱さを持っていて、その弱さを自分で知ったり、人に支えてもらうことで、強くなれる。私も人に頼ることが得意じゃないから、立川の気持ちがわかる。でも、肩の力を抜いてまわりを見渡すと、実は自分がいろんな人に支えられていることに気づいたり、頼ることで打開策がすんなり見つかったりする。頼ることは弱いことじゃないと、改めて晴ちゃんから教えてもらえた気がする。
    あと、思春期の女の子でもある晴ちゃんの、立川への淡い恋心に全力でキュンとした!

  • パラアスリートの目となり共に戦う伴走者を描く。夏・マラソン編/冬・スキー編収録。

  • 自国で開催されたパラリンピック以来、関心を持つようになった。伴走者も、アスリート。なるほど、この視点は無かった。お決まりのあらすじかと思っていたが、作品の持つスピード感が良かった。

  • 視覚障害者のパラスポーツを描く。

    夏編:ブラインドマラソンと冬編:ブラインドスキーの2編からなる。

    夏編のランナー・内田は事故による中途失明者。
    冬編のスキーヤー・晴は先天性の視覚障害。

    二人とも全盲光覚なしという、視覚障害としては最重度だが、作中、特に視覚支援学校(盲学校)が描かれる冬編では、視覚障害にもグラデーションがあることがそっと触れられている。

    そしてそれぞれの伴走者には、それぞれの競技に屈折した関わりをもち、かつそれぞれのパートナーと出会うまでパラスポーツにも視覚障害者にも関わりがなかったという共通点がある。

    正直、両編とも半分過ぎくらいで何となく先を予想していて、両編とも外れた。いい意味で裏切られた。

    内田はゴールを間近にしてランナーとしての意識が高まり、淡島がそれに応え、僅差で…まあ、勝ち負けまでは予想できなかったけど。

    晴は何やかや言って陰で練習していて大会で好成績を収め、立川も心を開く、と予想していた。

    はい、はーずれ。

    でも、それがよかった。
    予想通りだったら星が二つ減っていた。

    題材は視覚障害パラスポーツだったけど、テーマはインクルーシブだと思う。

    「相手のことなど、何もわからない」を意識し自覚することから、真のインクルーシブは始まる。

    そういう読後感です。

  • ずっと気になってたけどなんとなく読んでなかった
    もっと早く読めばよかった
    競技のこと、視覚障害のことがとても真摯に丁寧に描かれている
    かといって説明過多になるわけでもなく、物語としてのバランスもよくて没入して楽しめた

    Twitter見てると忘れるけど、こういう誠実な文章を紡ぐ人だった

  • 視覚障害者がマラソンをするのは知っていましたが、視覚障害者スキーがあるのは初めて知りました。

    目が不自由ななかで斜面を滑り降りていくなんて、運動神経と勇気に欠ける私からすると、ただただ驚くばかりです。

    「見えない人はみんなできるのか?」
    「うーん、どうなのかな。見える人だってみんなが何でもできるわけじゃないでしょ。たぶん、それと同じ。人によると思う」

    目から鱗でした。自分とは違う人々を十把一絡げにしてラベリングする傾向が私にはありますが、本当は人それぞれ違うということを思い起こさせてくれるセリフでした。

  • 「プレゼントねえ」真由子はテーブルの上で両手を組み、顎を乗せた。そのままじっと涼介を見つめる。「その子が欲しいものを知りたい?」
    「ああ」
    「涼介が選んだものでいいのよ」そう言ってふっと笑った。
    「え?」
    「本当に欲しいものなんて、自分でもわからないんだから」
    「なんだよその答えは」俺に選べるのなら最初から真由子に相談などしない。
     涼介は呆れたように首を振った。

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著者プロフィール

作家、広告プランナー。1971年、神戸市生まれ。たいていのことは苦手。ゲーム、レコード、デザイン、広告、演劇、イベント、放送などさまざまな業界・職種を経た後、現在は執筆活動を中心に、広告やテレビ番組の企画・制作・演出などを手掛けている。主な著書に『伴走者』、『どこでもない場所』、『ぼくらは嘘でつながっている。』『すべては一度きり』『たった二分の楽園』など。近年、同人活動もはじめ『異人と同人』『雨は五分後にやんで』などを展開中。座右の銘は「棚からぼた餅」。

「2023年 『浅生鴨短篇小説集 三万年後に朝食を』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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