銀河鉄道の父 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
4.03
  • (18)
  • (30)
  • (10)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 350
レビュー : 35
  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065183816

作品紹介・あらすじ

第158回直木賞受賞作、待望の文庫化!

『銀河鉄道の夜』『注文の多い料理店』など数多くの傑作を残してきた宮沢賢治。
清貧なイメージで知られる彼だが、その父・政次郎の目を通して語られる彼はひと味違う。
家業の質屋は継ぎたがらず、「本を買いたい」「製飴工場をつくってみたい」など理由をつけては、政次郎に金を無心する始末。

普通の父親なら、愛想を尽かしてしまうところ。
しかし、そんなドラ息子の賢治でも、政次郎は愛想を尽かさずに、ただ見守り続ける。
その裏には、厳しくも優しい“父の愛”があった。やがて、賢治は作家としての活動を始めていくことになるが――。

天才・宮沢賢治を、父の目線から描いた究極の一冊。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 門井慶喜『銀河鉄道の父』講談社文庫。

    第158回直木賞受賞作の文庫化。大傑作。岩手県民が敬愛する岩手の偉人・宮沢賢治。岩手県民はもとより日本国民の殆どが彼の遺した数々の傑作を知っていると思う。しかし、賢治を育てた父親がどんな人物だったかを知る人は岩手県民でさえ少ないだろう。宮沢家の厳格で時に親馬鹿な父親・政次郎が見つめてきた宮沢賢治とは……そして、賢治の実像は……如何にして傑作童話を書くに至ったのか……

    本作では宮沢賢治という人物は父親を始めとする家族の愛情を受けながらも、家業の質屋を継ぐには頼りない浪費家の秀才として描かれている。賢治も所詮、花巻の片田舎に住む市井のひとりに過ぎず、完璧な人間ではないのだ。あの手この手で何度も父親に金子を無尽する辺りの描写が面白い。人生をさ迷ううちに詩人・童話作家としての道を見出だした賢治は……

    やがて賢治に訪れる僅か37年余りの人生の終焉。その時、父親の政次郎は……

    雨ニモマケズ
    風ニモマケズ
    ……

    松尾芭蕉の辿った奥の細道や弁慶が座った岩とか持ち上げた石とか、日本全国の至る所に彼らの足跡があるように岩手県内の至る所に宮沢賢治の足跡がある。花巻近辺は言わずもなが、一関市の東山にある石砕工場、紫波に現存する親友の生家など、様々な場所に賢治の足跡があり、こんな所にも賢治は足を運んだのかと驚かされる。

    本体価格920円
    ★★★★★

  • 父から見た息子。あるいは息子から見た父。この二つの間に横たわる感情や思い。それは愛や尊敬、感謝などといった優しいものだけでは決してありません。

    同性であるがゆえの対抗心、自分の道を反対し阻もうとする壁、育ててもらった負い目。子にかける期待や親心は時に届かず、もどかしい思いにかられ、子どもはただ反発するのみ。それでも父は息子を思い、息子は父をどこかで「超えられない」と感じている。父と息子の関係性というのは、愛憎という言葉だけでは言い足りない、複雑なものを孕んでいるように思います。

    父親は息子に厳しく接し、必要以上に会話も世話もしない、というのが当たり前だった時代。幼少期の賢治が入院すると知るやいなや、政次郎は周囲の目も気にせず、感染覚悟で賢治の元を訪れ、看病にあたります。

    この場面でいつもなかなか話せない鬱憤を晴らすかのように、賢治と話すことを楽しんでる政次郎の描写がいい。悪いこととは思いつつも、賢治が入院して良かった、と頭の片隅で思う政次郎の様子。そこから一気に自分の中で、彼の人物像が固まった気がします。そんな政次郎の様子を、政次郎の父であり賢治の祖父にあたる喜助は『父でありすぎる』と苦言を呈します。

    小学校に通う年になり、石や土など自分の興味を見つけていく賢治。そんな賢治ににわか知識を披露して悦に入ったり、賢治に上手く言い含められて高い買い物をする政次郎。この場面が本当に楽しそうなのもまた印象的。釈然としない思いを抱きながらも、鼻歌を唄いながら買い物をする政次郎の様子は、そうした父親の楽しさを描ききっているように思います。

    小学校を優秀な成績で卒業し、進学し寮に入ることになる賢治。それを見送る政次郎の場面も秀逸! 自分の手が届かないところに息子が行くのを実感し、思わずなみだする。さらにそのなみだの描写がすごい。"なみだ”という直接的な表現をギリギリまで避け、あくまで身体的な感覚で描写するのです。そして政次郎の気づかずうちに"なみだを流している”ということを、感覚的に表現します。素晴らしい描写ってこういうことをいうのか、と実感しました。

    年を重ねるごとに、賢治は父親の政次郎の枠には収まらなくなっていきます。家業である質屋を継ごうとせず、夢物語のような事業や学問の道を志し、また家の宗派も否定し、別の宗派にのめり込んでいく賢治。政次郎は賢治を叱り、なんとか道を軌道修正しようとするも、一方で賢治の社会に相成れない弱さを知っているからか、ついついお金をせがまれれば、それを渡してしまいます。

    そんな宮沢家に起こった悲劇。政次郎の娘であり、賢治の妹のトシの死。賢治以上に大きな期待をかけていた娘の死、家族の中で最も賢治の理解者に近かった妹の死。それはまた二人に大きな影響を与え、そして賢治はついに童話『風の又三郎』の執筆に取りかかります。

    この執筆の場面もすごかった。父と子の複雑な関係性については先に書きましたが、それを深く感じたのがこの場面を読んでのことでした。なぜ賢治は子どものための物語である童話を書いたのか。ここに到るまでの半生、父への思いから賢治は自問し、その回答に到り、そして憑かれたように『風の又三郎』を書きます。賢治が抱く、父への決して口に出して伝えることのできないある思い。それが転化される描写は圧巻です。

    しかし賢治にも病気の魔の手は迫り、政次郎は子どもの頃のように賢治を看病することになり、そして……

    大人になった賢治の看病が、冒頭近くで書かれた賢治の看病シーンとつながり、そして最終章である「銀河鉄道の父」へ。賢治にとってかけがえのない親であり、一方でターニングポイントにおいては、賢治の壁にもなってきた政次郎。そんな彼が語る『雨ニモマケズ』の解釈は、自分にとってはとても新鮮で、賢治をずっと生で見続けた彼だからこその解釈だと思いました。そして『銀河鉄道の夜』に対する思いと、ラストふと政次郎が思いついたこと。これがまた、賢治への思いに溢れているように感じます。

    『銀河鉄道の父』は天才作家の宮沢賢治とその父政次郎という、一見特殊な親子象を描いているように思います。でもそこで描かれていたのは、ある意味では普遍的な父の、そして息子の可笑しさと哀しさだったように思います。終始みずみずしく活写された、特別だけど、特別ではない、そんな家族と父子をめぐる小説でした。

    第158回直木賞

  • 最初は、お父さん甘すぎ!賢治、つけ込むな!
    とわあわあ思いながら読んでいて、気付けば最後まで持って行かれてしまっていた……。

    途中まで、この作品の宮沢賢治を好きにはなれそうにないと思っていた。
    それは、生活や仕事の俗な部分に関わろうとせず、そう在らねばならない時には顔を引きつらせているような、そんな態度が気に入らなかったからかもしれない。

    けれど、どんどん超越していくことを止められない、そんな賢治の切実さに触れていると、見放せなくなっていくのだった。ああ、もう。

    そして、そんな賢治に翻弄されながら、父として何度も葛藤を繰り返すお父さんが愛おしい。
    自分が継いできた質屋という家業を、息子に拒絶され、閉めることを決意できるというのが、なかなかすごい。
    器の大きさと、家長としての役割と、なのに賢治には甘ちゃんな部分を併せ持つ父親像を、こんなにありありと描いている小説って、ぱっと他には浮かばない。

    恐らく、この父親の視点だから、読者はどこかでホッと出来るんだと思う。
    これが賢治視点から描かれていたら、きっともっと息詰まった作品になっていたような気がする。

    そんな大黒柱としてデーンと座っている父親像なんて古い!なんて言わずに、賢治の父親の音読にぜひ耳を貸して欲しい。

  •  宮沢賢治の作品は教科書にも音読テキストにもよく使われている。「どっどど どどうど どどうど どどう」ーー新任教師だった20代当時の私を大いに悩ませた、風の又三郎の冒頭部分。自分が母となり子が成人した今、この本を読み終わって、また違った「どっどど」を奏でられそうな気がする。
     賢治の父に焦点を当てて物語が進む。そこにあるのは、明治維新から大正デモクラシーに至る激動の世界で家族を守る父の姿であると同時に、本音では子どもが可愛くて仕方がないパパの姿でもある。家業を継がず行く末が案じられる賢治との精神的攻防が特に面白い。そして、優しい母と聡明な妹弟たち。賢治が詩や童話を書くことによって、たまったマグマが放出されるように解放されていったのは、この家族がいたからこそだ。

  • 主に作品でしか知らない宮沢賢治をその父親の目を通して描いた、直木賞受賞作。
    賢治とともに、彼の父親の物語でもある。
    命の恩人であり、保護者であり、金主であり、貢献者であり、ほぼ絶対者であった父親。
    厳格であり、それでいて妙に隙だらけであり、誠に憎めない父親像を、著者は提示した。
    学業成績は抜群であるが、製飴工場をつくると言い出したり、人造宝石にうつつを抜かしたり、あるいは宗教にのめり込んだりと、生活力のまるでない賢治を、父親はそれでもひたすら支える。
    ここまで、子どものために尽くした父親も稀ではないか。
    作家としての賢治も、妹トシとともに父親の存在抜きには語れない。
    宮沢賢治の作品を、また読んでみたくなる。

  • やられた…。
    声を押し殺しながらすすり泣いた。
    私は父にまんまとやられたのだ。

    私の父はかなりの読書家だ。
    父が読んだものは全て私におりてきて、読みたい本は積読に、興味のないものは売る箱に分ける。
    父からこれを読んだ方が良いと直々に言われることはないのだが、本書に限っては読んで欲しそうだった。
    仮に言われなくても、宮沢賢治なるものが目に入り、直木賞受賞作の帯を見たら、私はすぐさま積読も飛ばして読むだろう。
    そして実際に読み終えたのだ。

    本書は宮沢賢治の父親の目線で心の声も含めて語り口調で執筆されている。
    賢治の家族構成派というと…
    父 政次郎
    母 イチ
    長男 賢治
    長女 トシ
    次女 シゲ
    次男 清六
    三女 クニ
    と、なんとも大家族であり、その船の舵を切る政次郎は大変極まりない。
    中でも、賢治に対する愛は深く、後継(賢治の家は質屋だった)を守る為に、幼い賢治が赤痢で入院すれば医者の反対を押し切って自ら看病し、自分も病気になるという、なんとも過保護な面があった。
    当時、家の家長がこの様な行動に出るのは異例らしい。
    かと言って過保護な面ばかりではなく、厳格な父親として描かれており、そんな政次郎を本書は「決断と反省の往復である」と綴っている。

    読み進める度、政次郎と賢治の関係は自分と父に似ていると嫌でも思わされた。

    (父は私に何を伝えたいのだろう…)

    本書では何故賢治が童話を書くようになったのかも読み所のひとつであり、宮沢賢治の絵本を読むのが好きな私にとっては色んな作品の制作秘話が知れて、非常に興味深い作品だった。

    そして再びまた父のことを思う。
    要するに政次郎が賢治を思う気持ちと同様に、私のことを思っているということなのだろうか…?
    とんだ過保護な親だ。
    そして問題だらけの娘は父にプレゼントする本を探しに行こうと決める。
    今度はそっちが泣く番よ、と。

  • 宮沢賢治の文筆家としての最大の功績は

    『銀河鉄道』

    という『言葉』を産み出した事ではないでしょうか?

    これ程、人をワクワクさせてロマンチックな言葉があるでしょうか?
    イーハトーブ、クラムボン、雨にも負けず・・・



    賢治が産み出したどんな言葉よりも作品の題名に付けられた『銀河鉄道』という言葉が私は大好きです!


    本作品はそんな賢治の父親 宮沢政次郎が主人公の物語。
    賢治の父親として、宮沢家の家長として、質屋の旦那として様々な葛藤の中、明治から昭和という時代を生きた親子の物語!

    是非ぜひお読み下さい!

  • 宮沢賢治の父親がこんなにも子思いで、親ばかとは。それに対して宮沢賢治はこんなにも我儘で穀潰しとは。もう二度と彼の童話や「雨にもマケズ・・・」の詩を同じように味わえないかも。でもこんな父がいたからあの銀河鉄道の夜が生まれたと納得もできる。

  • 宮沢賢治の父親を中心とした物語である。
    やはり話の後半では賢治が結核で亡くなる流れではあるが、全体としてほっこりとする暖かな雰囲気がある作品だ。
    父親の人間臭く、温かな性格がそうさせている要因だ。
    宮沢賢治と言う人物や彼の作品は、宮沢家の人々あってのものであったと思う。
    特に賢治の父親は大変だったんだと実感する話だ。

  • 宮沢賢治作品の誕生秘話を父親の視点から描かれている。どっどどどどうど…のくだりが出てきたときは鳥肌が立った。妹トシの人物像の捉え方も斬新。こんなにたくましい女性だったの?
    政次郎の父親としての人物像は凡庸かなと思いながら読み進めていたけど、賢治が引き返せないほど変わり者になっていってもその父親像がぶれないことが、却って感動的になっていった。
    作品を通して、岩手の厳しい気候や鉱物の数々が丁寧に描写されるので、どこか仄暗くて、でもキラキラが散りばめられている心象がつきまとって、まさに銀河鉄道の夜のようなイメージカラーの作品。
    久しぶりに宮沢賢治の童話とか詩、読むかぁ。

全35件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1971年群馬県生まれ。同志社大学文学部卒業。2003年「キッドナッパーズ」でオール讀物推理小説新人賞を受賞しデビュー。16年『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』で日本推理作家協会賞(評論その他の部門)、同年、咲くやこの花賞(文芸その他部門)を受賞。18年『銀河鉄道の父』で直木賞受賞。他の作品に『東京帝大叡古教授』『家康、江戸を建てる』『屋根をかける人』『自由は死せず』『東京、はじまる』などがある。

「2020年 『銀閣の人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

門井慶喜の作品

銀河鉄道の父 (講談社文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×