時間はどこから来て、なぜ流れるのか? 最新物理学が解く時空・宇宙・意識の「謎」 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 872
感想 : 61
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065184639

作品紹介・あらすじ

科学が捉えた「時間の本質」――時間は過去から未来へ流れて《いない》!?

時間の正体は、宇宙の起源につながっている。
時間とは何か? 時は本当に過去から未来へ流れているのか? 「時間が経つ」とはどういう現象なのか?
先人たちが思弁を巡らせてきた疑問の扉を、いま、物理学はついに開きつつある。
相対性理論、宇宙論、熱力学、量子論、さらには神経科学を見渡し、科学の視座から時間の正体に迫る。

――――
【本書「はじめに」より】
 「時間が経つ」あるいは「時が流れる」とは、どういうことだろうか?
 目の前に置かれた時計を見つめている自分を想像していただきたい。時計の針が、3時ちょうどを指しているのを見たとしよう。そのままじっと時計を見つめていると、秒針がゆっくりと一周し、長針がわずかに進んで、3時1分を指すのが見える。さらに見つめ続けると、やがて針は3時2分を、続いて3時3分を指す。
 時計を見ている人にとって、針がある時刻を指すのを目にする場合、その時刻だけがリアルな瞬間だと感じられる。針が3時2分を指しているならば、3時1分を指す光景は過去の記憶であり、3時3分を指すことは未来の予測である。どちらも、3時2分を示す時計を目の当たりにしている「いま」のようなリアリティは感じられない。時計を見つめ続けると、時計の針は、しだいに、その後の時刻へと動いていく。この状況を素朴に解釈すると、眼前の時計が示す「いま」の時刻が、後へ後へと移動していくことを表すようにも思われる。
 さて、ここで考えていただきたい。こうした「時の流れ」は、意識の外にある物理世界においても、客観的な出来事として起きているのだろうか? 言い換えれば、「時の流れ」は物理現象なのか――という問題である。

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【主な内容】
■はじめに――時の流れとは
《第I部 現在のない世界》
■第1章 時間はどこにあるのか
■第2章 過去・現在・未来の区分は確実か
■第3章 ウラシマ効果とは何か
《第II部 時間の謎を解明する》
■第4章 時間はなぜ向きを持つか
■第5章 「未来」は決定されているのか
■第6章 タイムパラドクスは起きるか
■第7章 時間はなぜ流れる(ように感じられる)のか

感想・レビュー・書評

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  • 少し前にカルロ・ロヴェッリの「時間は存在しない」を読んだのですが、日本語版のタイトルにまんまと騙されました!
    なんと原書のタイトルは"L'ordine del tempo”だし英語版は”The Order of time”だった。
    上記の本においても、ちゃんと時間は存在していることを事実として話を進めています。

    「時間」について考えるお助け資料としては、まさにBLUE BACKS 的解説の本書のほうがとっつき易いです。
    ポイントを簡単にまとめてみました。

    第一部 現在のない世界

    第1章「時間はどこにあるのか」
    ニュートンが思っていたように宇宙全域に単一の時間が流れるのではない。あらゆる場所に個別の時間がある。
    観測で確認された事実(相対性理論:重力の作用による時間の伸び縮み)のおさらい。

    第2章「過去・現在・未来の区分は確実か」
    場所によって時間も異なる。
    「ここ」以外にさまざまな場所が存在するように、「いま」以外にもさまざまな時間が存在する。
    「現在」という物理的に特別な瞬間などもともと存在しない。

    第3章 ウラシマ効果とは何か
    飛行機に原子時計を積んで長距離飛行すると、地上に残した時計よりフライトをした時計の方が理論的な予測どおりに遅れる。

    第二部 時間の謎を解明する

    第4章 時間はなぜ向きを持つか
    ビックバンから遠ざかる向きに進行するエントロピー増大の法則。これが「過去から未来へ」という時間の方向性。
    生命の秩序正しさは究極のエントロピー縮小のように思えるが、太陽からの光の流れに駆動されて進行しているエントロピー増大の法則の中で生じる一現象にすぎない。

    第5章 未来は決定されているのか
    不確定性原理により決まらない。
    初期条件が確定しないので「始まりの瞬間にすべて決まっていた」ということはあり得ない。
    これは複雑すぎて天気や地震を正しく予測できないことと本質的に異なり、物理学の本質的な結論。

    第6章 タイムパラドクスは起きるか
    過去に戻って自分を生む前の親を殺すと自分はどうなるか?という因果関係のパラドクス。
    タイムワープの可能性としてはいろんな仮定を元に「負の質量が存在すれば過去に戻るルートが考えられる」というがそんな物質は見つかっていない。
    タイムパラドクスは起きようがない。

    第7章 時間はなぜ流れるように感じられるのか
    物理的には現在という特別な瞬間は存在しないのに、心理的には現在しか存在しないように思える。
    熱いものに触って、手を引っ込めた。引っ込めるのは脊髄反射で、引っ込めた時点では脳に熱いという信号は届いていない。
    脳は「熱いと知覚したから手を引っ込めた」という時間に沿ったストーリーに作り替えて記憶する。
    脳の記憶のありかたによる。

    最後の章は物理学的な回答ではありません(私の個人的な意見です)。
    物理では自然界で起こる出来事の背後にある基本法則や原理といった根本的な部分を "理由は考えずに" 究明する学問です。
    なぜ宇宙が存在するのか?のような質問の答えを考えるのは哲学です。
    ましてや時間の感じ方といった意識の話になると、物理学者に感じ方の答えを導く方程式は作り出せませんから。

  • 「時間はどこから来て、なぜ流れるのか?」
    吉田伸夫(著)

    2020 1/20 第1刷 (株)講談社

    2020 3/8 読了

    難しい事を難しく書いてある本。

    知れば知るほど
    分からない事も増えて行く。

    分からない事が無いと存在出来ないのが
    研究者という職業なんだろうなぁ。

    簡単に分かっちゃったら
    仕事が無くなるもんね。

    思ってた以上に認識って
    個人差があるんだろうなぁ…

    空間や時間は

    もはや真実は自分のオモイの中にしか
    存在しないのかも。

    眠れない夜には最適な本ですが
    良い夢は見られないかもねー。

  • 哲学的な時間論を交えず、諸科学を横断して「時間とはなにか?」の問いかけに答えを求めていく。後半、ヒューム的な「現在」に近づきつつ「ヒュームとはやや異なる現在」が解説されているあたりはおもしろい。

    「時間」という主観的な存在を「科学」というなによりも客観性が求められる分野で語ることの楽しさあふれる一冊でした。

  • “時間”について、物理的な概念や人が認知するものを解説している。本書を読むと、時間は宇宙で一様に流れていないことや、時間も空間のように拡がりを持つことなど、時間に対する認識が変わる。「時間が流れる」という認識があるのは、意識が影響しているようで、著者は脳の仕組みから時間の流れについて解説している。カバーする範囲は想像以上に広く、本当に理解するには、この1冊だけでは無理だが、考え直すきっかけくらいにはなると思う。一般に向けて解説しているので数式は一切出てこない。その分、図で感覚的に理解させようと努力されているのだが、まだ難しい。もっと図を入れてほしかった。著者の他の本を読んで、もっと理解を深めたいと思う。

  • 時間とはなにか?を論じるためには宇宙の始まりについて考えなくてはいけないの、わくわくしません?

    時間がないないと普段言っているけど結局なんなんだろう、と思って手にしたこの本。高校物理と医学を少しかじったくらいで、なんとかついて……いけ……はないですが振り落とされはせず、楽しく読めました。
    わからないところも勿論ありますが、出来る限りやさしく書こうとしていただけてるのが伝わります。

    物理から地学、数学、化学、はては脳神経学まで、学際的な本を読むとやっぱりわくわくがとまりません。

    読み終わったら「今まで考えていた時間なんて存在しなかった…?」というような不思議な感覚に陥ります。

    結局時間は私が今まで考えていたような絶対的なものではなく、物理変数のひとつであるということ、そしてフィルム映画のようにコマ切れに瞬間が積み重なっているのではなく、広がりのあるものであること(空間のように)。新しい概念をいっぱい手に取ることができました。ありがとうございます。

  • 時間の概念の話。難しくて自分の知識と興味が追いついていかなかった。無念。

  • 時間がどこから来て、なぜ流れるのかなんて普通の人には当たり前過ぎて考えたことも無かった。理系の方々はそのような事を、量子論やら微分方程式やらエントロピーやらを用いて解き明かそうとして、なんかもう本当にご苦労様です。

  • ものすごく楽しく、面白かった

    普段、ノンフィクションを読まないし理系は苦手な自分でも楽しめた

    読んでからも、謎は残って、あれこれ時間について考えたのも楽しい時間。

  • この本は哲学からのアプローチとはまた違った、「時間とは何か」という問題への取り組みを、専門的な知識のない人にも明らかにしてくれるものになっている。わたしはどちらかというと、この手の問題については物理学からではなく哲学からのアプローチのほうに馴染みのある人だったが、全体を通して読んでみると、こちらの方が言っていることがはっきりしていて、より多くのことが明らかになっているような印象を受けた。ただ、物理学についての知識が高校の物理基礎程度しかなかったのと、図書館の返却期限に追われて読んでいたのとで、なかなか理解が追いつかないところがあったので、また時間のあるときに読んでみたい。

  • 素粒子の専門家による時間の話。過去は過ぎ去ったもの、未来はまだ見ぬもの、現在だけが存在しその瞬間はすべての場所で同一時刻というのは、ニュートン力学の世界の話であって、現代物理学では、時間はすべての場所毎で異なるものと理解されている。Blue Backsらしく論理的にかつ明快に、時間について説明している。もちろんすべてが理解できたわけではないが、勉強になった。

    「(5台の原子時計による実験)5台の時計のどれもが、標高が低いほどゆっくりと、高くなるにつれて早く進んだ。セシウム原子から放出される電磁波の振動回数で言うと、小金井本部に対する変化の割合は、おおたかどや山送信所で100兆分の8、はがね山送信所で100兆分の13だった」p22
    「かつては太陽の動きを利用した日時計や、振り子の等時性を使った振り子時計を使っていた。だが、近代以降に利用される正確な時計の大半は、金属製バネの振動を利用した機械式時計も含めると、原子スケールで起きる周期的な振動現象を利用している」p38
    「媒質中を伝わる光の速度は、真空中に比べてn分の1に低下する(電磁気学の法則によって、屈折率は必ず1より大きくなる)。例えば、水の屈折率は1.333であり、水中では、光は真空中の4分の3の速度で進む」p41
    「「未来」はまだ実現されず「過去」はすでに過ぎ去ったのだから、どちらもリアルではなく、ただ「現在」だけがリアルだ。こうした常識的な見方を支持する物理学的な根拠はない。相対性原理が成り立つならば、「同じ時刻」を一つに決められず、したがって「現在」という「それだけがリアルな瞬間」が実在することはない。過去・現在・未来という区分は、物理的に無意味である。「ここ」以外にさまざまな場所が存在するのと同じように、「いま」以外にもさまざまな時刻がリアルに存在する」p50
    「素粒子論によると、光以外にも、時間と空間の界面に沿って進み、速度が1(ないし1に極めて近い値)になる素粒子がいくつかある。ただし、その大部分は、原子スケールよりも遥かに短い距離しか進めないので、実際に観測するのは難しい。例外的に長距離を進むことができるのは、光以外には、ニュートリノだけである」p102
    「大マゼラン雲は、地球から16万光年の距離にある。16万年前にここで生じた超新星爆発で、さまざまの放射や物質が放出されたが、そのうち地球に到達できたのは、光とニュートリノだけである。観測結果によれば、爆発によって放出された光とニュートリノは、宇宙空間を16万年にわたって飛び続けた後、どちらも1987年2月23日に地球に到達した。最初に観測に掛かった光とニュートリノの到達時間差は、わずか3時間しかない。ニュートリノは、16万年もの間、ほとんど光と並んできたことを意味する」p103
    「互いに運動するアリスとボブが、手元に時計を持っていることを考えよう。このとき、アリスとボブの時間軸は互いに傾いているので、斜めになった2つの物差しと同じように、相手の時計の進み方が自分の時計と異なるように観測される。これが「動く時計は遅れる」という現象である。この遅れは、互いに斜めになった物差しのケースと同様に、あくまで見かけのものであり、現実に時間の尺度が変化したわけではない。アリスからするとボブの時計が遅れるのだが、ボブの目にはアリスの時計が遅れるように見える。実際には、どちらの時計も同じように時を刻んでおり、天体近くで重力作用を受ける時計のように、現実に遅れるわけではない」p106
    「空間内部での回り道は、直線ルートに比べて必ず道のりが長くなるのに対して、時間と空間を併せた世界では、回り道をした方が経過時間が短くなる。これは、ミンコフスキーの幾何学では、長さを定義するのに時間部分と空間部分の差を取るせいである。空間で遠回りをすると、道のりはかえって短くなる」p109
    「宇宙背景放射は、1964年に衛星通信用に地上に設置されたアンテナで初めて観測された。宇宙からの背景放射は、温度がほぼ零下270℃(零下273.15℃を零度とする絶対温度で表すと、2.725度)の物体の放射と等しい。この温度が場所によってわずかに異なっており、その揺らぎが10万分の1程度であることを明らかにした(2006年ノーベル物理学賞受賞)」p124
    「揺らぎがわずか10万分の1しかなかった点こそが重大である。10万分の1の揺らぎとは、どんなものなのか。容器に、小麦粉を10㎝の厚さに敷き詰める場合を考えよう。小麦粉粒子の大きさは数十分の1㎜なので、場所による厚さの違いが10万分の1とは、小麦粉1粒の何十分の1かのデコボコしかないことを意味し、見た目には完璧なまでに平坦な状態である。同じ厚さの金属ならば、表面に髪の毛一筋(0.05~0.08㎜)ほどの傷もなく、鏡のように光を反射するだろう」p125
    「(時間の方向性)「なぜ過去から未来へという方向性があるのか」という謎に対しては、「宇宙の始まりが整然としたビッグバンだったため、この完璧な状態が崩れていくという形で、時間の方向性が生まれた」と答えることができる」p126
    「ビッグバンが整然としておらず、エネルギーの揺らぎが大きいと、宇宙空間のあちこちに巨大なブラックホールが形成されてしまう」p129
    「気体では分子同士の接触が稀となり、固体では動けないため、いずれも化学反応が進まない。熱の流入に応じて化学反応が進行するためには、分子が液体の中を動き回れなければならない」p138
    「地球は、太陽光線を浴びる地表でエントロピーの減少を実現し、生命にあふれた惑星になれたのである」p140
    「惑星上で活動する生物の姿だけを見ると、宇宙とは無縁の時を刻んでいるように感じられよう。しかし、実際には、生化学反応は太陽からの光の流れに駆動されて進行する。あらゆる出来事が、ビッグバンの整然とした状態が崩れていく過程の一部であり、「ビッグバンから遠ざかる向き」に進行する不可逆変化なのである」p141
    「ヒットを打った後のインタビューでは、球種を見極めてからバットを振る決断をしたと答えることがあるが、これは、生理学的にありえない。目で見てから体を動かすまでの反応時間を考慮すると、球種がわかるほどボールが進んでからでは、バットをボールに当てることは不可能である。バットを振る意思決定が行われるのは、投手の手からボールが離れた直後(あるいは直前)のはずである」p203
    「人間の頭の回転は、多くの基礎物理過程に比べて、極めて遅いと考えた方がよい」p208

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著者プロフィール

吉田伸夫
[よしだ のぶお]
1956年、三重県生まれ。東京大学理学部物理学科卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。専攻は素粒子論(量子色力学)。科学哲学や科学史をはじめ幅広い分野で研究を行っている。
著書に『完全独習 相対性理論』『時間はどこから来て、なぜ流れるのか?』『宇宙を統べる方程式』(講談社)、『宇宙に果てはあるか』『光の場、電子の海』(新潮社)、『量子で読み解く生命・宇宙・時間』(幻冬舎)、『素粒子論はなぜわかりにくいのか』『科学はなぜわかりにくいのか』『高校物理再入門』(技術評論社)などがある。

「2023年 『人類はどれほど奇跡なのか 現代物理学に基づく創世記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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