- Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
- / ISBN・EAN: 9784065186008
作品紹介・あらすじ
第162回芥川賞候補作の表題作と、傑作中篇「生き方の問題」を収録。
「手紙」と「日記」を通して、「書く」という行為の意味を問う――。
野間文芸新人賞受賞の気鋭による青春小説集!
「最高の任務」
大学の卒業式を前にした私は、あるきっかけで、亡き叔母にもらって書き始めた、小学生の頃の日記帳をひもとく。日記を通して語られていく、叔母との記憶……。
「生き方の問題」
僕は、2歳年上の従姉に長い手紙を書き送る。幼い頃からの思慕と、一年前の久しぶりの再会について……。
感想・レビュー・書評
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第162回芥川賞候補作の表題作と、中篇「生き方の問題」を収録。「手紙」と「日記」を通して「書く」という行為の意味を問題定義したのかな。過去を客観的に俯瞰してとらえるということなのかな。候補作の方は、日記で、それは叔母との記憶に関するものだった。日記を書くという習慣には、自分とは誰を追求する作業にも似たものがあるのかな。「生き方の問題」の方がおもしろく、少しエロくて変態的な「手紙」。これはラブレターだ。過去の記憶を「手紙」にすることで、自分の本当の意思と向き合うという秀作だった。すごく斬新でいい。
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書くことにより全てを発散している感じが好き。こんなに巧みに言葉を使いこなせたら、いろんな感情の解像度があがるんだろうな。
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文体が複雑で読みづらかった。
「生き方の問題」ひたすらに独りよがりなエロだった。そこまで思い続けることもそれを逐一手紙に認める行為も最早恐怖でしかない。終わり方もかなり独りよがりな感じで怖かった。男性特有の感情だろうか。
ただ、お話の根底にある苦しさとかやるせなさとか、ひょっとしたらとか、本当は、とか、様々な感覚が行間から読み取れたような気もした。
「最高の任務」分かるようなわからん様な小難しいような単純なような文章をタイトルの回収だけを目的に何とか最後まで読んだ。
隣におっさんが座ったシーンの描写はやはり男性が書いた文だよな、という印象。
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群像12月号なので「生き方の問題」は未読。
大好き。
読み終わって、最初に戻ってまた読み始める。
何もかも知った上で読むのがこれまた良くて。
個人的に良く知った土地が出てきたり、
日記などを書くという行為も身近に感じでいるので更に好意的に読んだのだろう。
あたしの中のはっきりと言葉にできない小さな小さな美しく生きたいみたいな気持ちが表れていて脳が痺れた。
作者さんの意図じゃなくても勘違いでも嬉しいからいいの。 -
私には難しくて、これはしばらくして再読必須だなと思っています。
乗代さんの文体は、不思議な書きぶりで、こんなに語彙のあって独特な表現をする作家に初めて出会いました。情景描写がすごく繊細で丁寧で、それでいて読者の想像力が試される余白があって、面白かったです。 -
とてもとても感動したので、まとまらないと思うけど引用を交えて感想を残しておこうと思う。
というか、「残したくなる」そんな小説でした。
さて、アラサーである。
小さいころから「人がいきなり死ぬ」ということが怖い。
掘り下げると「いきなりこの世からいなくなり、なにも残さないのでは、生まれてきた意味がないのではないか」みたいな
焦りをずっと抱えてきており、それは年々強まる。
しかし凡人である私は「書けない」。
ので、だからこそ読書は好きというより「任務」という感じがあり、先人の残したものを受け取らなくてはという思いがずっとあった。
(活字中毒の人って少なからずそういう思いを抱えていると思うのだけどどうだろう。
「読まれない文章があるのがもったいない」みたいな。
隣の庭の蛇口が開けっ放しになっているのにいてもたってもいられない、みたいな気持ちに似ている。)
と、そんな私なのでタイトル回収となるフレーズにつかまってしまった。
「スパイという職業が私の興味を引いてやまないのは、最高の任務が、あらゆる任務および活動の後ろに隠され続けているように思われるからだ。
最高の任務が念頭に置いてある任務であるかはわからないが、その一環であることは確かだという確信の中で動き続けること。
「あんた、何者?」と問われ続ける緊張の中で死ぬまでを生きること。それは、じぶんに向かって「あんた、何者?」と絶えず問い続けることと同じになる。」
これから、私は毎朝自分に「あんた、何者?」と問いかけるだろう。
「見るものに何を見たかを書くばかり」なのは「孤独」だという。
読み手のいない文章は、すなわち受け取り手のいない思いは、膨大な時間の中に埋もれて消えていってしまう。
ならば。私は見つめていきたい。それを任務とする者でいたい。
敬愛する北村薫先生の「空飛ぶ馬」のあとがきに、こんな言葉がある。
「小説が書かれ読まれるのは、人生がただ一度であることへの抗議であるからだと思います」
私は今まで読むことばかりで、書く側のことを思ったことがなかった。
だから作品を口を開けて待ち、甘い蜜を吸っているようなうしろめたさがあったのだけど、
書く側の希望にもなりえているのかもしれない。
「生活の中の「これは大切に使おう」なんてとてもささやかな、でも確かな喜びを、自分が死んで土に埋もれてすっかり骨も溶けてしまった二万年か三万年後に、
その物だけを手にとってちゃんとわかってくれる、そのために人生を捧げるたった一人の人間が現れる。それは、それだけで何も心配いらないくらいの希望です。」
そう、読書感想文に書いていた叔母さんはこうも言う。
「書かなくたって、それらは書かれなかっただけで、確かにお話しの中にあったでしょう。」
こうやって読んでいる私たちは、確かにあった思いを、書かれなければ消えていった感情を今手にとっていられる。
小説にも描かれることなく、背景となってその他大勢として埋もれていく人間でも、
読み、受け取るという「最高の任務」を抱えて生きていけるのなら。
それはこの世から消えてしまっても何も残さないことにはならない。
「私は、お話の中にまぎれたこの世のものについてどれほどのことを、強く優しく礼儀正しく考えられるだろう?」
この文章を読むあなたの心にも、どうか今日の私の感動を手に取ってもらえることを願って。 -
この本には二作入っていて、前に載っていた「生き方の問題」で進めなかったのですが表題作の
「最高の任務」は読み初めからぐいぐい引き込まれて素晴らしいの一言❣️
主人公の女の子がずっと近場に遠足?に行ってた、なんでも物知りの叔母さん
そのおばさんの死後日記をたどって同じコースを一人で歩く。
そこで見つける過去の叔母さんの欠片…
そして家族で出かける卒業旅行
どれも感動です。
途中に挿入される痴漢に対する対処は‼️
次の作品、前の作品、続けて読みたくなります。
この作品、芥川賞にノミネートされてたんですね!
今回も「旅する練習」でノミネートされてたのですが残念。
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乗代雄介はとても好きな作家で、最初に読んだのは『本物の読書家』だった。
早く芥川賞を取って欲しい、取らないとおかしいと思っている。
描かれる女の子が魅力的なのがひとつの特徴。
そして文学関係の蘊蓄も多く、何というか、知的欲求も満たされる。
ミステリー的要素も織り込まれて、面白すぎるから芥川賞を取れないのか、と思ってしまう。
この小説集の二篇も、魅力的な少女〜女性が登場する。
「読者は再読することしかできないとナボコフが書いている。その全体で何が起きるかを知る過程を乗り越え、二度、三度、もしくは四度、さらにもっと読み返すことで明確に把握して、味わうのだと。」(最高の任務より)